浦町ニュータウン～血塗られた怪異～

《┈第二部┈》第四章

《霧島》

はぁ……。
ため息が漏れ出て、疲れが日増しに悪化するのを実感する。
準備をし、朝食を撮るのも一苦労だ。日に日に疲弊してゆくからだを奮い立たせ、準備を終えた。
しおりのアパートの短い廊下を通り、玄関へ向かう。
靴を履き、立ち上がる。そしてドアを開けようとしたが、私は家の玄関の前で立ち止まり、恐怖に身震いした。近日会社の人たちの話していたことを思い出し、恐ろしさを覚えていたのだ。会社の人数は、明らかに減っている。彼らによると、みな衰弱死か、町境で苦しみながら亡くなるのだと言う。
先日、私の部署でも死者が出た。凛と千枝子が亡くなったのだ。二人とも、町境で見つかったと聞いた。
そう思うと、この町全体が罠のように感じる。
ふと、時計を見ると、出勤時間が迫っており、重い気持ちのまま、私は扉をあげ、歩き出した。
「あの…。」
私は、出勤すると同時に上司の机に向かう。この事態のせいか、上司も深刻な面持ちだ。
私は口を開き、頭の中で考えていたぶんを、そのまま口に出す。
「凛さんと千枝子さんはどうして亡くなったんですか……。」
帰ってくる答えは、きっと私を恐怖に落とすようなものだろう。上司は、言いにくそうに口ごもり、しばらく二人の間を沈黙が流れていた。
「昼休み、別室で話します」
ぽつりと上司がそう言うと、再び静寂が支配した。周りの音が私の耳に届く事はなく、しばらく立ち尽くすのだった。

仕事開始のベルがなり、私はハッとする。
我に返ると、周りの視線に気が付き、私は急いで席へ戻った。
席に座り、飲み物を飲みながら一息をつく。
パソコンを見て、私は凛を思い出した。仕事が分からない私にパソコンを教えてくれた凜はもう居ないのだ。そう思うと、目頭が熱くなり、悲しみが芽生えた。しかし、恐怖が悲しみを塗りつぶし、肩を震わせた。人が死んだと言うのに、その悲しみを直ぐに忘れ、恐怖に支配されている私自信が恐ろしい。
この絶望的な環境にいると、心の痛みが麻痺するものなのだろうか。

恐怖から逃げるように仕事をしていると、あっという間に時間が経った。昼休みになり、皆が弁当を食べる中、私は上司の声に立ち上がった。
別室に着くと、席に腰かける。えっと、と口ごもる上司に私は何かを言うことが出来ず、気づけば秒針の音に意識が向いていた。
「人に、言わないでください」
その前起きで、私はこの先の言葉が、だいたい予想出来た。しかし、いざ聞くとなると、恐ろしく、心臓が鼓動を早めるのに気がついた。
しばらく時間が経ち、上司は口を開いた。
「死因は分からないけど、く……苦しんでいたそうです……」
やはり、おかしい。人々の噂のように、彼女たちは苦しんだのだ。なぜ、皆同じ死因なのだろうか。彼らの死には、どんな理由があるのだろうか。
会社の名簿を見て、噂が本当なのだと知った。人数が、設立から半分に減っている。掲示板に張り出された書類は、訃報ばかりで、それ以外を探すのが大変なくらいだ。
気になる────。不謹慎なのだろうが、私は彼らの市の理由をつきとめたくなった。
しかし、それは危険な行為なのかもしれない。開けては行けない箱を人が開けたくなるように、私はそれを知りたい。
部屋を出ると、既に昼休みは終わっていた。席につき、仕事に取り掛かったが、気になってしまい、集中できない。時間が経つのも遅く、苛立ち始めた。
普段であれば、これくらいで苛立つことは無いため、私は違和感を感じる。それでも、無理やりパソコンに向かい、私は仕事を続けた。

夜になり、私は図書館でこの街について調べようとしていた。しかし、その思いとは裏腹に、疲れが酷く、とても調べ物など出来そうにない。
少し落胆したが、明日は休みのため、今日は家に帰ることにした。

ハァアハァ
いきがきれ、足が痛む。今まで会社から家までの十五分は負担に感じていなかった。だが、十分ほど歩いたところで、わたしは疲れを感じていた。
今日は、疲れたのだろうか。そう思いなおし、家に向かう。しかし、頭の中に過ったのは、私が霧島だった時の記憶だった。疲れが酷くなり、やがて衰弱死した、過去を思い出し、寒気を覚えた。
何とか家に着くと、すぐにソファーに座り込む。
意識がふわふわとする。意識が朦朧とし始め、やがて、闇に堕ちた。