雪の都に華が咲く

八万岬 海

文字の大きさ
77 / 92
05-Chorus

075話-ヴァレンシアという少女

しおりを挟む

「ユキ、どうして私だけ居残り組なの?」

 アイナとケレス、エイミーには六華を護衛につけて先に宿に戻ってもらうことにし、俺はヴァルと話があるために二人で『部屋』に残った。
 聞かなければならないことがあるのだ。

(聞きたくないけどなぁ……もう確定なんだよなぁ)

 聞きたいが怖くて聞けない。そんな気持ちを抑えながらの決断だった。

 向かい側のソファーへ座ればいいのに隣に座るヴァル。
 三人以上並んで座れるのにぎゅうぎゅうに詰められ腕を抱かれている俺。

「ヴァル、近い」
「えー……いいじゃん誰もいないんだし……ちょっとぐらい」


 俺は意を決して……でもヴァルと視線を合わせるのが怖くて足元に視線を落としたまま口を開いた。

「……ヴァルは俺と同郷なの?」


「そだよー?」

 俺の決心などどこ吹く風か、ヴァルから帰ってきた返事は実に拍子抜けするほど軽いものだった。



「……どこで気づいたの?」

「んんー、私の銃弾が一度ほっぺた掠めたでしょ? あの時にユキの情報がちょっと流れ込んできた」

 他人の血液から情報を読取るというヴァルの種族の特技らしい。
 そしてそれに気づいてから会話に『チート』とか『コンクリート』とか、こっちに来てからは通じなかった単語を話に混ぜて反応を見ていたらしい。

 お互い状況はわからないものの、同じ世界からやってきたという超特大な共通項が出来た。
 そうなるとやはり気になるのは日本の話。
 こっちに来てから何をしていたか等、聞きたいことは山のようにある。



 何から質問をしようかと悩んでいたら、ヴァルがそっと口を開いた。

「私ね2023年のクリスマスイブの日に……起きたらこの世界にいたの」

「え、2023年?」
「そう。それから700年ぐらいずっとこっち。長命な種族だから仕方ないんだけど楽しくやってるよ? ユキは2720年とかなの? あっちどうなってるか聞かせて欲しいなっ!」

「まって…………俺、2020年……なんだけど」

 いまだにはっきりと覚えている、新人アイドルの初ライブ前日だ。
 バタバタしててほとんど寝れない日々でかなりキテいたけれど日付は忘れるはずもない。

「つまり、私の方が未来ってこと? え、まって、混乱してきたよぉ~」

 時空の流れ的なものが一定ではないのか、こちらへ転生した状況が違うのか理由はわからないが俺より未来から、今から七百年も昔にこの世界にやってきたというヴァル。


「昔は何人か見つけたんだよ? 同郷の子。みんな寿命で死んじゃったけどね、あははっ」
「ヴァル………」

「だからね……久しぶりに会った同郷のユキとは仲良くしたいな」

「俺も……まだこっちにきたばかりで全然わからないことだらけだからさ……ヴァルに色々と教えて欲しい」

「んふ、まかせなさい! でも、こっちきてすぐに『荒野の星』の座長とかすごいよね! やっぱり魔技が特殊だから?」

「どうなんだろう……確かに魔技は見るだけでコピーできるから場数さえ踏めばどんどん強くなるはずなんだよ」

「そうだよねー……じゃあしばらくは座長兼暗殺者しちゃうの?」



「陛下に依頼もされたしね……アイドルもやりたい」
「ユキ……がじゃないよね。アイナちゃんたち?」


 今の『荒野の星』がやっている大道芸や、この国の現状、俺ができることを考えてこの世界でアイドルというものを流行らせたいとヴァルに説明した。

「へーアイドルかー。アイナちゃんたちならスタイルも抜群だしすごく人気出るかもね!」

「色々と舞台設備とか揃えていくのが大変そうだからとりあえずアカペラとか簡単な楽器で頑張ろうって思ってる」


「へー……いいなぁ……私もやってみたいなぁ」

 ヴァルの頭の羽がパタパタと動く。
 確かにこの世界でアイドルをやるにあたって、向こうの常識とこっちの常識をどちらも知っているヴァルがいると心強い。

「私ね、全然駄目だったんだけど訓練生だったんだ」
「訓練生?」

「そ。スノーライトっていう事務所の訓練生だったんだ」
「うちじゃねーかっ!」

 ヴァルから出た馴染みのある事務所名につい大声でツッコミを入れてしまうほどびっくりした。
 その事務所『スノーライト』はまさに俺が所属していた芸能事務所で、新卒で入社してからずっとそこで働いてきた。
 まさか俺の仕事先の事務所の訓練生だとは……世の中狭すぎる。

(……世の中っていう言い方はおかしいけど)

「まじ? スノホワのプロデューサーなの? すごい! こんな偶然ってあるのっ!? すごい……もう忘れそうなほど昔の……ことなのに……ぐすっ……ふぇ……」

 七百年ぶりに見つかった共通の話題。
 それだけでヴァルの涙腺は崩壊してしまったようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...