浦町ニュータウン～血塗られた怪異～

《┈第四部┈》第五章

《鶫実》

薄暗い部屋に、朝の光が静かに差し込む。
アパートの部屋は、全て同様の作りだ。葉月の部屋も、里紗の部屋も、全くおなじなため、本当にりさの体を手にしているかと、急に不安が襲う。
小物類を確かめ、わたしは安堵した。
重い体を起こし、ベッドから抜け出す。目覚めてから、わたしの心は、楽しみという気持ちでいっぱいであった。今日は、わたしの絶望を、人々が味わう日だ。
十人の社員は、一体暗闇でどう逃げ惑うだろうか。その様子は、わたしの傷を癒す薬となるだろう。わたしは、ニヤリとえんだ。
服を着替えると、わたしは、部屋を出た。
会社へと向かう道には、まだ新しいのに、死の気配が漂っている。それは、当たり前なのだ。この街は、ただの、わたしの復讐の舞台なのだ。
決して安息を与えない。
家族や友人を失った喪失感という心の穴を絶望で満たす。永遠に救済を与えない。

薄暗い曇り空の下、会社の前に一台のバス滑り込んできた。それは、この街から逃れるための、最後の希望の光のように、人々の目に映った。
十人の人々が、バスの到着を待ちわびていた。彼らの表情には、長年の苦しみから解放される安堵と、新たな生活への期待が入り混じっていた。まるで、重い鎖から解き放たれ、自由を掴み取った者のような、表情であった。
ぽつりぽつりと雨が降り始める。人々はそれすら気にせず、ただ絶望から逃れる時を待つ。
彼らは、言葉を発することなく、静かにバスへと乗り込んだ。
この街での記憶を、二度と思い出したくないとでもいうように、急ぎ足で、バスのステップを昇る。
人々は、適当な席に座ると、安堵のため息を漏らした。
バスのエンジンが、静かに唸りを上げる。
早く、早くと、皆が胸の中で唱えていることが、手に取るようにわかる。
この短い間ですら、もどかしく感じているであろう。
ただ一人わたしは、冷静に出発を待つ。
バスは、ゆっくりと動き出した。
彼らは、窓の外を、じっと見つめていた。そこには、嘲笑うような、建物の影が、伸びていた。
皆が、過去との決別を告げているようだった。

─────鉄と硝子の壁が連なるビル街が、灰色の残像を残して遠ざかっていく。代わりに、低い屋根の家々が、波のように、窓の外に広がっていく。
町境が少しずつ近づくたび人々は、息を飲んでその時をまちかまえていた。
絶望は、もう少しで終わり、希望が訪れる。そう思っている。
わたしも、その時を待ち構えていた。
しかしわたしは、絶望が、より深みをましてゆくことを、待っていたのであった。