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4.魔女は考える
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眼鏡を外すと、ピンクとエメラルドグリーンのグラデーションの瞳が、鏡越しにこちらをじっと見つめている。
昼間見たあの映像が強烈過ぎて現実との区別が曖昧になっていたけれど、深呼吸を何度かし心を落ち着かせると、現在の自分の環境が思い出されてきた。
ティナ改めスティーナは、考えをまとめる為に声を出して自分の状況を整理し始める。
「私は飛び降りて死んだ筈なのに、こうして生きてる。あの高さだと絶対に助からない筈。どうして私は生きてるの? 生まれ変わり……? ううん、違う。私がおかみさんの食堂で働き始めたのは半年前だから、おかみさんの言う事が確かなら、飛び降りたのは一年半前だ。生まれ変わりなら赤ちゃんからだろうし、計算が合わないもの」
スティーナはそこで言葉を切り、おもむろに服を全部脱いだ。自分の身体をくまなく確認する。
「風の魔法で切り裂かれた傷は……本当に微かだけど痕が残ってる。という事は、生き返ったか……まだ死んでなかった……? あんな絶望的な状態でどうやって……あれ?」
スティーナは、お尻の上辺りの肌が周囲と違った色な事に気が付いた。
「何だろ? 真ん丸な形で、かさぶたが剥けたような……。昔、お尻をぶって怪我でもしたのかな? やっぱり全然思い出せない……。折角服を脱いだんだし、シャワー浴びて頭冷やしてこよう」
考え過ぎてクラクラしてきたスティーナは、気分転換がてらシャワーを浴びに行く事にした。
頭と身体を洗い、部屋着に着替えてサッパリした彼女は、ドルシラからおすそ分けして貰った食堂特製サンドイッチで夕食を済ませる。
片付けを終えるとゴロンとベッドの上に寝転んだ。
そして、再び思考に耽っていく。
「私、棺に入っていたんだよね。という事は、海に浮かんでいた私を死体だと思って、誰かが親切に棺に入れて海に返してくれたのかな? それが河口に入って流されてきた、とか? でもそうなると傷が治っている説明がつかないよね。死ぬ決意をした私が自分で治すわけないし……」
ちなみにスティーナが入っていた棺は木製だったので、解体してヴェネオ家の薪として立派に役に立ったらしい。
「そうだ、一番分からない事。どうして私は勇者様を殺したの? あの時の私は、深く絶望していた。……私の、家族……。私の家族はきっと、もうここには……。だから生きていたくないって思ったのかな……。また頭を強く打ったら、続き見られるかな……」
物騒な考えが頭をよぎったが、ドルシラ達にこれ以上心配を掛けたくないので実行は止めた。
「それか、眠ったら見られるかな……。せめて勇者様を殺した理由が知りたい……。――あ、そうだ」
スティーナは上半身を起こすと、箪笥の引き出しから小さな巾着袋を取り出した。
これは、棺に入っていた彼女の手に握られていたものらしい。
「大事な物だといけないし、アンタに返しとくよ」
とドルシラが手渡してくれたのだ。
中を見ると、緑色の小さな丸い種みたいなものが幾つか入っていた。用途が分からないのでそのままにしてある。
けれどこれを持つと、懐かしいような、切ないような、悲しいような――何とも不思議な気持ちになるのだ。
スティーナはこれを持って眠る事にした。
何となく、そうする事によって自分が望んだ夢を見られるような気がしたのだ。
巾着袋を手に握り、再びベッドの布団に身体を沈める。
「勇者様を殺した理由を知って、それで……私のこれからを……。生きるか、また死ぬか……――」
目を瞑りながら思考していたのと、お腹が膨れているのも相まって、急激に睡魔が襲ってきた。
スティーナはそれに抗う事なく、眠りの世界へと誘われていき――
昼間見たあの映像が強烈過ぎて現実との区別が曖昧になっていたけれど、深呼吸を何度かし心を落ち着かせると、現在の自分の環境が思い出されてきた。
ティナ改めスティーナは、考えをまとめる為に声を出して自分の状況を整理し始める。
「私は飛び降りて死んだ筈なのに、こうして生きてる。あの高さだと絶対に助からない筈。どうして私は生きてるの? 生まれ変わり……? ううん、違う。私がおかみさんの食堂で働き始めたのは半年前だから、おかみさんの言う事が確かなら、飛び降りたのは一年半前だ。生まれ変わりなら赤ちゃんからだろうし、計算が合わないもの」
スティーナはそこで言葉を切り、おもむろに服を全部脱いだ。自分の身体をくまなく確認する。
「風の魔法で切り裂かれた傷は……本当に微かだけど痕が残ってる。という事は、生き返ったか……まだ死んでなかった……? あんな絶望的な状態でどうやって……あれ?」
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「何だろ? 真ん丸な形で、かさぶたが剥けたような……。昔、お尻をぶって怪我でもしたのかな? やっぱり全然思い出せない……。折角服を脱いだんだし、シャワー浴びて頭冷やしてこよう」
考え過ぎてクラクラしてきたスティーナは、気分転換がてらシャワーを浴びに行く事にした。
頭と身体を洗い、部屋着に着替えてサッパリした彼女は、ドルシラからおすそ分けして貰った食堂特製サンドイッチで夕食を済ませる。
片付けを終えるとゴロンとベッドの上に寝転んだ。
そして、再び思考に耽っていく。
「私、棺に入っていたんだよね。という事は、海に浮かんでいた私を死体だと思って、誰かが親切に棺に入れて海に返してくれたのかな? それが河口に入って流されてきた、とか? でもそうなると傷が治っている説明がつかないよね。死ぬ決意をした私が自分で治すわけないし……」
ちなみにスティーナが入っていた棺は木製だったので、解体してヴェネオ家の薪として立派に役に立ったらしい。
「そうだ、一番分からない事。どうして私は勇者様を殺したの? あの時の私は、深く絶望していた。……私の、家族……。私の家族はきっと、もうここには……。だから生きていたくないって思ったのかな……。また頭を強く打ったら、続き見られるかな……」
物騒な考えが頭をよぎったが、ドルシラ達にこれ以上心配を掛けたくないので実行は止めた。
「それか、眠ったら見られるかな……。せめて勇者様を殺した理由が知りたい……。――あ、そうだ」
スティーナは上半身を起こすと、箪笥の引き出しから小さな巾着袋を取り出した。
これは、棺に入っていた彼女の手に握られていたものらしい。
「大事な物だといけないし、アンタに返しとくよ」
とドルシラが手渡してくれたのだ。
中を見ると、緑色の小さな丸い種みたいなものが幾つか入っていた。用途が分からないのでそのままにしてある。
けれどこれを持つと、懐かしいような、切ないような、悲しいような――何とも不思議な気持ちになるのだ。
スティーナはこれを持って眠る事にした。
何となく、そうする事によって自分が望んだ夢を見られるような気がしたのだ。
巾着袋を手に握り、再びベッドの布団に身体を沈める。
「勇者様を殺した理由を知って、それで……私のこれからを……。生きるか、また死ぬか……――」
目を瞑りながら思考していたのと、お腹が膨れているのも相まって、急激に睡魔が襲ってきた。
スティーナはそれに抗う事なく、眠りの世界へと誘われていき――
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