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《┈第四部┈》第一章
《里紗》
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ヒタヒタ、ヒタ、ヒタ
今日も訃報が増えているのかと憂慮しながら、わたしは廊下を歩いていた。
オフィスの扉を開けようと、ふと、目線を上げた。
わたしの目が捉えたのは、人だかりだった。
扉を開けるのを辞め、そちらに向かう。彼らがみているのは、掲示板だった。わたしは人が死んだのではなさそうだと思った。人が死んでももはや反応もしなくなった人々が、訃報に集るはずは無い。
わたしはなにか他の理由があるのだと思い近くにいた社員に尋ねる。
彼の顔がくもった。そしてしばらくの間の後、掲示板にはられた一枚の紙を指さす。
そこには、社長の訃報が書かれていた。思いもよらぬ内容にわたしは唖然とする。気がつくと隣に葉月がいた。
彼女は確かに笑んでいる。笑う場面では明らかにないのに彼女は一瞬笑んでいた。わたしは違和感を覚えながらも、思考を巡らせる。
社長の死は、人々の死に埋もれることは無い。だが、それは悲しみを産むのではなく、不安を産んだ。社長がいなければ、会社の存続も危うい。そんなことがあれば、わたしたちの暮らしは困窮する。しんぞうが、鼓動していた。わたしは自分も呆然とする中、混乱を抑えようと声を上げる。だがそれは人々の耳に届かず、ざわめきは続いた。
一週間がたち、空いた社長の座は、副社長が埋めることが、わたしに伝えられた。
人々は、すぐに日常を取り戻した。倒産の危機を乗り越えたからだ。
社長の死は、わたし達にとって、ただの日常の一コマに過ぎなかったのだ。
だが、一難が去り、また一難────。新社長がわたしのオフィスにやって来た。
彼は、無慈悲にわたしたちに絶望をつきつける。
「会議により、浦町ニュータウン支店は、撤退が決まりました」
喉が上下する音か、部屋に響いた。
「わたしたちはどうなるんですか?」
「解雇するんじゃないか……」
人々の囁きの中に、抗議する声が上がった。社長が宥めるも、もはや効き目もなく、夜まで議論が続いた。
しかし、わたしたちの抵抗も虚しく、三月の撤退が決まった。そしてわたしは隣町の支店に移動が決まった。
給料の下落への不安と同時にこの街から出られるという希望を感じた。
翌日、わたしは昨日のことを気にしながらも、いつもどおり出勤した。
「里紗さん。」
後ろから声がかかる。振り返ると、葉月だった。はづきは目が合うとすぐに口を開く。
「この街は危ないです。早く逃げた方がいいですよ。」
わたしは彼女の言い分が一理あると思った。だが、町境にも危険が潜むと言う。わたしは、三月まで待ち、他の社員と街を出ることにした。
気づけば、葉月は、もう目の前にはいず、別の社員に声をかけて回っていた。
今日も訃報が増えているのかと憂慮しながら、わたしは廊下を歩いていた。
オフィスの扉を開けようと、ふと、目線を上げた。
わたしの目が捉えたのは、人だかりだった。
扉を開けるのを辞め、そちらに向かう。彼らがみているのは、掲示板だった。わたしは人が死んだのではなさそうだと思った。人が死んでももはや反応もしなくなった人々が、訃報に集るはずは無い。
わたしはなにか他の理由があるのだと思い近くにいた社員に尋ねる。
彼の顔がくもった。そしてしばらくの間の後、掲示板にはられた一枚の紙を指さす。
そこには、社長の訃報が書かれていた。思いもよらぬ内容にわたしは唖然とする。気がつくと隣に葉月がいた。
彼女は確かに笑んでいる。笑う場面では明らかにないのに彼女は一瞬笑んでいた。わたしは違和感を覚えながらも、思考を巡らせる。
社長の死は、人々の死に埋もれることは無い。だが、それは悲しみを産むのではなく、不安を産んだ。社長がいなければ、会社の存続も危うい。そんなことがあれば、わたしたちの暮らしは困窮する。しんぞうが、鼓動していた。わたしは自分も呆然とする中、混乱を抑えようと声を上げる。だがそれは人々の耳に届かず、ざわめきは続いた。
一週間がたち、空いた社長の座は、副社長が埋めることが、わたしに伝えられた。
人々は、すぐに日常を取り戻した。倒産の危機を乗り越えたからだ。
社長の死は、わたし達にとって、ただの日常の一コマに過ぎなかったのだ。
だが、一難が去り、また一難────。新社長がわたしのオフィスにやって来た。
彼は、無慈悲にわたしたちに絶望をつきつける。
「会議により、浦町ニュータウン支店は、撤退が決まりました」
喉が上下する音か、部屋に響いた。
「わたしたちはどうなるんですか?」
「解雇するんじゃないか……」
人々の囁きの中に、抗議する声が上がった。社長が宥めるも、もはや効き目もなく、夜まで議論が続いた。
しかし、わたしたちの抵抗も虚しく、三月の撤退が決まった。そしてわたしは隣町の支店に移動が決まった。
給料の下落への不安と同時にこの街から出られるという希望を感じた。
翌日、わたしは昨日のことを気にしながらも、いつもどおり出勤した。
「里紗さん。」
後ろから声がかかる。振り返ると、葉月だった。はづきは目が合うとすぐに口を開く。
「この街は危ないです。早く逃げた方がいいですよ。」
わたしは彼女の言い分が一理あると思った。だが、町境にも危険が潜むと言う。わたしは、三月まで待ち、他の社員と街を出ることにした。
気づけば、葉月は、もう目の前にはいず、別の社員に声をかけて回っていた。
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