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第十話 溺愛のその先へ
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荘厳なファンファーレが、空高く響き渡る。
アグナリア王国の王城、その大広間。
王族、貴族、そして各国の使節たちが見守る中──。
一人の少女が、ゆっくりと歩を進めていた。
クラリス=ルミエール。
淡い銀青のドレスに身を包み、光のヴェールを纏ったその姿は、まさに「聖女」そのものだった。
「クラリス=ルミエール。あなたを、アグナリア王国の王子妃として迎えよう」
玉座の前で、王が厳かに宣言する。
「その聡明さ、気高さ、そして他者を見捨てぬ強き心を、我が王家の誇りとする」
クラリスは一礼した。
その所作に、場の空気が一瞬で変わる。
──誰もが理解したのだ。
彼女は本物だ、と。
式典のあとの祝宴で、ユリウスがそっとクラリスの手を取った。
「お疲れさまでした、クラリス」
「ええ。……とても、長い一日でした」
彼女は笑った。どこか安堵したように、自然に。
ふたりで静かなバルコニーに立つ。
城下の光が遠くにまたたき、まるで星々が街に降りてきたようだった。
「こうして、あなたの隣に立てる日が来るなんて……昔の私が知ったら、驚くでしょうね」
「その『昔のあなた』にも、私は会ってみたかった。けれど──」
ユリウスはそっとクラリスの頬に手を添えた。
「今、私の隣にいるこのあなたが、いちばん素敵だ」
「……殿下は本当に、甘いお言葉がお得意ですのね」
「あなたが愛されることに慣れていないだけですよ」
そのまま、指先でクラリスの手の甲に口づける。
まるで契約の証のように、慎ましく、けれど確かに。
クラリスの頬に、淡い紅がさした。
「……では、これから学ばせていただきます。殿下の『愛』というものを」
「ええ、どうかたっぷりと。そして遠慮なく、返してください」
ふたりは見つめ合い、微笑んだ。
その瞬間、世界は確かにふたりを祝福していた。
夜、クラリスはふと書斎に戻り、例のノートを手に取った。
「ざまぁリスト」。
幾多の皮肉と記録を刻んできたそのノートの最終ページに、彼女は静かに記す。
【対象】クラリス=ルミエール
【行為】婚約破棄・見下され・利用され、それでも黙って耐えてきた
【結果】王子妃として迎えられ、愛され、信じられ、選んだ人生へ
【現状】ざまぁ超え達成✔
【一言】最も美しいざまぁとは、「幸せになってしまう」ことでしたのね
カリッと、最後のチェックマークがつけられた。
その瞬間、クラリスはノートを閉じた。
もう過去を振り返る必要はない。これから「未来」を生きるために。
──私は選ばれたのではない。
私が、自分でこの道を選んだのだ。
新しい人生の扉が、確かに開かれた音がした。
「聖女」と「氷の王子」の物語は、静かに、しかし確かに始まっていく。
ざまぁの先に待っていたのは──愛と、自由と、幸福だった。
アグナリア王国の王城、その大広間。
王族、貴族、そして各国の使節たちが見守る中──。
一人の少女が、ゆっくりと歩を進めていた。
クラリス=ルミエール。
淡い銀青のドレスに身を包み、光のヴェールを纏ったその姿は、まさに「聖女」そのものだった。
「クラリス=ルミエール。あなたを、アグナリア王国の王子妃として迎えよう」
玉座の前で、王が厳かに宣言する。
「その聡明さ、気高さ、そして他者を見捨てぬ強き心を、我が王家の誇りとする」
クラリスは一礼した。
その所作に、場の空気が一瞬で変わる。
──誰もが理解したのだ。
彼女は本物だ、と。
式典のあとの祝宴で、ユリウスがそっとクラリスの手を取った。
「お疲れさまでした、クラリス」
「ええ。……とても、長い一日でした」
彼女は笑った。どこか安堵したように、自然に。
ふたりで静かなバルコニーに立つ。
城下の光が遠くにまたたき、まるで星々が街に降りてきたようだった。
「こうして、あなたの隣に立てる日が来るなんて……昔の私が知ったら、驚くでしょうね」
「その『昔のあなた』にも、私は会ってみたかった。けれど──」
ユリウスはそっとクラリスの頬に手を添えた。
「今、私の隣にいるこのあなたが、いちばん素敵だ」
「……殿下は本当に、甘いお言葉がお得意ですのね」
「あなたが愛されることに慣れていないだけですよ」
そのまま、指先でクラリスの手の甲に口づける。
まるで契約の証のように、慎ましく、けれど確かに。
クラリスの頬に、淡い紅がさした。
「……では、これから学ばせていただきます。殿下の『愛』というものを」
「ええ、どうかたっぷりと。そして遠慮なく、返してください」
ふたりは見つめ合い、微笑んだ。
その瞬間、世界は確かにふたりを祝福していた。
夜、クラリスはふと書斎に戻り、例のノートを手に取った。
「ざまぁリスト」。
幾多の皮肉と記録を刻んできたそのノートの最終ページに、彼女は静かに記す。
【対象】クラリス=ルミエール
【行為】婚約破棄・見下され・利用され、それでも黙って耐えてきた
【結果】王子妃として迎えられ、愛され、信じられ、選んだ人生へ
【現状】ざまぁ超え達成✔
【一言】最も美しいざまぁとは、「幸せになってしまう」ことでしたのね
カリッと、最後のチェックマークがつけられた。
その瞬間、クラリスはノートを閉じた。
もう過去を振り返る必要はない。これから「未来」を生きるために。
──私は選ばれたのではない。
私が、自分でこの道を選んだのだ。
新しい人生の扉が、確かに開かれた音がした。
「聖女」と「氷の王子」の物語は、静かに、しかし確かに始まっていく。
ざまぁの先に待っていたのは──愛と、自由と、幸福だった。
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