ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした~剣も魔法も使えないのでとりあえず近づいて殴ることにする

八万岬 海

文字の大きさ
50 / 73
3章 ― 急追するモノ

第49話-やっぱり行こう

しおりを挟む
『アネさん、さっきのは酷ぇです』

「ごめん、ごめん、あまりにもびっくりしちゃって」

 王都を東西に分断する大通り。

 ここは飲食店や武器防具屋などが立ち並ぶ商店通りとなっており、冬に差し掛かった時期にもかかわらず露店商もチラホラと見える。

 ヨルは露店で買った、謎のフルーツジュースを片手に歩いていた。



「それで、アサとフレイアが神人族ってのは本当なの?」

『へい、具体的には子孫というか、そんな感じでさぁ』

「つまり神の子孫……? 人間との子供……ってことなのね」

『おそらくは……でも本人は知らないと思いやす』

「言われてみれば、二人とも魔法が苦手だって言ってたから私と同じ理由なんだろうな」

『へい、アネさんに比べると微量ですが神力が感じられやした』

「ぷーちゃんって、悪魔なのに神力をもっている子と親しくするのって変わっているよね」

『そりゃぁもう、アネさんに殴られ続けてやすし』

「ごめん、よくわからない」


 とりあえずフレイアとアサについては気にしないようにしておこうとヨルは心に決める。

 謎のジュースが入ってた謎の入れ物は、ゴミとして捨てていいと言われていたのでヨルは近くのゴミ箱に放り入れ、そのまま西門近くにある傭兵ギルドへと向かった。


 ――――――――――――――――――――


 通行人に場所を聞きながら西門までやってきたヨル。
 王都の傭兵ギルドだけあってその建物は確かに誰に聞いても知っているほど大きかった。

 先日まで泊まっていたホテルと同じ様なバロック様式の建物。石造りの重厚な建物で壁や柱には多くの装飾が彫り込まれている。

 王都で見かける建物は基本石造りなのだがルネッサンス風というか、シンプルな物が多い。

 そんな中、教会の大聖堂やこの建物など重要な位置づけの建物は、やたらめったら派手派手しい感じなものが多かった。

 ヨルは入り口の階段を上がり、傭兵ギルドの玄関扉を開ける。

「いらっしゃいませ」

「すいません、私ヨルと申します。王都から北のシンドリに向かう地図とかありますか?」

 ヨルはまっすぐカウンターに向かい職員の女性にメンバー証を見せる。
 王都から北側の地図が無いか訪ねたのだが、詳細な地図は用意されていないと、やんわり断られた。

「二階の資料室には地図がございますので、そちらで閲覧してお手持ちの紙に書き写していただく分については問題ありませんよ」

 頭からにょっきり生えた耳をピコピコさせながら受付嬢が資料室の場所をヨルに伝える。

 ヨルはその受付嬢の名札を見ると「アイリーン」と書かれていた。

 名札の傾斜からかなり立派なものをお持ちだなと思いながらアイリーンの顎から口元、目元、そして最後に頭に視線を移す。

(犬……じゃなくて狐? 大きい耳、可愛いなー!)

「触りたい……」

「えっ?」

「あっ……ごめんなさい、考えていたセリフが口からでちゃいました」

 顔を真赤にさせながらヨルは両手を振って謝るが、意外にも職員の女性は苦笑いしながら「どうぞ」と頭をヨルに差し出してきた。

「あ……っと、なんかすいません」

 ヨルは苦笑いを浮かべながらも、ご厚意を無駄にしてはいけないと恐る恐る頭の耳に触れる。金髪の耳が左右に傾き、触れた瞬間にピクッと動く。

(……あっ、意外にしっかりしてる)

 ヨルが周りにふと視線を走らせると、両隣の職員や依頼を受けに来ている様子の人たちがチラチラとこちらを伺っているのが見えた。

 中には泣きそうな顔でこちらを伺っている人が数人居るのが見えて、ヨルが頭に疑問符を浮かべる。

「あ、お返しじゃないですが、触ります?」

 そのまま数秒ほど撫でさせてもらったヨルは、折角だしお返しにと聞いてみた。

「えっ……いいんですかっ!!」

 カウンターに両手をついて乗り出してくる受付嬢の勢いに若干後ずさるヨル。
 その勢いに飲まれながらも、おずおずと頭を差し出す。

「しっ、失礼します……」

 受付嬢が本当に恐る恐るという感じで手を伸ばしてきてヨルの頭にそっと細く白い手を置く。そしてサワサワとヨルの頭と両耳を撫でる。

(そう言えば私、頭を他人に触らせたこと無い? 尻尾は……ヴァルに散々弄ばれてたかな)


 ヨルは自分の頭を撫でられることに意外な気持ちよさを感じつつ、そんな事を考える。アイリーンは耳の間を触りつつ、そのまま片耳に手を這わせて親指で耳をふにふにと撫でて来る。



(アネさん! あっしにもあとで触らせてくだせぇ! その後死んでもダイジョブでさぁ!)

(……先に死なせて、触らせないようにするよ?)

(…………それでも!)

(わかった……こんどね)

 何がサタナキアにそうさせるのか、数秒間考えてから死んでもいいから触りたいと力説する。最近、リュックごとお仕置き行為を続けている自覚があるヨルはついに折れてしまった。



「マジかよ……あいつアイリーン様と撫で合いしてるぞ」
「アイリーン様が手を伸ばして、デスクロー以外の事されてるやつ初めて見た」
「見ろよアイリーン様の見たこともない目つき……いつもはゴミを見るような目しか観たことがないのに」
「あんな表情が見れるなんて、俺明日死ぬのかも」
「それよりあの桃色のセリアンスロープってもしかして猫か? あの尻尾とか」
「まさか……猫系は絶滅したって聞いてるぞ」




(さっきから外野がやかましい……! てかアイリーン"様"って何?)

「あの…っ」


 色々なことが気になって、頭を撫でられている事を半分忘れていたヨルは受付嬢アイリーンの声で目を開ける。アイリーンは目がトロンとなっており、やたらと艶めかしい表情になっている。

 あんなにピンと立っていた狐耳も垂れ下がってしまっている。

「すいません、猫のセリアンスロープの方なんて初めてお会いしたのでつい」

「いえ、気にしないでください。元はと言えば私から言い出しちゃったので……アイリーンさんって狐系なんですか?」

「えぇ、テウメソス家といって、この辺りじゃ有名なセリアンスロープの一族なのよ」

「へぇー、やっぱりテーバイ出身なんですか?」

「えっ? よく知ってるのね。随分と昔はテーバイに住んでいたそうよ。でもそのあたりの話って知っている人殆どいないのに。もしかしてヨルさんってテーバイ出身なの?」

「あっ……ええっと、私はここから南のエルツ大樹海にあるケルムトっていう小さな村出身です。それより二階の資料室は使っても?」

 ヨルはつい口走ってしまった事に、しまったと思い話題を代える。

「あっごめんなさい、利用登録はしておくのでどうぞ。本とかもし傷つけちゃったら必ず言ってくださいね」

「わかりました。アイリーンさんありがとうございます」

「こちらこそ、突然ごめんね。今度またゆっくりお話しましょう」






『アネさん……やっぱりあれテウメソスの名残なんですかい?』

「わかんない……テウメソスって言われたからつい聞いちゃったけど、ホントにその通りだったからちょっとびっくりした」

 ヨルが知っているテウメソスは狐の姿をした神獣――というより幻獣のような存在だった。絶対的な力で人々を蹂躙し、神々に討伐されそうになるとスルリと逃げて誰にも捕まえることが出来ないというテウメソス。

 彼女が本拠地としていたのがテーパイという大森林だったのだ。

 今もこの大陸に同じ地名が残っているとは思っていなかったヨルは、咄嗟に話題を替えそそくさと二階に向かった。


 ――――――――――――――――――――


 二階にある資料室で、王都周辺の地図を確認するヨル。

 しかし、そこまで詳細なものは見つからず、大陸の大体の形とそれぞれの都市がどの辺りにあるのかが表記されているものしか無かった。

「この地図と、あとは魔獣関連の情報と……」

 ヨルは必要な情報を片っ端から引っ張り出して机の上に並べる。そこから必要な情報を手持ちの手帳に書き写していき、必要のない本はもとに戻す。


「最近、王都から北に離れると盗賊とか人攫いが多いみたいね……依頼ボードにも注意喚起とか報奨金の張り紙があったし……」



 ガラムの冒険者ギルドや傭兵ギルドでは見当たらなかった盗賊退治の依頼や人攫いや行方不明者の情報がきちんと張り出されており、資料室に最新情報だけをまとめたファイルにある情報も合わせてヨルは確認していく。



「やっぱり、魔法使いが多い……気がする? ん? これって」

 ヨルが一つの記事に目を留めた。
 特になんでも無いような記事だったが、気になることが書かれていた。

「貿易都市シンドリ近くの町からエトーナ火山へ地質調査に向かったティエラ教会聖騎士団が全員行方不明? 死亡したと思われる?」

 行方不明者を一覧で記載している記事だったのだが、その中に数行だけで書かれていてた情報はヨルにとって衝撃の内容だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...