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3章 ― 急追するモノ
第50話-やっぱり行こう②
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「やっぱりヴァルには伝えたほうが良いかな……」
ヨルは記事を元の棚に戻し、必死に食事へ誘ってくるアイリーンになんとか断りを入れ、ギルドを後にした。
彼女はヨルが去り際にカウンターから出てきて引き止めたので、ヨルはアイリーンの腰から生えていたふっさふさの尻尾を両手で撫で回すと、彼女は腰が砕けてしまったようで、そのすきに慌ててギルドを後にしたのだった。
――――――――――――――――――――
貴族街の方へ続く閑静な石畳の通りを歩きながら、ヨルはサタナキアと今後のことについて話し合っていた。
「この寒い時期に北に向かうとか正気じゃないけれど、ねぇ」
『でもあのアルってやつのことが気になるんですよね』
「その言い方だと誤解されそうだけれど、私は元々行き先も決めていない旅人。それで知り合いが行方不明になったっていう記事を見つけたから様子を見に行こうって思っているだけ」
『へい、その辺りは十分承知しております』
「あの辺りは大した魔獣もでなさそうだし……というか王都に来るまでも大した魔獣と戦った記憶は無いわよね」
ヨルはここまでの旅路を思い出すが、本当に危なかった相手はペトラドラゴンぐらいしか思い浮かばなかった。
むしろ村の周りで戦っていた魔獣のほうがよほど手応えがあったのだった。
このままでは修行どころかただの放浪の旅になりそうだったので、強い敵とも戦いたいとヨルは考える。
今回の目的地について、ヨルは余り……というか、かなり考えたくなかったのだが、昔の記憶の通りならそれなり強い敵と戦えそうだった。
『アネさん、エトーナ火山ってのはもしかして、昔のエトナ火山のことですかねぇ?』
「今、それ必死に考えないようにしてたんだから」
エトーナ火山はこのヴェリール大陸の北端にある巨大火山で、歴史の本によると度々噴火を繰り返している活火山である。
その火山は遥か昔から存在しておりサタナキアの言う通り、昔は「エトナ火山」と呼ばれていた。
『……テュポーンの野郎をアネさんが火口に沈めましたよね』
「だってあいつ、ガイア叔母さんが一度だけでも息子に会ってくれっていうから会っただけなのに、勝手に私のことを自分のものだって言い出したのよ?」
『それだけでボコボコにされて火山に封じるなんて、あっしの場合どうなるんですかい……』
「だから一度魔界に封印したじゃない。百年ほどだけど。自力で帰ってくるんだもん」
『あぁ……確かにあれはヤバかったでさぁ……ヤバ過ぎて記憶から抹消されておりやした』
遥か昔、大地神ガイアの息子にして多数の幻獣や魔獣を従える暴虐の主と恐れられていたテュポーンは、山をも超える巨体と火を吐く蛇の頭を持つ神獣だった。
テュポーンは一つの大陸を手中に収めようとしていた時期に、突如表舞台からその姿を消したのだった。
その理由については、各地の歴史学者や神話学者が研究を続けているのだが未だ明らかになっておらず、魔界に落ちたとか、部下の幻獣に食い殺されたという説がある。
しかしその真実はサタナキアが言った通り、キレたヨルズがボコボコにした挙げ句、神鎖という神法で精製した「砕けることのない鎖」で簀巻きにしてエトナ火山へと蹴り落とし、無窮溶岩で尽きることのない溶岩を流し込んだのであった。
「でもまぁ私が近づくと確実にあいつに気づかれるわよね……ぷーちゃんにも神力がばれちゃうんだもん」
『あっしは眷属だったってのもあるでしょうが、気づかれやすかねぇ? あいつの部下の魔獣どもはちょっかい掛けてきそうですが』
「その前にまだ生きているのかっていう部分からだけどね……考えても無駄か。本人がまだ生きていたとしても、あそこからは出られないだろうし、精々眷属をけしかけるぐらいでしょ。とりあえず細かいことはシンドリに向かいながら考えよう」
『ちなみにテュポーンの嫁のエキドナは息子のオルトロスと再婚しやがりましたぜ』
「はぁぁっ? あの蛇女何考えてるの……まだ生きてたりするの?」
『例の終末戦争的なやつで神もかなり消滅したらしいですが、あっしはその頃は魔界に戻ってやしたので、今誰が生きているのかまでは」
ヴェルも生きていたし、結構あっちこっちに神々は居るだろうとヨルは考えつつ、テュポーンをお仕置きとして封印した時のエキドナの事を思い返す。
人の旦那を封印したのは申し訳なかったが、嫁がいるくせに私に手を出そうとしている時点で問題だとヨルは正当性を主張する。
『――この暴力岩女! おぼえてろー!』
蛇女が真っ赤な顔で、泣きながら捨て台詞を言っていたシーンだけなんとか思い出せたのだった。
「そんなことより、旅の準備って何か必要かな?」
『特にいらないんじゃないんですかい? 食料とあいさつ回りですかい?』
「あいさつ回りねぇ」
ヨルは家のメンツと、エンポロス、それにアサとフレイアの顔を思い浮かべる。
「フレイアとか、簡単に会えるわけないしアサに伝えておけばいいか」
――――――――――――――――――――
「ヨルなら直ぐに会えるはずだぞ?」
家に戻ったところで待ち構えていたアサに、フレイアには会えるのかと訪ねたら開口一番そのセリフが帰ってきたのだった。
「それはそうとヨル、なんだか人が増えている気がするんだけれど」
「あぁ、ええっと、メイドさん的なやつよ」
「なるほどメイドさん的なやつか」
ふーんといいながらアサが玄関ホールに集まった面々に視線を移す。
「ヨル様、この度はありがとうございました。こちらが母と妹です」
ヨルも初めて会ったが、シオンに似ていて真面目そうな二人だった。
シオンと同じ様な金髪をウェーブにした四十歳ぐらいの女性と、ヨルに似たショートカットの十五歳ぐらいの女の子。
「シオンの母のテコアと申します」
「妹のアリエルです」
二人して「よろしくお願いします」と少し緊張した面持ちで挨拶をする。
ヴァルはヨルの隣でニコニコしながら「よろしくね~」と手を振っている。
「こっちの子はヴァル……なんだっけ」
「ヴァーラル・レンノと申します。気軽にヴァルって呼んでくれると嬉しいな」
ヴァルは最近妙に明るくなっており、初めて会った人にも怖気づくことなく話をしている。
「で、こっちがアサ……アサヒナね。一応近衛騎士団だから怪しい人じゃないわ」
「一応……って、これでも団長なんだけど」
ヨルはクレームを入れてくるアサのことを軽く無視して、せっかく集まっているんだからと旅立つ件を伝えることにする。
「そういうわけで私、三日後から旅に出るから後のことはお願いします」
「「えぇぇっっ!?」」
アサとヴァルが驚いた声を出し、二人でヨルの肩をガシッと掴んでくる。
シオンたちはどういうことか解っていないような様子でオロオロしている。
「だから私すぐに旅に出るって言ってたじゃないっ……あぅ、ゆらさないでーー頭がガクガクする……」
「いや旅に出るのは聞いていたけれども! 引越し終わって三日で居なくなるって急すぎるだろ」
「そうですよ、ヨルと楽しい同棲……じゃなくて共同生活を楽しみにしていたのに!」
「仕方ないでしよー! アルが行方不明になったらいし」
「アルフォズル様がっ!?」
あっ、とヨルが思ってしまったときにはすでに遅し。言ってしまったものは仕方ないと、傭兵ギルドで見つけた記事のことをヴァルに伝える。
「私も行きたいです!」
案の定ヴァルは付いて来たがったのだが、ヨルが本当に危険だからと説得して、なんとか引き下がってくれたのだった。
「アサ、フレイアには挨拶した方が良いかな? お城とかあまり行きたく無いんだけれど」
「うーん、たぶん拗ねるだろうが、タイミングが良く無いので大丈夫だろう。私から伝えておくよ」
アサが言うには、緊急の外交問題やらなんやらで今は相当スケジュールが開かないらしく、フレイアには申し訳ないがアサから伝えておいてもらうことにした。
「じゃあそう言うことなんで、三日後ぐらいには出発するね」
「うぅ、分かりました、家のことは心配しないでください」
「私もちょくちょく顔を出してみんなの様子は見ておくよ」
「なんだか出会った時の記憶が無いのに、みんなに頼っちゃってごめんね」
「気にするな! 初めて会った時もヨルとは他人の気がしなかったからな! これは私が好きでやってる事だと思っててくれ」
ヨルはそんなアサヒナの顔をじっと見つめ、先程サタナキアに聞いた事を考える。
(おそらく彼女の子孫が神人族……ってことはフィンブルってのはその名残なのかな)
フィンブル――それはヨルが知っている知識では、友人の一人が使っていた神法の名前だった。
(――霜のベストラ。あの子が人に化けて人の世で暮らしていけるとは思えないんだけど)
当時人々から、「霜の巨人」と恐れられていたベストラだがヨルズとはそれなりに仲がよく、よく二人で遊んでいた関係だった。
ただベストラはヨル以上に感情的に成りやすく、それでいて冷酷な神だった。
そのためヨルはペストラが人間のフリをして人間と子を成して――というのが想像出来なかった。
「ヨル、どうした?」
アサヒナは急に黙ったヨルを不思議に思ってヨルの顔を覗き込む。
「いいえ、なんでもない」
「そっか、でも何か悩みがあるなら言ってくれよ」
「じゃぁお願いしようかな」
ヨルは誤魔化しついでにアサヒナに買い出しの件も頼み、今日のところは歓迎会兼お別れ会的な感じで全員でちょっぴり豪華な食事会をしようという話になった。
「ヨル……フォレストファングは結構な高級食材って知ってるか?」
「こっ、このキノコって実在したんですね……」
ヨルが巾着に入れていたあの森で大量に確保したキノコやらフォレストファングの肉やらを提供したのだが、それなりにお高いものだったらしく全員が恐る恐る手をつけるレベルだったようだ。
ヨルは記事を元の棚に戻し、必死に食事へ誘ってくるアイリーンになんとか断りを入れ、ギルドを後にした。
彼女はヨルが去り際にカウンターから出てきて引き止めたので、ヨルはアイリーンの腰から生えていたふっさふさの尻尾を両手で撫で回すと、彼女は腰が砕けてしまったようで、そのすきに慌ててギルドを後にしたのだった。
――――――――――――――――――――
貴族街の方へ続く閑静な石畳の通りを歩きながら、ヨルはサタナキアと今後のことについて話し合っていた。
「この寒い時期に北に向かうとか正気じゃないけれど、ねぇ」
『でもあのアルってやつのことが気になるんですよね』
「その言い方だと誤解されそうだけれど、私は元々行き先も決めていない旅人。それで知り合いが行方不明になったっていう記事を見つけたから様子を見に行こうって思っているだけ」
『へい、その辺りは十分承知しております』
「あの辺りは大した魔獣もでなさそうだし……というか王都に来るまでも大した魔獣と戦った記憶は無いわよね」
ヨルはここまでの旅路を思い出すが、本当に危なかった相手はペトラドラゴンぐらいしか思い浮かばなかった。
むしろ村の周りで戦っていた魔獣のほうがよほど手応えがあったのだった。
このままでは修行どころかただの放浪の旅になりそうだったので、強い敵とも戦いたいとヨルは考える。
今回の目的地について、ヨルは余り……というか、かなり考えたくなかったのだが、昔の記憶の通りならそれなり強い敵と戦えそうだった。
『アネさん、エトーナ火山ってのはもしかして、昔のエトナ火山のことですかねぇ?』
「今、それ必死に考えないようにしてたんだから」
エトーナ火山はこのヴェリール大陸の北端にある巨大火山で、歴史の本によると度々噴火を繰り返している活火山である。
その火山は遥か昔から存在しておりサタナキアの言う通り、昔は「エトナ火山」と呼ばれていた。
『……テュポーンの野郎をアネさんが火口に沈めましたよね』
「だってあいつ、ガイア叔母さんが一度だけでも息子に会ってくれっていうから会っただけなのに、勝手に私のことを自分のものだって言い出したのよ?」
『それだけでボコボコにされて火山に封じるなんて、あっしの場合どうなるんですかい……』
「だから一度魔界に封印したじゃない。百年ほどだけど。自力で帰ってくるんだもん」
『あぁ……確かにあれはヤバかったでさぁ……ヤバ過ぎて記憶から抹消されておりやした』
遥か昔、大地神ガイアの息子にして多数の幻獣や魔獣を従える暴虐の主と恐れられていたテュポーンは、山をも超える巨体と火を吐く蛇の頭を持つ神獣だった。
テュポーンは一つの大陸を手中に収めようとしていた時期に、突如表舞台からその姿を消したのだった。
その理由については、各地の歴史学者や神話学者が研究を続けているのだが未だ明らかになっておらず、魔界に落ちたとか、部下の幻獣に食い殺されたという説がある。
しかしその真実はサタナキアが言った通り、キレたヨルズがボコボコにした挙げ句、神鎖という神法で精製した「砕けることのない鎖」で簀巻きにしてエトナ火山へと蹴り落とし、無窮溶岩で尽きることのない溶岩を流し込んだのであった。
「でもまぁ私が近づくと確実にあいつに気づかれるわよね……ぷーちゃんにも神力がばれちゃうんだもん」
『あっしは眷属だったってのもあるでしょうが、気づかれやすかねぇ? あいつの部下の魔獣どもはちょっかい掛けてきそうですが』
「その前にまだ生きているのかっていう部分からだけどね……考えても無駄か。本人がまだ生きていたとしても、あそこからは出られないだろうし、精々眷属をけしかけるぐらいでしょ。とりあえず細かいことはシンドリに向かいながら考えよう」
『ちなみにテュポーンの嫁のエキドナは息子のオルトロスと再婚しやがりましたぜ』
「はぁぁっ? あの蛇女何考えてるの……まだ生きてたりするの?」
『例の終末戦争的なやつで神もかなり消滅したらしいですが、あっしはその頃は魔界に戻ってやしたので、今誰が生きているのかまでは」
ヴェルも生きていたし、結構あっちこっちに神々は居るだろうとヨルは考えつつ、テュポーンをお仕置きとして封印した時のエキドナの事を思い返す。
人の旦那を封印したのは申し訳なかったが、嫁がいるくせに私に手を出そうとしている時点で問題だとヨルは正当性を主張する。
『――この暴力岩女! おぼえてろー!』
蛇女が真っ赤な顔で、泣きながら捨て台詞を言っていたシーンだけなんとか思い出せたのだった。
「そんなことより、旅の準備って何か必要かな?」
『特にいらないんじゃないんですかい? 食料とあいさつ回りですかい?』
「あいさつ回りねぇ」
ヨルは家のメンツと、エンポロス、それにアサとフレイアの顔を思い浮かべる。
「フレイアとか、簡単に会えるわけないしアサに伝えておけばいいか」
――――――――――――――――――――
「ヨルなら直ぐに会えるはずだぞ?」
家に戻ったところで待ち構えていたアサに、フレイアには会えるのかと訪ねたら開口一番そのセリフが帰ってきたのだった。
「それはそうとヨル、なんだか人が増えている気がするんだけれど」
「あぁ、ええっと、メイドさん的なやつよ」
「なるほどメイドさん的なやつか」
ふーんといいながらアサが玄関ホールに集まった面々に視線を移す。
「ヨル様、この度はありがとうございました。こちらが母と妹です」
ヨルも初めて会ったが、シオンに似ていて真面目そうな二人だった。
シオンと同じ様な金髪をウェーブにした四十歳ぐらいの女性と、ヨルに似たショートカットの十五歳ぐらいの女の子。
「シオンの母のテコアと申します」
「妹のアリエルです」
二人して「よろしくお願いします」と少し緊張した面持ちで挨拶をする。
ヴァルはヨルの隣でニコニコしながら「よろしくね~」と手を振っている。
「こっちの子はヴァル……なんだっけ」
「ヴァーラル・レンノと申します。気軽にヴァルって呼んでくれると嬉しいな」
ヴァルは最近妙に明るくなっており、初めて会った人にも怖気づくことなく話をしている。
「で、こっちがアサ……アサヒナね。一応近衛騎士団だから怪しい人じゃないわ」
「一応……って、これでも団長なんだけど」
ヨルはクレームを入れてくるアサのことを軽く無視して、せっかく集まっているんだからと旅立つ件を伝えることにする。
「そういうわけで私、三日後から旅に出るから後のことはお願いします」
「「えぇぇっっ!?」」
アサとヴァルが驚いた声を出し、二人でヨルの肩をガシッと掴んでくる。
シオンたちはどういうことか解っていないような様子でオロオロしている。
「だから私すぐに旅に出るって言ってたじゃないっ……あぅ、ゆらさないでーー頭がガクガクする……」
「いや旅に出るのは聞いていたけれども! 引越し終わって三日で居なくなるって急すぎるだろ」
「そうですよ、ヨルと楽しい同棲……じゃなくて共同生活を楽しみにしていたのに!」
「仕方ないでしよー! アルが行方不明になったらいし」
「アルフォズル様がっ!?」
あっ、とヨルが思ってしまったときにはすでに遅し。言ってしまったものは仕方ないと、傭兵ギルドで見つけた記事のことをヴァルに伝える。
「私も行きたいです!」
案の定ヴァルは付いて来たがったのだが、ヨルが本当に危険だからと説得して、なんとか引き下がってくれたのだった。
「アサ、フレイアには挨拶した方が良いかな? お城とかあまり行きたく無いんだけれど」
「うーん、たぶん拗ねるだろうが、タイミングが良く無いので大丈夫だろう。私から伝えておくよ」
アサが言うには、緊急の外交問題やらなんやらで今は相当スケジュールが開かないらしく、フレイアには申し訳ないがアサから伝えておいてもらうことにした。
「じゃあそう言うことなんで、三日後ぐらいには出発するね」
「うぅ、分かりました、家のことは心配しないでください」
「私もちょくちょく顔を出してみんなの様子は見ておくよ」
「なんだか出会った時の記憶が無いのに、みんなに頼っちゃってごめんね」
「気にするな! 初めて会った時もヨルとは他人の気がしなかったからな! これは私が好きでやってる事だと思っててくれ」
ヨルはそんなアサヒナの顔をじっと見つめ、先程サタナキアに聞いた事を考える。
(おそらく彼女の子孫が神人族……ってことはフィンブルってのはその名残なのかな)
フィンブル――それはヨルが知っている知識では、友人の一人が使っていた神法の名前だった。
(――霜のベストラ。あの子が人に化けて人の世で暮らしていけるとは思えないんだけど)
当時人々から、「霜の巨人」と恐れられていたベストラだがヨルズとはそれなりに仲がよく、よく二人で遊んでいた関係だった。
ただベストラはヨル以上に感情的に成りやすく、それでいて冷酷な神だった。
そのためヨルはペストラが人間のフリをして人間と子を成して――というのが想像出来なかった。
「ヨル、どうした?」
アサヒナは急に黙ったヨルを不思議に思ってヨルの顔を覗き込む。
「いいえ、なんでもない」
「そっか、でも何か悩みがあるなら言ってくれよ」
「じゃぁお願いしようかな」
ヨルは誤魔化しついでにアサヒナに買い出しの件も頼み、今日のところは歓迎会兼お別れ会的な感じで全員でちょっぴり豪華な食事会をしようという話になった。
「ヨル……フォレストファングは結構な高級食材って知ってるか?」
「こっ、このキノコって実在したんですね……」
ヨルが巾着に入れていたあの森で大量に確保したキノコやらフォレストファングの肉やらを提供したのだが、それなりにお高いものだったらしく全員が恐る恐る手をつけるレベルだったようだ。
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