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12.真相は……
取り敢えず三人は喫茶店に入り、そこで話をする事にした。
店員に席を案内され、ディクスは当たり前のようにシェラルの隣に座ろうとしたが、女性に「キサマはあっちだ!」と、向かいに座らされる。
シェラルの隣に座った女性は、美しい顔に笑みを浮かばせ口を開いた。
「先程は大変済まなかった。頭に血が昇ると、どうにも止まらなくてな……。私はミチルダ、この男の幼少の頃からの幼馴染だ。――あぁ、口調はこのままでいいだろうか。貴族には畏まらなきゃいけないんだが、どうにも苦手でな。キミはそういうのは気にしなさそうだから」
「あっ……はい、全然大丈夫です」
「ありがとう。私はキミ達の結婚式にも出席したのだが、その様子じゃ覚えていなさそうだね」
「……あ!」
そう言えば、ディクスに「僕の幼馴染です」と紹介された二人の内の一人が、この女性だった気がする。
彼の関係者等、知らない人達が沢山いる結婚式で、人見知りで引っ込み思案なシェラルは頭が一杯一杯で、今まですっかり頭から抜けてしまっていた。
「すみません……。今、思い出しました……」
「いや、謝らなくてもいいよ。キミはあの時全力で一杯一杯の顔をしていたからね。忘れていても無理はないさ」
(思い切り気付かれていた……。しかも“全力”って……。――あ、全力と言えば……)
「あ、あの……。すごくお強いのですね? 騎士団長であるこの人を殴り飛ばすなんて……」
「あぁ。昔ね、暴漢に襲われ掛けた事があったんだよ。それ以来、ずっと護身術を習ってるんだ。鍛錬も欠かさずやってる」
「不意打ちされますと、僕でも敵いません。女性でも上位の騎士になれる強さです」
ディクスがボソリと補足を加えた。
「コイツが『音声通話機器』で会話していた相手は、私達のもう一人の幼馴染だろう。私は平民だが、この男の家と私の家、それとその幼馴染の家が結構近くてな。近所で同年代はその三人しかいなかったから、自然と仲良くなったんだ」
「へぇ……」
「本題だが、私はあの衣料品店の店員でね、コイツが『女性の服を買いたい』と言うので、私の時間が空いた今日の夕方、服を選ぶのに協力していたという訳だよ。だからコイツとは本当に何でも無い。今日だって、服を買ったらすぐに解散だったんだ」
「そう……だったんですか……」
ミチルダが何処からともなく現れたのは、目の前の衣料品店から出てきたからだ。
実際、二人は本当に服を買っただけで別れようとしていたし、ミチルダの言い分は間違い無いだろう。
「それに私には、愛する旦那と子供がいるからね。不倫なんて死んでもしないさ」
「あ……」
ミチルダに左手の薬指に光る指輪を見せられ、シェラルはそれに全く気付かなかった自分を殴りたい衝動に駆られた。
「私はてっきり、この事を奥様は知っていると思っていたんだよ。けれど奥様に言っていなかったなんて……。あらぬ誤解を招いてしまい、本当に済まなかった」
深々と頭を下げられ、シェラルは首と手をブンブンと横に振る。
「いえ、そんな……ミチルダさんが悪いわけじゃ……。――じゃああの女性物の服は、ミチルダさんでも私でもない、“好きな人”に贈る為に……?」
ディクスが自分に贈る物では無い事は、シェラルには分かっていた。
ディクスは、この一年でシェラルの体躯を知り尽くしているので、ミチルダに訊かなくても容易に彼女に合った服を選ぶ事が出来るからだ。
ミチルダはシェラルが呟いた質問に、ディクスをキッと睨みつける。
ディクスはフードを被ったままだったので表情は見えなかったが、シェラルに深く頭を下げてきた。
「シェラ、本当にすみません。この事は、全てが終わったら必ず貴女に打ち明けます。だから今は、何も聞かずに待っていてくれませんか……?」
「キサマ……! まだ先延ばしにするのかっ!? 奥様がこんなに不安がっているのに!?」
「……すみません……」
ミチルダは激昂したが、ディクスは謝り、ただ頭を下げ続けるだけだった。
「……チッ、この臆病者が。奥様に嫌われるのがそんなに怖いのか」
「えぇ、怖いです……すごく。そうなったら、きっと僕は生きてはいけない――」
「…………」
ミチルダは一瞬顔を歪めたが、すぐに大きな溜め息を吐くと、シェラルに向かって言った。
「……奥様、どうかコイツを信じてやってくれ。コイツは本当に奥様の事を愛しているんだ。この状況で今そう言われても信じられないと思うが……コイツの想いが本物なのは、幼馴染の私が保証するから」
「…………」
シェラルが何も返せずにいると、ミチルダは優しく微笑み、きつく握り締めているその手を取ってシェラルを立ち上がらせた。
「キミの屋敷まで送ろう。今、コイツをキミと二人きりにさせたら危なそうだ。――ディクス。キサマはここで暫く、奥様を傷付けた事を深く反省していろ。隠し事は夫婦の間では厳禁だ。それの所為で、いつか必ず二人の間に亀裂が入る。今まさにその状況な事を、奥様との幸せな結婚生活で腑抜けた頭にしっかりと叩き込むんだな」
ミチルダは下を向き続けるディクスにそう言い放つと、戸惑うシェラルを連れて喫茶店から出て行った。
「……シェラ……。僕は本当に君の事を愛しているんだ……。だけど――」
頭を抱えたディクスのその呟きは、周りの喧騒に溶けて消えていったのだった――
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