浦町ニュータウン~血塗られた怪異~

如月 幽吏

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《┈第四部┈》第五章

《鶫実》

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町境が、目前に迫る。
それは、彼らにとってこの街を覆う、死と絶望からの、解放を意味していた。
人々の心は、固く閉ざされていた扉が、一斉に開かれたかのように、パァーっと明るくなってゆく。
長年の苦しみから解放された─────希望をようやく掴みとったという歓喜の叫びが、車内に溢れた。
彼らの瞳は、曇り空に差し込む光のように、輝きを取り戻し、未来への希望を映し出している。
だが、人々の目とは裏腹に、空は、大雨となっていた。雲もさらに重たく、暗く沈む。人々は雨天を気にすることも無く、町境に到着するのを、心待ちにしている。
台風の目の中にいる彼らを、わたしは嘲笑した。
がたん、と車体がゆれ、停止した。町境に着いたのだ。わたしは里紗を、もう一度絶望に突き落とそうと思い、その場で体を里紗に返した。体を失っても、しばらくはその場に留まることが出来る。わたしはこの絶望の場を、見なくてはならないため、少し留まることにした。
人々は、未だに知らない。
彼らが、どこへ行こうとも、死から逃れることはできないことを─────。だが、これから、それを知るのだ。わたしは、嬉しくて、高揚感を覚えた。

ぐぅゔ


町境に足を踏み入れた瞬間、彼らの顔は歪み、喉からは悲鳴とも呻きともつかない音が次々に、漏れ出した。
瞳は恐怖で大きく見開かれ、虚空を掴もうと必死に手を伸ばしている。
体のどこからとなく、血が溢れ出す。

腕が、足が、胴が、顔が、耳が、目が、鼻が、口が、血塗られ赤く染った。
操り人形のように不自然に体を捩らせる。
彼らは血塗られた両手で自らの体を掻きむしり、肉を引き裂き、骨を砕く。

その狂気の行動は、死の恐怖に抗う最後の抵抗なのか、それとも死の苦しみによる衝動なのか。
やがて彼らは力尽き、血だまりの中に倒れ伏す。その体はもはや原型をとどめておらず、ただの肉塊と化している。
彼らの死を、わたしは歪んだ笑みを浮かべながら見つめている。
皆の噂のとおり、全員が変死を遂げた。噂は、真実だったのだ─────。

そっとわたしは、暗闇に意識を戻した。
十人の社員が、混乱するように立ち尽くしている。
一人の女が歩き出す。
それを皮切りに、人々は、それぞれの方向にさまよい始める。やがて遠ざかり、彼らは消えた。
わたしは安堵し、街に戻ろうとする。
「あの……」
声がかかる。ふと見ると、一人の女が立っていた。彼女は、わたしと目が合うと、再び口を開く。
「昭和二年より前のここのこと、知ってますか。」
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