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《┈第四部┈》第一章
《鶫実》
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会社に向かい、いつも通り訃報を確認する。
社長の死の際、わたしは恐怖を煽った。その効果で、二十人ほどの犠牲は出せたが、それから死者数は伸び悩んでいた。
わたしの吹き込んだ恐怖で出ていかない人は、相当に臆病だ。彼らは、三月に大勢で出てゆこうとしている。
それでも彼らに死は待ち受ける。だがそれでは満足が行かなかった。そうなれば、同時に大人数が死ぬ。すると暗闇でも彼らは一緒だ。
わたしのつくった暗闇の欠点は入口が一箇所しかないということだ。
時間差にすれば、皆は歩いて、離れ離れになる。だが、どう時間では、居合わせて、永遠に行動を共にするだろう。それでは、孤独を感じさせられない。
また、大勢が集まれば、わたしの進退すら危うい。
やはり、一人ずつ仕留めなくては。
憑依でおかしくなり、もうすぐ死ぬだろう人はいるが、待っていては時間が来てしまう。
しかし、よく見てみると、そこには部長の名前があった。わたしはハッとする。
その報せは、わたしにとって、予想外の喜びであった。
もしかすると、わたしが部長になれるかもしれない。そうすれば、より多くの人に簡単に街から出せるかもしれない。
三月に、大人数が町から出るのは避けられない。だが、その勢力を少しでも抑えなくてはならない。
つまりそれまでに、会社の人口を減らさなくてはならないということだ。
わたしは、顔を悲しみにゆがめ、みなに部長の死を告げる。そして、部長の死を悼む言葉を述べた。
そして、わたしは必死で根回しの企画書を作成した。入社したばかりのため、不安はある。だが皆はこの怪異に意欲をなくしている。この会社でいちばん態度の良いのはわたしだ。
翌週。予定通り、わたしが部長の座を引き継ぐことが決まった。
周りの人間は、わたしが唯一感情を失わず、悲しんでいると思い込んでいる。皆は、わたしが、部長の遺志を継いで、会社のために尽くすと信じている。
そのさまが滑稽で、自然にえみが溢れ出た。
彼らは、わたしが、善良な人間だと思っている。
おかしくて、仕方がない。
彼らがわたしの心の奥底に潜む、黒い欲望を知らぬのは当然だ。だが、わたしは彼らを嘲笑った。
わたしは、部長就任の翌日、皆の前に出て口を開く。
「この街は危険です。死者が多数出ています。ウイルスか何かかも知れません。逃げてください」
矢継ぎ早に言葉を連ねると、わたしは席に戻った。
逃げるのを躊躇していた人々も、恐慌状態に陥り、我先にと、街を後にする。彼らは疫病から逃れるように、必死に、そして無秩序に、街を出て行った。
翌日、磁石で抑えきれなくなった紙の山に、彼らの名前が積もった。
残り少ない社員に、わたしはそれを告げる。
社長の死の際、わたしは恐怖を煽った。その効果で、二十人ほどの犠牲は出せたが、それから死者数は伸び悩んでいた。
わたしの吹き込んだ恐怖で出ていかない人は、相当に臆病だ。彼らは、三月に大勢で出てゆこうとしている。
それでも彼らに死は待ち受ける。だがそれでは満足が行かなかった。そうなれば、同時に大人数が死ぬ。すると暗闇でも彼らは一緒だ。
わたしのつくった暗闇の欠点は入口が一箇所しかないということだ。
時間差にすれば、皆は歩いて、離れ離れになる。だが、どう時間では、居合わせて、永遠に行動を共にするだろう。それでは、孤独を感じさせられない。
また、大勢が集まれば、わたしの進退すら危うい。
やはり、一人ずつ仕留めなくては。
憑依でおかしくなり、もうすぐ死ぬだろう人はいるが、待っていては時間が来てしまう。
しかし、よく見てみると、そこには部長の名前があった。わたしはハッとする。
その報せは、わたしにとって、予想外の喜びであった。
もしかすると、わたしが部長になれるかもしれない。そうすれば、より多くの人に簡単に街から出せるかもしれない。
三月に、大人数が町から出るのは避けられない。だが、その勢力を少しでも抑えなくてはならない。
つまりそれまでに、会社の人口を減らさなくてはならないということだ。
わたしは、顔を悲しみにゆがめ、みなに部長の死を告げる。そして、部長の死を悼む言葉を述べた。
そして、わたしは必死で根回しの企画書を作成した。入社したばかりのため、不安はある。だが皆はこの怪異に意欲をなくしている。この会社でいちばん態度の良いのはわたしだ。
翌週。予定通り、わたしが部長の座を引き継ぐことが決まった。
周りの人間は、わたしが唯一感情を失わず、悲しんでいると思い込んでいる。皆は、わたしが、部長の遺志を継いで、会社のために尽くすと信じている。
そのさまが滑稽で、自然にえみが溢れ出た。
彼らは、わたしが、善良な人間だと思っている。
おかしくて、仕方がない。
彼らがわたしの心の奥底に潜む、黒い欲望を知らぬのは当然だ。だが、わたしは彼らを嘲笑った。
わたしは、部長就任の翌日、皆の前に出て口を開く。
「この街は危険です。死者が多数出ています。ウイルスか何かかも知れません。逃げてください」
矢継ぎ早に言葉を連ねると、わたしは席に戻った。
逃げるのを躊躇していた人々も、恐慌状態に陥り、我先にと、街を後にする。彼らは疫病から逃れるように、必死に、そして無秩序に、街を出て行った。
翌日、磁石で抑えきれなくなった紙の山に、彼らの名前が積もった。
残り少ない社員に、わたしはそれを告げる。
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