AGAIN

ゆー

文字の大きさ
6 / 18
☆本編☆

騎士団の無人島生活

しおりを挟む
   一日目

 前略、父さん、母さん。俺は今、騎士団の仲間と無人島にいます。


 俺たちは元々、イディア王国の危険区域の一角の定期調査をしていました。危険区域は、レベル違いの魔物が多く、立ち入り許可を貰えるのはごく少数の実力が認められた者だけ(しかも必ず二人以上で入ることが条件)です。俺たちは何事もなく、危険区域の調査を終えて、帰ろうとしていました。ええ、本当なら、普通に今頃は家でだらだらしていたはずなんです。
 しかし、そうはいかなかった。俺たちは予想もしていなかったのですが、危険区域にいつ描かれたのかわからない転送魔方陣があったのです。仲間のリュウトとコウキが気づかずにそれを踏んでしまい、俺は慌てて二人の手を掴みました。グイっと内側に引き寄せられる感覚と共にダイキとリクが俺たちを引っ張り上げようとしました。その時のダイキとリクの「あっ、やっちまった」という顔を今でも容易に思い出せる。
 その後のことはご想像の通りです。気づいたら島にいて、不幸なことに五人全員が転送されてしまいました。一人でも残っていれば、この状況を外に伝えることができたのに。
 全員で島を探索した結果、無人島だと発覚し、絶望しているのが今の状況だ。


 海が砂浜を叩く音が耳の中で反響する。砂浜には木で作ったデカいSOSの文字。
 砂浜で座っている俺らの表情は暗い。あと、沈黙が辛い。誰か喋ってくれ。
「どうしよう。今夜はノゾミが俺の好物作ってくれるって言ってたのに」
 コウキのぼやきが俺らの胸に重くのしかかる。
 ここは完全な無人島だ。しかも、わかっているのは無人島だと言うことだけで、島の名前もどの辺にある島なのかもわからない。助けがくるかどうかも怪しいくらいなのだ。
「三日も帰って来なければ、探してくれると思う」
「わからないぞ。よりによって、危険区域で行方不明だろ。死んだと思われて葬式やられているかも」
 希望論を口にした俺をダイキはダークに一蹴する。葬式やられているのは嫌だな。帰ったら幽霊扱いされてしまう。
「そもそもですよ。あの王国騎士団の中でも名実ともに先鋭が集められた一班が危険区域に出かけて、全員いなくなるって、普通に考えれば怖いことですよ。そんなに強い魔物がいるのか……?ってなりますし、そんな捜索依頼、受ける物好きがいるとは思えません。何も知らない人たちからすれば、死にに行くようなものですよ。……まぁ、つまり、助けは当てにならないってことです」
 こんな時でも自分たちを持ち上げることを忘れないリュウトって凄いな。自分で言うかな、あの王国騎士団の中でも名実ともに先鋭って。リュウトのそういうところも好きだけど。
「兄さんは俺のことを探してくれると思うが、期待はしない方がいいよな」
 ダイキの兄さんって、魔術管理部のタクマさんだっけ。確かに、あの人なら危険区域に入れるし、ダイキを可愛がっているから必死に探してそうだな。あ、でも、一人じゃ危険区域には入れないか……。
「危険区域の捜索には何人か入ると思うっすけど、無人島に飛ばされてるとは誰も思ってないっすよ」
 そりゃそうだよなぁ。危険区域から無人島にいるなんて信じられないよな。
「自力脱出か、何かしらの船が通るまでは、ここで暮らさざるを得ないということか」
 リクは前髪を掻き上げた。普段無表情なリクですら、焦りを露わにしている。そして、手を下ろしてボソッと「こんなことなら、あの子に好きだと言っとけば良かったな」と言った。
 そう言われて、アヤネのことを思い出した。数日後に、俺が行方不明になったってきいたら、悲しむだろうな。
 リクの一言に、センチメンタルな雰囲気になる。
「そ、そんなこと言わないでくれっすよ、リク!まるで、一生ここで暮らすみたいな言い方じゃないっすか!嫌っすよ、俺は!帰るんだ!」
 半分泣きそうになっているコウキがリクにすがりつく。
「そうとは言ってない!」
 慌ててリクはすがりつくコウキの背中を撫でてなだめる。
「まぁ、遅かれ早かれ、帰れると思うぞ。無人島の近くって魚介類がたくさんありそうだから、いつかは漁船と遭遇するだろ。束の間の非日常を楽しもう」
 普段は真面目なのに、一周回って楽観的になったダイキが言う。
「普段しないような話でもして親睦を深めようぜ」
「俺らって例外的なほど仲がいいパーティーって内外から言われていますし、もうマブダチみたいなものでしょう」
「リュウト、俺たちのことマブダチだと思っていてくれたのか……!」
 リュウトに抱き付くダイキ。
「ま、まぁ、ダイキとはもう長い付き合いですし、ハヤトもリクも友達だと思ってますよ」
「え、ちょっと、リュウト!俺はどこに行ったっすか!」
 コウキの嘆きをリュウトは口笛を吹いて流す。
「なんとか言えっすよ、バ狩人!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんですよ。アホ」
「低レベルな喧嘩しないの!」
 ダイキに抱き付かれたリュウトの肩をコウキが揺するとは中々にキツイ絵面だな。
「なんか、いつも通りで気が抜けてきたな、ハヤト」
 隣に来たリクが言う。
 リクに言われて気が付いた。確かに、漠然とした不安はだいぶ薄まっていた。
「ああ、そうだな。なんだか、なんとかなりそうな気がしてきた」
 笑う俺を見ながらダイキがリュウトに言う。
「なんか、お腹が空いてきたな。リュウト、お得意の狩りで何か獲ってきてくれないか?」
「いいですけど、暗くなる前の方がいいですね。善は急げです。コウキ、行きますよ!」
 弓を手にリュウトは颯爽と走り出す。
「え、俺っすか!?あ。ちょっと待ってくれっすよ!」
 背中の銃を揺らしながらコウキはリュウトを追いかける。
 走り去る二人を見送った後にリクは言う。
「じゃあ、俺らは寝床の確保と火起こしをしようか。簡易テントを持ち運んでいてよかった」
「そうだな。飯を食べながらでも、夜の見張りや役割分担について話あおうか」
 
 後略、父さん、母さん。俺はなんとかやっていけそうです。



  二日目

 無人島生活二日目も何の進展もなく夜がきた。
 夕食も食べ、焚き火の周りに円を作って、会話をしているところである。因みに話題のテーマはクジ引きで初恋に決まりました。

「俺は、姉上かな」
 リクの一言に全員がドン引きする。
初っ端からこんなやべぇの出てくるとは思わなかった。いや、初恋が姉ってヤバいっすよ。フィクションだから許されるのであって、いや、現実に、しかもこんな近くに、ヤバい奴がいるとは思ってなかったす。
「へ、へぇ、リクってかなり特殊な趣味を持っていらっしゃるのですわね」
 姉持ちのダイキなんて、引きすぎて変な言葉になっている。
 俺も姉さんがいたからわかるけど、姉を好きになるなんて地球が爆散するくらいありえないことだ。そもそも、歳の近い姉なんて、弟を家来か何かだと思っている節がある。……まぁ、実姉と過ごした時間が幼い頃にしかないからかもしれないが……いや、大きくなってからを想像しても無理っすね。あ、やば、鳥肌が。
「誤解するな。姉といっても、血は繋がっていない。幼い頃に両親の養女としてできた姉だ」
「あ、ああ~。なら、良かったです。ガチ姉に発情するやべぇ奴かと思いました」
 リュウトはドストレートに言う。俺も珍しくリュウトに全面同意っすね。心の底から安心したっす。
「どんな人なんだ?」
 無難な質問をハヤトはする。
「髪の毛がさらさらで、花が好きな、優しい人だったよ。病弱だったけど、俺が来ると、どんなに体調が悪くても笑顔で迎えてくれていたな」
 遠い目をしてリクは言う。初恋の人に想いを馳せてるんすかね、ロマンティックぅ。
「なんか良くわからないですけど、女の子らしい人だったんですね」
「ああ。でも、強い人だったよ」
 それだけ言うとリクは視線を俺らに戻した。
「俺の話はもういいだろ。ダイキはどうだったんだ?」
 リクは自分の話を早々に切り上げてダイキに話題を振る。
「俺の初恋は十一歳だ」
「十一ってことは学生時代か!え、好きになったきかっけは?」
 途端に食いつくハヤト。
「好きになった理由は、本当に些細な事なんだ。宿泊学習のキャンプファイヤーで一緒にフォークダンスして、そこから意識するようになっちゃったっていう」
 ダイキは自分で話していて恥ずかしくなったのか、手で顔を覆った。
「本当に好きだったなぁ。授業中とか、黒板じゃなくて、その子の背中ばかり見ていた。たまたま、学校祭で同じ装飾グループになった時なんて、ずっと気分が舞い上がってて、うん。恥ずかしいな……」
 顔はかくしているのでわからないが、ダイキの耳は赤くなっている。
「え、じゃあ、学校祭で進展とかあったのか?」
「なかったよ。遅くまで一緒に看板作ったくらいかな。他にも人はいたし、全然、二人きりとかはなかったけど。ただ、卒業した後にその子の友達から聞いたんだけど、俺が装飾を選んだから、その子も装飾を選んだらしい」
「なんですか!それ!羨ましい妬ましいシチュエーションじゃないですか!」
「リア充爆散!リア充爆散!」
「リュウト、コウキ、落ち着け」
 リクが荒ぶる俺とリュウトをなだめる。
「告白とかはしたのか?」
「とんでもない!ほら、初恋ってさ、純粋な好きや憧れだけで抱く恋心じゃん。話せるだけというか、むしろ、同じ掃除班になれるだけで嬉しかったんだよな。だから、付き合いとかそういうのは思わなくて、その、告白なんてできないよ」
「あーわかる気がする。好きってだけで、どうなりたいとかはないんだよな。ただ、笑ってるところを見れたらいい、みたいな」
 なんか、こういう話をしている時のダイキって余裕なさそうで可愛いっすね。初めて見た。
「ハヤトはどんな感じだったんだ?」
「俺は一目惚れだったなぁ。きれいだなって初めて思った人で、その子のために力になりたいって。真面目に戦闘の練習を始めたのも、その子を守りたいって思ったからで……」
 ハヤトの話に悶える。そんな甘い話ある?あるのか。
「ハヤトは今でも、その子が好きですもんね」
「え、ピュアじゃん」
 リクの口からピュアという言葉が出るなんて!
「なんだよ、純愛じゃないか。応援するぞ」
 ダイキもノリノリである。
「応援とか恥ずかしいよ」
「その子とはどんな感じっすか?」
「毎年、花祭りの日に花束を交換してるよ」
「バレンタインにチョコとかは?」
「貰ってるよ」
 ハヤトの言葉に俺たち四人は盛り上がりの合いの手を入れる。
「なんだよ、付き合っちゃえよ!」
「両片想いってやつっすか!?」
「アタックだ、アタック」
「このリア充め!」
 口笛を吹いたり、手を叩いたりしてハヤトを茶化す。
「いや、でも、俺は、万が一のことがあったら、嫌だから。もう少し、このままでいたいな……」
 弱気なハヤトだ。
なんか、恋愛初心者多いっすね、騎士団。俺が言えることじゃないっすけど……。
「あ、そういえば、知ってるっすか?男性の初恋平均年齢って十一歳らしいっすよ」
「女の子が女の子らしく成長するのが、そのくらいの年齢だしなぁ」
「女の子の成長期は俺らより早いからなぁ。急に大人っぽくなって、どう接したらいいかわからなくなることとかあったな」 
「嫌でも意識しちゃう瞬間、あるっすもんね」
「男の方は成長期越えると、下心満載ですからね。初恋くらいなものですよね、そんな純粋なの」
「いや、でもさ、本当に好きな子だと、抜けなくない……?」
 リクが唐突にド下ネタをぶち込んでくる。真顔で言ってるのでたちが悪い。さては、アンタ、興味ないふりしてるタイプのむっつりスケベだな。
「え、じゃあ、他の子でするんですか?」
「それもそれで嫌だから、結局、毎回、好きな子で……うん。でもさ、その後の罪悪感が凄くて……」
 大変歯切れが悪いリクの言葉にハヤトが何度も頷いている。って、抜けないとか言っといて抜くんかい。
「俺は罪悪感なしで好きな子でしますね。だって、好きな子がいるのに他でするのは、その子にそういう魅力がないって言っているみたいで失礼じゃないですか」
 リュウトの言うことも一理ある。相手を神聖化したいなら別っすけど、そうじゃないなら、確かに失礼かもしれないっすね。と思いつつリュウト相手なので反論する。
「え~俺はむしろ、薄い雑誌派っすね。見知った相手だと、気分が乗らないっす」
 反論と言いつつ、これが俺のリアルなんすよね。
あー、俺が行方不明になっている間に、部屋の中見られてないといいな。ベッドとマットレスの間っていう、超王道の場所に隠してるんすよね。ちょっと不安になってきた。
「俺も雑誌派だな。そこまで想像力が豊かじゃない。……行方不明の間に、姉にベッドの下見られてないか心配だ。姉に見つかったら、墓場に行くまで話のネタにされてしまう」
 ダイキはそう言って顔を青くした。
「もう少し、分かりにくいところに隠しておけばよかった」
 ダイキ、俺より隠し方が雑っすね!なんか安心した!
「…………なんで急にこんな話になってるんだよ!!」
 急に我に返ったハヤトがクソでかい声でツッコミをする。
「まあ、いいじゃないですか。こういう話こそ、こういう場所でしかできませんよ」
「いや、だからって、無人島生活二日目でする話じゃないよぉ。誰だよ、こんな話題振った奴。むっつりスケベって呼ぶぞ」
 ハヤトのむっつりスケベという言葉に不覚にも噴き出してしまった。やっぱり、同じ感想抱く人いるっすよね。
「笑うな、コウキ」
 いつも以上に難しい顔をしているリクが言う。あ、これ、リクが内心、自分の発言を後悔している時の表情じゃん。
「ああ、リクの発言からだったな。確かに、リクはむっつりだし、素であんな発言をするのはスケベだな」
 真顔で納得しているダイキを見て、俺はまた噴き出してしまう。
「笑うな、コウキ」
「なるほど、無表情の仮面の下にそんなものを隠していたのですねっ。流石、初手で初恋は姉ですって言って俺たちをドン引きさせたリクです!」
 リュウトのリクいじりに耐えられず、俺はまたまた噴き出してしまった。


    三日目

 三日、朝。



「おはよう、リク」
 起きてテントから出ると、見張りをしていたダイキが声をかけてきた。
「おはよう。あれ、見張りはハヤトと一緒じゃなかったか?」
「ハヤトは三時過ぎ辺りから辛そうにしていたから寝させたよ。無理して体調崩させたらダメだしな」
 一番、野宿に苦戦しているのはハヤトだった。最初は外で用を足すのに戸惑っていたり、眠れなさ過ぎてずっと見張りを買って出ていたりしたくらいだ。ようやく寝られるようになったなら良かった。
「なら、代わりに俺を起こしてくれてもよかったのだが。一人でずっと起きてるのはつらいだろ」
「はは。なに、一人でも平気さ。腕立てやスクワットで時間は潰せるからな。根性!!」
 時間潰しに筋トレをする部分にダイキの生真面目さが伺える。
「さて、他の奴らが起きてくる前に、朝食の準備をするか。手伝ってくれるか?ダイキ」

 朝食は昨日の夜の残りの猪肉だ。それを食べながら、リュウトはおもむろに口を開いた。
「あの、ご飯中にこんな話をするのは無粋ですけど、ちょっとお互い、体臭がきつくなってきたと思いませんか?」
 一瞬無言になる一同。そう、みんな自覚はあったのだ。
「一応、昨日、水浴びはしたよな?」
 昨日、ハヤトとコウキが湧き水を見つけてくれたおかげで髪や体を濯ぐことはできるようになったのだ。
「石鹸がないから、難しい問題っすねぇ」
「風呂に入れないのと、服が一着しかないのがキツイ。そもそも、身体じゃなくて服が臭うんだよな。汗や泥とかでかなり悲惨だよな」
「せめて上は洗いたいですよね」
「じゃあ、洗うか。水洗いして干せばだいぶマシになるだろ」
「そうだな。そうしますか!」
 朝食の後、木に紐を括り付けて簡易的な物干し場を作り、湧き水の元へ向かう。
「……ふぅ。なんか、上脱ぐだけでさっぱりした気分になりますね」
 リュウトはそう言ってダイキが木をくり抜いて作った桶に服を浸す。
 後衛のリュウトやコウキもそれなりに鍛えているから、上裸でも見栄えはするな。
「やっぱり、リクとダイキはごっついな。バキバキじゃん」
 ハヤトが俺らの腹を見て言う。
「まぁ、俺とリクは耐久あってこそって部分があるからな。ハヤトみたいに疾風のように素早く攻撃して、羽のようにフィールドを駆け巡るのに憧れることもあるよな」
「同意。スピード出せるのが本当に羨ましい。体型維持もハヤトの方が大変そうだしな」
 ダイキの言葉に短く頷く。
「俺からしたら、二人みたいに高火力出せるのに憧れるけどなぁ」
「まあ、ないものねだりってやつっすよね。俺もたまに、前線でバチバチしてみたいと思うことあるっすもん」
「わからなくもないですが、今のままが一番ですよ。この組み合わせだから、上手くやれてるのもあるでしょう。……そういえば、俺らって、裸の付き合いをしたことないですよね」
 上の衣類を水洗いしながらリュウトが言う。
「そうだな。今度の休日、一緒に温泉旅館でも行くか!」
 ダイキの提案はとても魅力的だった。暫く風呂に入れていない身からすれば、温泉という響きだけで心が惹かれる。
「いいっすね!温泉!行きたいっす!美味しい料理、リラックスできる温泉、綺麗な景色、美人の女将さん、枕投げ。考えただけでワクワクするっすね」
「枕投げか。負ける気がしないな!」
 ハヤトもノリノリだ。
「温泉街って汽車で二時間くらいだよな」
「普通に実現可能ですね。行きましょう行きましょう」
「じゃあ、俺が良さそうなところ予約しておく」
 服の水気を切りながらダイキが言う。
 このメンツで温泉旅館に行くのは、楽しそうだ。……絶対に帰らないとな。

 上裸で狩りなどの作業はできないので、乾くまでは自由時間になった。
俺とコウキ以外の三人は太い木の枝と、なぜかダイキの鞄の中に入っていた野球ボールで遊んでいる。
 ダイキがピッチャー、ハヤトがバッター、リュウトがキャッチャーなようだ。
 野球のことなど全くわからないが、ダイキの投げるフォームがあまりにも正しい気がしたので訊いてみる。
「ああ。学生時代はよく、草野球をしてたんだ。その名残が今もあるのかな」
とのことだ。ハヤトもハヤトで、しっかりボールを捉えているし、リュウトは全球キャッチしているので、二人とも多少、野球を嗜んでいた経験があるのだろう。
 俺とコウキも誘われはしたのだが、キャッチボールとかしたことがないので遠慮したのだ。
 たまに飛んでくるハヤトの打ったボールをダイキに投げ渡しながら思う。上裸で草野球(正確には砂浜野球か?)をする光景って第三者から見ると中々にシュールだよな。ハヤトが打つたびにダイキが歓声を上げている。本人たちが楽しそうでなによりだ。見てる側からするとシュールだが(二回目)。
「コウキ、あまり奥まで行くなよ」
 海で泳いでいるコウキに声をかける。「泳ぐの好きなんすよね」とズボンが濡れるのなどお構いなしに颯爽と海に飛び込んだのは流石コウキという感じだ。
「わかってるっすよ!……あ、みてみてリク!魚捕まえたっす!」
 こんな浅瀬にも魚がいるのか。
「おおー。凄いな」
「でしょでしょ!みんなの分、頑張って捕まえるんで今日の昼は魚にしようっす!」
 不覚にも魚の塩焼きの想像をしてしまった。コウキにはぜひ、魚取りを頑張って貰いたい。……俺も獲るか。
 バシャバシャと海に入る。ちょうどいい温度だった。
「リクも魚獲りするっすか!いいっすね!反射神経使うので、なかなか難しいっすよ!」
「じゃあ、どっちが多く獲れるか勝負するか」
 俺の提案にコウキは元気に賛成する。
 勝負となれば、コウキに負けるわけにはいかない。じっと海を見て……そこか!
「……」
 捕え損ねた。
「リク!俺一匹獲れたっすよ!リクはまだっすか?」」
「コツは掴んできたから、すぐに追い上げられるさ」
「リクは負けず嫌いっすね~!まぁ、俺も負ける気しないんで!」
 海で格闘している俺らを見て気になったのか、砂浜野球を終えたらしいダイキが声をかけてきた。
「何をしてるんだ~?」
「リクとどっちがたくさん魚獲れるか競争してるんすよ!ダイキたちは終わったんすか?」
「アンタらが何してるのか気になって俺だけ抜けてきたんだ!ほら、リュウトとハヤトはそこでキャッチボールしてる」
「そうなんすか!じゃあ、ダイキも参加しないっすか!?今、俺が四匹でリクが一匹なので逆転可能っすよ!」
「よっしゃ!やってやるよ!」
 ダイキも海に入る。そこで……こけた。
「大丈夫か?ダイキ」
「大丈夫大丈夫!それより、リクは俺に構ってる暇なんてあるのか~?まだ一匹なんだろ?」
「俺はまだ力を隠しているだけだ。秘めたる力を見せてやろう」
「やーい、リクの中二病!」
「い、今のどこが中二病なんだ!?おい、ダイキ、説明しろ!」
 海でバシャバシャしている三人に、リュウトとハヤトが何事かと様子を見に来た。何をしているのかと問われたので、答えたところ、リュウトは呆れたように笑った。
「そんなことして、パンツまで濡れるじゃないですか、代えないのに。戻りましょう、ハヤ……え、ハヤトまで海に入っちゃったんですか!?」
「なんか楽しそうだし。昼に魚の塩焼き食べるのもいいなって」
 笑顔で言うハヤトにリュウトは何か言おうとした言葉を飲み込んで、前髪を掻き上げた後、勢いよく海に入る。
「あ、アンタらがするなら、俺がしないわけにはいかないですもんね!」
とかなんとか言って、自分も仲間に入りたかったんだろうな。リュウトは素直じゃないんだから。
「おらおらコウキ、魚よこせですよ!」
「新手のカツアゲ!?きゃあ!」
 リュウトに飛び掛かられ、コウキは海に沈む。今の悲鳴、凄かったな。
「リュウトのせいで髪まで濡れっちゃったじゃないっすかぁ」
 嘆くコウキに「よ!水も滴るいい男!」とダイキが合いの手を入れる。
「おおお?じゃあ、ダイキのことも水の滴るいい男にしてあげますね!」
「ほら、来いよ!来たら水鉄砲をお見舞いしてや……うわあ!」



     四日目

 夕飯の後、誰が言い始めたのかはわかりませんが、王様ゲームをすることになりました。

 俺が引いたのは四番ですか。くそ、王様を引きたかったですね。
「王様だーれだ!」
 ダイキの掛け声と共にハヤトが手を挙げる。
 ハヤトなら、アウトな命令を下しそうにないので安心ですね。
「えっと、じゃあ、三番が、無人島生活が終わるまでずっとお嬢様言葉で話す!」
 あ、思ったよりキツイですね。
「三番は誰っすか?」
 コウキが言うってことは、コウキは三番じゃないんですか。うわ、ごつくて声が低めの二人の内どっちかってことですか。きっつ。
「ワタクシでございますわよ!」
 地声で出せるくらいの高音と共に勢いよく立ちあがるダイキ。悪役令嬢がしそうなポーズで高笑いをしている。ああ、リクじゃなくてダイキでまだよかったです。
「おーほほほほ!さあ、愚民ども、次に行くわよっ!棒をお戻しなさい!」
 ノリノリのダイキの横でリクが下を向いて肩を震わせている。ツボに入ったみたいですね。
 ……っと、お!☆マークが出ましたね。早速、王様を引き当てましたよ!
「王よ、名乗り出なさい!」
「俺です!一番が裏声でアイドル風の自己紹介の後に投げキッスとウインクを振る舞って下さい!」
 ふふん。どうだ。当たった奴は恥ずかしいに違いないです!我ながらいい命令を考えました!
「はぁい☆みんなのアイドル、リクで~す!よろしくにゃん!」
 精一杯の笑顔(でも目に光はない)と共に飛んできた投げキッスとウインクを俺は嫌そうな顔で避ける素振りをする。
「え~リュウトたん酷ぉい。避けなくてもいいじゃないの~」
 俺以外の三人は腹を抱えて笑っている。
「……これでいいか?」
 虚ろでどんよりとした目でリクは言う。さっきのセリフのテンションとの落差が酷い。今なら死ねるな、とでも言いたげな表情をしているので思わず笑ってしまう。
「リクたんリクたん!アンコール!アンコール!」
 そう囃し立てるコウキがリクにギロリと睨まれる。ざまあみろですね。
「ほら、ダイキ。次にいこう次に」
 リクがダイキを急かす。
「もう、仕方ないわね!ほら、愚民!引きなさい!……あらまあ!ワタクシが王様ですわよ!では、四番が一番を全力でくすぐりなさい!」
「俺が四番ですよ!さあ、一番出で来いですよ!」
 コウキがじりっと後退したのが見えた。
 コウキか。自然と顔がにやけちゃいますねぇ……。
「ナイスですよ、ダイキ。ぬふふ」
「笑顔が怖いっすよリュウト。あ……やめ……ひひひひひひふふふやめひひひ」
 砂浜をのたうち回るコウキを遠慮なく襲う。いや、楽しすぎますね、これ!
「や、そろそろきついっひひひいひっひ、リュウトやめあははっひひひひ」
「おーい、いつまでやってるんだー。そろそろ次するぞー」
 仕方ない、やめてあげますかね。
「いひひ、あ、ああ、酷い目にあったすよ。もう、あ、俺が王様っすね」
 次は一番ですか。王様はコウキですね。
「じゃあ、リュウトが五分間空気椅子で!」
「は、はぁ!?コウキ、王様ゲームのルール理解してますか?」
「あ、間違えっす」
 絶対わざとですね、これは。確信犯ですよ。
「じゃあ、二番が三番に告白して、口説いて、その後ハグして、見つめ合って、チューっす!」
 命令のシチュエーションがやけに具体的で引いちゃいますね!
 どうやら、二番がリクで三番がダイキだったみたいです。二人は立ち上がって波打ち際まで行く。わざわざ、背景も告白シーンに近づけるんですね。

「……ダイキ、話したいことがあるんだ、聞いてくれないか?」
「え、あ、改まってどうしたの……?」
「好きだ、ダイキ」
「……えっ」
「生真面目なところも、頑張り屋なところも、いつも明るいところも、全てが愛おしい」
「リク……」
 そう言ってリクはダイキを抱きしめて——。

「はい、カット!カットっすよ!」
 王様自らが打ち切ってきた。
「よく考えたら、男同士のキスシーンなんて見たくないっす!それに、もし、キスして、リクとダイキが目覚めっちゃったらどうするんすか!俺たち、仕事でめっちゃ気を遣わないといけなくなるっすよ!」
 コウキって想像力豊かですね……。
「あと、見つめ合う目がガチだったっす!恋が始まった目だったっす!ああ……ごめんなさい……。俺のせいでリクとダイキが……っ!」
 いや、本当に想像力豊かだな。
 その様子を面白がっているのか、リクもダイキも何も言わないですし!ダイキに至っては口に手をあてて笑いこらえてますし!
「はい、四回戦!行きますわよ!」
「ちょ、ダイキ!否定しないで話題を変えるってことは……まさか!?」
 コウキは頭をぱっとのけ反らせて、ハヤトにすがりつく。
「ハヤトおおおどうすればいいっすか。俺のせいで、俺のせいで……っ」
「はいはい、落ち着いて落ち着いて。ほら、コウキも引いて」
 くだらなさすぎて、ハヤトですらコウキを適当にあしらっている。
「お、また俺っすか。じゃあ、一番がこの中で彼氏にしたい人を指す!」
 コウキはこういうのが好きなんですかね???
 一番は誰だろう、と思っているとリクがすっと腕を上げてダイキを指した。
それを見てハヤトは声を出して笑い、コウキは飛び出そうなほど目を丸くする。俺はもう、呼吸が苦しいくらい腹が痛い。
 リクも意外と悪ノリが好きなんですね。
「リク、ありがとう。ワタクシを選んでくれるのね、大好き!」
 ダイキがお嬢様縛りをされている故に、この状況にカオスさが増している。いや、本当にもう、最高ですね。
「ああ、ダイキ。そう言ってくれて嬉しいよ」
 隣同士で見つめ合う。リクは微妙に口角があがっているし、ダイキは最早、笑ってるの隠しきれてないし。しかし、そんなことには気づかないコウキ。
「そ、そんな……っ!ああああああっ!!!俺のせいで、俺のせいで……!!!」



      五日目

「ホームシックだぁぁぁぁ!!」
 昼間。急にハヤトが海に向かって叫んだ。
 無人島生活五日目である。そろそろ、家が恋しくなる頃だ。
 兄さんと姉さんは元気だろうか?そろそろ、呑気な姉さんも俺を心配し始めるころだろうな。
 そういえば、双子はシンクロニシティが高くてテレパシーで繋がっているって話があるけど、これ、絶対噓だよな。だって、姉さんとテレパシーで繋がっているなら、もう、助けがきてもおかしくない。
 そんなことを考えていると、リュウトの大きなため息が耳に入った。
「いいですね。帰ったら家に誰かがいる人は。ねぇ、リク」
「全くだ。俺とリュウトは家に帰っても、出迎えてくれる人もご飯もない」
 シェアハウス中のリクとリュウトが傷をなめ合っている。
 無人島から帰ってやること山積みは悲しい気分になるかもしれないなぁ。哀れ哀れ。
「はっ!?リク大変なことに気づいてしまいました!床下収納で冷やしてる野菜全部ダメになってますよ!?」
「それは大変だ。帰ったらまずは買い物に行かないとか……気が重いな」
 肩を落とすリクの服の裾をコウキがくいっと引く。
「じゃあ、リク、俺の家に来ればいいっすよ。泊まる場所もあるっすし」
「喜んでそうさせて貰うよ」
「は、はぁ!?リク、裏切るんですか!?この同盟を裏切るんですか!?」
 リュウトが目をまんまるにしてリクに詰め寄る。
「すまない」
「うえーーん。ぐすんぐすん」
「うわっ。男の噓泣きほど痛いものはないっすよ、リュウト」
 リクに裏切られ泣きまねをするリュウトにコウキの辛辣な一撃が入る。
「わーーん。ダイキ~~コウキが俺のこといじめてきます~~」
 リュウトが俺に駆け寄ってくる。
「あらあら、それは困りましたわね。コウキ、さあ、そこに跪いて謝りなさい!!」
 昨日の王様ゲームで無人島にいる間はお嬢様言葉にしなければならないという枷がつけられた俺である。無人島生活が長引いて、この口調が癖にならないかだけが不安だな。
「ダイキ……、そんな真面目にお嬢様言葉続けなくていいからな……?」
 そんな命令を下したハヤトが申し訳なさそうに俺に言う。
「そうだぞ。ダイキくらいだよ、次の日も真面目に命令を守ろうとするなんて……まぁ、そこもダイキのいいところだがな」
 リクも便乗して言う。おお、これは、遂にお嬢様言葉からの開放だな!!やったぜ。
「ちょっと!俺たちの前でイチャイチャするなっすよ!」
 まだ俺とリクの仲を信じ切っているコウキ。コウキ以外の四人と口裏合わせて無人島から脱出できるまでは、この設定でいくことにした。コウキの反応が面白いから。
「イチャイチャなんてしていない」
 リクの反論にコウキはぶんぶんと首を横振る。
「滅多に人を褒めないリクがダイキに『そこもダイキのいいところだ、愛おしい』なんて言わないっすよ!」
 なんかリクのセリフ増えてない??
 コウキの脳内補完すげえな。
「リア充なんて放っといてっと。じゃあ、無人島を脱出できた日には、リュウトも俺ん家来るっすか?」
「いいんですか!?」
「いいっすよ。よくよく考えたら、ウチに来るより、ダイキと無人島脱出を喜び合いたいはずっすもんね。リクはやっぱり来なくていいっす!むしろ、来るなっす!なので、リュウトがリクの代わりに来ればいいっす!」
 コウキに『来るな』とまで言われてショックを受けてのか、リクは何も言えずに口を半開きにしている。少し可哀想だな。
「そうとなったら、コウキの同居人を覚えなければいけませんね!あの小憎らしい紫髪以外に二人いるんでしたっけ?」
 啞然としているリクを余所に、リュウトはノリノリだ。それにしても、リュウトとシオンの間に一体何があったんだろうか……?
「キョウスケとノゾミっす」
「ああ!キョウスケって、あのコウキとは似ても似つかない可愛らしい弟さんですね!」
「俺と似ても似つかないってなんっすか!俺だって可愛いっすよ!」
「一番可愛いのはアヤネだから」
 二人の会話を聞いていたハヤトが俺の横でボソッと言う。
 ハヤト……だいぶメンタルやられているな……。
 なにか、気がまぎれるものはないだろうか……そうだ!
「モッツァレラチーズゲームしようぜ!」
 俺の唐突な提案にハヤトは「いいね!」と言い、他の三人はきょとんとしている。
「モッツァレラチーズゲームってなんですか?」
「複数人で時計回りにモッツァレラチーズって言ってくだけのゲームだな」
「面白いんですか、それ」
「でも、前の人よりテンションを上げて発言しないといけないんだ。ハイテンションになっているかどうかの判断はその場にいる全員で行い、ハイテンションになっていないと判断されると脱落となる。ルールは単純だけど、テンションの高さをどう表現するか……表現力をテンション、感受性大切だ」
 三人がわかったとばかりに頷く。
「面白そうっすね!俺スタートでいいっすか!?モッツァレラチーズ!」
 ルールを聞いていたのか、初手でテンション高めに出発したコウキ。
 一気にゲームのハードルを上げてきた。流石だぜ。
「コウキ、馬鹿ですか!?最初はテンション低くいくべきだったでしょ!?」
「はいはい、次はリュウトっすよ」
「ぐむむ。モモモモモッツァレーーラチーーーーーズ!!」
 リュウトもリュウトでオクターブテンションを上げてきた。
「うう……コウキもリュウトも容赦ないなぁ」
 三番手のハヤトが苦笑して立ち上がる。
 そして、唐突にハカのようなものを踊りながら「モッッッツァッッッレラチーズッッッ」という。ハヤトもハヤトで容赦がない。五番手のリクが、『頼むから控えめにテンションを上げてくれ』と目で訴えかけてくる。が、この流れなら俺も容赦しないぜ!
「モッツァレラチぃぃぃぃぃぃぃーズ!!」
 ひっくり返りながら俺はモッツァレラチーズと叫ぶ。
 そう、このゲームは徐々に人が狂っていく闇のゲームなのだ、クックック。
 しばらく口を開け閉めしていたリクが、意を決意したように両目をキュッと閉じて叫ぶ。
「モッ!!ツァ!!レラ!!チーズ!!」
 リクが『コレガボクノゲンカイノテンションデス』とでも言いたげに俺らを見てくる。
「……これは不合格かな~」
「かわい子ぶってるっすねぇ」
「もっと狂わないとダメですよリク!羞恥心なんて捨てちまえ!」
「リクは脱落かな」
「リクにはあとで罰ゲームあげるっすね!」
 コウキはにっこりリクに笑いかけたあと、すぅっと息を吸った。モッツァレラチーズ二周目に入りまーーす。
「もっつぁぁぁぁぁぁぁぁれれっらああああちいいいいいいいずイヒー」
 その後も、無人島にモッツァレラチーズの叫びが響き続けた。



   
      六日目

 無人島から出る術が見つからないまま、早くも六日が過ぎた。
 俺とダイキは昼食と晩飯用の木の実採取を終え、拠点に戻るところだった。
「······ハヤト、ちょっと遠いけどあそこに人影が見えないか」
 ダイキが指した方向を見る。確かに人影だ。まだはっきりとは見えないが、こちらに近付いてきている。
「んんー、コウキじゃないか?」
「え、でも、コウキは火起こしをしてるんじゃ······?」
 人影が俺たちに手を振った。隣でダイキが息を飲む音が聞こえた。
「兄さん!」
 持っていた木の実を地面に落としたことにも気づかずに、タクマに飛びつく。
 助走をつけて飛び掛かられたタクマは危うく倒れそうになったが、寸でのところで踏みとどまった。
「儂を圧し潰すつもりか?ダイキ。お前さんの方が大きいんだから、もう少し優しく飛びかかってこい」
 笑いながら、タクマはダイキの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「兄さんなら、助けに来てくれると思ってた!」
「本当に手のかかる弟だな」
「へへ、ごめんなさい」
「どれだけ心配したと思ってるんだ。今度高級レストラン奢って貰うからな」
 言葉こそ乱雑だが、タクマの口調は弾んでいる。六日間失踪していた弟と無事に会えて嬉しそうだ。
 俺は一人っ子だから、こういうのはちょっと羨ましい。
 そんな俺に気づいたのか、気づいていないのか、タクマは俺に近づいてきて、ダイキにしたのと同じように俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ハヤトも無事で良かった。ご両親が心底心配していたから、帰って落ち着いたら、ちゃんと労ってあげるのだよ」
「う、うん」
 どんな反応をすればいいのかわからなかった。ダイキみたいに甘えるのは違うし、かといって、振り払うのも違うし。
 ただ、なされるがままになっていた。
 俺らが戻るのが遅かったからか、リュウトが走って来るのが見えた。
「ちょっと、ダイキもハヤトも遅いですよ!何してるんですか!」
 タクマの姿に気づいたリュウトの目が輝く。リュウトはタクマのファンなのだ。
「タクマさん!なんでこんなところに!?」
「君らを連れ戻しに来たんだよ」
 それを聞いたリュウトがぱぁぁっという効果音がつきそうな程の笑顔を浮かべる。
「タクマさんが、俺たちのために!」
 感極まった声で言うと、リュウトは
「リク~!コウキ~!帰れますよ、俺たち!」
 そう大声で叫びながら、コウキとリクのいる方へ走って行く。
「俺たちも、行こうか。向こうにみんながいるんだろう?」
 案内してくれないか?とタクマは言った。


 帰れるとわかった俺たちはお祭り気分だった。
 タクマが魔方陣を地面に書いた後(カイトの魔力を媒体に正確な転送を行うとのこお。どうやら、カイトの準備ができたら光り出すらしい。カイトにも頭が上がらない)今日の夜に食べようと思っていた肉を焼き、タクマも交えて談笑に花を咲かせる。
「なんか、君らは無人島ライフをエンジョイしてるじゃん」
 無人島での話を聞いていたタクマが口元をひきつらせて笑う。
「に、兄さんごめんって!怒らないで」
「怒ってないさ。俺たちの苦労を返してくれとは一瞬言いたくなったが....。まぁ、そんな文句も無事だったから出てくるわけだ。良かったよ、本当に」
 明らかに疲れた顔をしているタクマに何も言えない。
 本当にご迷惑をおかけしました....。
「危険区域をシオンと三日三晩寝ずに飛び回って、一昨日、偶然、転送魔方陣の残骸を見つけて....。まさか、本当に、五人全員が転送魔方陣で飛ばされる、なんて馬鹿なことになっていたとはな。一人くらい残れなかったのか?」
 タクマの問いに俺らは黙り込んだ。
 申し訳ないとしか言えない。リクなんて居たたまれないのか、正座してタクマと目を合わせようとしていない。
「俺には別にいいけど、他の二人には土下座でもした方がいい。あと、転送魔方陣を解析してこの場所を突き止めたカイトは高級チョコレートを望んでいた、とだけ言っておくよ」
 タクマはそう言いながら苦笑した。
「土下座の練習、した方がいいっすかね?」
「コウキはしといた方がいいんじゃないですか?帰ったら会うんですし。ほら、試しに俺に土下座してみて下さい!点数付けてあげます」
「なんでリュウトなんかに土下座しないといけないんすか!明日世界が滅んだとしても嫌っすよ!」
 肩身の狭い思いをしている俺やリクとは対照的に、二人はよくも悪くもいつも通りに喧嘩し始める。
「元気そうで良かったよ」
 その様子を見ながらタクマは笑う。この人が慕われる理由がわかった気がした。
「あ、そういえばタクマ!リクとダイキって相思相愛なんすよ!」
「な!?」
 タクマは目を白黒させて弟の方を見ながら「そうか、いろいろ障害も多いだろうが、頑張れよ」と言った。いきなりの出来事に気が動転している中、応援の言葉を送れるのは流石だな。
「ご、誤解だ兄さん」
 ダイキは首を横に振る。
「コウキ、お前って奴はいつもいつも余計なことを」
 リクはそう言いながらコウキの頭を拳でぐりぐりしている。痛そう。
 コウキが痛め付けられている様子を見てリュウトは爆笑している。
 ······ああ、早くカイトの方の準備が終わってくれないかな。俺の手には負えない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...