事故から目覚めた最愛の妻は言った。「何故いるの? 貴方とはもう離婚してるのに。貴方の浮気の所為で」

望月 或

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13.城からの手紙




「奥様。王城からお手紙が届きました」
「えっ」


 マーサが持ってきた封筒を見て、ソファに座り本を読んでいたシェラルは驚きの声を上げた。
 ディクス宛になら何度もあるが、今まで自分宛に城から手紙が届いた事なんて一度も無かったからだ。


「……封筒にしっかりと王家の紋章が刻印されているわね……。という事は……本物ぉーーっ!?」
「偽物の王家の紋章を付けた手紙を出したら即捕まりますって。十中八九本物です」
「何で私に……? すごく嫌な予感しかしないんだけど……」
「開けますね」
「待って待って、心の準備が――」


 マーサは慌てるシェラルの言葉に耳を貸さず、小型の鋭利なナイフを懐から取り出し封を切った。
 そして手紙を封筒から出して目を通す。

 シェラルは無表情のマーサに慄きつつ、恐る恐る訊いてみた。


「…………何だった?」
「第二王女からのお茶会の招待状ですね。開催日は明日です」
「第二王女っ!? お茶会っ!? 明日ぁっ!?」
「ツッコむ箇所が盛り沢山ですね」


 シェラルは唸りながら頭を抱える。


「マーサ……私の性格知ってるでしょ? 人見知りで引っ込み思案の私に、王家のお茶会は攻略難易度が高過ぎるわ! まずは親しいお友達と二人だけのお茶会からでしょ!? 順番間違えてないっ!?」
「よくそんなんで侯爵夫人やってられますね」
「私も不思議で堪らないわっ!」


 シェラルはマーサに勢い良く返すと、彼女から手渡された手紙を読んでみる。


「……あぁ……。嘘じゃないのね……。けど、開催日が明日って……。通常はもっと早く手紙を寄越す筈よ? こっちだって都合があるし、色々と準備があるんだもの。本当有り得ないわ……」
「恐らく奥様だけ、わざと遅れて手紙を出しましたね。他の出席者はもっと早くに届いていると思いますよ。嫌がらせか、慌てふためく奥様の姿を想像して嘲笑っているのか」
「あぁ……やっぱりそうよね? エルモア様、旦那様の事がすごくお気に入りのようだから、やっかみ入っているでしょうね……」
「侯爵夫人の公務をお休みしていたから、予定が空いていて良かったですよ」
「はぁ……」


 シェラルは大きく溜め息をつくと、天を仰いだ。


「お茶会の話の中心は勿論エルモア様で、『ディクス様が格好良い』だの、『熱い視線でわたしを見つめてくる』だの、そういう感じの内容がずっと続くと思うわ……。あぁ……そんな生き地獄の空間には心底行きたくない……。けど王家からの招待状だし行かなきゃいけない……。この板挟み状態をどうすれば――」
「行かなきゃ駄目でしょう。欠席して王女に喧嘩売ったら、お城で働く旦那様にも迷惑を掛けてしまいますよ」
「ですよねー……」


 シェラルはガックリと頭を垂れる。


「となると、この開催時間も怪しいですね。通常のお茶会より遅過ぎます。本当にこの時間なのか……。私は奥様の招待状だけ時間を遅く記載して、遅れてきた奥様を皆で嘲笑う目論見だと考えますが」
「あぁ……やっぱりマーサもそう思う? この時間より一時間は早目に行った方がいいわね。そして一番端の席を確保して存在感を消して終始黙って乗り切るのよ!」
「いいと思いますよ。出席したという事実があれば、喋らなくても別に構わないですよ。早速明日の準備をしなければですね」
「ごめんね……。面倒掛けるわ、マーサ……」
「奥様の所為ではありませんよ。幼稚な思考の第二王女の所為ですので、どうぞお気になさらず」


 マーサは微笑むと、部屋から出て行った。


「ディーにはこの事……伝えられないか。最近ずっと擦れ違いだもの」


 あの日、喫茶店で別れてから、シェラルはディクスに会っていない。
 彼はあれから、皆がまだ眠っている朝早くに出掛け、皆が寝静まる頃に帰ってくるのだ。
 
 仕事が忙しいのか、それともシェラルと顔を合わせるのが気まずくて避けているのか。
 何にせよ、シェラルはディクスに会わなくてホッとしていた。


 マーサは、ミチルダと一緒に帰ってきたシェラルに、何も言わず出迎えてくれた。
 それから今まで一度もその事に関して口にしていない。きっと、心の中では何があったのか訊きたいだろうに。
 シェラルは、マーサの気遣いに深く感謝した。


「……はぁ……」


 シェラルの唇から、知らず溜息が漏れる。
 ミチルダの言葉を信じ、ディクスと普通に接したいのだけれど、やはり幾つも隠し事をしている彼に不信感を抱いてしまっている自分がいるのだ。


「“全てが終わったら”って何だろう……。本当に分からない事だらけだわ……。何にせよ、私に出来る事は……彼が話してくれるのを待つだけなのよね。あぁ……もどかしいったらないわ……」


 シェラルは再び深く息をつく。
 ディクスとは離婚している状態だが、彼はその事を誰にも、屋敷の者達にも一切話しておらず、シェラルはそれを言う仲の良い令嬢はいないので、まだ表沙汰にはなっていなかった。

 なので、表向きは『侯爵夫人』として、このお茶会に出席した方がいいだろう。


「……今から嫌な予感がしてならないわ……」


 シェラルは重たい腰を上げ、のろのろと明日のお茶会の準備を始めたのだった。


 

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