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第五話 聖女の素質
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「……これは、何ですの?」
クラリスは眉ひとつ動かさずに尋ねた。
目の前の光景が、あまりにも現実離れしていたからだ。
王宮の裏庭。
アグナリアの魔術師たちが組んだ魔法陣の中心に、クラリスは立たされていた。
ユリウスの提案で行われた「波動」の検証。
名目はあくまで「外交的な友好の一環」であるが──。
地面に描かれた魔法紋が、青白く脈動する。
風が渦を巻き、光がクラリスの周囲に集まり始めた。
ふわり。
スカートの裾が風に舞い、金の髪が光に溶け込むように揺れた。
「……『共鳴反応』、確認。間違いありません」
魔術師の一人が、目を見開いて呟く。
「クラリス=ルミエール嬢の内に、『聖なる波動』が顕在化しています。高位……いえ、これは……聖女級の適性です」
その場がざわめく。
けれど、クラリスだけは、静かに立っていた。
「……まさか、本当にあったなんて」
「ずっと眠っていたんだ。この国では、その力に誰も気づけなかった」
ユリウスの言葉に、クラリスはゆっくりと目を伏せる。
伯爵令嬢という中途半端な立場。
目立たない見た目。
そして、王太子の婚約者という「便利な駒」。
──王妃にするには地味。
けれど、切り捨てるには惜しい。
そんな曖昧な評価が、彼女のすべてを覆っていた。
「クラリス嬢」
ユリウスが一歩、彼女に近づく。
その声は、冬の光のように澄んでいた。
「あなたの力は本物です。そして私は、それを知ってしまった以上……あなたを手放すつもりはありません」
クラリスの瞳が、ほんの少しだけ揺れた。
「私はあなたを、聖女として、そしてひとりの人間として、あなたを迎えたい」
──「利用したい」ではなく、「迎えたい」。
それがどれほど違う響きなのかを、クラリスはよく理解していた。
夜、クラリスは再び、ノートを開く。
【対象】セレフィア王国宮廷医局
【行為】「聖女の素質はない」と断言
【結果】異国の魔術師により、王家の無能さを露呈
【現状】ざまぁ発動進行中
【一言】素質がないのは貴方がたの方でしたわね
クラリスはふ、と小さく笑った。
静かに、そして確かに。
自分の「存在」が塗り替えられていくのを、感じていた。
クラリスは眉ひとつ動かさずに尋ねた。
目の前の光景が、あまりにも現実離れしていたからだ。
王宮の裏庭。
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名目はあくまで「外交的な友好の一環」であるが──。
地面に描かれた魔法紋が、青白く脈動する。
風が渦を巻き、光がクラリスの周囲に集まり始めた。
ふわり。
スカートの裾が風に舞い、金の髪が光に溶け込むように揺れた。
「……『共鳴反応』、確認。間違いありません」
魔術師の一人が、目を見開いて呟く。
「クラリス=ルミエール嬢の内に、『聖なる波動』が顕在化しています。高位……いえ、これは……聖女級の適性です」
その場がざわめく。
けれど、クラリスだけは、静かに立っていた。
「……まさか、本当にあったなんて」
「ずっと眠っていたんだ。この国では、その力に誰も気づけなかった」
ユリウスの言葉に、クラリスはゆっくりと目を伏せる。
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目立たない見た目。
そして、王太子の婚約者という「便利な駒」。
──王妃にするには地味。
けれど、切り捨てるには惜しい。
そんな曖昧な評価が、彼女のすべてを覆っていた。
「クラリス嬢」
ユリウスが一歩、彼女に近づく。
その声は、冬の光のように澄んでいた。
「あなたの力は本物です。そして私は、それを知ってしまった以上……あなたを手放すつもりはありません」
クラリスの瞳が、ほんの少しだけ揺れた。
「私はあなたを、聖女として、そしてひとりの人間として、あなたを迎えたい」
──「利用したい」ではなく、「迎えたい」。
それがどれほど違う響きなのかを、クラリスはよく理解していた。
夜、クラリスは再び、ノートを開く。
【対象】セレフィア王国宮廷医局
【行為】「聖女の素質はない」と断言
【結果】異国の魔術師により、王家の無能さを露呈
【現状】ざまぁ発動進行中
【一言】素質がないのは貴方がたの方でしたわね
クラリスはふ、と小さく笑った。
静かに、そして確かに。
自分の「存在」が塗り替えられていくのを、感じていた。
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