雪の都に華が咲く

八万岬 海

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05-Chorus

077話-公演準備!

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「お疲れ様です!」

 宿へと戻った俺は、まず全員を部屋へと集め会議をする事にした。
 いつものメンバーに加え、ヴァルも隣へと座らせる。

「ユキ、会議だなんて初めてよね?」

 寝起きのアイリスが未だにトロンとした目を擦りながら訪ねると、ハンナとヘレスもうんうんと頷いている。

「昨日陛下から一つお願いされたことがあったから、それの共有。それとこのヴァルの組織についての話かな」

 まず陛下からの依頼である道化商会ジョクラトルと言う犯罪者集団……ではなく狂信者集団と呼ぶべきものたちについての状況を説明した。

「へぇ……あいつらがねぇ」
「少し前、クルジュナが見つけ次第潰してたんだが、まだ居たんだな」

「ちょっとサイラス。あれは仕事だったから……」

 クルジュナが珍しく焦り気味にサイラスの肩をペチペチと叩いて喋るのを止めようとしているようだが、サイラスは気にせず話し続ける。

「ユキ、俺たちが戦争終了後、一番最初に受けた暗殺仕事が道化商会ジョクラトルのとある幹部の暗殺だったんだ」

「そうだったんだ……でも、今回は少し事情が変わっているらしい。何処にどれだけ居るかも判らない奴らの捜索。これには俺が作った幻影と、ヴァルの組織に依頼をしようと思う」

 前国王を崇拝する団体が奴らに合流したのか、最初から奴らのメンバーだったのかは分からない。
 規模も居場所も不明。
 国軍が捜査できないような場所を捜査する。
 そんな暗闇の中でどこかに落ちているコインを見つけるようなことを俺たちだけでやるのは到底不可能だ。



 まだツクモさんたちが見えないので、とりあえずヴァルに自己紹介をしてもらおうと、隣に座ったままのヴァルを立たせる。

「ども、何でも屋『ルミノックス』のヴァレンシアと言います。よろしくお願いします」

「『ルミノックス』……って、帝国の……?」
「あぁ……カムイの奴の……」
「あぁ、あのずっこけ傭兵団かぁ……私何人か射殺したわよ」
「まぁ俺たちに被害がないならいいんじゃない?」

 アイナとケレスはキョトンとしていたが、サイラスとクルジュナがボソボソと小声で不穏な会話を始めた。

「サイラス、クルジュナ……なんだか不穏な会話なんだけど……」

 サイラスの説明によると、戦争中にサイラスとクルジュナのペアがが『ルミノックス』の部隊が一戦やりやったことがあったらしい。
 それにしても『ずっこけ傭兵団』とは不名誉な呼び方をされるツクモさんの組織は大丈夫なのだろうか。



「あん時のクルジュナは無表情で敵を淡々と撃ち抜く子供だったんだよなぁ……隣でいた俺がちょっと恐怖したほどだ」
「ちょ、サイラス……む、昔のことはもう……言わないでよ……」

(無表情で淡々と弓で射るクルジュナ……)

 残念ながら氷のような無表情な顔で敵を射抜き続けている姿を容易に想像できてしまうのが怖い。
 しかも戦争中ということは、クルジュナが今の俺より小さい頃の話だろう。



「ね、ねぇユキ、私後ろから撃たれたりしない?」
「死んでないなら俺が治せるから」

「おかしいよねっ!? おかしくないっ? どーして撃たれる前提なのさ! 座長なら止めてよぉー、ほらすっごいゴミを見るような目で見てくるんだけどあの子」

 ヴァルが俺の背中へと隠れるが、人を指差すのはやめておけと言いたい。
 ついでにサイラスとクルジュナには、ヴァルは『ルミノックス』には入ったばかりだということも併せて伝えておいた。



「それよりツクモさんまだ来ないのかな」

「まだ来ないというか、今頃宿のベッドの下で泣いているんじゃない? ユキがあんなことするから」
「いちいち火に油を……まぁいいか、とりあえず『荒野の星』から『ルミノックス』に正式な依頼をしたい。目標は道化商会ジョクラトルのメンバーの捜索と逮捕。俺たちに連絡でもいいよ。前金で五百であとは成功報酬でどう?」

 エイミーにお願いして、ヴァルたちへの依頼内容を羊皮紙に書いていってもらう。
 魔技のおかげもあり、文字は読めるようになったが未だに文字を書けないのだ。
 自分のサインだけはなんとか書けるようになったので、エイミーに渡された羊皮紙にサインを書いて丸めヴァルへと手渡す。



「隊長も問題ないって言ってたし私は大丈夫。むしろ良すぎる条件なんだけどいいの?」
「俺たちがそれに全力を尽くすと、街のみんなを笑顔にするっていう表の仕事が出来なくなるからね」

 なにはともあれ『荒野の星』の方針が決まったところで、全員でこの先の予定を考える。
 
「とりあえずどうしよっか。このまま首都の周囲からあたってみる?」

 せっかくエイスティン国の首都に居ることだし、国内の情報を仕入れるならここが一番集まりそうだ。



「でもユキ、この街なら国軍でなんとかなると思うよ。何しろお膝元だし」
「確かにクルジュナの言う通りだなぁ……」

 そりゃそうかと納得してしまう。
 俺たちは国軍が居ると不自然な場所の調査ということを考えるともっと田舎とか、そういう感じのほうが良い気がする。

「あ、でもせっかく首都に来たんだし歌の披露してみたいかも」
「そういえばそうだったね」

 『荒野の星』の公演はアペンドの街で生き残った皆を励ますためにやったのが最後だ。
 その前にやったローシアの街での公演は最後の一回が例の伯爵のせいで中止になった。
 アイナとエイミーはせっかくの機会だし、歌を披露してみたいという。

 確かにそれも良い考えだなと思い、皆から前回エイスティンでやった公演内容を教えてもらうと基本的にローシアでやっていたのと同じだった。
 今回はそれに歌を追加する形になるだろう。



「ふむ、では俺はクルジュナとアイリス、俺と一緒に情報屋を回るか?」
「良いけど、サイラスが動くと目立たない?」
「なぁに、いつもの感じでなんとかなるだろうよ」

 サイラスとクルジュナは馴染みの情報屋が何人かいるらしく、公演の告知ついでに回ってくれるらしい。

「じゃ、今回はハンナたちにも動いてもらおうかな」
「それじゃあ、私も買い物ついでに噂集めだね」

 アイリスとヘレス、ハンナは本屋巡りをしながら知り合いの情報通に聞き込みをしてくれるそうだ。
 リーチェは食材仕入れのついでに井戸端会議からの情報集めと、いつも情報収集のときはこういうパターンらしい。



「悪いんだけれど、ユキはお城へ広場の利用申請お願いできる?」
「わかった。アイナとエイミーも来てもらって良い?」
「はーい」

 残った俺とアイナ、エイミーはお城へ行って舞台をするため広場の利用申請。
 これはある程度お金を払い許可をもらうらしいのだが、国の方から警備のための兵士を出してくれるらしい。

「前回もアイナが行ってくれたから、ユキはサインだけすれば良いはずだ」
「了解。じゃあ、さっと行こうか」
「あ、ユキ……」

 一旦解散と言うところでヴァルに引き止められた。

「あの……私も……」

 珍しくもじもじとした様子で言い淀むヴァルを見て、ヴァルの言いたいことを思い出した。

「あ、ごめん忘れるところだった。アイナ、エイミー、ケレス……あとリーチェもお願いがあるんだけど」
「どうしたの?」
「はいはーい」
「んー? 私も?」

「四人とヴァルを加えた五人で一曲披露してほしいんだ」

「えっ?」
「ヴァルも入るの? 歌えるの?」
「わっ、私は無理だよぉ……歌なんて恥ずかしい……」

「今回は『荒野の星』では初めて正式な歌の披露になるんだ。そこで俺はこの五人で歌ってほしいと思ってる」

 アイナとエイミー、ケレスは旅の間もかなり練習をしてきたし、ヴァルに至っては元の歌を知っているのだ。
 あとはもう一人メンバーが入ってもらえればパート分けもかなり楽に出来るのだ。

 クルジュナやアイリスやハンナ、ヘレスでも良いのだが、俺はリーチェにお願いしたいと思った。

 ぶっちゃけ見た目も可愛いと言うこともあるが、料理の間にいつもアイナたちの練習している歌を口ずさんでいること、もっとみんなの役に立ちたいとこぼしていたことを考えると、今回は彼女にお願いしたいのだ。



(そう考えると、クルジュナとアイリスでの ペアってのもアリだな)

「うぅ……座長命令?」
「あまりこう言い方はしたくないけど、今回は座長命令。リーチェに一翼を任せたい」

「う――…………わ、わかった……がっ、頑張ってみる」

 リーチェは自分の両耳を引っ張って目を隠すようにしながらも了承してくれた。

「アイナとエイミーは前回から練習している歌もお願いね。五人で歌う歌はヴァルから教えてもらう」

「へっ? わっ、私っ?」
「ん? 自信がないの?」
「べっ、べつにそんなわけ……ほら、ユキたちの舞台なのに部外者の私が口出しするなんて……」

 ヴァルがギュッと胸元で両手を握り、いつもの遠慮のない感じはどうしたと言いたいほどの気遅れた声。

「私はいいわよ。ユキが良いなら」
「私も大丈夫よヴァル」
「変な歌じゃないでしょうね? ユキに恥かかせないなら、任されてる以上全力でやるわよ」
「わっ、私っ、初めてだからゆっくり教えてほしーな……」

 アイナ、エイミー、ケレスにリーチェは問題なさそうなのでこのまま行こう。
 今日申請して明日の午前中に告知。
 明日の午後と明後日の二回公演という感じでどうだろうか。



「じゃ、あまり練習時間取れないから城から戻ったらすぐに練習しよう。ヴァルとリーチェは一旦いつもの服でいいよね」

 流石に今からは間に合わないだろうから、明日の公演はチグハグな衣装になってしまうが仕方がない。

「ではみんな、よろしくお願いします! ヴァルは一旦ツクモさんに報告しといてね」

 俺が締めくくり、全員で行動開始となった。
 俺とアイナ、エイミーは城へ。
 クルジュナとサイラスは情報屋。
 アイリスとハンナ、ヘレスは本屋、リーチェは買い物へ行きつつ情報収集。
 ヴァルはツクモさんへ報告。

 いつもの大道芸のほうはクルジュナに仕切りをお願いし、解散となった。
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