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《┈第三部┈》第三章
《楓実》
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蓬田家の屋敷は広大だ。庭も広く、鼻が咲きみだれている。
しかし、そこはわたしたち姉妹にとって、安心して遊べる場所ではなかった。
わたしにとっては見えない闇が広がる場所だ。
喧騒が絶たれ、いつも静まり返っている。
しかし、家は、居心地良いものではない。両親の感じの圧は強く、わたしは縮こまって暮らすしかない。
姉は、わたしより長く、ここで暮らしているからか、萎縮した性格だ。
外に一人で出たこともない。外出すると言えば、母と茶会に行く時だけだ。
まさに、軟禁状態である。無関心で、わたしたちに目を合わせたこともない。全く関わらないのに、恐怖だけを与えている。
彼らの声が聞こえるたび、身を縮こまらせる。両親は自分の見えや評価を、宝としているのだろう。
鶫実が、孤独を感じているのも手に取るように解り、わたしの絶望は深まる。
その孤独は、彼女の心を蝕み、穴を開けてゆく。姉にとって、わたしは唯一胸の内を打ち明けられる存在であるのだろう。
わたしはそのことだけは嬉しく思った。
気がつくと、彼女の目の光は、また、消えていた。
感情も生気も、まえよりなくて、や抜け殻のように見えるようになった。
逃げようとも、感情を、消しきれない。わたしも姉も、絶望に駆られた。
わたしたちの表情は、日を重ねるごとに、絶望に侵食されてゆく。
わたしは、感情が自然に乏しくなった訳ではなく、内心では絶望は増える一方であった。姉もそうなのだろうか。
そんな鶫実の顔を見るたびに、わたしの心臓に、トゲが刺さる感覚を覚えた。
両親は鶫実には、接しないようにしている。だが、彼女と両親には、わずかの会話がある。わたしとは会話がなく、姉と両親、わたしと両親の差を、比べてしまう。
茶会も、昔思っていたような、素敵な会ではなく、わたしを苦しめるだけだ。
少しでもいいつけを破れば、罰がある。存在の見えぬ誰かに怯えるように皆、作り笑いを浮かべている。
そこは、虚像の集まりのようで、とても恐ろしい。
そんな日々の中、永遠に続くと思われた五年がすぎ、姉は、さらに無口になっていた。
わたしへの相談も、知恵が着くにつれ、両親に気づかれないかを、過剰に気にしているように感じた。わたしはその姿を見る度、絶望が増大するのを感じた。
それでも、同じ軒下にいる為、気づかれることは少なくない。気づかれる度、誰も見ていなくても、評判が崩れると何度も言われた。
窓の外に色が揺らめく。喧騒が耳に届くが、意識が闇との境をさまよい、気づけど忘れてしまう。慌ただしく動くそれは、人だろうか。
どこへゆくでもなく、彷徨っていた。
一体何があったのであろうか。何故か恐ろしく、自体が掴めない。
────一夜にして、蓬田家が没落した────
彼らの会話を聞いて、足元から地面ごと崩れ、落ちゆくような感覚を覚えた。唖然として自体が、つかめなかったのだ。それから、絶望が襲うまでの時間は長かった。
絶望を覚え始め、わたしの目から涙が滲み出る。
これから、どうすれば良いのだろうか。
わたしたちは、霧島財閥の事務所で働くことになった。
ここでも、わたしは無視された。経営者は、凍てつくような性格だった。
なぜ、わたしはどこでも無視されるのだろうか。
そういへば、どうやってこの事務所に就職したのだろうか。彼とは話したことが無いはずなのに、どうして入れたのだろうか。
考えてみても、記憶がぼやけて分からない。過去の記憶をたどってみても、断片的にしかわたしの軌跡は無い。
なぜなのだろう。
考えてみても分からない。
わたしは、本当にここにいるのだろうか。
生きているのだろうか。自分の存在すら疑ってしまう。
もしかすれば、わたしは虚像なのだろうか。
────二重人格
その言葉が頭によぎる。わたしは鶫実の虚像────。
全てが繋がった。わたしは居ないのだろうか。
確信は持てぬが、そう考えれば合点がゆく。
わたしは、虚像。わたしはいない。
しかし、そこはわたしたち姉妹にとって、安心して遊べる場所ではなかった。
わたしにとっては見えない闇が広がる場所だ。
喧騒が絶たれ、いつも静まり返っている。
しかし、家は、居心地良いものではない。両親の感じの圧は強く、わたしは縮こまって暮らすしかない。
姉は、わたしより長く、ここで暮らしているからか、萎縮した性格だ。
外に一人で出たこともない。外出すると言えば、母と茶会に行く時だけだ。
まさに、軟禁状態である。無関心で、わたしたちに目を合わせたこともない。全く関わらないのに、恐怖だけを与えている。
彼らの声が聞こえるたび、身を縮こまらせる。両親は自分の見えや評価を、宝としているのだろう。
鶫実が、孤独を感じているのも手に取るように解り、わたしの絶望は深まる。
その孤独は、彼女の心を蝕み、穴を開けてゆく。姉にとって、わたしは唯一胸の内を打ち明けられる存在であるのだろう。
わたしはそのことだけは嬉しく思った。
気がつくと、彼女の目の光は、また、消えていた。
感情も生気も、まえよりなくて、や抜け殻のように見えるようになった。
逃げようとも、感情を、消しきれない。わたしも姉も、絶望に駆られた。
わたしたちの表情は、日を重ねるごとに、絶望に侵食されてゆく。
わたしは、感情が自然に乏しくなった訳ではなく、内心では絶望は増える一方であった。姉もそうなのだろうか。
そんな鶫実の顔を見るたびに、わたしの心臓に、トゲが刺さる感覚を覚えた。
両親は鶫実には、接しないようにしている。だが、彼女と両親には、わずかの会話がある。わたしとは会話がなく、姉と両親、わたしと両親の差を、比べてしまう。
茶会も、昔思っていたような、素敵な会ではなく、わたしを苦しめるだけだ。
少しでもいいつけを破れば、罰がある。存在の見えぬ誰かに怯えるように皆、作り笑いを浮かべている。
そこは、虚像の集まりのようで、とても恐ろしい。
そんな日々の中、永遠に続くと思われた五年がすぎ、姉は、さらに無口になっていた。
わたしへの相談も、知恵が着くにつれ、両親に気づかれないかを、過剰に気にしているように感じた。わたしはその姿を見る度、絶望が増大するのを感じた。
それでも、同じ軒下にいる為、気づかれることは少なくない。気づかれる度、誰も見ていなくても、評判が崩れると何度も言われた。
窓の外に色が揺らめく。喧騒が耳に届くが、意識が闇との境をさまよい、気づけど忘れてしまう。慌ただしく動くそれは、人だろうか。
どこへゆくでもなく、彷徨っていた。
一体何があったのであろうか。何故か恐ろしく、自体が掴めない。
────一夜にして、蓬田家が没落した────
彼らの会話を聞いて、足元から地面ごと崩れ、落ちゆくような感覚を覚えた。唖然として自体が、つかめなかったのだ。それから、絶望が襲うまでの時間は長かった。
絶望を覚え始め、わたしの目から涙が滲み出る。
これから、どうすれば良いのだろうか。
わたしたちは、霧島財閥の事務所で働くことになった。
ここでも、わたしは無視された。経営者は、凍てつくような性格だった。
なぜ、わたしはどこでも無視されるのだろうか。
そういへば、どうやってこの事務所に就職したのだろうか。彼とは話したことが無いはずなのに、どうして入れたのだろうか。
考えてみても、記憶がぼやけて分からない。過去の記憶をたどってみても、断片的にしかわたしの軌跡は無い。
なぜなのだろう。
考えてみても分からない。
わたしは、本当にここにいるのだろうか。
生きているのだろうか。自分の存在すら疑ってしまう。
もしかすれば、わたしは虚像なのだろうか。
────二重人格
その言葉が頭によぎる。わたしは鶫実の虚像────。
全てが繋がった。わたしは居ないのだろうか。
確信は持てぬが、そう考えれば合点がゆく。
わたしは、虚像。わたしはいない。
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