処刑された悪役令嬢に転生したら、ドMの変態令嬢たちに困らされています。

もちもちのごはん

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第九話 揺らぎ

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「セシリア、最近……少し、優しくなりましたわね」

 その言葉に、セシリアは手元の記録用ノートを一瞬止めた。

 ここは、美術棟のアトリエ。
 芸術と記録の融合を目指す、「共同変態百合制作ユニット」の拠点。

 ロゼット・ミューザンとセシリア・アルジェント。
 ひとりは罵倒を芸術として昇華する変態令嬢。
 ひとりは観察と記録を愛とする偏執ストーカー。
 性癖の方向は違えど、「オルフェリア様への執着」という一点で完全に共鳴していた――つい昨日までは。

「優しく、ですか?」

「ええ。オルフェリア様と一緒に過ごすなんて、以前のあなたからは想像できませんでしたわ」

「……記録だけが、愛の形ではないと……気づかされましたの」

 ロゼットは、絵筆を止めた。

「……なるほど。気づかされたのですね。オルフェリア様に」

 その口調には、とても微かな棘があった。 



 セシリアはかつて、オルフェリアを記録することでしか愛せなかった。
 だが、あの微笑みを見てしまってから――彼女は変わった。
 ノートを閉じる日が増えた。
 一緒にティータイムを過ごす回数が増えた。

 だがその変化を、ロゼットはすぐに察知していた。

(観察者が、観察を放棄するなんて……)

 違う。
 そうじゃなかったはず。

 二人は、オルフェリア様という女神を、それぞれのやり方で美として奉る同志だった。
 けれど今のセシリアは、信者ではなく恋人のような顔をしていた。
 それが、なんとなく……居心地が悪い。

「セシリア。最近、あなたの記録に、データの揺らぎが多いのでは?」

「ええ、それは……ご本人が、以前よりずっと自然な表情を見せてくださるようになったからですわ」

「……つまり、予測不能になったということですの?」

「そう。面白いでしょう?」

 セシリアは、少し笑った。

 そして、その笑顔を――ロゼットは初めて、理解できなかった。



 アトリエの隅に飾られた一枚の絵。
 オルフェリア様がこちらを見下ろす、鋭い眼差しの肖像画。
 その視線を受けて、ロゼットはふと、自分の胸にぽつりと湧いた感情に気づく。

(……わたくしだけ、取り残されているのかしら)

 なぜだろう、心の奥が少し、ざらりと寂しかった。
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