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コヨタ

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第14話 ふたりの少女が駆ける

第14話・3 私たち、負けたくない

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「ラショウ、伏せてっ!!!」

「……っ!」

 爪が迫る。

 だが──。

「ううん、私だって、戦える……!!」

 ラショウは、跳ねた。

 双剣がクロスする──!

「やああああっ!!」

 旋回するような動きで、龍の顎を斬り裂いた。

 舞うように、だが確実に、その刃は龍の皮膚を裂いていく。

「レイラちゃんっ! 今っ!!」

「──うんっ!!!」

 レイラは蒼白に輝くブレードを振りかぶった。

「これで……終わりにするッ!!」

 刃が閃く──。
 その瞬間。

 レイラの脳裏に、再びが走った。

(──……たすけて……)

(──僕は……人間だ……)

「……っあ──?!」

 刃が、止まった。

 龍と目が合った。

 その目は、恐怖に染まっていた。

(──やめてくれ……!)

「……!? レイラちゃん!!」

 ラショウの叫び。
 レイラの体が、ほんの一瞬硬直する。

 その一瞬を──龍は見逃さなかった。

 ──ゴオッ……!!

 振り下ろされる棘の腕。
 レイラの視界が、一瞬、白く染まる──。

「ぐ……ッう、ぁああっ!!」

 レイラの体が、龍の棘に弾かれた。
 血の粒が宙に舞う。

「レイラちゃんっ!!」

 叫びながら駆け寄るラショウ。

 レイラの左肩に、深く裂けた傷。
 ワイバーン戦で負傷したばかりの部位。

「ぐゔうううッ……!!」

 だが、それでもレイラは立ち上がろうとしていた。

「だ、だいじょ……ぶ、だから……っ!」

 その瞳は、まだ龍に向いている。

 だが、モニター室では──。

「……っ、紫苑さんのバイタル、異常波!」

「脳波も不規則! 一時的にα波が遮断、β波の乱れ確認!」

 そこに別室にいたセセラが走り込んでくる。

「通るぞッ! 今映ってるのは!?」

「中継2です! 現地カメラ作動中!」

 映像には、肩で息をしながらも、剣を離さずに睨み返すレイラの姿。

 その体から、蒼白いオーラが今まで以上に濃く、まるで燃え上がる霧のように噴き出していた。

「くそ……ッ」

 セセラは眼鏡を押さえる。
 その指の奥から覗く瞳は、睨むように険しい。

(……やばい。限界に近い)


 ◇


「レイラちゃん……お願い、もう下がって……!」

 ラショウの懇願に、レイラは首を振った。

「……私、まだ……やれる……!」

 剣を両手で支える。
 その刃に、更に濃く瘴気が纏わりついた。

 レイラの耳に、またが届く。

(──ここにいる……ずっといる……!)

(──出られない……! ずっと、繰り返してる……!)

 頭の奥が焼けるように痛い。

「……っ……!」

(『繰り返してる』……?)

 目の奥がぐにゃりと歪んだ。

 瓦礫が、廃村の景色が、“見覚えのある街”に変わって見える。

「な……に、これ……?」

 ──幻覚。

 現実との境が、レイラの中で揺らぎ始めていた。

 そして、モニター室。

「薊野さん! 紫苑さん、意識レベルが急激に低下……!」

「……龍因子が脳幹へ干渉し始めてるな……」

「このままだと、完全に暴走に……!」

「…………ッ」

(まだだ……。あいつは『戻ってこられる』って言ったんだ……)

 セセラは食い入るように画面を見る。

「……薊野さん……、緊急帰還命令は……」

「……いや、まだだ。まだ様子を見る」

(誰か、呼び戻してやれるやつが──)

 ──一方、任務地では、ぐらぐらと足元がおぼつかない様子のレイラ。

 レイラの視界に、“死んだはずの飛竜ワイバーン”の影が見える。

「…………!?」

(……私……おかしい……?)

「レイラちゃんッ!!」

 そう自分の名を叫ぶ声に、レイラの視界がハッと開けていく。

 目の前に──ラショウ。

 震える手で、レイラの手を握っていた。

「戻ってきて……レイラちゃん……っ、お願いだよ……」

 その声に、ぼやけていた現実の輪郭が少しずつ戻ってくる。

「……ラ、ショウ……?」

「うんっ! 大丈夫……私がいるよ……!」

 ラショウの言葉が届いた瞬間、レイラを包む蒼白い瘴気が──。

 スウッ……と、静かに薄れていった。

「……ハッ……、ぁ、はあ、っ……」

 地面に膝をついたレイラを、ラショウが優しく支える。

「……大丈夫、大丈夫だよレイラちゃん……」

 龍は──そのふたりの様子を少し離れて伺っていた。

「……間に合ったか、ギリギリ……」

 セセラはモニター前で大きく息を吐く。

「強いですね……あの子たち」

 職員の安堵した声に「仲間ってのは、時に何よりもつえぇんだよ」と返すセセラ。

 その声も、少し落ち着いてはいたが未だ油断はできないという面持ちだった。

「──ラショウ、いける?」

「うん、任せて」

 レイラは再び剣を構え、その横でラショウは短剣を交差させる。

 ふたりの呼吸は、今も荒い。

 だが、瞳は──濁っていない。

(この龍は、人だったかもしれない)

(でも、だからって……)

(……見過ごすわけには、いかない……)

「……終わらせよう。私たちで」

 レイラの低い声に、ラショウは力強く頷いた。

「……うん!」

 龍が咆哮する。
 しかし、先程までの勢いは無い。

 変異した肉体は明らかにに達しつつあった。

 棘の翼が重たげに垂れ、ひと呼吸するたびに、赤黒い液体が滴る。

 ──それでも、牙を剥き出しにして立ちはだかる。

「……いくぞ……っ!!」

 レイラが跳ぶ。
 ラショウが追う。

「右脚の付け根、そこを狙ってッ!」

「わかった!」

 ラショウは旋回するように地面を滑り、両手に構えた短剣の斬撃で、龍の重心を崩す。

「今だ、レイラちゃん!」

「──うああああああッ!!!」

 振りかぶった剣に、再び一瞬、蒼白いオーラが灯った。

 だが、暴走の気配は無い。
 それは、意志の灯火。

 刃が、龍の胸を貫いた。

「…………ッ……!!」

 龍の咆哮は──無かった。

 ただ。

 ゆっくりと、静かに。

 倒れ、砕け、蒼く染まる灰に包まれていく。

「…………」

 レイラとラショウは、何も言わなかった。

 ただ、しばらく。

 その場に立ち尽くしていた。


 ◇


「……活動停止、確認」

「脳波ゼロ、生命反応消失……。終戦です」

 職員たちが次々と報告する。

 セセラは、画面の中で肩を震わせて座り込んだレイラと、そっとその背に手を置くラショウの姿を見て──。

「……上出来だよ、お前ら……」

 小さく、呟いた。

 いつの間にか同席していたシエリが、その隣で目を伏せたまま静かに声を出す。

「“知能を持った龍”が実在する可能性。そして……“元・人間”であるという仮説……」

「……やっぱり、が起きてるな。……龍の側でも、人の側でも」

「……セセラ。次の準備も、急ごう」

「ああ」

 画面の中。
 レイラとラショウが、ゆっくりと前を見据える。

 ふたりの目は、まっすぐだった。

 ──薄くなった霧の中で、ふたりの少女は肩を並べて立っている。

「……終わった、ね」

 ラショウはそう言って微笑んだが、その指先は震えている。疲労と緊張のせいだ。

「うん……」

 レイラも同じように剣をゆっくり鞘に戻しながら、小さく頷く。

 その瞳には、確かな達成感と、そしてそれに混ざるがあった。

(……あの龍、やっぱり人間だったんじゃ……)

 レイラは肩に感じる重さと、耳の奥にまだ残る“声”を振り払うように、息を吐く。

 ──そのとき。

「お疲れ様です! 輸送班です! 医療班と共に搬送に入ります!」

 数名の職員たちが駆け寄ってくる。

 レイラとラショウの周囲に展開される器具とデータ端末。

「こちら、対象の残骸解析を優先的に進めます!」

「はい、戦闘データも受け取りました!」

「怪我の手当てを──紫苑さん、傷口確認しますね! わっ、今日も痛そう……」

 あっという間に囲まれるふたり。

「レイラちゃん……ごめん、ちょっとだけ……肩貸して…………痛くない方……」

「……うん。いいよ」

 ラショウがそっと体を預けてくる。
 その体温が、やけに温かかった。


 ◇


 ──数時間後。
 司令モニター室の大型モニターに、回収された龍の残骸が映し出されていた。

 ぐちゃぐちゃに変異した肉体。
 通常の龍とは違う骨格と内臓配置。

「……やっぱ、変だな」

 セセラが画面を睨む。

「この骨格構造、“二足歩行前提”で形成されてた跡がある」

「つまり……元々、立って歩いていた?」

 シエリも違和感を覚えながら問う。

を知ってた、っつうことだな。変異の順序が逆なんだよ。意志を持った龍化じゃなくて、に無理矢理なっていった構造じゃねえか、これ」

「……やはり、元・人間の可能性が濃厚か」

「……前に調査したクラヴィスもそうだったが……アレは人間が龍に憑依されて意識が乗っ取られていたパターンだった。だが今回は……人間が龍に憑依されていたんだとしても、ここまでの奇形となると……」

「……素材となった人間が、抗おうとしていた。……もしくは、龍にも人間にもなりきれていない」

 そう言い終えると、シエリは静かに目を閉じた。

「それにしても……レイラたち、無事でよかったね」

「……ああ。でも、あいつらにばかり背負わせてばかりってのも、考えもんだな」



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