極悪魔女は英雄から逃亡する 〜勇者を求め逃げ続ける魔女と、彼女を溺愛し追い続ける英雄の、誤解から始まる攻防〜

望月 或

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5.勇者の最期

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「スティーナッ!!」


 ハッと気が付くと、自分の身体が誰かに抱きしめられていた。
 風の音がゴウゴウと劈くように鳴り響き、スティーナは涙で濡れた瞳を上に向ける。
 翠玉色の風が、自分の周りを激しく渦巻き取り囲んでいた。
 そして、急速に減っていく自分の魔力。


(魔力の暴走――!!)


 暴走は、自分では止められない。
 それは、自分の周りを跡形も無く破壊し尽くすのだ。魔力が尽きるまで。
 魔力が空になると、待っているのは――自分の“死”だ。

(私が死ぬのはいい。だけど――)

 スティーナは、自分を抱きしめている者に向かって、何とか言葉を紡ぐ。

「に……逃げて……。遠くに……お願い――」
「お前を置いて逃げるわけねぇだろうがッ!!」

 自分の背中に回された両腕に、更に力が込められた事を感じたスティーナは、クシャクシャの顔で相手を見上げる。
 短い癖っ毛の金髪に、澄んだ蒼色の強い意志を持つ瞳。


 帝国の勇者、『ラルス・フォルティマ』――


 ラルスはスティーナの耳元に唇を寄せ、彼女しか聞こえない声で言葉を出した。

「いいか、よく聞けスティーナ。オレはヤツに分からないように、自分で自分を刺す。それが現状を突破出来る打開策だ。お前の暴走もそれで止まる筈だ。時間が無いからそれしか思いつかねぇ」
「……っ! ラルス――」
「心配すんな。オレがオレの“聖剣”で刺されて死んだ場合、生き返られるんだとよ。よく分かんねぇが、神が与えた勇者特権の救済措置らしい。だからお前は何も気にすんな。……生きろよ。お前を待つ家族の為にも……な」
「ら、ラルス……。だめ、駄目だよ……。もし生き返らなかったら、私……。だったら、わ……私が死ぬから……」

 ラルスは、ボロボロと涙を零すスティーナを安心させるように笑うと、彼女の後頭部をそっと撫でる。


「スティーナ、約束だ。絶対に死ぬな。オレはお前に会いに行くから。生き返るのがいつになるか分かんねぇが、必ずだ。だから、オレに会うまで絶対に生きろよッ!!」


 ラルスはスティーナを抱きしめたまま、己の持つ“聖剣”を逆手に持ち、躊躇なく自分の左胸にそれを突き刺した。
 周囲から見たら、スティーナがラルスを刺したと勘違いされる構図だ。
 ラルスの口から、ぐぼ、と血が噴き出し、力を失った彼の身体がスティーナに重く伸し掛かる。


「い……いやああぁぁーーっ!!」


 スティーナの慟哭が、虚しく大空に響いた――


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