ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした~剣も魔法も使えないのでとりあえず近づいて殴ることにする

八万岬 海

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3章 ― 急追するモノ

第48話-提案②

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「ほ、本当にこの家にお世話になってもいいのでしょうか」

 私の新居というか……未だに私も自分の家だとは思えないんだけれど、その家の玄関前でシオンは鞄をドサリと落とし、ぽかんとしている。

「私としては、住み込みでメイドを雇うつもりだったから一石二鳥なんだけど」

――――――――――――――――――――

 シオンとその家族に、家のメイドとして住み込みで働いてもらえないかと提案をした。教会から身を隠す意味でも、シオンの心の平穏の意味でも、お金稼ぎという意味でも、まさに一石三鳥の案だった。


 彼女のメンタル面というか、性格が全く戦闘向きでは無いのだが全く知らない人間を新しく雇うより、元教会の人間だけれど知らない人よりシオンのほうが安心できるかなと思ったのだ。

ヴァルとも顔見知りのようだし、彼女は諜報暗殺に特化した部隊の出身だ。強盗や空き巣の相手なら問題なくこなしてくれるだろう。



「お母さんと妹さんだっけ? いま宿に住んでいるなら一緒に働いてもらえるか聞いてみてね」

「……何から何まで……ありがとう、ございますっ……!!」

 シオンはガバっと頭を下げる。

「あ、それとヴァルも家のことをお願いしているから協力してあげてね」

「はいっ! よろしくおねがいします」

「シオンさん、よろしくお願いいたします」

「はっ、私のことはシオンとお呼びください」

「ふふっ、では私のこともヴァルと」

「そ、それは流石に……」

「私はもう教会を抜けて、ただの市民でヨルの家のメイドですわ」

 ヴァルが何か言っているが、私はヴァルをメイドとして雇ったつもりはない。精々同居人というか、居候ぐらいにしか考えていなかったのに、ヴァルはすっかりメイド服を着て働く気満々のようだった。

ヴァルの給金のことも考えなきゃ――。



「しょ、承知しました、ではヴァルさんと……」

「それはだめっ!」

あっ、ヤバそうなネーミングについつい横から口出ししてしまった。



「ん? ヨルどうしたの?」

ヴァルが首をコテンと傾げて見つめてくる。

(ヴァルもやっぱりあざとい……どうしたらこんな女らしい仕草ができるんだろう)

「あっ、えぇっと、シオン? とりあえず最初は慣れないかも知れないけど世間の目をごまかすためにヴァルって呼んであげて」

「は、はい……承知しました」

 ヴァルもシオンも私の勢いにはてなマークを浮かべていたが、納得してくれたようだ。よかった。流石に女の子に殺虫剤的な呼び名は可愛そうだ。この世界にそんなものは無いけれど私の心情的に許せない。




「でもシオンが居てくれると心強いです」

「そんな私など……」

「ヴァル、シオンに部屋に案内してあげてほしいんだけど、あとでヴァルのお母さんと妹さんも来るから大きい部屋か小さめの部屋二つあてがってくれる?」

「はい、二階の階段側の部屋が広くて中も間仕切りができるので丁度いいかと」

「わかったわ、じゃぁ私はちょっと出かけてくるからお願いしてもいい? もし帰りが遅かったら適当に食事しておいてくれてもいいから」

「はい!」

「ヨル様、改めてありがとうございましたっ!」

 シオンは相変わらずの堅苦しさだけれど、さっき再開した時のような悲壮さは抜けてきているし、しばらくヴァルと一緒に働けばの調子を取り戻してくれるかな。



(まてよ? あの悲壮な感じの性格って私とぷーちゃんが散々脅したから?)



 とりあえずあまり考えないようにしようと思う。



――――――――――――――――――――



「侍女の服でございますか?」

「はい、こんな感じのデザインの服が無いかなと思いまして」

 結局シオンとヴァルを家に送り届けて、改めてエンポロスさんの店まで来てヴァルやシオンたちに着てもらうメイド服が無いか聞いてみた。

 この世界でメイドさんというのを見かけたことは無いんだけれど、ヴェルはそれっぽい服を着ていた。メイドさんとか女中さんとか侍女服はあるはず。



(だって折角豪邸を手に入れて、働いてくれる女の子が居るならメイド服着てもらいたいじゃない! なにこれファンタジーっぽい!)

 完全な私の趣味だった。



「このような黒のワンピースタイプにエプロンというのでしたら取り扱いがございますが、ご希望とは大きくデザインが違っているので、手直しさせていただき、袖周りと丈も……ふむ、やはり作り直したほうが早いですね」

「そうですか……時間ってかかります?」

「試作として五着程度でしたら、デザイン込で三日程頂ければ対応いたします」


 エンポロスさんはどうやら全力でメイド服作りを手伝ってくれるようだ。



「ヨルさん、その代わりお願いが……」

 あ、これはいつものやつだなと思いつつ、一応「なんですか?」と聞いてみる。

「こちらの仕上がったデザインですが、少し改造して私共で販売させていただいても?」

「あはは、やっぱりそう来ると思ってました。私は問題有りませんし、デザインもそのままでいいですよ」

「それは敢えて変えさせていただきます。侍女に同じデザインの服装をさせるのは各貴族家、それぞれオリジナリティを求めている家も多いですので」


 なるほどそういうものか……そういうものかな?
 でもメイド服にオリジナル性ってなかなか難しいと思うんだけど、そこはそれぞれの家長のこだわりがあるのだろうな……。



「じゃぁこのホワイトブリムもお願いしてもいいでしょうか」

「なるほどこのヘッドバンドはホワイトブリムというのですね」

 カチューシャというか、ヘッドバンドやアリスバンド的なものも露店で見かけたことはあったけれど、櫛状になったものやレースをあしらったカチューシャも見かけたことが無いので作ってもらうことにした。


「レース部分は完全に、服に合わさえるデザインで。それと、次いでにこういうヘアピンって作って貰うことってできますか?」

 私は目の前に広げた羊皮紙にヘアピンのイメージ図を幾つか描いてエンポロスさんに見せる。

「これは……どういう素材で作ればよろしいのでしょうか」


 以前この店で見ていたヘアピンはほとんどが棒状のものか、U型のものしかなかった。露店で見かけたのも同じ様なものだった。

 髪の毛が短い人でも簡単に髪を留められるようにアメピン的なものが欲しいなと探し回っていたんだけど結局見つからなかった。


「これぐらいのサイズなのですが、こう、こういう形になっていて材質はスチール……鉄か銅で作れないかなと」

「なるほどかなり小さいものですね。用途としては前髪などを抑えるためものでしょうか?」

 さすが凄腕商人。アメピンどころかヘアピンも必要のないのに、ちゃんと用途を理解してくれた。


「そんな感じです、私だとこの前髪をこう留めておける感じですね」


「承知しました。そちらも装飾品をお願いしている職人に確認して試作品に取り掛からせていただきます」

「何から何までありがとうございます。試作品のお代はお支払いしますので金額はあとで教えて下さい」

「いいえ、結構です……と言いたいところですが、ヨルさんが気を使われると思いますので、あとで計算しておきます」

 やっぱりこの人はいい人だなー。
 長く商人やってるとこういう気の使い方ができるようになるのかな。

(最近、困ったときのエンポロスさんになっちゃってるなーでも欲しい物作ってくれそうなんだもんなー)


――――――――――――――――――――


 冷たい冬の風を耳と尻尾に感じながら、すっかり歩き慣れてしまった大通りを歩きながら、これからのことを考える。

(シオンの家族がきて、養わなきゃならないのが合計三人とアサね……おおっぴらに外出が出来ない娘ばっかり増えていくわ……)


 ヴァルはこの町で顔が売れすぎているし、シオンは逆に裏方の仕事を抜けた身し、監視はつくだろうな……。

 やっぱりアサに買い出し要因になってもらうしか無いな……近衛騎士団長だけど。


(やっぱり怪しげなことをしている教会の内部事情を暴くのが手っ取り早いんだけど……成るようにしか成らないかなー……)

『ヤリますか?』

「まだヤリません」

『でもアネさん、この先どうするんで?』

「ほんとにねー……まったり修行の旅じゃなかったっけ私」


 結局、教会も含めて今の状況は事が大きくなりすぎて、何かあっても私一人では限界があるだろうし、国同士の外交にお任せするとしよう。

 幸いにもお金はそれなりに持っているから、一年ぐらい余裕で食べていくことはできるから王都を色々観光しつつゴロゴロするのもアリかもなー。

 あれ? 私が旅に出たらあの家ってヴァルとシオンとその家族に、たまに来るアサで生活するのかー……すごいメンツだけどダイジョブかな……。

『アサちゃんもヴァルちゃんも、問題ないと思いますぜ。シオンのやつは未だによくわかりませんが』

「この間から思ってたんだけれど、ぷーちゃんってヴァルとアサの事、高く買っているのね。あの日の別れ際にもなんだか親しそうだったし」

『あれっ!? もしやアネさん!?』

「なに?」

『これ、もしかして嫉妬ってやつ――――ぐべら!』

リュックを背負ったまま後ろ受け身の要領で石畳に押しつぶしてみた。
――うん、通行人がビクッとした顔でこっちを見ていたけれど気にしない。気にしたら負けだ。

「で、結局なんでそんなにいきなり仲がいいの? ぷーちゃん一応大悪魔でしょ? そんなに人間に対して心許してていいの?」

『ヴァーラルちゃんのことはわかりやせんが、アサちゃんとフレイヤちゃんでしたらアネさんと一緒ですからね』

「はっ? 一緒って何が?」

『いえ、ですからアネさんと同じ……じゃないですが、彼女は神人ぞぐっっ――!!』

「――あっ!? びっくりして握りつぶしちゃった」

『――……』

(えっ? 神人族ってなんだっけ? 神?)

思っても居なかったぷーちゃんの一言に、私は寒空の大通りで立ち尽くしてしまった。
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