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第二話 嘲笑と沈黙
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「おーっほっほっほ! 皆さま、ご安心なさって!」
次の朝、王宮の噴水広場。
白い大理石の上に立つ少女は、ひときわ高い声で笑っていた。
アリステリア=フォン=ディオナ嬢。
セレフィア王国きっての名門侯爵家の令嬢。
そして、王太子レオンハルトの新しい婚約者。
ふわふわの金髪に、真紅のドレス。
首元には宝石をこれでもかと並べ、絵に描いたような「華」を振り撒いている。
「昨日の一件で、王家はますます未来に向けて強化されましたのよ。ねぇ、皆さまもそう思いませんこと?」
取り巻きの令嬢たちが、お決まりのように笑いを返す。
「当然ですわ!」
「クラリス嬢はおとなしくて真面目だけれど、あれでは華が……」
「やっぱり王妃にはアリステリアさまよね!」
そんな中、ひとりだけ、静かに紅茶を啜る姿があった。
クラリス=ルミエール。
白い日傘を傍らに置き、青みがかったティーカップを両手で包み込む。
表情に動きはなく、唇の端にも笑みはない。
ただ、目が笑っていた。
観察するように、透かすように。
まるで獲物の動きを測る鷹のように──。
「……あら。クラリスさま、まだ王宮に?」
アリステリアがこちらに歩み寄る。
わざとらしい笑顔を浮かべながら、その視線には明確な「優越感」があった。
「本日中にご実家へお戻りになるのかとばかり」
「はい、午前中には」
クラリスはカップを置き、柔らかく微笑んだ。
「本日が『正式なご挨拶』の日であると伺っておりますので、邪魔にならぬうちに」
その一言で、アリステリアの眉がぴくりと動いた。
「……そうですわね。では、せいぜい礼儀を欠かぬよう、お気をつけあそばせ?」
笑ってはいるが、その目に浮かぶのは確かに苛立ちだった。
アリステリアの「完璧なはず」の立場を、クラリスは一切否定せず、反論もせず、ただ微笑みで崩していく。
笑顔こそが、最大の武器であることを、彼女はよく知っていた。
(自分が勝ったと思っている人間は、勝者の座を他人に誇示せずにはいられないもの)
クラリスは目を伏せたまま、再びティーカップを持ち上げる。
残された時間はわずかだった。
この国を出る前に、いくつか「確認」しておくべきことがある。
そのために、彼女は今日まで王宮にとどまったのだ。
その夜、クラリスは静かに筆を走らせる。
【対象】アリステリア=フォン=ディオナ
【行為】王宮広場にて嘲笑交じりのマウント発言多数
【結果】王族礼儀の初歩すら怪しいとの噂、侍女に無礼で貴族たち困惑中
【現状】ざまぁ発動準備中
【一言】宝石より先に、言葉遣いを磨くべきですわね
クラリスは微笑んだ。
その笑顔は、今朝のものより少しだけ柔らかかった。
次の朝、王宮の噴水広場。
白い大理石の上に立つ少女は、ひときわ高い声で笑っていた。
アリステリア=フォン=ディオナ嬢。
セレフィア王国きっての名門侯爵家の令嬢。
そして、王太子レオンハルトの新しい婚約者。
ふわふわの金髪に、真紅のドレス。
首元には宝石をこれでもかと並べ、絵に描いたような「華」を振り撒いている。
「昨日の一件で、王家はますます未来に向けて強化されましたのよ。ねぇ、皆さまもそう思いませんこと?」
取り巻きの令嬢たちが、お決まりのように笑いを返す。
「当然ですわ!」
「クラリス嬢はおとなしくて真面目だけれど、あれでは華が……」
「やっぱり王妃にはアリステリアさまよね!」
そんな中、ひとりだけ、静かに紅茶を啜る姿があった。
クラリス=ルミエール。
白い日傘を傍らに置き、青みがかったティーカップを両手で包み込む。
表情に動きはなく、唇の端にも笑みはない。
ただ、目が笑っていた。
観察するように、透かすように。
まるで獲物の動きを測る鷹のように──。
「……あら。クラリスさま、まだ王宮に?」
アリステリアがこちらに歩み寄る。
わざとらしい笑顔を浮かべながら、その視線には明確な「優越感」があった。
「本日中にご実家へお戻りになるのかとばかり」
「はい、午前中には」
クラリスはカップを置き、柔らかく微笑んだ。
「本日が『正式なご挨拶』の日であると伺っておりますので、邪魔にならぬうちに」
その一言で、アリステリアの眉がぴくりと動いた。
「……そうですわね。では、せいぜい礼儀を欠かぬよう、お気をつけあそばせ?」
笑ってはいるが、その目に浮かぶのは確かに苛立ちだった。
アリステリアの「完璧なはず」の立場を、クラリスは一切否定せず、反論もせず、ただ微笑みで崩していく。
笑顔こそが、最大の武器であることを、彼女はよく知っていた。
(自分が勝ったと思っている人間は、勝者の座を他人に誇示せずにはいられないもの)
クラリスは目を伏せたまま、再びティーカップを持ち上げる。
残された時間はわずかだった。
この国を出る前に、いくつか「確認」しておくべきことがある。
そのために、彼女は今日まで王宮にとどまったのだ。
その夜、クラリスは静かに筆を走らせる。
【対象】アリステリア=フォン=ディオナ
【行為】王宮広場にて嘲笑交じりのマウント発言多数
【結果】王族礼儀の初歩すら怪しいとの噂、侍女に無礼で貴族たち困惑中
【現状】ざまぁ発動準備中
【一言】宝石より先に、言葉遣いを磨くべきですわね
クラリスは微笑んだ。
その笑顔は、今朝のものより少しだけ柔らかかった。
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