29 / 36
27話☆三浦桜vs石井百合
しおりを挟む
試合の興奮が冷めないまま桜とアップルームへ移動した。試合を終えた私たちは何も言わず、でも当たり前のように一緒にここに来てストレッチをしている。
2人とも今日はあと1試合ある。少しでも休まないと。披露した身体が固まらないようほぐしていると昂っていた気持ちもようやく落ち着いてきた。
「楽しかった」
「え?」
「桜との試合、楽しかった」
そう伝えたかったのか、桜にとっても楽しい試合だったのかを聞きたかったのか、わからない。
試合に対する向き合い方が少し違っていることを知っているから、私の気持ちを押し付けるつもりはない。でも、それでもやっぱり伝えずにはいられなかった。
桜はストレッチを続けたまま、また目線を開脚した脚の間に落とした。
「練習試合以外で陽菜と戦うの初めてだったけど、こんな感じなんだね」
「こんな感じって?」
「不思議な感じ。今回勝てるかもって、思ったんだ。でも負けちゃった。だから悔しい気持ちもすごくある。でもそれだけじゃない、何か不思議な感じ」
「えー、何それ。全然わかんないよ」
おかしくなって笑ってしまう。そう言われると確かに不思議なものなのかも。
私は勝ったから嬉しい気持ちもあって、それ含めていい試合だったって思ってるのかもしれない。でも桜は負けた。それでも悔しいって気持ち以外にも何かあるとしたらそれは不思議な感じ、なのかな。
「ふふっ。そうだね。私もわからないんだもん」
桜も笑った。
「あーあ、でも勝てると思ったのになー」
「腕取られた時はやばって思ったよ。あのミドルも入ってたらやばかったかも」
「ガード空いてるって思ったんだけどねー。でも陽菜が試合終盤で関節技狙ってくるなんてね」
「咄嗟の思いつきだよ。やっぱ決めきれなかったし。もっと練習しなきゃ」
それしかない。今日の試合だって反省点はたくさんある。もっと強くなって、今日よりももっといい試合をするんだ。
「陽菜、また試合しようね」
「うん!何なら今ここでもう一戦やる!?」
「なんでよ。そういう場所じゃないし」
私たちの笑い声に混じって遠くでゴングが鳴る音がする。
桜は強かった。でも次も負けない。次は公式戦で戦えるといいな。
桜と石井百合の試合は思いのほか接戦となった。
桜は私との試合でかなり消耗していたし、その前には短期決戦だったものの高山美優とも戦っている。それに加えて石井百合の目つきも少し変わったような。相変わらずラリアットを多用していた。
前半こそ決まっていたものの徐々に桜がかわしたりカウンターで脇固めに入ったり上手く対応し始めたので、闇雲には仕掛けられなくなった。
そこからは桜の技の応酬だったけど、石井百合も粘りを見せて簡単には倒れなかった。最後は桜のミドルキックがボディにヒットし、そのまま押さえ込んだ。
桜のセコンドについていた私もそばで見ていてハラハラする試合だった。今日はいい試合によく巡りあう。
2人とも今日はあと1試合ある。少しでも休まないと。披露した身体が固まらないようほぐしていると昂っていた気持ちもようやく落ち着いてきた。
「楽しかった」
「え?」
「桜との試合、楽しかった」
そう伝えたかったのか、桜にとっても楽しい試合だったのかを聞きたかったのか、わからない。
試合に対する向き合い方が少し違っていることを知っているから、私の気持ちを押し付けるつもりはない。でも、それでもやっぱり伝えずにはいられなかった。
桜はストレッチを続けたまま、また目線を開脚した脚の間に落とした。
「練習試合以外で陽菜と戦うの初めてだったけど、こんな感じなんだね」
「こんな感じって?」
「不思議な感じ。今回勝てるかもって、思ったんだ。でも負けちゃった。だから悔しい気持ちもすごくある。でもそれだけじゃない、何か不思議な感じ」
「えー、何それ。全然わかんないよ」
おかしくなって笑ってしまう。そう言われると確かに不思議なものなのかも。
私は勝ったから嬉しい気持ちもあって、それ含めていい試合だったって思ってるのかもしれない。でも桜は負けた。それでも悔しいって気持ち以外にも何かあるとしたらそれは不思議な感じ、なのかな。
「ふふっ。そうだね。私もわからないんだもん」
桜も笑った。
「あーあ、でも勝てると思ったのになー」
「腕取られた時はやばって思ったよ。あのミドルも入ってたらやばかったかも」
「ガード空いてるって思ったんだけどねー。でも陽菜が試合終盤で関節技狙ってくるなんてね」
「咄嗟の思いつきだよ。やっぱ決めきれなかったし。もっと練習しなきゃ」
それしかない。今日の試合だって反省点はたくさんある。もっと強くなって、今日よりももっといい試合をするんだ。
「陽菜、また試合しようね」
「うん!何なら今ここでもう一戦やる!?」
「なんでよ。そういう場所じゃないし」
私たちの笑い声に混じって遠くでゴングが鳴る音がする。
桜は強かった。でも次も負けない。次は公式戦で戦えるといいな。
桜と石井百合の試合は思いのほか接戦となった。
桜は私との試合でかなり消耗していたし、その前には短期決戦だったものの高山美優とも戦っている。それに加えて石井百合の目つきも少し変わったような。相変わらずラリアットを多用していた。
前半こそ決まっていたものの徐々に桜がかわしたりカウンターで脇固めに入ったり上手く対応し始めたので、闇雲には仕掛けられなくなった。
そこからは桜の技の応酬だったけど、石井百合も粘りを見せて簡単には倒れなかった。最後は桜のミドルキックがボディにヒットし、そのまま押さえ込んだ。
桜のセコンドについていた私もそばで見ていてハラハラする試合だった。今日はいい試合によく巡りあう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる