監獄スタートの悪役令嬢 脱獄記~令嬢とかどうでもいいから私は逃げる!

八万岬 海

文字の大きさ
30 / 48

第30話-夢のような悪夢のような

しおりを挟む

 私は「魔法で余計なことをするのはやめよう」と考えながら、ベッドで痛む頭を抑えゴロゴロと転がり反省する。

 あの後、私は魔力切れを起こして痛む頭を抑えながら寝室に戻ってきた。
 リンが肩を貸してくれるというので、お言葉に甘えて、リンに支えられながらベッドに横になった。

 リンが少しソワソワした様子でグラスに水を注いで持ってきてくれて、私はそのグラスを受取る。


(耳が完全に庭の方へ向いている……)

 一口水を飲みながらソワソワしている雰囲気のリンを観察する。
 顔はこっちを向いているのに、二本のウサ耳がぴょこんと横を向いている。
 少し見えた腰にある丸いしっぽがプルプルと動いているのだ。

 最近セリアンスロープの人たち……ウサギ限定だけれど、やっと見慣れてきたかなと思っていが、こういう私には出来ない動き見るとやっぱり面白い。

「リン、行ってきていいよ?」
「なっ、何がっ? 私はカリスが心配で!」
「あはは、心配掛けてごめんね。魔力半分だけ使ったつもりだったんだけれど」

 そう、あの時たしかに半分だけ魔力を使ったはずだった。
 けれど、発動した瞬間一気に全ての魔力が持っていかれた。

(多分、発動に半分、物体形成に半分持っていかれたのかな………)

 リンがベッドの枕元においてある小さな椅子に座ってくれるのだが、耳の向きは向日葵のようにそろって違う方向を向いている。

「リン、私ちょっと考えたいことがあるから一人にしてほしいな……とか」
「あ、うん~……」
「だからマルさんにお願いした後片付けの手伝い頼んでもいい?」
「うん! わかった!」

(感情を隠そうとして隠しきれていないリン、かわいいなぁ)

 私はそんな事を思いながら、手を振ってから扉を閉めるリンを眺める。

 庭では村の男衆達が集められ、私が出してしまったものの後片付けに追われていた。後片付けというより処理といったほうが良いかもしれない。

 現れた【土槍アースランス】は私の背丈より大きな半透明の石の塊だった。
 調べたわけではないのではっきり解らないが、イメージ通りに魔法が発動したのだとすれば、あれは金剛石ダイヤモンドの原石だろう。

 加工して、研磨して、市場に流せばどれほどの価値になるのか想像もつかない。

(私すごくない?)

 自分の手を広げたり閉じたりして、そんな事を考えてしまう。
 考えたとおりの物を魔法で生み出せた。
 そんな魔法のような……魔法ではあるが、そんな現実を目の前にテンションが上がってしまう。

(ダイヤモンドかー。少しぐらい分けてくれないかなー)

 クリスわたしはまだ学生だったこともあって、宝石を持っていない。
 お父様にお願いすれば一つぐらいは買ってくれるだろうが、勉強と恋に一筋だったためか、装飾品のたぐいはほとんど興味がなかったのだ。

(……あれ? もしかしてこの事ってバレたら私やばい……?)

 どんなキレイな宝石になるのかなーとか、加工ってどうやるんだろう?と考えているうちに急に恐ろしい想像をしてしまう。
 
(宝石を魔法で生み出せる少女。原価はかからない。いくらでもつくれる……)

 宝石を生み出せるなんて知られてしまっては、今度はどこかに軟禁されて一生宝石を作り続けるなんてことになったらどうしようと考えてしまう。

(……流石にマルさんはそんな事……しないよね?)

 ――コンコン

「――っ! は、はい!」

 唐突に扉がノックされ、慌てて返事をすると扉を開けてお父様とお母様が部屋に入ってくる。

「クリス、身体は大丈夫か?」
「はい、ご心配を……」
「いや、無事なら良いんだ。しかしとんでもないものを出したのだな」

 お父様が苦笑しながら頬をポリポリと掻きながら言う。
 隣ではお母様も苦笑いしながら「まぁまぁ」とお父様の肩をポンポンしている。

 私は「勝手なことをしてごめんなさい」と無理をしたことを誤ったのだが、戦闘訓練をしていたのだからそれは仕方がないと笑う。

「いや良いんだ。だがあれはどうするんだ? お前が出したんだからあれはお前のものだが」

 私が魔法で生み出してしまったものについては、お父様がマルさんと相談した結果、私が作り出したからあれは私のものと言うことになったらしい。

 けれど、あんな巨大なダイヤの原石を貰っても困る……欠片ぐらいは欲しいけれど。

「えーっと……私はいらないので村の皆さんにということでもいいですか?」
「あぁ、お前が良いなら構わないが」
「貰っても、私だと加工も出来ませんし……」

 もしかしたら【風斬エアカッター】を使えばいい感じにカッティングができるかも知れない。

 これが平時なら「ちょっとやってみたい」と言い出すところだけれど、今はそんなことをしている場合ではないのは私も理解している。

 結局お父様と相談して、アレはマルさんたちに加工をお願いして、私とお母様で一欠片ずつ貰おうということになった。
 残りは今回の事件で掛かった費用として受け取ってもらおうということで落ち着いた。

「あの、お父様……その、このことは」
「言えるわけがないだろう」

 お父様は私がそれを言い終わる前にピシッと言い放った。
 一瞬怒られるのかとお父様の顔を見上げたのだが、その顔は笑顔だった。

 それはクリスわたしが小さい頃、悪戯をしてお父様を困らせたときの「しょうがないなー」という時の表情だった。

 困ったが娘の成長が嬉しい――そんな複雑な感情の笑顔を久しぶりに見た私も苦笑する。

「ふふっ、今度から気をつけます。というよりこの魔法は使わないようにします」
「それがいい。だがもし将来ガメイ家が傾いたら頼むかもしれんぞ。ははははっ」

 そんな冗談を言いながら、私は夕食までの間、魔力を回復させるため少しだけ眠ることにした。

 ――――――――――――――――――――

 スルート国王からの使者と名乗る若者が村へとやってきたのは、エアハルトを見送ってから三日後だった。

「拝見します」

 お父様、アレックス・フォン・ガメイ伯爵名義でスルート国王へと提出した書類。
 中身はクリスわたしの冤罪についての報告、ホド男爵によるガメイ伯爵夫妻の暗殺未遂。

 私が村に来た初日に顔を合わせたことがあるドラさんという人が、無事に首都スルートへと届けてくれたらしい。

 そして私、クリス・フォン・ガメイ名義で提出した書類。
 この村に来てお父様と出会った翌日に、私とリンの話をお母様がまとめてしたためてくれた内容だ。
 これはハナさんという人がすぐその日のうちに村を出発してくれた。

 更に、ドルチェさんの暗殺未遂がおこった翌日に提出したマル・カネーション名義での書類。

 マルさんたちが集めた私の失踪、ガメイ夫妻への謎の襲撃。
 私が監獄で聞いた法律を無視した即死刑の宣告。

 逃げ出した森で聞いた、ホド男爵による計画ではないかという話。
 村で見かけた高額な賞金の手配書。

 さらに、エアハルトがホド男爵の関係者から直依頼を受けたこと。
 ドルチェさんの証言による、ティエラ教会執行部が行った誘拐の実態。

 偽装兵による村への襲撃。
 そしてガメイ伯爵家を狙った暗殺未遂。

 時間差になってしまったが、私達が持っていたありったけの情報をスルート国王へと提出した。

 そしてその書類に対しての返事がやっと届いたのだ。


 使者を通した客間でお父様が丸められた羊皮紙の蝋封を開け、中身に目を通している。
 私やマルさん、リンも固唾を飲んで書類に目を通すお父様の様子を見守っている。

「…………現状、王家としては何もしないそうだ」
「そんなまさか!?」

 まさかの言葉にマルさんが驚愕の表情を上げる。
 しかし――。

「まぁ待てマル。そうではなく我々の好きにして良いという事だ」
「それは……どういう?」

 スルート国王が直接宰相たちと書類を審議した結果、ホド男爵を王女殺害の主犯と認定したそうだ。そしてクリス・フォン・ガメイの誘拐容疑でティエラ教会スルート教区の本部の強制捜査が決定したとのことだ。

 こちらはドルチェさんさんの証言により、ドルチェさんに命令を出した人物を捜索逮捕するためだと書かれていた。
 誘拐の実行犯のドルチェさんとナルさんについては、その罪を不問とする旨の一筆をお父様の名前で記入して送ってあった。


 しかし村への襲撃未遂や暗殺未遂といった現状を考えると、このタイミングで堂々と国軍を動かすと、ホド男爵の国外逃亡も考えられる。
 そのため、国としては表向きはクリス・フォン・ガメイの捜索を続けていると言う事にするそうだ。

「そっか……よかったー…………よかった……」

 それはつまり言い換えればクリスわたしの無罪が認められたという事だ。
 私はその事実に全身の力が抜け、その場で座り込んでしまった。

「うぅ~カリス~よかったね~」

 私は突然舞い込んできた朗報に思考がついて行かず呆けていたのに、リンが既に涙目だった。

 けれどリンとお母様に抱きしめられると、やっと心が追いついてきたのかホロホロと涙がこぼれ落ちる。

「うぅぅーよかったぁーよかったよぉぉっ……」

 ――やっと、つらい逃亡劇が終わる。
 この村に匿ってもらってからは、既に夢だったのではないかと思ってしまうほど壮絶な逃亡劇。
 だが手首の傷を見るたびに嫌でも思い出してしまう。
 独房で、あの屋根裏で、森の奥で、何度も死のうかと思った黒い記憶が洗い流されてゆく思いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

悪役令嬢に転生したけど、破滅エンドは王子たちに押し付けました

タマ マコト
ファンタジー
27歳の社畜OL・藤咲真帆は、仕事でも恋でも“都合のいい人”として生きてきた。 ある夜、交通事故に遭った瞬間、心の底から叫んだーー「もう我慢なんてしたくない!」 目を覚ますと、乙女ゲームの“悪役令嬢レティシア”に転生していた。 破滅が約束された物語の中で、彼女は決意する。 今度こそ、泣くのは私じゃない。 破滅は“彼ら”に押し付けて、私の人生を取り戻してみせる。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...