魔王に花嫁として召喚されたけど、即効で破棄されました。……なのに今さら惚れられても遅いんですけど!?

もちもちのごはん

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第3話 はじめての魔王城生活!

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「すみません、これ……どこから手をつけたらいいと思います?」

 私は途方に暮れていた。

 目の前にあるのは、広すぎる厨房。そして積み上がる謎の食材たち。
 異世界の魔王城の厨房――それは私の想像を遥かに超える、混沌の空間だった。

「左側が野菜庫、右が肉庫、奥は……保存魔法で封印されている長期保管用の倉庫です」

 レオナルトさんが丁寧に説明してくれるのだけど、正直言ってどこからどう見てもカオスだ。

 まず野菜がデカい。キャベツ一玉がスイカサイズってどういうこと?
 そして肉が赤黒い。まるでモンスターの切り身みたい。ていうか、たぶん実際そう。

「これ、私、調理しなきゃダメですか?」

「はい。陛下の命により『聖女としての資質を示すため、自ら考えて行動せよ』とのことです」

「ずいぶん雑な指示だな……」

 でもまあ、確かに試されてるんだと思う。聖女として、人として。

 私にできることって、いきなり回復魔法とか言われても無理だし――でも、料理なら、まだワンチャンある。

「よし、やってやろうじゃないの」



 その日の午後、私は厨房の片隅で、戦っていた。
 いや、物理的な意味で。

「だからなんでこの鶏っぽいやつ、羽まで生きてるのー!?」

 異世界チキン、まさかの自衛機能搭載。包丁を振るたびに反撃してくる。涙出そう。
 それでもなんとかさばき終えて、私はようやくひと息ついた。

 久しぶりに包丁を握ったせいで、手が少し震えてる。けど、頭の中は妙に冴えていた。

 この世界の食材の扱い方。加熱の方法。味付けの調整。全然わからないことばかりだけど、それでも――。

「誰かのために作るって、やっぱり好きかもしれないな……」

 働き始めてからは料理なんてほとんどできなかった。忙しくて、コンビニ弁当かカップ麺ばかり。
 でも、学生時代は好きだった。誰かに食べてもらって「美味しい」って笑ってもらえるのが、すごく嬉しかった。

 この世界で、それをもう一度できるかもしれないなら――やってみたい。



 そして夕方、私はいよいよ彼らと対面することになった。

「聖女さまだ……!」
「ほんとに来たんだ……!」

 集まったのは、十歳前後の魔族の子どもたち。角や翼がついている子もいれば、肌の色が淡い青だったり、目が金色に輝いていたりと、みんな見た目がバラバラだ。

 でも、ひとつだけ共通しているのは――みんな、どこか怯えていた。
 その理由は、レオナルトさんが説明してくれた。

「彼らは、戦争で親を失い、魔王陛下に保護された子どもたちです」

 そうか。この世界、今は和平交渉中だけど、つい最近まで戦争してたんだよね。

「わたしが作った料理……よかったら、この子たちに食べてもらいたくて」

「……それは、きっと喜びます」

 最初の空気はちょっとピリついていた。
 子どもたちは私のことを聖女と呼びながらも、どこか疑っている。拒絶とまではいかないけど、壁がある感じ。

 私はゆっくり腰を落とし、子どもたちの目線に合わせた。

「こんにちは。私の名前は神楽いちかっていいます。今日はね、みんなに食べてほしいごはんを作ってきました」

 そう言って、私は持参した大きな籠を開けた。
 中にあるのは、手製のシチューと、焼きたてのパン。形はちょっと不格好かもしれない。でも味には自信があった。

「この世界の食材で作ったから、初めての味かもしれないけど……良かったら、食べてみて?」

 少しの沈黙の後――一人の男の子が、おそるおそるパンを手に取った。

 ぱくっ。
 もぐもぐ。

「……おいしい」

 ぽつりと漏れたその声に、他の子どもたちがわらわらと集まり始める。

「ぼくも!」
「それなに? ちょうだい!」

 気がつけば、そこには笑い声が広がっていた。
 私はただ、黙ってそれを見ていた。心が、じんわりと温かくなっていくのを感じながら。



 その夜。

「ふむ。子どもたちが笑っていたと?」

 魔王ルシフェルは、いつも通り無表情で言った。

「うん。あの子たち、みんな最初は警戒してたけど、ちゃんと食べてくれて……すごく、嬉しかった」

「……そうか」

 彼の声が、少しだけ柔らかくなった気がしたのは、気のせいじゃないと思う。

「で? これで滞在、認めてくれますか?」

「……ああ。どうやら、ここに居させる理由ができたようだな」

「ありがとう。……ちょっとだけ、ほっとした」

「礼は要らん」

 でも、彼の目は私をじっと見ていた。まるで、値踏みするように。だけど――ほんの少しだけ、その奥にある感情が読み取れた気がした。
 興味。警戒。少しの驚き。

「俺はお前を妻として迎えるつもりはない。それは変わらん」

「うん、知ってる」

「だが――お前が、この城に必要な存在であるならば、話は別だ」

 その言葉に、ちょっとだけ、胸があつくなった。
 私は、ここに居てもいいんだ。
 ここから、私の魔王城生活が始まる。
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