婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん

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中篇

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 乙女ゲームの世界を模したこの世界は、私という異物が混じっているように、現実の世界だった。
 村で何も考えずに平和を享受していた時は疑いもしなかったが、乙女ゲームの中で見たキャラクターたちが自分の意志で動いているのを見て、その考えは改めた。

 間違いなく、この世界は現実世界だ。
 乙女ゲームの世界が、この世界に似ていただけだ。

 つまり、都合の良いハッピーエンドは存在しないという事だ。

 ここに来て、ヒロインが他の攻略対象者と無事結ばれるという目標は取り消しだ。

 マイヤー侯爵夫人の教育のおかげで、そんな事が実際に起これば、どのような事態になるのか想像出来るようになっていた。
 本当に、ついさっきまでその事に気付かないでいた事が恥ずかしい。

 乙女ゲームの世界では「オリエンティス公爵令嬢」が悪役令嬢の役割を担っている。
 同じ公爵家という間柄だったので、一度だけ顔を合わせた事があるが、オーホッホッホッと叫ぶような人物ではなかった。

 普通に考えれば、そんな風に叫んだら、私と同じように特別再教育の運命が待っているのだろう。あぁ、夏の夏季休暇が待ち遠しい………。永遠に来なければ良いのに。

「下世話な噂好きの殿下。そのお噂は本当でしょうか?」

「では、私は毒舌のラファエルと呼ぼう。そして、答えは既にオリエンティス公爵家が動いているだ」

 なんでそんなにその呼ばれ方で嬉しそうにするんだ!
 まあ、質問の答えを教えてくれたので、今は気にしないでおこう。

 ちなみに殿下は攻略対象者じゃない。隠しキャラとの噂もあったが、結構頻繁に出てきていたので隠れていない。

「それって不味くないですか?」

「お前の殿下の呼び方と同じくらいに不味いな」

 今度の質問はアランが答えてくれる。うん。不味いのは分かっているさ。
 きっとマイヤー侯爵夫人からのお仕置きが待っているのは想像しているさ。間違いなく学園から、報告が行っているだろうしな………。

 学園内じゃなかったら本当に不敬罪だよ!

「逆に聞くけど、学年1位の毒舌ラファエルはどうなると思う? その名に恥じない回答が聞きたいな」

 殿下は、私の事が気に入っているのか、それとも怒っているのか、時々判断がつかなくなる。

「王家とオリエンティス公爵家の間に亀裂が入りますね」

 王家と関わりが深い宰相の家が、そんな事をすれば、板ばさみ状態になるとはいえ、王家は宰相の家を支援する事になるのは間違いない。
 
「それで、それで?」

「宰相の自称天才息子と、頭お花畑子爵令嬢は病死とかでしょうか? 最終的な和解の為に」

 病死というのはもちろん表向きだ。

「ふむふむ。確かに学年1位は毒舌ラファエルだから自称天才だね。確か彼は下から数えた方が早い順位だったはずだし。それに婚約者のいる相手に擦り寄る事を頭お花畑と表現するのはいい方法だ。今度私も使おう」

「ラファエル。頼むから、早くその癖を直せ。殿下に悪影響しか与えていない」

 私と同じ感想を抱いたアランが再度注意をしてくれる。

「本当にすまない」

 私にはそう謝罪する以外に手段はなかった。

「それで解決方法は?」

「ラファエルが消えれば、解決します」

 いや、殿下の悪影響の方じゃねぇよ! てか、消えればって、私を消す気か!? アラァァァァァァン!!

「………消されたくなかったら、真面目な解決案を提案しろよ」

「はい………」

 アランも理解してるように、自体はかなり深刻だ。ここで止めたとしても、噂が広がってしまっている状態では、既に手遅れだ。

「とりあえず、2人には駆け落ちして貰って、表向きはオリエンティス公爵令嬢には2人の愛を認めて逃亡の手助けをしたという事にしてはどうでしょう?」

 美談に変えれば、婚約破棄ではなく、婚約を白紙とすることが出来る………と思う。
 
「あくまで表向きは和解という形をとって、あとは王家を介して、宰相の家とオリエンティス公爵家が和解案を話し合えば済むと思います。なんだったら、2人の駆け落ち先が、どこになるかは、オリエンティス公爵家に決めてもらっても良いですし」

「………………お前はとんでもない事を考えるな」

 私を消そうとしたアランに言われるのは心外である。

「じゃあ、その方向で父には話をしてみるよ」

「え? 本当にそんなんで良いんですか!?」

 私のただの思い付きのような提案をあっさり受け入れた殿下に対して、心の中で叫ぶはずが、つい口に出てしまった。

「何を言っているんだい? なかなかに良い案じゃないか。元凶の2人にも責任を取らせる事は出来るし、国は表向きは乱れずに事を収められる。残りの問題も、私に考えがあるから上手く行くさ」

「まあ、殿下がそういうのでしたら、お止め致しませんが………」

 本音を言うと、殿下が黒く見える。だからちょっと止めたい。でもきっと気のせいだ。そうに違いない。

「心配だったけど、ちゃんと貴族らしい考えが出来るじゃないか。これなら公爵としての成長も期待出来そうだ」

 どうやら殿下の行動は、私が公爵としてやっていけるかの監視も兼ねているらしい。
 ………王太子殿下って職業は学生時代すら楽しめないのか。

「それに丁度、来月に学生だけの夜会が予定されている。その時なんて都合が良さそうじゃないかい?」

 あれですか? 断罪イベントを利用する気ですか?


 なんだよこの王太子殿下! 本当は真っ黒じゃないか!!




 私が適当に考えた案を腹黒殿下が採用してしまい、陛下もそれを認めてしまった。
 
「どうしてこうなった!」

 そう、人生で一度は叫んでみたい言葉だろうが、私は本心で叫ばせて貰った。

「諦めろ。ラファエル。殿下に気に入られたのが運の尽きだ」

「アラン。お前は幼少の頃から殿下と一緒だと言っていたな」

「あぁ。このような事は両手では足りないくらい経験している。諦めが肝心だ」

 腹黒殿下の友人では、大先輩に当たるアランの言葉には、人生の悟りを開いたような重い言葉のように聞こえた。………俺たちまだ15だよな!?

「ラファエルはエスコート相手がいないから、先に入場して今日の主役の監視をしていてくれ。私が入場する前に劇を始めないように注意してくれよ」

 ………確かに私にはエスコートする相手はいない。
 通常であれば、公爵という地位の立場であったならば、幼少時代に婚約者が出来ているものだが、その本来婚約者が出来る時期には、私は田舎村にいた。不可抗力である。決して私が不良物件という訳ではない!!

 その悲しい事実は忘れるとしても、王太子が言った言葉は、私を追い詰める為のものじゃない。
 いや、追い詰める為の言葉でもあるのだが、本来の目的は「こんな楽しそうな劇なら直接みたいじゃないか」という事だけだ。

「はいはい。殿下のご入場後にご挨拶が開始するように手はずを整えておきましたよ」

 通常パーティーの開会宣言は、身分の一番高いものが行なう。
 宰相の家は伯爵家で、殿下はもちろんの事だが、私の地位にも、ましてや自分の婚約者の家の地位にも及ばない。

 だが、そこは計画が確定した直後から、スムーズに計画が進むように、宰相の息子という事で司会進行役に指名した。
 目立ちたがりの自称天才様なら、良いタイミングで、あの宣言をしてくれるはずだ。

 奴らの周りは全て、殿下と私が手配した者たちで固めている。あの宣言を行なう企みをしている事も掴んでいる。まあ、私が誘導したんだが………。

「ラファエル様。こちらの準備は滞りなく進んでおりますわ」

 殿下たちとの最後の確認を終えて、会場へ向かっている途中の廊下でオリエンティス公爵家のご令嬢とすれ違う。
 
「予定通り、殿下がご入場後に開始予定です」

 互いに目礼をすると共に、言葉を交わす。
 彼女もこの計画の協力者だ。むしろ、対象者の父親さえ協力者なのである。奴らの運命は既に決している。

 計画の立案者として、なぜか私がこの計画の総責任者だ。自業自得とはいえ、人ふたりの運命を決めてしまった事に、冒頭で叫んでしまったのは仕方がない事だと思う。仕方がないよね?

「リンド。まもなく殿下がご入場される。用意は良いか?」

 特に段取りが崩れる事もなく、私の会場入り後に対象者にも最終確認を入れる。当然、婚約破棄宣言の方な?

「はい。ラファエル様。このような大役を譲り下さり、ありがとうございます」

「気にするな。宰相閣下である君のお父上には、大変に世話になっている」

 主に領地経営のな。書類仕事とかめちゃくちゃ手伝って貰ってるからな。その恩返しになるなら安いものだよ。息子のざまぁなんて。

 とはいえ、成績が下から数えた方が早いだけはある。
 こんなにも回りに監視されている状況で、全く気付かない。元田舎者でさえ気付くんだぞ?

 さすがは、下から2番目の事はある。………ついでに最下位は宰相の息子であるリンドの隣にいる。

「いよいよですね。リンド様」

「あぁ。長く辛い時も今日までだ」

 君たちが知り合ったのは3ヶ月ほど前だよね? 君たちの中では時間の流れが違うのかな?

「では、頼んだよ。私はパーティーを楽しませて貰うよ」


 婚約破棄記念パーティーをな。クックックッ………おっと、入場してきた腹黒殿下を見たせいで、腹黒が移ってしまったようだ。危ない危ない。
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