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第2章 憂虞、高揚、危機

第2話

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朝早くから開いている一軒だけの商店。

昼時に食べるパンを買う。
朝早くだけあり、アンパンは沢山あった。確かに美味しいアンパン。餡がたっぷり入ってて、如何にもお歳を召した方が好きそうなアンパン。
自分は、メロンパンの方が好みだが……
メロンパンは、二、三個位しか置いてない。大きなメロンパンの割には、安く美味しい。
今日は、勿論メロンパンと偶に入ると言うクリームパンを買い川へ向かう。

「う~~ん。今日は、何処から攻めよう
か」

やはり同じ所を、探しても意味無いので余り行かない下流の方へ。

「赤い橋の下に白い橋があって、その下流は渓谷になっていて危険だと、ナカさん言ってたなぁ~~ 」

白い橋か……

まだ見た事が無い白い橋。
古い橋で、ナカさんが言うには橋はあるが道路は、もう無い。
と、言うことはこの道から直接白い橋には、行けないということ。

赤い橋の下流は曲がりくねり急に森に囲まれている為、赤い橋から白い橋は見えない。
川沿いを歩かないと白い橋を見る事も出来ない。

とりあえず赤い橋から下流で探して見る事にした。

赤い橋の下流は、あまり川原が無い。
という事は、石も少ない。
なので今迄、下流は来ていなかった。
全く無い訳ではないので、効率は悪いが地道に探す事にした。

探し始めて、厄介な事に気がついた。

石がゴロゴロしてる川原が少ない。
石は有るけれど、水辺で濡れている物が多い。厄介なのは、割れていない黒曜石は濡れていると分かりづらい事。
ガラスの様な黒い内部は分かるが、割れていないと白っぽい石。
白っぽい所が濡れていると、ただの黒っぽい石と同じ。
元々、黒曜石では無いただの黒い石も結構ある川なので、黒曜石の判別も面倒な作業になってしまった。

多少の浅瀬に入る事も覚悟していたが、意外と濡れてしまう。川底も滑り易く歩き難い。
「うーむ。アレ履かないと駄目だな」

アレとは…… 『ウェーダー』

釣りする人が、履いている胸くらいまである長靴。お腹くらいの水位なら川も渡れる。
ナカさんに言われてはいたが、今迄は川の中も歩く事は少なかったし川原中心だったので必要無かった。
川の中は、必要だがそれ以外は逆に歩き辛そうだし…… 暑そうで。
だが、下流で探すには必需品の様だ。

川の流れと共に赤い橋から下流へ探し歩いたが、コレと言って成果は無い。

「と、言うか…… 白い橋見えないなぁ」

とりあえず今日の目標は、白い橋が見える所まで下る事にした。
石探しも重要だか、下流は装備を整えないといけない事を身を以て知らされた。
深い所に入っていないのに膝上まで上げたズボンは、ずぶ濡れになり何度も川底に足を取られ転びそうに。

幾ら探検家気分でも

『安全第一! 』

怪我でもしたら、ヨシばあに心配掛けるし下手したら石探しを辞めさせられる恐れが…… 何せ親に内緒でやっている事なので、ヨシばあも気にしてるだろうから。

川の端をゆっくり歩く。
森が深くなり川に木々がせりだし、端を歩くだけでも一苦労だった。

大きく曲がった川沿いに下り、小さな川原が見えた。

何とかそこまで辿り着き、一呼吸。
その先を見ると…… 木々の間に何と無く見える橋。

「あれが白い橋か…… 結構距離あるなぁ」

とりあえず今日の目標の白い橋を見る事が出来、一休み。
久々の川原に座り、早めの糖分補給?
というかクリームパンを食べる。
甘さに癒され、ふと辺りを見回す。

「ん? 」

自分が座っていた小さな川原。
よく見ると…… 黒曜石がある。
それも、何個もある。

「うお! 」

食べ欠けのクリームパン片手に黒曜石を拾う。
あまり見つける事の無い、赤茶色の模様の入った黒曜石が二つも。半分に割れていたがそれでもかなり大きめの黒曜石が一つ。小さな黒曜石と小さな欠けらもあった。

こんな小さなエリアでこんなに見つかるとは……

やはり川に流され曲がりくねった後の、この川原に集まったのだろう。

慌ててクリームパンを全部頬張り、黒曜石を割る。
赤茶色の模様の黒曜石は、やはり中も赤茶色の模様だけ。

半分位に割れているが大きな黒曜石に期待する。割れている面には、何も無く真っ黒だかこれだけ大きければ、もしかして……

割るのも一苦労。手が痺れる。
綺麗に真っ二つには割れなかったが、何とか割れた。

「ん~~  瑠璃では無い」

何と無く黒い色がグラデーションぽくなっていて、真っ黒な所と色が薄くグレーっぽい所もあり黒曜石としては、綺麗なのだか…… 残念。

ただ今迄とは少し違う感覚。
期待感が少し湧いて来た。

「折角だから、もう少し白い橋の近くまで行こうかな」

大きめの黒曜石を見つけたことで、少し欲が出た。
そのせいで、その後エライ目に……

ますます歩き難く、ほんの少しだけ先に行くだけで時間が凄く掛かった。
足を取られ川に手をつくことも、しばしば。上半身までも結構濡れてしまった。

距離的にはクリームパンを食べた川原から余り進んでいないが、どっと疲れた。
何とか、白い橋をハッキリ見える所まで来た。大きな岩があり、その上で休む事に。とてもデカイ岩。上は平らになっていて広い。寝転べる程の広さ。

その平らな岩の上で、真下に水量がかなり多くなっている川を見ながらメロンパンを食べる。

「メロンパン食べたら、今日は帰ろ~~ 」

先程の川原以降、黒曜石どころか石を探す余裕など無かった。

「やっぱりナカさんの言っていた通り、白い橋の近くから川が変わる感じだな。川の端を歩くのも一苦労だし」

と、ぶつぶつ独り言を言いつつメロンパンにかぶりついていた時……

ガサッ。

……なんか、後ろでガサッと言った様な。
動物かな? その時ナカさんが言った言葉が脳裏をよぎる。
『山の神の使いとされる熊が…… この自然を守って…… い…… ると』

『まさか…… 熊じゃ、ないだろうな。逃げ場ないぞ! 川に飛び込むしか…… 』

メロンパンが喉を通らなかった。
口の中にメロンパンが入ったまま…… 恐る恐る振り向く…… いや振り向けない。

小心者の探検家なんで……    困った。

第2話   終
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