恋が始まらない話

古森日生

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エピローグ

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「…二人の世界ですね」
かまどの火を見張りながら並んで様子を見ていた皐月さんが面白そうに言った。
少しイラっとして僕は皐月さんを睨んだ。
「…アンタだろ。今回のキャンプ仕組んだの」
「わかりますか?」
「何が狙いなんだ?」
「桜井さんがおじさまにどういうやり口で近づいているか見たかったんです」

…やり口? あれが計算だと思っているのか?
淑乃は僕でもあきれるぐらい腹芸ができない。

「でも、あのやり方は桜井さんだからできることですね。私がまねっこしたらただの喜劇です」

それは、そうだ。
淑乃の見た目と雰囲気、あの性格だから僕も惹かれる。
そう思って皐月さんを見ると、皐月さんはにやりと笑った。

「知ってますか? 桜井さんって昔、島江永の妖精って呼ばれてたらしいですよ?」
「ああ、それは姉ちゃんの母校が島江永高校って言って…」
「そうなんですか? 大人しくてふわふわでかわいらしいシマエナガって桜井さんにピッタリ!って思いましたけど」
「あーそう…」
なんだろう、皐月さんの笑顔を見てるとイラっとする。
たぶん言い方に悪意が透けるからなんだろう。

「…姉ちゃんがシマエナガならアンタはカラーひよこだよ」
かわいらしい容姿に毒々しい色を塗られたカラーひよこがうごめく箱を連想して、僕は聞こえないようにつぶやく。

「ぷっ…」
隣で皐月さん(…もう皐月でいいか)が噴き出す。

「出てきた悪口が『カラーひよこ』…」
皐月の言葉に頬に血が上る。

「仕方ないだろ!悪口なんか言ったことないんだから」
「可愛いですね、あっくん」
「あっくん言うな!」
言い返す僕に皐月はまっすぐ頭を下げた。
「ごめんなさい。茶化すつもりではありませんでした」
え…?
素直に謝られるとは思っていなかった僕は言葉を失う。

「『あっくん』は桜井さんだけなんですね?」
コイツ…

そうだけど、図星をつかれるのも腹が立つ。
「荒島さんよくアンタみたいなの可愛がってるな」
「でしょう? 私もビックリしてます」
「自分で言うんだ。じゃあ直したら?」
「桜井さんにも気に入らないところがあったら直せっていうんですか?」
「それは…言わない」

確かに。
「ごめん。言い過ぎた」
「ふふ…、やっぱり可愛いですよ。これから仲良くしましょうね? 晶斗」
「そんな態度でするわけないだろ」

言いながら僕は内心で納得していた。
皐月は荒島さんにも似たような毒舌を吐いている。
悪意があるわけではなく、これが皐月のコミュニケーションなんだと。
まあ、たぶん受け入れられる人はそう多くないだろうけど。

僕としては早々にフェードアウトするつもりだったけど、荒島さんと淑乃をはさんで皐月とくされ縁が続いていくことを。

――まだ僕は知らない。

[恋が始まるかもしれない話. 了]



===
■登場人物紹介

と、いう名のこぼれネタです。
本編が誰かの一人称で進行したのでこぼれてしまったエピソードとちょっとした解説を。

《淑乃Side》
■桜井淑乃(さくらいよしの)

淑乃は「女性読者様に嫌われたら大成功!」というちょっと珍しい狙いのヒロインです。
実のところ周りから見てお似合いでも好みじゃないものは仕方がないよね、という話を書きたかったので(笑)淑乃はまるで鈍感系主人公のように見えます。

しかし、淑乃はあっくんの好意に気づかないほど鈍感なのではなく、淑乃が言ったように「近すぎて」そんな存在ではなくなっているのです。
淑乃にとってあっくんは「帰ってきたらいつも家にいて癒してくれる、自分が守って育ててあげなければいけない存在」という位置づけになっており、完全に日常の一部になっています。
「弟」としては最高でも「彼氏」としては淑乃のストライクゾーンから暴投レベルで外れてしまっているので、あっくんが成長した後でも淑乃をドキドキさせられる日はやってきません。ごめんねあっくん…。

ちなみに物語中ちょこちょこ話に上がる特集記事は、ひと昔前の甲子園の「アルプススタンドの女神」みたいな特集です。
腋(ブラチラ)や太もも(パンチラ)狙いの拡大写真とか顔写真が無許可で載ってるアレです。(さすがに今は無いと思いますが)
淑乃は基本隙だらけだったので特集が組まれるほど撮れ高があったんでしょうねぇ。

母校の名前が「島江永」なのはエピローグのネタやりたかったからです(笑)。


■矢内晶斗(やないあきと)

通称あっくん。父と兄を事故で失い幼いころから好きだった兄の彼女と二人暮らし。
弟として甘やかしてくれるのは嬉しいけど相手が好きな異性なのであまり子ども扱いもして欲しくない…という風に、とにかく屈折して早く大人にならざるを得なかった子です。

淑乃の項目で書いたように「絶望的に脈がない」当て馬キャラとして設計されています。
ちなみにあっくんには「記憶にない亡母にそっくり」という設定があり、成長しても「中世的な優しい顔立ちで、高身長細マッチョの子犬系イケメン」に育つので淑乃からは男性として見てはもらえません。
あっくんに非はありませんが淑乃の好みが航太郎さんみたいな男らしい顔立ちのマッチョだったのが不幸でした。

根が素直で物腰も柔らかい上、淑乃と一緒に子どもの頃から家事をしているので年頃になる頃には家事も万能、淑乃のせいで(笑)レディファーストも自然にできる…というかなりの優良物件です。どうか幸せになってくれ…。

腐れ縁の皐月といい仲になるかどうかは…皆さんにお任せします(笑)。


《航太郎さんSide》
■荒島航太郎(あらしまこうたろう)

初めて見た人は10人中10人が堅気ではないと思うほど凄みのある容姿のナイスミドルです。
仏頂面がトレードマークですが、実は子どもの頃に道に飛び出した園児を助けるために顔から車道に激突し大けがをおってしまい表情を動かし辛くなってしまっただけで、顔の傷もその時のものです。

昔からいろいろ姉の無茶ぶりで鍛えられており、本人の性格もあってどれも相当なレベルまで鍛え上げているため見た目に反してかなり何でもできます。
ついでにあっくんは何をやっても同年齢時の航太郎さんには及ばないという主人公補正も入ります。さすがヒーロー(笑)。

自分にも他人にも厳しいため女性に縁遠く、女性の気持ちに疎いのが欠点らしい欠点。
淑乃は果たして航太郎さんを射止めることができるのか…? ※できます。

ちなみに航太郎さんと淑乃はPixivのこれ(https://www.pixiv.net/artworks/113375828)から一部シーンをお借りしています。
が、設定を盛り込みすぎてまっっっったくの別物です。
「自分では描かないので誰かに描いてほしい」って書いてあったので…(笑)。


■城戸皐月(きどさつき)

物語を動かすための狂言回しとして生まれた子です。
航太郎さんと淑乃だけだとどうしても接点というものがなくあっくんに不毛なチャンスが生まれてしまう(笑)
ということでとにかく行動的です。
皐月は母の美空さんと一緒に海外暮らしをしていたのですが、さすがの美空さんもハウスキーパーにまかせっきりはマズい…ということで皐月を日本で育てることにしました。
初対面で航太郎さんが思いっきり甘やかしたせいで(笑)日本に帰ってきたらいいことがあるって刷り込まれてしまったんですよね。
正直な話、皐月の「好き」は「航太郎さんの一番近くにいたい」程度の独占欲で、恋愛かどうかというのは怪しいです。

ちなみに皐月、中学では浮いてしまっていてお昼休みは一人で便所飯しています。
本編中でもキャンプの連絡を航太郎さんからもらった時トイレでこぶしを突き上げています(笑)。

作者的には結構楽しい子なのでいい友達ができるといいな、と思ったりしてます。ね、あっくん?

ちなみに、皐月の鼻歌『愛を取り戻せ‼』はアニメ:北斗の拳のオープニング曲です。そのアニメやってたの航太郎さんが生まれる前だよ皐月…。


ここまで読んでいただいてありがとうございました!
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