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後編
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「突然ですまないが、パーティーの開幕宣言の前に皆に宣言したいことがある!」
私とオリエンティス公爵令嬢は、腹黒殿下に次いで身分が高かった為、殿下の傍へ控えたタイミングで劇が始まる。
殿下の微笑みは、一見すると女性を魅了する微笑だが、私には真っ黒い視的効果の見える微笑にしか見えない。
「私、リンド=ランバイトは、オリヴィエ=オリエンティスとの婚約を破棄し、新たトリシャと婚約を結ぶ!」
はい。予定通り計画終了。
本人が宣言をしっかりしてくれるかだけが心配だった。だって、後は………。
「私オリヴィエ=オリエンティスは、その婚約破棄をお受け致します!」
「へ?」
宰相の息子のリンド君が自分で考えた………と思っている計画が予定通り進むのはここまでだ。
ここからは私たちのターンだ。
「リンド様。幼い頃より婚約者としてお傍において頂きました。あなた様のお優しさは私が誰よりも存じ上げております」
「オ、オリヴィエ?」
宰相の息子のリンド君の計画では、この後に公爵令嬢の断罪と追放の予定だったのだろうが、それは私たちのお仕事ですよ? リンド君。
「何も言わずとも分かっております。リンド様が、私の名誉が傷つかないように周りに不貞である事をハッキリとお示しになられてから去るおつもりだったのですね」
「え? え?」
オリエンティス公爵令嬢は、元婚約者となったリンド君に相当頭に来ていた事は分かった。
不貞という言葉を一際高く宣言したからな………。女性は怒らせると怖いのだよ。それは田舎でも都会でも同じだ。
「水臭いぞ! リンド!! 2人で駆け落ちするつもりだったのだったとは!!」
「で、殿下!?」
うん。殿下もノリノリだ。一番この場を楽しんでいるのは殿下で間違いない。
「幼い頃より共に育ったじゃないか! 是非、親友の私も手を貸すぞ!!」
いや、学園内じゃ、一度も会話しているのを見た事ないですよ? まあ、美談にするならこれくらいの捏造はありか。
「ちょ!」
「ラファエル! こんな会場で大事にしてしまっては、簡単に逃げられない!! 良い手はないか!!」
「はっ! 私の祖父が駆け落ちで生涯2人の愛を果たす事の出来た地がございます!!」
私? 当然、役者兼任だよ? 総責任者兼役者で、婚約破棄劇場に出演しております!
「それは素晴らしい実績のある土地だ! アランッ!!」
「はっ! お2人のご家族の追っ手が掛かる前に、たった今からお連れ致します!!」
アランも当然巻き込まれている。お前だけ楽をさせる気はないぜ!
「うむ。追っ手が、少しでも遅れるように、私も手を尽くそう!」
宰相の息子のリンド君と新しい婚約者のトリシャは我々の芝居に付いていけずに、さくっと拉致されて会場を後にする。
やつらの周りは私たちの手の者で固めてあったのだから、楽勝だ。
「では、2人の新たな門出に祝福をしてやってくれ! そして、皆は祝いのパーティーを楽しんでくれ! ここに2人の祝福パーティーを開始する!!」
殿下が会場の去り際に、そう宣言をする。
会場の中からは、サクラを使った拍手が舞いおこっており、計画は無事成功となった。
「いやー。無事に終わって何よりだったね」
「提案しておいて、なんですが、上手くいって良かったです」
「国としても邪魔な人物たちも消えたし、表向きは、これで解決だ。残りの問題は、こちらで解決すれば『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』だね」
それって王太子の台詞だったのかよ!!
「さて、2人とも城へ付いてきてくれ。これから父に完了報告をする」
いつの間にか、オリエンティス公爵令嬢も会場から出てきて、私の隣にいる。
………ご令嬢とは足音を消す技術を備えないとなれない職業なのか?
「そのような計画は、私は聞いていないのですが………っていうか私もパーティーを楽しみたい」
「何を言う。報告は大事だ。そして、総責任者が報告をするのが筋であろう?」
確かに、腹黒殿下の言うとおりである。
せっかく美味しいそうな料理が会場に並んでいたんだけどな………。
「かしこまりました。食事は出るんですよね?」
「………父に謁見した後にも食欲があれば、出すよ」
いや、陛下には一度拝命式でお会いしているからね。あの時ほど緊張はしないさ。ぱっと報告して美味しいご飯を頂こう。最近はこの計画のせいで、ご飯が美味しくなかったからな。
用意された馬車で城へ向かうと、あまり待たされる事なく、謁見の間へと通された。
「皆の者ご苦労であった。楽にして構わぬ」
既に先触れを放っていたので、計画の成功自体は伝わっている。
「陛下。この度は、私の臣下ラファエルの願いを聞き届けて頂き、ありがとうございます」
おっと、今なんと言った腹黒殿下? 臣下ってところは聞き流そう。爵位的にもいずれ臣下だからな。
だが、この計画は私の願いじゃないぞ!?
「うむ。ヴァランタイン公爵。将来の禍根を早期に断った手腕は見事であった。褒めて遣わす」
「はっ! もったいないお言葉」
こう言われてしまっては、どうしようも出来ない。陛下にNOとは言えない!
いや、前世が小市民とか元田舎者って話じゃなくって、陛下との会話で否定形は使えないのよ。これもマイヤー侯爵夫人に身体に教えこまれた事なのよ?
「それに続き、婚約破棄を受けた令嬢の嫁ぎ先として名乗りを上げてくれた事にも感謝する」
ふぁ!?
「ラファエルは、自身の育ちがゆえに婚約者がおらぬ身で、領地や国の為にも素晴らしい女性を迎えたいと常々口に申しておりました」
「うむ。オリエンティス公爵の自慢の娘で、愛する者同士を許した心優しき女性であれば不足する事はなかろう」
「はい。我が娘も、そのお申し出をお受けしたいと言っておりました」
まって!
「『この案を提案した者として、責任を取らせて頂きたい。むろん、政略結婚となりますが、あなたを愛する事を誓います』と誠実なお言葉を頂いております。ですので、私はこの方の傍で支えたいと思いました」
い、言ってねぇぇぇぇ!!
「ラファエルが誠実な男であるのは、学園で見て知っております。それに厳しい教育で有名なマイヤー侯爵夫人も認める男です」
「うむ。ならば認めぬわけには参るまい。ヴァランタイン公爵よ。女性からの言葉だけでは男として立つまい。そなたの口から告げることを許可しよう」
おぅふ。
私が立てた宰相の息子のリンド君への有無を言わさない作戦を、こんなところで利用されるとは!!
「オリヴィエ嬢。婚約破棄をされたすぐ後にこのような事を告げる事をお許し下さい」
逃げられないのは分かったよ! 言えば良いんだろ!!
「ラファエル=ヴァランタインは、オリヴィエ=オリエンティスを愛する事を誓います! どうか、未熟な公爵ではありますが、婚約者としてお迎えさせて頂きたい」
そっとヴァランタイン公爵令嬢の前に膝をついて、手を差し出す。 陛下への報告って婚約報告の事だろ! これでいいかよ!!
「オリヴィエ=オリエンティス。喜んでそのお申し出をお受け致します」
私の手に返事と共に乗せられた手の甲に誓いの口づけを落とす。
普通、貴族同士の婚約って当主同士の話し合いで決まるものだよね? まあ、私は国に借りだらけだから、言われたら逆らえないけどさ………。
「2人の婚約は確かに、余が見届けた!」
その陛下の満面の笑顔と共に発した宣言で、会場中から祝いの言葉を頂く。
くそっ! 殿下の腹黒は陛下譲りかよ!!
謁見の間を出てからは、ご両親にご挨拶をして、書類へとサインをして正式にオリヴィエ=オリエンティスと婚約者になった。
「いやー。これで国の2つの問題が同時に片付くなんて、良かった。良かった」
「………2つ目の問題は、私の婚姻相手って事ですね」
「そうだよ。問題がある公爵が相手じゃ、国として動かない訳にはいかないからね。それにしても候補になりそうな令嬢は全て婚約済みだったから、リンドに本当に助けられたよ」
こう言われて、この世界がやっぱり乙女ゲームの世界だと思った。
国は問題が解決した事で栄えるだろう。
ヒロインも結ばれた相手と確かに、平和に暮らしている。
私の故郷で、私の父という監視付きの平和だけど………。平和に暮らしていけるのだから間違いではない。あの村から、ただのお貴族様が外へ出るのに無理がある。それくらい田舎だからな。
そして、極めつけは、めでたし。めでたし。の事だ。
これはこの腹黒殿下が攻略対象者じゃないって事が重要だ。だからこそ、誰がヒロインと結ばれても似たような結果になったのだろうと、今なら分かる。
「婚約者様。お食事がお口に合いませんでしたか?」
私と腹黒殿下の会話が止まった事で、私の婚約者となったオリヴィエが声を掛けてくる。
今は、私が希望した「陛下の謁見後の食事」を、アランを含めて4人で頂いている。まあ、アランは巻き込まれたくないのか無言だ。
「国の方針は分かりました。オリヴィエ様、私などがお相手でも宜しいのでしょうか?」
私の婚約が政略結婚だという事は、このオリヴィエ嬢も政略結婚という事になる。………正直、個人的な私の印象の方が心配という訳だ。
「ラファエル様は、学園では、時々、お言葉が酷い事がございましたが、マイヤー侯爵夫人が認めるだけあって、私の夫に足るお方だと思っております」
うん。学園内での私の癖の事は見られていたって訳ね。
一体いつから、見られていたのやら………国の闇が怖いから知りたくないけど。
「………まずは、再度誓わせて頂きます。私はあなたを愛し、浮気をしない事を誓います」
「ありがとうございます。ラファエル様。今はその言葉が一番嬉しい言葉です」
私の言葉にお世辞じゃない返事だと分かるくらいには、表情を崩してくれた。
「無理やり結びつけたから、ちょっと罪悪感があったけど、これは上手く行きそうかな?」
腹黒殿下が、無責任なことを口にしているのは無視だ。アランも、その事は注意しない。お前は側近だろ! 仕事しろ!!
「本来であれば、贈り物をご用意させていただいてから申し上げる事でしたのに、申し訳ない」
「いえ、国の都合で内密に行なわれた事ですので、理解しております。それに誠実なお気持ちは伝わりましたわ」
腹黒殿下を無視してもやらなければいけない事は、新しい婚約者との関係の構築だ。ここで選択肢を間違えると大変な事になる。
「そう言って頂いて、助かります。正式に婚約発表の際はドレスをお贈りさせて頂きます」
「はい。外聞の事もございますので、発表は半年後でも構わないでしょうか?」
「全て愛おしの婚約者様に合わさせて頂きます」
貴族としての常識も考えた上で、オリヴィエ嬢の意見を尊重する。
「あぁ。見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ」
そんな私たちのやりとりを見ていて、腹黒殿下が呟く。
「オリヴィエ様。私から1つだけお願いを宜しいでしょうか?」
「私の我侭を聞いて頂いておりますので、なんなりと」
これまでのやりとりで、ある程度は2人距離感を掴めたので、思い切ってお願いを口にしてみたが、私が思っていたよりも、オリヴィエ嬢の私への信頼度は高いようだ。
「先ほど、話題に出ましたマイヤー侯爵夫人を、私は実の母のように慕っております」
「それは素晴らしい事だと思います」
私の発言に嫌な顔を1つせずに、嬉しそうに返事をしてくれた事で、私も安心する。
ただ、王太子の表情が少し動いたような気がしたので、それだけが心配だ。
「マイヤー侯爵夫人はお子様がおられませんので、マイヤー侯爵がお亡くなりになられた後は、我が家に来て頂きたいと考えております」
貴族のお家事情は複雑だ。跡を継いだ息子次第では、実母でない者たちは家を追い出される事がある。
私は、大恩あるマイヤー侯爵夫人を放置する事は出来そうにないので、先に誤解されないように手を打っておこうというだけだ。
「そのようなお願いでしたら、ご相談頂かなくても歓迎いたしますわ」
オリヴィエ嬢の表情からも、その言葉に嘘偽りがないが分かる。
問題は腹黒殿下の笑顔とアランの諦め顔の方だ。
「マイヤー侯爵夫人は私のマナーの先生でもございます。私も凄く尊敬をしておりますわ」
普通に考えれば、決して怯える必要のない言葉なのだが、腹黒殿下の表情が不安を掻き立てる。
「オリヴィエ嬢。そういえばラファエルは、そのマイヤー侯爵夫人から特別再教育の招待状を頂いているようですよ」
「まぁ………。それはいた仕方がありませんね。学園での口調は直して頂かないといけませんから」
腹黒殿下と私の婚約者のやり取りに黒いオーラが見える………気がする。
「私も久しぶりにマイヤー侯爵夫人とお会いしたいのでご一緒させて頂こうかしら? ふふふっ」
その小さく微笑んだ笑顔が怖い!
あかん! 最後の選択を間違った!
私がそう思って青ざめている隣で、腹黒殿下がそっと呟く。
「2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし」
私とオリエンティス公爵令嬢は、腹黒殿下に次いで身分が高かった為、殿下の傍へ控えたタイミングで劇が始まる。
殿下の微笑みは、一見すると女性を魅了する微笑だが、私には真っ黒い視的効果の見える微笑にしか見えない。
「私、リンド=ランバイトは、オリヴィエ=オリエンティスとの婚約を破棄し、新たトリシャと婚約を結ぶ!」
はい。予定通り計画終了。
本人が宣言をしっかりしてくれるかだけが心配だった。だって、後は………。
「私オリヴィエ=オリエンティスは、その婚約破棄をお受け致します!」
「へ?」
宰相の息子のリンド君が自分で考えた………と思っている計画が予定通り進むのはここまでだ。
ここからは私たちのターンだ。
「リンド様。幼い頃より婚約者としてお傍において頂きました。あなた様のお優しさは私が誰よりも存じ上げております」
「オ、オリヴィエ?」
宰相の息子のリンド君の計画では、この後に公爵令嬢の断罪と追放の予定だったのだろうが、それは私たちのお仕事ですよ? リンド君。
「何も言わずとも分かっております。リンド様が、私の名誉が傷つかないように周りに不貞である事をハッキリとお示しになられてから去るおつもりだったのですね」
「え? え?」
オリエンティス公爵令嬢は、元婚約者となったリンド君に相当頭に来ていた事は分かった。
不貞という言葉を一際高く宣言したからな………。女性は怒らせると怖いのだよ。それは田舎でも都会でも同じだ。
「水臭いぞ! リンド!! 2人で駆け落ちするつもりだったのだったとは!!」
「で、殿下!?」
うん。殿下もノリノリだ。一番この場を楽しんでいるのは殿下で間違いない。
「幼い頃より共に育ったじゃないか! 是非、親友の私も手を貸すぞ!!」
いや、学園内じゃ、一度も会話しているのを見た事ないですよ? まあ、美談にするならこれくらいの捏造はありか。
「ちょ!」
「ラファエル! こんな会場で大事にしてしまっては、簡単に逃げられない!! 良い手はないか!!」
「はっ! 私の祖父が駆け落ちで生涯2人の愛を果たす事の出来た地がございます!!」
私? 当然、役者兼任だよ? 総責任者兼役者で、婚約破棄劇場に出演しております!
「それは素晴らしい実績のある土地だ! アランッ!!」
「はっ! お2人のご家族の追っ手が掛かる前に、たった今からお連れ致します!!」
アランも当然巻き込まれている。お前だけ楽をさせる気はないぜ!
「うむ。追っ手が、少しでも遅れるように、私も手を尽くそう!」
宰相の息子のリンド君と新しい婚約者のトリシャは我々の芝居に付いていけずに、さくっと拉致されて会場を後にする。
やつらの周りは私たちの手の者で固めてあったのだから、楽勝だ。
「では、2人の新たな門出に祝福をしてやってくれ! そして、皆は祝いのパーティーを楽しんでくれ! ここに2人の祝福パーティーを開始する!!」
殿下が会場の去り際に、そう宣言をする。
会場の中からは、サクラを使った拍手が舞いおこっており、計画は無事成功となった。
「いやー。無事に終わって何よりだったね」
「提案しておいて、なんですが、上手くいって良かったです」
「国としても邪魔な人物たちも消えたし、表向きは、これで解決だ。残りの問題は、こちらで解決すれば『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』だね」
それって王太子の台詞だったのかよ!!
「さて、2人とも城へ付いてきてくれ。これから父に完了報告をする」
いつの間にか、オリエンティス公爵令嬢も会場から出てきて、私の隣にいる。
………ご令嬢とは足音を消す技術を備えないとなれない職業なのか?
「そのような計画は、私は聞いていないのですが………っていうか私もパーティーを楽しみたい」
「何を言う。報告は大事だ。そして、総責任者が報告をするのが筋であろう?」
確かに、腹黒殿下の言うとおりである。
せっかく美味しいそうな料理が会場に並んでいたんだけどな………。
「かしこまりました。食事は出るんですよね?」
「………父に謁見した後にも食欲があれば、出すよ」
いや、陛下には一度拝命式でお会いしているからね。あの時ほど緊張はしないさ。ぱっと報告して美味しいご飯を頂こう。最近はこの計画のせいで、ご飯が美味しくなかったからな。
用意された馬車で城へ向かうと、あまり待たされる事なく、謁見の間へと通された。
「皆の者ご苦労であった。楽にして構わぬ」
既に先触れを放っていたので、計画の成功自体は伝わっている。
「陛下。この度は、私の臣下ラファエルの願いを聞き届けて頂き、ありがとうございます」
おっと、今なんと言った腹黒殿下? 臣下ってところは聞き流そう。爵位的にもいずれ臣下だからな。
だが、この計画は私の願いじゃないぞ!?
「うむ。ヴァランタイン公爵。将来の禍根を早期に断った手腕は見事であった。褒めて遣わす」
「はっ! もったいないお言葉」
こう言われてしまっては、どうしようも出来ない。陛下にNOとは言えない!
いや、前世が小市民とか元田舎者って話じゃなくって、陛下との会話で否定形は使えないのよ。これもマイヤー侯爵夫人に身体に教えこまれた事なのよ?
「それに続き、婚約破棄を受けた令嬢の嫁ぎ先として名乗りを上げてくれた事にも感謝する」
ふぁ!?
「ラファエルは、自身の育ちがゆえに婚約者がおらぬ身で、領地や国の為にも素晴らしい女性を迎えたいと常々口に申しておりました」
「うむ。オリエンティス公爵の自慢の娘で、愛する者同士を許した心優しき女性であれば不足する事はなかろう」
「はい。我が娘も、そのお申し出をお受けしたいと言っておりました」
まって!
「『この案を提案した者として、責任を取らせて頂きたい。むろん、政略結婚となりますが、あなたを愛する事を誓います』と誠実なお言葉を頂いております。ですので、私はこの方の傍で支えたいと思いました」
い、言ってねぇぇぇぇ!!
「ラファエルが誠実な男であるのは、学園で見て知っております。それに厳しい教育で有名なマイヤー侯爵夫人も認める男です」
「うむ。ならば認めぬわけには参るまい。ヴァランタイン公爵よ。女性からの言葉だけでは男として立つまい。そなたの口から告げることを許可しよう」
おぅふ。
私が立てた宰相の息子のリンド君への有無を言わさない作戦を、こんなところで利用されるとは!!
「オリヴィエ嬢。婚約破棄をされたすぐ後にこのような事を告げる事をお許し下さい」
逃げられないのは分かったよ! 言えば良いんだろ!!
「ラファエル=ヴァランタインは、オリヴィエ=オリエンティスを愛する事を誓います! どうか、未熟な公爵ではありますが、婚約者としてお迎えさせて頂きたい」
そっとヴァランタイン公爵令嬢の前に膝をついて、手を差し出す。 陛下への報告って婚約報告の事だろ! これでいいかよ!!
「オリヴィエ=オリエンティス。喜んでそのお申し出をお受け致します」
私の手に返事と共に乗せられた手の甲に誓いの口づけを落とす。
普通、貴族同士の婚約って当主同士の話し合いで決まるものだよね? まあ、私は国に借りだらけだから、言われたら逆らえないけどさ………。
「2人の婚約は確かに、余が見届けた!」
その陛下の満面の笑顔と共に発した宣言で、会場中から祝いの言葉を頂く。
くそっ! 殿下の腹黒は陛下譲りかよ!!
謁見の間を出てからは、ご両親にご挨拶をして、書類へとサインをして正式にオリヴィエ=オリエンティスと婚約者になった。
「いやー。これで国の2つの問題が同時に片付くなんて、良かった。良かった」
「………2つ目の問題は、私の婚姻相手って事ですね」
「そうだよ。問題がある公爵が相手じゃ、国として動かない訳にはいかないからね。それにしても候補になりそうな令嬢は全て婚約済みだったから、リンドに本当に助けられたよ」
こう言われて、この世界がやっぱり乙女ゲームの世界だと思った。
国は問題が解決した事で栄えるだろう。
ヒロインも結ばれた相手と確かに、平和に暮らしている。
私の故郷で、私の父という監視付きの平和だけど………。平和に暮らしていけるのだから間違いではない。あの村から、ただのお貴族様が外へ出るのに無理がある。それくらい田舎だからな。
そして、極めつけは、めでたし。めでたし。の事だ。
これはこの腹黒殿下が攻略対象者じゃないって事が重要だ。だからこそ、誰がヒロインと結ばれても似たような結果になったのだろうと、今なら分かる。
「婚約者様。お食事がお口に合いませんでしたか?」
私と腹黒殿下の会話が止まった事で、私の婚約者となったオリヴィエが声を掛けてくる。
今は、私が希望した「陛下の謁見後の食事」を、アランを含めて4人で頂いている。まあ、アランは巻き込まれたくないのか無言だ。
「国の方針は分かりました。オリヴィエ様、私などがお相手でも宜しいのでしょうか?」
私の婚約が政略結婚だという事は、このオリヴィエ嬢も政略結婚という事になる。………正直、個人的な私の印象の方が心配という訳だ。
「ラファエル様は、学園では、時々、お言葉が酷い事がございましたが、マイヤー侯爵夫人が認めるだけあって、私の夫に足るお方だと思っております」
うん。学園内での私の癖の事は見られていたって訳ね。
一体いつから、見られていたのやら………国の闇が怖いから知りたくないけど。
「………まずは、再度誓わせて頂きます。私はあなたを愛し、浮気をしない事を誓います」
「ありがとうございます。ラファエル様。今はその言葉が一番嬉しい言葉です」
私の言葉にお世辞じゃない返事だと分かるくらいには、表情を崩してくれた。
「無理やり結びつけたから、ちょっと罪悪感があったけど、これは上手く行きそうかな?」
腹黒殿下が、無責任なことを口にしているのは無視だ。アランも、その事は注意しない。お前は側近だろ! 仕事しろ!!
「本来であれば、贈り物をご用意させていただいてから申し上げる事でしたのに、申し訳ない」
「いえ、国の都合で内密に行なわれた事ですので、理解しております。それに誠実なお気持ちは伝わりましたわ」
腹黒殿下を無視してもやらなければいけない事は、新しい婚約者との関係の構築だ。ここで選択肢を間違えると大変な事になる。
「そう言って頂いて、助かります。正式に婚約発表の際はドレスをお贈りさせて頂きます」
「はい。外聞の事もございますので、発表は半年後でも構わないでしょうか?」
「全て愛おしの婚約者様に合わさせて頂きます」
貴族としての常識も考えた上で、オリヴィエ嬢の意見を尊重する。
「あぁ。見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだ」
そんな私たちのやりとりを見ていて、腹黒殿下が呟く。
「オリヴィエ様。私から1つだけお願いを宜しいでしょうか?」
「私の我侭を聞いて頂いておりますので、なんなりと」
これまでのやりとりで、ある程度は2人距離感を掴めたので、思い切ってお願いを口にしてみたが、私が思っていたよりも、オリヴィエ嬢の私への信頼度は高いようだ。
「先ほど、話題に出ましたマイヤー侯爵夫人を、私は実の母のように慕っております」
「それは素晴らしい事だと思います」
私の発言に嫌な顔を1つせずに、嬉しそうに返事をしてくれた事で、私も安心する。
ただ、王太子の表情が少し動いたような気がしたので、それだけが心配だ。
「マイヤー侯爵夫人はお子様がおられませんので、マイヤー侯爵がお亡くなりになられた後は、我が家に来て頂きたいと考えております」
貴族のお家事情は複雑だ。跡を継いだ息子次第では、実母でない者たちは家を追い出される事がある。
私は、大恩あるマイヤー侯爵夫人を放置する事は出来そうにないので、先に誤解されないように手を打っておこうというだけだ。
「そのようなお願いでしたら、ご相談頂かなくても歓迎いたしますわ」
オリヴィエ嬢の表情からも、その言葉に嘘偽りがないが分かる。
問題は腹黒殿下の笑顔とアランの諦め顔の方だ。
「マイヤー侯爵夫人は私のマナーの先生でもございます。私も凄く尊敬をしておりますわ」
普通に考えれば、決して怯える必要のない言葉なのだが、腹黒殿下の表情が不安を掻き立てる。
「オリヴィエ嬢。そういえばラファエルは、そのマイヤー侯爵夫人から特別再教育の招待状を頂いているようですよ」
「まぁ………。それはいた仕方がありませんね。学園での口調は直して頂かないといけませんから」
腹黒殿下と私の婚約者のやり取りに黒いオーラが見える………気がする。
「私も久しぶりにマイヤー侯爵夫人とお会いしたいのでご一緒させて頂こうかしら? ふふふっ」
その小さく微笑んだ笑顔が怖い!
あかん! 最後の選択を間違った!
私がそう思って青ざめている隣で、腹黒殿下がそっと呟く。
「2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし」
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