雪の都に華が咲く

八万岬 海

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05-Chorus

078話-魚料理とは

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 無事に講演のための広場利用申請を終わらせた俺とアイナとエイミーは少し遅い昼食を取ることにした。

「ユキ、なに食べたい?」
「俺は二人に合わせるけど……そうだなぁ……魚とか?」

 聞かれてから思い出してみると、この世界に来て魚を食べていないことに気づいた。

「お魚……」
「……私は食べられるけれど……ユキすごいね」



 アイナがニヤリと笑いながら不穏なことを言う。
 魚が食べたいというのが不穏とはどういうことだ?

「え、どういうこと? 魚って川とか海に泳いでいるやつだよね」
「…………他に魚っているの? 飛んでるとか?」

「いやいや、それじゃあ認識はあってるけれど、アイナとエイミーの魚料理ってどんなの?」

「魚を煮てぐちゃぐちゃにしたやつ」
「アイナ……言い方がなんだか気持ち悪いんだけど」
「ぐちゃぐちゃに……って」


 それだけを聞くとツナフレークのようなイメージなんだけれど、二人の反応から察するにゲテモノ料理という可能性もある。



「えっと、じゃあ肉でいいんだけど魚料理ってどんなのかチラ見してみたい」

「じゃあ、エイミーあそこ行こっか」
「リサさんのお店?」
「そーそー! 途中にお魚屋さんもあるし」

 そう言ってアイナの案内で東地区へと向かって三人で歩くこと十分程度。
 
 俺はエイミーに手を引かれるがまま首都の街並みにキョロキョロしながら歩いていただけなのだが、お店の雰囲気とかさすがに国の中心というだけあってお洒落な店が多かった。
 服屋なんて、店先にマネキンみたいなのがあるし着ているものもジーパンとシャツに見えるものやスカートとキャミソールと、建物の雰囲気を無視すれば異世界感があまりない。

「……チグハグだよなぁ」

 ヴァルに聞いていた人やヴァルが原因なのだろうと察する。
 そういう意味では過ごしやすい文化ではあるのだが……。




「なんでアレが魚料理なんだよ……おかしいだろ」

 目的の店に行く途中にアイナに言われた店先からチラリと店内を見たら、若干吐き気を催すような料理が並んでいた。

 魚をそのまま鍋に放り込んでフォークで潰しながら煮た料理。
 もはや料理と言っていいのかも判らないもので、カエルのような亜人が数人店内で食べていただけだった。

 聞くと、お腹を壊す人も多いそうだ。
 そりゃそうだ。

「普通に焼くとかいう発想がなんで……肉は焼いてるのにおかしくない?」
「さぁ……言われてみれば焼いた魚って美味しそうだね」

 アイナが「んー」と指先を唇に当てる。
 焼き魚を想像しているのだろうか、そんな時折見せる仕草が可愛い。

「今度俺がちゃんとしたおいしい魚料理作る。リーチェにも教えるよ……」

「ユキの手料理? やったっ」
「わーユキが美味しいって言うなら食べたいな! 楽しみっ」

 俺は若干げっそりとしながら、目的の店へと到着する。
 ファミレスと飲み屋を足したような外観――ローシアの街で打ち上げをしたようなイメージの店である。



「すいませーん! 三人です!」

 アイナが扉を開き店員に人数を告げると、三人で一番奥のテーブルへと案内される。

「あ、アイナちゃんじゃん! 久しぶりー! 二ヶ月ぶりぐらい?」
「リサ、元気そうだね!」
「リサさん、お久しぶりです」

 店員の一人がアイナとエイミーに親しげに話しかけてくる。

 ショートカットというかボブカットぐらいの髪型。
 少し垂れ目でアイナと同じくらいの身長だろうか。
 胸は……普通?

 普段お胸の大きな女の子たちが多すぎて普通がどれぐらいか忘れそうになる。

(リーチェぐらいかな)

 店の制服であろう白のシャツと黒のスカートを身につけた二十歳になるかならないかぐらいの女の子だった。
 気になることといえば、頭の上に生えた耳と腰元から覗く茶色の尻尾。先の方に白い縞が入っている。

(……茶トラの猫……かな)

「およよ? そっちの子は新人さん? おねーさんも可愛いね!」
「あっ……ありがとうございます」

 なんだか久しぶりに言われた気がする……いや昨日お城のメイドのミラにも言われたことを思い出した。

「この子、男の子だよリサ」
「えっ、そうなの? ごめんっ!」
「あはは、もう慣れましたから大丈夫ですよ」

「ほー……そう思うとすっごい……美人? じゃないか、美形? おっきくなったら奥さんいっぱい迎え入れそうな雰囲気ね」

「そ、そう思う?」
「あ……あぁ……あー、なるほどねぇーそっかそっか! アイナちゃんもついに! おめでとう」

 アイナとリサさんはこうやって見ていると仲のいい友達同士という雰囲気だ。
 やはり同族同士は仲が良いのだろうか。

「しかしあのアイナちゃんが……はー……ユキ君だっけ? 君すごいねぇ」
「な、なにが? ちょっとリサ……」

 アイナがリサさんが言おうとしていることを止めようとしているのか、席を立ったアイナがリサさんの肩を押さえつける。



「ふふっ、はいはい、男になんて触れたくもないって言ってたアイナちゃんがねぇ」

「……そうなの?」
「う……だ、だって……座長とサイラスは良いけど……他の人は……なんかやだ……胸ばかり見てくるし」

 おしぼりを握り締めながら、何かやなことを思い出したのか、アイナの目つきが徐々に座ってくる。

「まぁまぁ、アイナちゃん。じゃあいつもの三人前で良い?」
「私はそれで……アイナもユキもおすすめでいいかな?」

「うん、みんなと同じでいいよ」
「りょーかい!」

 手をひらひらと振りながら、去ってくるリサさんをアイナが半眼を向けているがあっさりと流されている。




「はぁ……エイミー私そんなわかりやすかった?」
「わかりやすい……かなぁ……幸せだーって言う感じは全身から溢れ出てるけど」

「そ、そう……なの? 私そんなの意識したことないんだけれど」

 アイナが頭を抱えテーブルへ突っ伏してしまう。

 一応、アイナからしてみればファンには『クール&ビューティ』というイメージを持たれており、本人の性格も普段は元気系だが戦いになると冷静沈着で切り込み隊長系だ。
 自然とキリッとした女の子として振る舞っていたのだろう。



「……最近ユキにデレデレなのは誰が見てもわかると思う」
「ど、どの辺がっ!?」
「何しててもチラチラとユキのほうへ耳が向いてるし、尻尾をユキの服とか太ももに当ててるし」

「――っ!」

 確かに尻尾はしょっちゅう俺の腰とか肘とか、足元に巻きついてくる。

 最初は癖かと思っていたが、所有権の主張をしているだけだった。
 耳は全然気づかなかったがエイミーよくそんな事に気付いたなと思う。



「アイナ……バレてないと思ってたの?」
「…………思ってた」

 あまり普段は見かけないエイミーが優勢のバトルはこのままエイミーに軍配が上がりそうなのだが……。

「…………アイナもそうだけど、エイミーも耳でバレバレだよ」
「――っ!?」

 アイナのへにょっと垂れてしまった耳を見ていると少しかわいそうだったので、俺は両成敗という形に持ち込んだのだった。
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