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コヨタ

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第14話 ふたりの少女が駆ける

第14話・4 やさしいお出迎え

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 すっかり日も暮れた頃、レイラとラショウを載せた輸送車の扉が開く音が施設の搬入口に響いた。

「輸送車、到着確認!」

「ストレッチャー待機──あっ、歩いて降りてきた……!」

 最初に降り立ったのは、ラショウ。
 深呼吸してから、足元を確かめるように一歩ずつ。

 続いてレイラ。
 肩に包帯を巻いてはいるが、ブレードを腰にしっかりと収めている。

 ──その瞬間だった。

「レイラちゃーん!!」

「ラショウちゃーん!!」

「おかえりッ!!!」

「女の子チーム、かっけええええ!!」

 わあっと、拍手が沸き起こる。

 通路の左右、ずらりと並んだ職員たちが口々にふたりを称えた。

「ほんとに、帰ってきた……!」

「龍の第二形態までいったって……嘘でしょ……?」

「私たち、あんなすごい子たちと同じ所で働いてるんだね……」

「泣いたッ! マジで泣いたわッモニター前でッ! 泣いたッ!!」

 中には涙ぐんでいる職員もいた。

「ありがとう! レイラちゃん!」

「ありがとう! ラショウちゃん!」

 通路が拍手の嵐で満ちる。

「…………あ、え……」

 レイラは驚いた顔で一度立ち止まった。

 ラショウもきょとんとしていたが、すぐに、いつもの柔らかな笑顔でペコリと頭を下げる。

「ただいま、戻りました……っ!」

 レイラも、それにならって小さく頭を下げた。

「……も、戻りました……っ……!」

 どこか恥ずかしそうに、でも嬉しそうに。

 職員の誰かが、ぽつりと呟いた。

「……あの子たち、本当に強くなったな……」

「うん……あの背中、忘れない」

「俺たちも、あの子たちのためにできること、もっとやんなきゃな」

 レイラとラショウの戦いは、誰かの心に勇気という火を灯した。

 拍手と歓声の波を抜けて、レイラとラショウは案内されるまま医療棟へ──。


 ◇


 検査と簡単な手当ての後、ふたりを待っていたのは、セセラとシエリだった。

「あら、おかえり」

 シエリが微笑む。

「おう、お嬢ちゃんたち。いい顔してんな?」

 セセラは、腕を組みながらレイラたちを見下ろした。
 どこか嬉しさが隠しきれていない、あのいつもの皮肉気な顔で。

 ラショウはすぐにぺこりと頭を下げる。

「ただいま戻りました……!」

「お疲れさま、ラショウ。任務、完遂だよ」

 優しく返すシエリ。

 レイラも一呼吸してから、シエリとセセラの方をチラッと見て──。

「……ただいま。……あの、無事に……よ」

 その声に、セセラは僅かに目を細めた。

「そりゃ見りゃわかる」

 ふっ……と鼻で笑ってから、小さく、ぽつりと。

「……お疲れ。よくやったな……レイラ」

「…………」

 レイラの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。

「……ありがと……ちょっと怪我したけど」

「ん。レイラお前が無事なら大丈夫だ」

 レイラが肩の力を抜いたと同時に、ラショウがセセラの腕にとことこと寄ってくる。

「薊野さんっ……! 私、私っ、ちゃんと戦えましたよ……!」

「ああ、見てたよ。お前、めちゃくちゃキリッとしてたじゃねぇか。途中で一瞬『兄貴かよ』って画面にツッコミ入れたわ」

「えっ、えへへ……?」

 ラショウが照れたように笑うと、セセラも口元を緩める。
 その横で、シエリがふたりを優しく見つめていた。

「……キミたちは、本当に強くなった」

「強いっていうか、まぁ……」

 レイラは視線を伏せるが、口元は柔らかい。

だけ、だよ」

「……うん。私も、同じ気持ちだった」

 ラショウもそっと言葉を添える。

「それでいいよ」

 セセラは言葉と共に、ポンとレイラとラショウの頭に軽く手を置いた。

って思えるやつが、一番前に立てる」

「それが戦う意味ってもんだ……俺もそうだった」

「……うん」

 小さく頷くレイラ。

 そこには確かに、少し大人びた表情が浮かんでいた。


 ◇


 レイラとラショウのふたりは、医療フロアの休憩ラウンジのソファでひと息ついていた。

「ふぅ……」

 ラショウは紙コップのスープを両手で包んでいる。

 レイラは背もたれに軽くもたれたまま、静かに目を閉じていた。

 そのとき──。

「……よう、おつかれ」

「……!」

 馴染みのある、低くてややだるそうな声が空気を割った。

 そこには、ゆっくりとラウンジに入ってくるリルと、車椅子に座ったアシュラの姿。

「リル……アシュも……!」

「リルくん……兄様……!」

 ラショウは驚いて立ち上がろうとしたが、すぐにレイラの隣で止まる。
 すると、リルは車椅子を押していた手を止め、アシュラの肩をぽんと軽く叩いた。

「ほら、会いに来たぞ。感動して泣けよ」

「……お前が言うな」

 アシュラは肩をすくめながらも、ふっと笑う。

 レイラとラショウの前に、車椅子の正面が止まる。

「よく、無事で帰ってきてくれた」

 アシュラの声はいつも通りの落ち着いたものだったが、その奥には、ほんの少し震えが混ざっていた。

「兄様……!」

 ラショウはアシュラの膝にしゃがみこむように座って、その手を握る。

「見てたよね、私……ちゃんと戦えてた?」

「……うん。まるで誰かにそっくりだったよ」

「……うわぁ……兄様もそれ言う……。ねえ褒めてる……?」

「もちろん」

 アシュラの指先が、妹の髪をそっと撫でた。
 その心地良さにラショウは目を細めて微笑む。

 兄妹の横で、リルは立ったままレイラを見ていた。

「お前また無茶しやがったな」

「……ん、ちょっとだけ。すぐ戻ってきたよ」

「龍、使ったろ。……あとで、怒るからな」

「ふふ……はいはい、ありがと監視役さん」

 言葉は軽い。

 だが、その向こうにあるは、互いにちゃんと伝わっていた。

 ふたりの間に流れる静かな

 そして、リルが小さく息を吐く。

「でも……よくやったな。すげーよ、お前」

「……!」

 レイラは一瞬だけ、はっとしたようにリルの顔を見て──。

「……へへ。でしょ?」

 そう言って、子供のように笑う。

 普段は無愛想で荒い口調が多いリルも、このときは柔和で穏やかな表情でレイラを見ていた。

「…………!」

 それはレイラが初めて見るようなリルの顔。

 ラウンジには、ゆるやかな静けさと、小さな安心感にしばらく包まれていた──。


 ◇


 休憩ラウンジを解散して、数時間ほど。

 レイラはシャワーを浴びたばかり。
 自室でひとり、鏡の前でタオルを頭に乗せたまま、しばらくじっと自分の目を見つめていた。

 蒼白い瘴気はとうに消えている。

 だが、あの声の残響だけはまだどこかに残っている。

(……『助けて』って、あれは……)

(本当に、あの龍の……)

 ふと、左目に手を伸ばす。

(……でも、私は……斬ったんだよね)

 その手が、少しだけ震えていた。

 だけど──。

(……私は、きっと間違ってない)

(だって、誰かを守るためだったから)

 小さく、口角を上げて、自分を納得させるように微笑む。

 ベッドに潜り込むとき、ふと視線が机の上のブレードケースに向いた。

「……おやすみ、また次も……頼むよ」

 その声は、ほんの少しだけ揺れていたけれど、ちゃんと前を向いている。

 ──そして、医療棟。

 西城兄妹に設けられた病室では──。

「もう、兄様ったら……また無理して……」

 ソファに座ったラショウが、患者衣のアシュラの膝にブランケットをかけながら小さく口を尖らせていた。

 アシュラは目を閉じて、ゆっくりとした呼吸で膝上の湯たんぽに手を当てている。
 
「……今日は、お前が本当に逞しく見えたよ」

「う……うん……私、頑張ったよ」

「うん。……もう俺がいなくても大丈夫そうだ」

「え?! そんなこと、言わないでよ……!」

 すぐにラショウが泣きそうな顔になって、アシュラは苦笑した。

「ふふふ……冗談だよ。お前が頑張ってる姿を見ると、俺も元気になる。……少し、嫉妬もするけどな」

「兄様……」

 ラショウはソファから移動し、机の上のノートを広げた。

 任務の記録。
 自分の動き、反省点、次に活かすべきこと。

 丁寧な字で、それを記していく。

「……兄様、見てくれてたんだよね」

 呟く声は、穏やかで、どこか誇らしげだった。

(レイラちゃんとも、ちゃんと一緒に戦えた……!)

(次はもっと、私がレイラちゃんを支えられるように──)

 ページの端に、小さく描いた『舞う双剣』のイラスト。

 少しだけ照れて、ノートを閉じた。

「……明日は、ちゃんと掃除もしよう……」

 にこっと笑って、ベッドに向かう。



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