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03-Bridge
061話-ベッドは友達
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少し寝たかなと目を覚ますとすっかり窓の外がうっすらと明るくなっており、ボロボロのカーテンから朝日が差し込んできている。
隣でスヤスヤと眠るヴァルの頭にある羽を指で突くと、猫の尻尾のようにピクピクと反応する。
これが意外につるつるしているくせにしなやかで、指先でふにふにとイジると気持ちいいのだ。
感触としては事務所においてあったストレス発散用のゲルボールに似ていた。
早くアイナたちのところに戻らなきゃなと寝起きの頭でぼーっと考えながら、いつのまにか六華が買ってきてくれた服を着込む。
一応ヴァルの服も買ってきてくれたらしく、可愛らしい女物の白いワンピースと下着が紙袋に入っていた。
『ユキ、起きたか?』
起きるのを見計らったかのように六華から思念で声が届いたので、びっくりしてとあたりを見回してしまった。
(あぁ……おはよう。服ありがとう)
『自分に礼を言うなよ。それはそうと、もうすぐアペンドに着く。いま山越えしてる最中だから先にアイナたちには説明しておくよ』
(よろしく。あとわかってると思うけど……)
『とりあえずヴァルに会ったことは言わないでおく』
『六華さ、寒くない? 俺寒いんだけど』
(なんで六華と銀華で感覚が違うんだよ)
昨日の深夜、男どもをそのままにしておくのもなんだか嫌だったので、先にアペンドへと連れて行こうと幻影を追加したのだが、驚くことに消えてしまっていた銀華が現れたのだった。
俺や六華と同じ顔だがすぐにわかった。しかも自分で銀華だと名乗ったのだった。
二人にお願いして夜が明ける前に男どもを連れてアペンドへと向かってもらったのだった。
「んゆ……ぁ……ふ……ユキおはよぉ」
「おはようヴァル」
眠そうな目を擦りながらヴァルが目を覚ましたので六華が買ってきた服を渡す。
ヴァルは頭をポリポリと掻いてから、頭の羽を指で摘み「触ってた?」と半眼を向けてくる。
「いいけどねー……ふぁ~……けど今日は戻らなきゃ、先輩に殺されちゃう」
「アウスだっけ……どこかで待ち合わせ?」
「ん……んふふっ、なーいしょ!」
「……ふーん」
「あっ、ごめっ、王国の首都で待ち合わせしてるんだ!」
最初ミステリアスな女の子だと思ってたし、あの部屋ではかっこいい女の子だと思っていたが、この子はいわゆるポンコツ系だなと一晩で認識が変わってしまった。
少しでもツッコミを入れるとスグにボロを出すし、そのあとは聞いてもないことをべらべらと喋り始める。
偽の身分だとしても諜報員と名乗るのは辞めておいたほうが良いんじゃないだろうか。
「あ、この服可愛い。あの幻影……六華だっけ」
「そうそう。買ってきてくれたらしい」
「下着のサイズもぴったりだし……本当に幻影なの……?」
「昨日も聞いたけど、幻影ってここまでは出来ない?」
「できるわけないよぉ……簡単な命令ぐらいだよぉ……なんだよぉ、私より上位ぽいじゃない……あっ、そういえば私の幻影作ってくれるって言ってたよね!」
相変わらず話の内容がコロコロ変わるなぁと思いながらも、昨日そんな約束してしまったし作ってみることにした。
「……喧しそうだけど」
「えっ、ちょっ、ちょっとまって? どういうことかな? ユキ、それ私がやかましいってこと?」
「『兎の幻想』」
突っかかってくるヴァルをさくっと無視して、リーチェの魔技を使ったのだが今までと少し違う感じで発動をし始めた。
俺の身体から魔力が溢れて一度手帳へと吸い込まれて、手帳がカッと光り始める。その光が集まり、徐々に人型を形成しはじめた。
(……一度手帳に入ってから?)
今までは身体から直接でた魔力だったが、何かあるのかと様子を観察する。
数秒が経過し、光が弱まって現れたヴァルの幻影は――。
「ちょっ、どうして裸なのよ!」
『知らないわよ、ユキの趣味じゃない?』
「……ユキ」
ヴァルのツッコミに幻影が反応し、なぜか二人揃ってジロリと半眼を向けてくる。
自分ではあまり思わなかったがこうしてみると本当に双子がいるとしか思えない。
『ユキ……まだ足らなかった? それとも私と離れたくないの?』
「そういう訳じゃ無いけど」
『ふぅーん』
「ちょっと、本当に幻影が勝手に動いてるんだけど! ってか喋ってるんだけど! なにこれ怖い!」
『あらぁ? 嫉妬?』
「そ、そ、そ、そんな訳ないじゃない!」
『ならよかったわ! オリジナルとは仲良くしたいし』
「…………」
取っ組み合いでも始めるのかと思ったよだが、突如二人して見つめあったまま動かなくなる。
どうやら俺が六華や銀華とやっているように思念で会話でもしているようだ。
「お待たせユキ」
『お待たせぇ』
「え、なに?」
おもむろにヴァルとその幻影が俺の両腕に手を回しがっちりホールドしてくる。
「ほら、おいで?」
『もう少しぐらい時間あるから、もうちょっとゴロゴロしようね』
「いや、ちょっ、ヴァル!」
俺の抵抗虚しく、あっさりとベッドへ戻る羽目になってしまった。
――――――――――――――――――――
六華と銀華がアペンドへと着いた時、広場のあたりから大きな歓声が聞こえてきた。
何か合った思い六華が先行すると、大通りの先に見えた噴水広場で『荒野の星』の面々が多くの観客に囲まれて舞台をしていたようだ。
ちょうど最後の演目だったらしくアイナとエイミーがユキの作った服を着て、聞いたことのある――ユキがこの世界に来る前に担当していたアイドルの持ち歌を披露していたのだった。
(ほとんど練習してなかったのに……てか、うまいな二人とも。下手すりゃあいつらより……)
楽器も何もないアカペラだったのだが、キラキラと輝くような笑顔で舞台の上で舞うようにして歌うアイナとエイミー。
エイミーは流石にまだ恥ずかしさがあるらしく少しぎこちない動きだったが、アイナのほうは流石だった。
六華が広場にある建物の屋根へと着いた瞬間、残念ながらすぐに曲が終わってしまい多くの歓声に包まれる二人。
みんなを元気付けるために舞台をしたのだろう。
街の人たちや一番前で目を輝かせるように見ていた子供たちから揉みくちゃにされている。
六華はそのまましばらく屋根の上で時間を潰し、舞台の片付けが終わって教会へと引き上げるところで声をかけた。
『アイナ!』
「あっ、ユキ! よかった! 昨日からどうしたのよー! みんな心配してたんだからぁっ!」
「えっ、ユキ帰ってきたのっ?」
「ユキー! おかえりー!」
「ほらエイミー、大丈夫だって言ったでしょ?」
六華がアイナの前へ着地すると、アイナやリーチェ、エイミーたちにギュッと抱きしめられながら「無事でよかった」と頭を撫でられる。
全員に勝手に居なくなったことを謝り、犯人を捕まえたと伝えた。
「ユキ、無理しちゃだめだよ? って、ユキじゃない……もしかして幻影?」
『さすがリーチェ。六華って名前をつけてもらった。あっちは銀華』
リーチェが頭に触れた瞬間、ユキではなく幻影だと気づかれた。
アイナやエイミーは両腕に抱きついているのに気づかれていないようだったが。
『はぁ……重い。六華、半分ぐらい持ってくれてもいいじゃん』
「完全に自立してる……ってこと?」
その時教会前へとたどり着いた銀華をみて、改めて驚愕の顔をするリーチェや他の面々。
六華と銀華の間をキョロキョロ視線を移らせながら目を白黒させる。
『理由はわからないけど、そうらしい?』
六華も自分のことながら、事情は全くわからないので適当に答えておくことにした。
知りたいとも思わないし幻でもコピーだとしても『俺は俺だ』と思っていたためどうでもいいらしい。
「えっと、じゃあそいつらが……この街を襲った犯人?」
アイナが目を吊り上げて、銀華が引きずってきた男たちを睨みつけた。
洗脳状態のまま目を覚まさせて走らせてきたようだった。
だが、銀華たちの体力強化状態についていけるわけもなく、四人はあちこちボロボロで色々と大変なことになっているようだ。
『一応、何度か回復させたんだけどなこれでも』
『それで、みんなに聞きたいんだけど道化商会って聞いたことない? こいつらその所属メンバーらしくて、城に連れて行ったほうがいいって言われたんだけど』
「――っ!?」
「まさか……まだ生き残りが……」
「そんな、壊滅させたわよね……しぶといやつら……」
「やはり完全に根まで潰し尽くすのは難しかったか」
アイナ、ケレス、クルジュナ、サイラスの戦争参加組が歯痒そうな表情で男たちを見下ろす。
「とはいえ、ユキ……いや銀華と呼べばいいのか。よく捕まえたな。偉いぞ」
サイラスに頭をくしゃくしゃと撫でられる銀華。
それから六華と銀華は女の子たちも助けたが既に何人かは亡くなっていること、それでも二百人程度は連れて帰ってこれることを伝えた。
男どもはこのまま近くの詰所だったところに捉えておき、ユキが戻り次第首都まで向かおうということになった。
「ねぇ、ユキ……じゃなくて六華?」
『どっちでもいいよ。本体から見たら六華だけど、アイナたちから見たら同じユキだと思うから」
「そう、それで今ユキはどうしてるの? もしかして動けないとか……」
アイナが心配そうに聞いてくるので、どうしたもんかなと一瞬だけ考え込んでしまう六華。
エイミーやケレスも気になっているらしく、じっと六華を見つめている。
『ん……とりあえずまだ気持ちよく寝ている』
「そっか、無事だったらよかった。早く帰ってくるように伝えてくれる?」
『あぁ、わかった。それとアイナ、エイミー』
「んー?」
「なぁに?」
『歌、よかったぞ』
「ありがとうー! 最初はユキに聞いて欲しかったんだけど、聞いてもらえてよかった」
「さすがに緊張したけれど、ちゃんと歌えてよかった。すごくよかったよユキ」
「そうそう、衣装もかわいいしね! いーなー二人とも」
『ケレスも歌うか?』
「へ? 私はいいわよ、柄じゃないから」
『そう? ケレスも可愛いし映えると思うんだよな』
「んなっ……かっ、考えとくっ……」
ケレスは六華の言葉にモジモジとしながら運んでいた舞台用の道具箱を持って奥へと小走りで駆け込んでいく。
『みんな、もうちょっとでみんな戻ってくると思うんだけど、受け入れとかどうすればいいかな』
『何人かは着るものもないみたいで、みんなにお願いできれば助かるんだけど』
「わかったわ。シスターさんたちにも頼んで女の人たち集めてもらうね。食事とかも必要かな」
『そうだな最低限は用意したんだけど小さい街だったから』
話し合いの結果サイラスと自警団のトーマスさんたち男性陣が噴水広場で炊き出し、女性陣たちは教会で女の子たちのお風呂と着替えの世話をすることとなった。
「でも合計で六百人ぐらいなんだ……数千人もいたのに……ね……」
ユキが犯人を捜索している間も何人も隠れていた人たちを見つけたらしく、それなりの人数にはなった。
それでも元の人口の半分以下である。
この先も街として住んでいけるのか気になるが、ユキやアイナたちにできることはこうして炊き出しや舞台でみんなの心を少しでもほぐすぐらいだ。
『それでも、まずは助かったことを喜んで、それからゆっくり……時間は必要かもね』
「城に犯人たち連れて行くなら復興までの手伝いの人員や移住者とか集めてくれるかもしれんぞ」
『そういうこともしてくれるんだ』
「まぁ事件が事件だしな。普通は災害時とかの措置なんだが……」
サイラスが髭をいじりながら銀華に災害支援のことを説明しているのを聞きながら、六華はユキの様子を探る。
『…………あと一時間はだめだな。銀華』
はぁ、と小さなため息を吐いた六華は銀華と共に炊き出しの用意を手伝うことにしたのだった。
隣でスヤスヤと眠るヴァルの頭にある羽を指で突くと、猫の尻尾のようにピクピクと反応する。
これが意外につるつるしているくせにしなやかで、指先でふにふにとイジると気持ちいいのだ。
感触としては事務所においてあったストレス発散用のゲルボールに似ていた。
早くアイナたちのところに戻らなきゃなと寝起きの頭でぼーっと考えながら、いつのまにか六華が買ってきてくれた服を着込む。
一応ヴァルの服も買ってきてくれたらしく、可愛らしい女物の白いワンピースと下着が紙袋に入っていた。
『ユキ、起きたか?』
起きるのを見計らったかのように六華から思念で声が届いたので、びっくりしてとあたりを見回してしまった。
(あぁ……おはよう。服ありがとう)
『自分に礼を言うなよ。それはそうと、もうすぐアペンドに着く。いま山越えしてる最中だから先にアイナたちには説明しておくよ』
(よろしく。あとわかってると思うけど……)
『とりあえずヴァルに会ったことは言わないでおく』
『六華さ、寒くない? 俺寒いんだけど』
(なんで六華と銀華で感覚が違うんだよ)
昨日の深夜、男どもをそのままにしておくのもなんだか嫌だったので、先にアペンドへと連れて行こうと幻影を追加したのだが、驚くことに消えてしまっていた銀華が現れたのだった。
俺や六華と同じ顔だがすぐにわかった。しかも自分で銀華だと名乗ったのだった。
二人にお願いして夜が明ける前に男どもを連れてアペンドへと向かってもらったのだった。
「んゆ……ぁ……ふ……ユキおはよぉ」
「おはようヴァル」
眠そうな目を擦りながらヴァルが目を覚ましたので六華が買ってきた服を渡す。
ヴァルは頭をポリポリと掻いてから、頭の羽を指で摘み「触ってた?」と半眼を向けてくる。
「いいけどねー……ふぁ~……けど今日は戻らなきゃ、先輩に殺されちゃう」
「アウスだっけ……どこかで待ち合わせ?」
「ん……んふふっ、なーいしょ!」
「……ふーん」
「あっ、ごめっ、王国の首都で待ち合わせしてるんだ!」
最初ミステリアスな女の子だと思ってたし、あの部屋ではかっこいい女の子だと思っていたが、この子はいわゆるポンコツ系だなと一晩で認識が変わってしまった。
少しでもツッコミを入れるとスグにボロを出すし、そのあとは聞いてもないことをべらべらと喋り始める。
偽の身分だとしても諜報員と名乗るのは辞めておいたほうが良いんじゃないだろうか。
「あ、この服可愛い。あの幻影……六華だっけ」
「そうそう。買ってきてくれたらしい」
「下着のサイズもぴったりだし……本当に幻影なの……?」
「昨日も聞いたけど、幻影ってここまでは出来ない?」
「できるわけないよぉ……簡単な命令ぐらいだよぉ……なんだよぉ、私より上位ぽいじゃない……あっ、そういえば私の幻影作ってくれるって言ってたよね!」
相変わらず話の内容がコロコロ変わるなぁと思いながらも、昨日そんな約束してしまったし作ってみることにした。
「……喧しそうだけど」
「えっ、ちょっ、ちょっとまって? どういうことかな? ユキ、それ私がやかましいってこと?」
「『兎の幻想』」
突っかかってくるヴァルをさくっと無視して、リーチェの魔技を使ったのだが今までと少し違う感じで発動をし始めた。
俺の身体から魔力が溢れて一度手帳へと吸い込まれて、手帳がカッと光り始める。その光が集まり、徐々に人型を形成しはじめた。
(……一度手帳に入ってから?)
今までは身体から直接でた魔力だったが、何かあるのかと様子を観察する。
数秒が経過し、光が弱まって現れたヴァルの幻影は――。
「ちょっ、どうして裸なのよ!」
『知らないわよ、ユキの趣味じゃない?』
「……ユキ」
ヴァルのツッコミに幻影が反応し、なぜか二人揃ってジロリと半眼を向けてくる。
自分ではあまり思わなかったがこうしてみると本当に双子がいるとしか思えない。
『ユキ……まだ足らなかった? それとも私と離れたくないの?』
「そういう訳じゃ無いけど」
『ふぅーん』
「ちょっと、本当に幻影が勝手に動いてるんだけど! ってか喋ってるんだけど! なにこれ怖い!」
『あらぁ? 嫉妬?』
「そ、そ、そ、そんな訳ないじゃない!」
『ならよかったわ! オリジナルとは仲良くしたいし』
「…………」
取っ組み合いでも始めるのかと思ったよだが、突如二人して見つめあったまま動かなくなる。
どうやら俺が六華や銀華とやっているように思念で会話でもしているようだ。
「お待たせユキ」
『お待たせぇ』
「え、なに?」
おもむろにヴァルとその幻影が俺の両腕に手を回しがっちりホールドしてくる。
「ほら、おいで?」
『もう少しぐらい時間あるから、もうちょっとゴロゴロしようね』
「いや、ちょっ、ヴァル!」
俺の抵抗虚しく、あっさりとベッドへ戻る羽目になってしまった。
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六華と銀華がアペンドへと着いた時、広場のあたりから大きな歓声が聞こえてきた。
何か合った思い六華が先行すると、大通りの先に見えた噴水広場で『荒野の星』の面々が多くの観客に囲まれて舞台をしていたようだ。
ちょうど最後の演目だったらしくアイナとエイミーがユキの作った服を着て、聞いたことのある――ユキがこの世界に来る前に担当していたアイドルの持ち歌を披露していたのだった。
(ほとんど練習してなかったのに……てか、うまいな二人とも。下手すりゃあいつらより……)
楽器も何もないアカペラだったのだが、キラキラと輝くような笑顔で舞台の上で舞うようにして歌うアイナとエイミー。
エイミーは流石にまだ恥ずかしさがあるらしく少しぎこちない動きだったが、アイナのほうは流石だった。
六華が広場にある建物の屋根へと着いた瞬間、残念ながらすぐに曲が終わってしまい多くの歓声に包まれる二人。
みんなを元気付けるために舞台をしたのだろう。
街の人たちや一番前で目を輝かせるように見ていた子供たちから揉みくちゃにされている。
六華はそのまましばらく屋根の上で時間を潰し、舞台の片付けが終わって教会へと引き上げるところで声をかけた。
『アイナ!』
「あっ、ユキ! よかった! 昨日からどうしたのよー! みんな心配してたんだからぁっ!」
「えっ、ユキ帰ってきたのっ?」
「ユキー! おかえりー!」
「ほらエイミー、大丈夫だって言ったでしょ?」
六華がアイナの前へ着地すると、アイナやリーチェ、エイミーたちにギュッと抱きしめられながら「無事でよかった」と頭を撫でられる。
全員に勝手に居なくなったことを謝り、犯人を捕まえたと伝えた。
「ユキ、無理しちゃだめだよ? って、ユキじゃない……もしかして幻影?」
『さすがリーチェ。六華って名前をつけてもらった。あっちは銀華』
リーチェが頭に触れた瞬間、ユキではなく幻影だと気づかれた。
アイナやエイミーは両腕に抱きついているのに気づかれていないようだったが。
『はぁ……重い。六華、半分ぐらい持ってくれてもいいじゃん』
「完全に自立してる……ってこと?」
その時教会前へとたどり着いた銀華をみて、改めて驚愕の顔をするリーチェや他の面々。
六華と銀華の間をキョロキョロ視線を移らせながら目を白黒させる。
『理由はわからないけど、そうらしい?』
六華も自分のことながら、事情は全くわからないので適当に答えておくことにした。
知りたいとも思わないし幻でもコピーだとしても『俺は俺だ』と思っていたためどうでもいいらしい。
「えっと、じゃあそいつらが……この街を襲った犯人?」
アイナが目を吊り上げて、銀華が引きずってきた男たちを睨みつけた。
洗脳状態のまま目を覚まさせて走らせてきたようだった。
だが、銀華たちの体力強化状態についていけるわけもなく、四人はあちこちボロボロで色々と大変なことになっているようだ。
『一応、何度か回復させたんだけどなこれでも』
『それで、みんなに聞きたいんだけど道化商会って聞いたことない? こいつらその所属メンバーらしくて、城に連れて行ったほうがいいって言われたんだけど』
「――っ!?」
「まさか……まだ生き残りが……」
「そんな、壊滅させたわよね……しぶといやつら……」
「やはり完全に根まで潰し尽くすのは難しかったか」
アイナ、ケレス、クルジュナ、サイラスの戦争参加組が歯痒そうな表情で男たちを見下ろす。
「とはいえ、ユキ……いや銀華と呼べばいいのか。よく捕まえたな。偉いぞ」
サイラスに頭をくしゃくしゃと撫でられる銀華。
それから六華と銀華は女の子たちも助けたが既に何人かは亡くなっていること、それでも二百人程度は連れて帰ってこれることを伝えた。
男どもはこのまま近くの詰所だったところに捉えておき、ユキが戻り次第首都まで向かおうということになった。
「ねぇ、ユキ……じゃなくて六華?」
『どっちでもいいよ。本体から見たら六華だけど、アイナたちから見たら同じユキだと思うから」
「そう、それで今ユキはどうしてるの? もしかして動けないとか……」
アイナが心配そうに聞いてくるので、どうしたもんかなと一瞬だけ考え込んでしまう六華。
エイミーやケレスも気になっているらしく、じっと六華を見つめている。
『ん……とりあえずまだ気持ちよく寝ている』
「そっか、無事だったらよかった。早く帰ってくるように伝えてくれる?」
『あぁ、わかった。それとアイナ、エイミー』
「んー?」
「なぁに?」
『歌、よかったぞ』
「ありがとうー! 最初はユキに聞いて欲しかったんだけど、聞いてもらえてよかった」
「さすがに緊張したけれど、ちゃんと歌えてよかった。すごくよかったよユキ」
「そうそう、衣装もかわいいしね! いーなー二人とも」
『ケレスも歌うか?』
「へ? 私はいいわよ、柄じゃないから」
『そう? ケレスも可愛いし映えると思うんだよな』
「んなっ……かっ、考えとくっ……」
ケレスは六華の言葉にモジモジとしながら運んでいた舞台用の道具箱を持って奥へと小走りで駆け込んでいく。
『みんな、もうちょっとでみんな戻ってくると思うんだけど、受け入れとかどうすればいいかな』
『何人かは着るものもないみたいで、みんなにお願いできれば助かるんだけど』
「わかったわ。シスターさんたちにも頼んで女の人たち集めてもらうね。食事とかも必要かな」
『そうだな最低限は用意したんだけど小さい街だったから』
話し合いの結果サイラスと自警団のトーマスさんたち男性陣が噴水広場で炊き出し、女性陣たちは教会で女の子たちのお風呂と着替えの世話をすることとなった。
「でも合計で六百人ぐらいなんだ……数千人もいたのに……ね……」
ユキが犯人を捜索している間も何人も隠れていた人たちを見つけたらしく、それなりの人数にはなった。
それでも元の人口の半分以下である。
この先も街として住んでいけるのか気になるが、ユキやアイナたちにできることはこうして炊き出しや舞台でみんなの心を少しでもほぐすぐらいだ。
『それでも、まずは助かったことを喜んで、それからゆっくり……時間は必要かもね』
「城に犯人たち連れて行くなら復興までの手伝いの人員や移住者とか集めてくれるかもしれんぞ」
『そういうこともしてくれるんだ』
「まぁ事件が事件だしな。普通は災害時とかの措置なんだが……」
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