瑠璃の誘惑。メロンパンの誘惑。

本宮 秋

文字の大きさ
8 / 19
第2章 憂虞、高揚、危機

第3話

しおりを挟む
 突然、背後の物音にびびってしまい振り返る事も出来ず、唯唯《ただただ》手に持っていたメロンパンを握り締めるだけだった。

ガサッという音がした後は、何もしない。ただ何と無く何かがいる様な気配は感じた。
それが小さな動物なのか、大きな動物なのかは分からなかった。
いつまでもこのままでは、しょうがない。思い切って振り返って見る…… と同時に、

カラン、コロン…… と小石が自分の座っている岩の上に転がってきた。
思わず、
「うわっ! 」
と、声を出して驚いた。

たかが小石が転がっただけだが、ずっと緊張感が続いていた為、声が出た。
後ろを見ても結局、何も居なかった。
小石が転がってきたということは…… ゆっくり岩の上の方を見る。
大きな岩の上には、森に続く土手があり草木が生い茂っている。その土手辺りから小石が転がってきたのだろうか。
草木を薙ぎ倒す音もしなかったので、大きな動物では無いと思いホッとした。

狐かな、狸かな。

そう思うと緊張感も無くなった。
人気の無い、自然そのままの川と森。
動物がいても当たり前の世界。

よくよく考えてみれば、普通の事なのに初めての下流で…… というよりかは自分が臆病なだけ。
こんな自分が、よく一人で山の中の川で石探しなどする気になったのか。
不思議ではあるが…… そうさせたのも『瑠璃』の魅力。

熊の話を聞いた後なので、余計な事を考え過ぎ過敏に反応してしまったが。
おかげで手に持っていたメロンパンが…… 潰れていた。
どれだけ手に力を入れていたのか。折角のメロンパンが……

やっとの思いで、この岩まで来てメロンパンで気分と疲れを癒そうとしたのに。
そう思うと疲れが出た。心も身体も。

トボトボと、来たルートを戻ることに。

「収穫があったのか無かったのか、分からなかった白い橋までの探索だったなぁ」
つい声に出し愚痴る。

いつもの様にナカさんの家に寄る。

初めての下流の探索と何かの動物らしきものにビビった話をした。

「ほぅ~~  熊かもな」

ナカさんがぼそり。

「またまた~~ そんな大きい動物じゃ無いと思いますよ」

「熊ってな、あまり音させないで歩くんだよ。笹が生い茂っている所でも、ほとんど音を立てないそうだ」

「いやいや~~  無いでしょ熊は。熊だったら襲われているでしょ、あの距離じゃ」

「熊はいるぞ普通に。ただ、ここらの熊は人の気配感じたら熊の方から逃げる。
よっぽどの事が無いと人は襲わない。山には食べる物あるからな、わざわざ人は襲わないぞ」

「え! 川とかにもいるんですか? ヤバイじゃないですか~~ 」

「そりゃ水飲むし、魚取るし川にもいるだろ。何だ~~ そんな事も知らんで石探しやってたのか? 森の奥に行かなければ大丈夫だろ。タケ爺の孫の割には、情けないなぁ」

なんだか…… ナカさんに話をしなければよかったと思ってしまった。
余計な事を聞いてしまった様な。川に行く事が急に怖くなってきた。

そんな感じになって疲れもあったので、今日はナカさんの手伝いをせずに帰った。

「ありゃ今日は、はやいんだね~~ 」

ヨシばあが言った。

「ヨシばあ、熊見た事ある? 」

「ん~~? な~に熊でたんか? 」

「いや分からないけど、熊は普通にいるぞってナカさんが…… 」

「熊も狐も狸も鹿もいるわ。なんでもいるさ。でも悪さしないからね。今で言う共存って言うやつかい」

相変わらずヨシばあは、肝が座っているというか…… ん~~ あまりアドバイスにもなって無いような。
思わず考え込む自分。

するとヨシばあが、

「ほれ、熊が怖いならこれ付けてな! 熊避けの鈴。でも熊の寝ぐらには近寄っては駄目だよ。森の奥にはね」

「あ、ありがと」

やっぱり森の奥は、行かない方がいいのだなと思った。ナカさんもヨシばあも、そこは同じ事を言っていた。

ナカさんの言葉に急に怖くなった自分だが…… ふと今日見つけた黒曜石の事を思い出し、『瑠璃黒曜』と熊の怖さを天秤にかける自分が居た。

夕食時、ヨシばあに

「タケ爺は石探ししてた時、熊とか怖く無かったのかな? 」

「熊の事、考えるより石の事しか考えてなかっただろうさーー  アキラが小さい頃までは、石馬鹿って奴だよ、ホホホ」

「石馬鹿か~~ 」

その後、布団に入り考えてみた。
『熊とか何とかにビビってる様じゃ、駄目って事だよな~~。そんな事を考えずに石の事だけ考える、石馬鹿にならんと『瑠璃黒曜』を見つけるのは無理なんだろうな』

改めてタケ爺の凄さを感じた。

「タケ爺が見つける事が出来たのに、孫の俺が見つけるどころか他の事にビビるなんて…… 今頃、タケ爺に笑われてるだろうな~~ 」


次の日、ヨシばあの家にある仏壇に手を合わせ隣町に向かった。
隣町に来た理由。

ウェーダーを買いに。
これで川の中も平気で歩ける。
そして、集落に戻りあの古い神社へ。
長い石段を登り改めてお参り。

「確か、この社の中に変わったものが祀られているんだよな。見てみたいな」
覗いてみたが中にもガッチリとした扉が閉まっていた。

神社を降りた時、あまり疲れが無かった。初めて登った時は、ゼエゼエ言っていたのに。毎日の石探しと川歩きが足腰を強くしてくれたのかと。

「熊が怖くて『瑠璃』が見つけられるか~~ 」

やっぱり『瑠璃』の誘惑は、簡単に断ち切れそうにない様だ。

「そういう事だよねタケ爺! 」

熊避けの鈴をしっかりと身に付け、落ちていた木の枝を片手に……
あの白い橋の近くの大きな岩へ……
いざリベンジ⁈


第3話    終
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...