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第28話-戦闘訓練
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結局エアハルトはその日の夕方、リンに背負われた状態で村までやってきた。
道中、リンから話のあらましを聞いたらしく、洞穴の出入口のある廊下で私と顔を合わせるなり綺麗な土下座をされた。
「知らなかったとはいえ、今この二人のリーダーは俺だ」
「でもエアハルトは知らなかった事だし、気にしないでください」
「しかしそれでは……」
「じゃあこうしましょう。引き続きホド男爵の捜索を手伝ってくれませんか?」
私は後ろに立っていたマルさんに視線を向ける。
マルさんは黙って頷いてくれたので「早速今後の話をしましょう」と、廊下の奥にある大きな部屋に移動する事にした。
エアハルトは「しかし…」と言い出したので、私はさっさとリンと二人で部屋へ向かった。
リンは終始苦笑していたが、口元がほころんでいたのを私は見て胸をなでおろした。
私も、エアハルトまでドルチェさんたちの行動の責任を取らされたりしたらどうしようかと思っていたが、いらない心配だったようだ。
◇◇◇
ここは私が最初に来たときに通された部屋だった。
部屋の中央に囲炉裏のような物があり、灰と炭が置かれている。
お父様とマルさんが一番上座に座り、その隣にリンと私が並んで座る。
囲炉裏を挟んで向かい側にエアハルトとドルチェさん、ナルさんが座った。
「話の前に……」とドルチェさんとナルさんは、エアハルトに頭を下げた。
エアハルトも最初はムスッとした表情だったが、一発ずつ殴って水に流すと言い出し、ドルチェさんもナルさんも「解った」と、それを受け入れた。
二人はエアハルトの拳で盛大に壁まで吹き飛ばされた。
ケジメだろうけれどナルさんがちょっとやばそうなぐらいダメージを受けていた。
例の小屋でリンによるボコボコ事件で忘れていたが、エアハルトはその体格の見た目通り相当力があるはずだ。
私は床に転がって動かなくなったナルさんに慌てて近寄り、回復魔法をかける。
あれから何度か練習していたので回復魔法が普通に使えるようになってしまった。
魔法をかけ終わるとナルさんはすぐに目を覚ました。
だが今度は、私が回復魔法をつかえる事に対して、ドルチェさんとナルさんから質問攻めを受けてしまったという一幕もあった。
――――――――――――――――――――
「では、話した通りエアハルト君はホド男爵の捜索だ。クリス嬢から渡された物をもって行き、なんとか接触しろ」
「承知しました」
どこかに潜んでいるであろうホド男爵を探す役目は、やはり直接クリス捜索の依頼を受けたエアハルトたちに任せる事にした。
けれどホド男爵自身が、ドルチェさんとナルさんの二人がティエラ教会の執行部だと知っているかどうか判らない。
そのため、表立ってホド男爵側と接触する危険な役割をエアハルトに任せる事となった。
「エアハルト君たちは、改めて洞穴を通り元いた場所まで戻り、スルツェイへ向かってくれ」。
手筈としては何も知らないと言うことになっているエアハルトが、定期報告としてホド男爵の関係者に接触する。
その時、私が渡した囚人服の上着を「森で発見した」と渡す事になった。
鑑定の魔法を掛けられても良いように、私が一応持ち歩いていた本物だ。
そして、それを証拠品としてホド男爵側へ提出。
あとはその証拠品をもった関係者の後をドルチェが後をつけ、ホド男爵本人の居場所を突き止める事となっている。
「でも、本当にホド男爵の元へ持って行きますかね……証拠だとしてもただの服だけですし」
「確かに直接依頼の内容が本人の確保だからな。そいつが報告をホド男爵まで上げない可能性もある」
エアハルトとドルチェさんがそんな疑問を上げるので、私が腹案を提案した。
私はリンに短剣を借りて、少し伸びた後ろ髪を一房切り落とす。
「カリス……?」
「ドルチェさん、これを」
私は切り落とした髪に一つ魔法で細工をしてから、ドルチェさんに手渡す。
「これは……なるほど、そういうことか」
「はい、エアハルトが報告をしてもホド男爵側の人が報告に動かなければ、今度はこれをドルチェさんが」
「俺が上司に暗殺完了の報告をすればいいんだな」
「はい、そのとおりです」
エアハルトが報告をした後、代理人とやらがホド男爵の元まで動かないなら、今度はドルチェが堂々と暗殺完了の報告を上司に行えばいい。
そうすれば、死体の確認などの理由を付け、本人をあぶり出すことも可能だろうという作戦だ。
「どうですか? お父様、マルさん」
「ふむ……確かに今打てる手としてはそれぐらいだろうな」
「私は問題ありません。呼び出すとすればあの小屋にしましょうか」
お父様もマルさんも異論が無いとのことだったので、今回はこの作戦で行くこととなった。
「じゃぁ早速行動する」
「気をつけてくださいね」
「エアハルト、しっかりやるんよ?」
「任せとけ」
私とリン、それにお父様たちも洞穴へ入っていくエアハルトたちを見送った。
(あとは三人に託すしかないか……私もなにか出来ることはないかな……)
あとは彼らから報告を待つだけだが、逆に言えば自分はやることがない。
(もし、男爵をおびき出せたとして……その後はどうするの?)
普通に考えれば、そのまま捕まえ村に連れ帰るのだろう。
けれど男爵本人が一人でやってくるとは考えられない。
(私兵を連れて現れたら? 戦いになるの?)
まだお父様が城に提出した手紙や証拠に対する返事は届いていない。
届いていない以上、まだ私は「王女殺し」の犯人で、ホド男爵はこの国の貴族だ。
これが覆らない以上は貴族に手出しをすれば、私だけでなくこの村の人達にも迷惑をかけることになる。
「マルさん……」
「クリス嬢、ご心配なさらずとも大丈夫です」
「それはどういう……?」
「なぁに貴族なんてものは叩けばホコリが出るのが当たり前。拉致しても、殺したとしても、私どもが何とかしましょう」
マルさんは口角を釣り上げニヤリと笑い自信満々に言うが、そうではない気がする。
やっぱりマルさんも村の人達と同じで、どこか何か極端だなと思った。
――――――――――――――――――――
「いくよリン!【氷槍】!」
私の周囲に腕ほどの太さの氷柱が三本形成され、標的に狙いを定める。
「ふっ――!」
隣でリンが射った二本の矢が同時に標的に向かって飛翔する。
私はその矢の着弾に合わせる形で【氷槍】を打ち出した。
――しかし。
マルさんは足を半歩後ろに下げ身体を少し動かしただけで飛んできた矢を躱し、ほぼ同時に着弾した【氷槍】を蹴りだけで粉砕した。
「んなっ!?」
「カリス気をつけて!」
「――っ!?」
私がマルさんの行動に驚いてしまった隙に、マルさんが一直線に私に向かって迫ってくるのが見えた。
「【氷弾】!」
私は拳ほどの大きさの氷を前方に出現させ、バックステップでその場から飛び退いた。
しかしマルさんは氷弾をギリギリで躱しながら、なおも迫ってくる。
驚いたことにリンが放った矢は、何も見ずに躱している。
「――【氷壁】!」
時間稼ぎにと【氷壁】を出現させ、視界を遮ってさらに後ろへと跳躍する。
「……えっ!?」
後ろに飛び退き、着地したところで首筋に短剣の鞘が当てられた。
誰だと思い視線を向けると、マルさんがニヤリと笑みを浮かべていた。
「うわ~お父ちゃん本気出しすぎだよ~」
「何をいうか。クリス嬢、魔法使いは接近されると無理にでも逃げる癖があります」
「……はい」
「相手も当然それを考えています。だからこそその逆を責めるのも時には必要かと」
「逆……こちらから接近するということですか?」
私とリンはエアハルトを見送ってからマルさんにお願いをして、戦闘訓練をしている。
そもそも私自身が対人戦闘の経験がない。
この先、事件がどうなるかわからない。
だからこそ自分の身を守るために訓練してほしいとお願いしたのだ。
「リンは弓に固執し過ぎだ。後衛が狙われたら自分の体を盾にしてでも、守りに入ったほうが勝機が見えることもある」
「あの、マルさん。魔法使いが近接したとして、どうやって攻撃すればいいのですか?」
「そうですな……例えば、補助魔法を自身に付与して剣で戦う者もいますし、二重詠唱ができるなら発動前に【速度増加】で接近し、眼前で魔法を放つという芸当のやつも見たことがありますな」
二重詠唱は魔法ではなく、高等技だ。
実戦経験もなく唯の学生上がりの私では到底使えない技術だ。
……と以前は考えていたのだが、最近魔法に対する認識が少し変わってきた。
要は魔法を二つ同時に行使すれば良いのだ。
そう考えるとやり方はいくらでもイメージすることが出来た。
「もう一度お願いします!」
マルさんは「承知した」とニヤリと笑みを浮かべ、開始線まで戻り短剣を構えたのだった。
道中、リンから話のあらましを聞いたらしく、洞穴の出入口のある廊下で私と顔を合わせるなり綺麗な土下座をされた。
「知らなかったとはいえ、今この二人のリーダーは俺だ」
「でもエアハルトは知らなかった事だし、気にしないでください」
「しかしそれでは……」
「じゃあこうしましょう。引き続きホド男爵の捜索を手伝ってくれませんか?」
私は後ろに立っていたマルさんに視線を向ける。
マルさんは黙って頷いてくれたので「早速今後の話をしましょう」と、廊下の奥にある大きな部屋に移動する事にした。
エアハルトは「しかし…」と言い出したので、私はさっさとリンと二人で部屋へ向かった。
リンは終始苦笑していたが、口元がほころんでいたのを私は見て胸をなでおろした。
私も、エアハルトまでドルチェさんたちの行動の責任を取らされたりしたらどうしようかと思っていたが、いらない心配だったようだ。
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部屋の中央に囲炉裏のような物があり、灰と炭が置かれている。
お父様とマルさんが一番上座に座り、その隣にリンと私が並んで座る。
囲炉裏を挟んで向かい側にエアハルトとドルチェさん、ナルさんが座った。
「話の前に……」とドルチェさんとナルさんは、エアハルトに頭を下げた。
エアハルトも最初はムスッとした表情だったが、一発ずつ殴って水に流すと言い出し、ドルチェさんもナルさんも「解った」と、それを受け入れた。
二人はエアハルトの拳で盛大に壁まで吹き飛ばされた。
ケジメだろうけれどナルさんがちょっとやばそうなぐらいダメージを受けていた。
例の小屋でリンによるボコボコ事件で忘れていたが、エアハルトはその体格の見た目通り相当力があるはずだ。
私は床に転がって動かなくなったナルさんに慌てて近寄り、回復魔法をかける。
あれから何度か練習していたので回復魔法が普通に使えるようになってしまった。
魔法をかけ終わるとナルさんはすぐに目を覚ました。
だが今度は、私が回復魔法をつかえる事に対して、ドルチェさんとナルさんから質問攻めを受けてしまったという一幕もあった。
――――――――――――――――――――
「では、話した通りエアハルト君はホド男爵の捜索だ。クリス嬢から渡された物をもって行き、なんとか接触しろ」
「承知しました」
どこかに潜んでいるであろうホド男爵を探す役目は、やはり直接クリス捜索の依頼を受けたエアハルトたちに任せる事にした。
けれどホド男爵自身が、ドルチェさんとナルさんの二人がティエラ教会の執行部だと知っているかどうか判らない。
そのため、表立ってホド男爵側と接触する危険な役割をエアハルトに任せる事となった。
「エアハルト君たちは、改めて洞穴を通り元いた場所まで戻り、スルツェイへ向かってくれ」。
手筈としては何も知らないと言うことになっているエアハルトが、定期報告としてホド男爵の関係者に接触する。
その時、私が渡した囚人服の上着を「森で発見した」と渡す事になった。
鑑定の魔法を掛けられても良いように、私が一応持ち歩いていた本物だ。
そして、それを証拠品としてホド男爵側へ提出。
あとはその証拠品をもった関係者の後をドルチェが後をつけ、ホド男爵本人の居場所を突き止める事となっている。
「でも、本当にホド男爵の元へ持って行きますかね……証拠だとしてもただの服だけですし」
「確かに直接依頼の内容が本人の確保だからな。そいつが報告をホド男爵まで上げない可能性もある」
エアハルトとドルチェさんがそんな疑問を上げるので、私が腹案を提案した。
私はリンに短剣を借りて、少し伸びた後ろ髪を一房切り落とす。
「カリス……?」
「ドルチェさん、これを」
私は切り落とした髪に一つ魔法で細工をしてから、ドルチェさんに手渡す。
「これは……なるほど、そういうことか」
「はい、エアハルトが報告をしてもホド男爵側の人が報告に動かなければ、今度はこれをドルチェさんが」
「俺が上司に暗殺完了の報告をすればいいんだな」
「はい、そのとおりです」
エアハルトが報告をした後、代理人とやらがホド男爵の元まで動かないなら、今度はドルチェが堂々と暗殺完了の報告を上司に行えばいい。
そうすれば、死体の確認などの理由を付け、本人をあぶり出すことも可能だろうという作戦だ。
「どうですか? お父様、マルさん」
「ふむ……確かに今打てる手としてはそれぐらいだろうな」
「私は問題ありません。呼び出すとすればあの小屋にしましょうか」
お父様もマルさんも異論が無いとのことだったので、今回はこの作戦で行くこととなった。
「じゃぁ早速行動する」
「気をつけてくださいね」
「エアハルト、しっかりやるんよ?」
「任せとけ」
私とリン、それにお父様たちも洞穴へ入っていくエアハルトたちを見送った。
(あとは三人に託すしかないか……私もなにか出来ることはないかな……)
あとは彼らから報告を待つだけだが、逆に言えば自分はやることがない。
(もし、男爵をおびき出せたとして……その後はどうするの?)
普通に考えれば、そのまま捕まえ村に連れ帰るのだろう。
けれど男爵本人が一人でやってくるとは考えられない。
(私兵を連れて現れたら? 戦いになるの?)
まだお父様が城に提出した手紙や証拠に対する返事は届いていない。
届いていない以上、まだ私は「王女殺し」の犯人で、ホド男爵はこの国の貴族だ。
これが覆らない以上は貴族に手出しをすれば、私だけでなくこの村の人達にも迷惑をかけることになる。
「マルさん……」
「クリス嬢、ご心配なさらずとも大丈夫です」
「それはどういう……?」
「なぁに貴族なんてものは叩けばホコリが出るのが当たり前。拉致しても、殺したとしても、私どもが何とかしましょう」
マルさんは口角を釣り上げニヤリと笑い自信満々に言うが、そうではない気がする。
やっぱりマルさんも村の人達と同じで、どこか何か極端だなと思った。
――――――――――――――――――――
「いくよリン!【氷槍】!」
私の周囲に腕ほどの太さの氷柱が三本形成され、標的に狙いを定める。
「ふっ――!」
隣でリンが射った二本の矢が同時に標的に向かって飛翔する。
私はその矢の着弾に合わせる形で【氷槍】を打ち出した。
――しかし。
マルさんは足を半歩後ろに下げ身体を少し動かしただけで飛んできた矢を躱し、ほぼ同時に着弾した【氷槍】を蹴りだけで粉砕した。
「んなっ!?」
「カリス気をつけて!」
「――っ!?」
私がマルさんの行動に驚いてしまった隙に、マルさんが一直線に私に向かって迫ってくるのが見えた。
「【氷弾】!」
私は拳ほどの大きさの氷を前方に出現させ、バックステップでその場から飛び退いた。
しかしマルさんは氷弾をギリギリで躱しながら、なおも迫ってくる。
驚いたことにリンが放った矢は、何も見ずに躱している。
「――【氷壁】!」
時間稼ぎにと【氷壁】を出現させ、視界を遮ってさらに後ろへと跳躍する。
「……えっ!?」
後ろに飛び退き、着地したところで首筋に短剣の鞘が当てられた。
誰だと思い視線を向けると、マルさんがニヤリと笑みを浮かべていた。
「うわ~お父ちゃん本気出しすぎだよ~」
「何をいうか。クリス嬢、魔法使いは接近されると無理にでも逃げる癖があります」
「……はい」
「相手も当然それを考えています。だからこそその逆を責めるのも時には必要かと」
「逆……こちらから接近するということですか?」
私とリンはエアハルトを見送ってからマルさんにお願いをして、戦闘訓練をしている。
そもそも私自身が対人戦闘の経験がない。
この先、事件がどうなるかわからない。
だからこそ自分の身を守るために訓練してほしいとお願いしたのだ。
「リンは弓に固執し過ぎだ。後衛が狙われたら自分の体を盾にしてでも、守りに入ったほうが勝機が見えることもある」
「あの、マルさん。魔法使いが近接したとして、どうやって攻撃すればいいのですか?」
「そうですな……例えば、補助魔法を自身に付与して剣で戦う者もいますし、二重詠唱ができるなら発動前に【速度増加】で接近し、眼前で魔法を放つという芸当のやつも見たことがありますな」
二重詠唱は魔法ではなく、高等技だ。
実戦経験もなく唯の学生上がりの私では到底使えない技術だ。
……と以前は考えていたのだが、最近魔法に対する認識が少し変わってきた。
要は魔法を二つ同時に行使すれば良いのだ。
そう考えるとやり方はいくらでもイメージすることが出来た。
「もう一度お願いします!」
マルさんは「承知した」とニヤリと笑みを浮かべ、開始線まで戻り短剣を構えたのだった。
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