私、自立します! 聖女様とお幸せに ―薄倖の沈黙娘は悪魔辺境伯に溺愛される―

望月 或

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19.悪魔辺境伯の過去 弐

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 そこへ、また足音が聞こえた。今度は二つの足音だ。彼女が自分の母を連れてきたのだろう。


「……あぁ……。これは……ヒドいわね……」
「お母さん、私タオル持ってくるね! この人すごい汗だから! お水も持ってくる!」
「えぇ、頼むわね」
「うん!」


 少女の母と思わしき声と、少女の緊迫した声が頭上から降ってきて、会話の後一つの足音がここから離れていった。


「もしもし? 聞こえる? 貴方、とんでもない無茶をしたわね。恐らく、ボス級並の魔物を身体に取り込んだのでしょ? そりゃ身体が悲鳴をあげるはずだわ……。今から貴方の身体にいる魔物の動きを沈静化する“おまじない”を掛けるわ。集中するから、ちょっとの間叫ばないでね」


 女性から有無を言わさない声音でそう言われ、セリュシオンは唇が紫になるほど噛み締めて声を我慢する。

 女性の長い詠唱と共に、彼の身体が淡く光った。
 すると、さっきまで荒ぶっていた自分の中の魔物が急に大人しくなり、激痛や苦しみも嘘のように消えた。


「あ……?」


 セリュシオンはゆっくりと上半身を起こすと、身体を動かしてみた。
 ……魔物を吸収する前のように、普通に楽に動かせる。


「……よし、“おまじない”は成功したわ。私の魔力を“おまじない”を通して少量ずつ送るから、その間は貴方の中にいる魔物は大人しいわ。けど、私に何かあったり、魔力を多く使う別の“おまじない”を使った場合、貴方のそれの効力は消えちゃうからごめんなさいね。けど、その時はきっとあの子が助けてくれると思うわ」
「あの子……?」
「そう。貴方を心配して声を掛けた、私の娘よ。私に似てとっても可愛いでしょ?」
「あ、あぁ……」
「あの子が私を呼びに来なければ、貴方の中にいる魔物が、貴方の身体を突き破って飛び出してくるか、貴方自身が魔物になるか、そのどちらかだったでしょうね。あの子に感謝しなさいよ? ――そうそう、その魔物の影響で黒くなった髪と瞳の色だけど、魔物の支配力が弱くなったから、暫くしたら元の色に戻ると思うわ」


 改めて女性を見たが、少女と同じ艷やかな銀色の長い髪と、薄碧色の瞳をした美しい女性だった。


「お母さん! その人大丈夫!?」


 そこへ、少女が片手にタオル、もう片手に水の入ったコップを持って走ってきた。


「えぇ、大丈夫よ。――ていうか貴女、コップの中身、殆ど空よ? 急いで走って来たから、水の無事を確認する余裕がなかったのね」
「え……あっ!」


 女性に言われ、少女は初めて気付いたようだった。
 顔を赤らめながら、申し訳なさそうに、セリュシオンの前におずおずとタオルとコップを差し出す。


「雀の涙ほどの粗水ですが……」


 その言い方に、セリュシオンはブハッと吹き出した。


「どんな水だよソレは……っ」


 可笑しそうに笑うセリュシオンに、少女も釣られて笑う。
 可愛らしく眩しい笑顔に、セリュシオンの心臓が大きく跳ねた。


「……その、助けてくれてありがとな。えっと、名前は何て言うんだ?」


 セリュシオンの問い掛けに、少女は窺うように女性の方を振り向いた。


「……この子はフィーア、私はクロエよ。貴方は?」
「セリュシオンだ」
「え? セ……シオン? ごめんなさい、私達この国の者ではないから、難しい発音が聴き取り難くて……」
「いや、じゃあシオンで構わない」
「ありがとう、シオンさん。貴方とは会ったことがなかったけど、最近ここに来たのかしら?」
「あぁ、事情で親の持つ別荘で暫く過ごすことになってさ」
「……なるほど。事情は何となく分かったわ。それならもうお家に帰れるんじゃないの?」


 ……なかなか、勘が鋭い。
 セリュシオンは鋭い洞察力を持つクロエに感服しながら、自分達の会話を黙って聴いているフィーアにチラリと目を向けた。


「……いや、まだここにいる。この森は人があまり来ねぇし、魔法の鍛錬に最適だしな」
「そうなの? それならまた会うことがあるかもね。私達、この近くに住んでるから。――じゃあ、私達行くわね。もうあまり無理しちゃ駄目よ」
「さようなら、シオンさん」


 クロエとフィーアは一礼すると、二人仲良く並んで森の奥の方へと入っていった。


「……会うことがあるかもじゃなくて、会うんだよ」


 セリュシオンは、笑いながら母と話すフィーアの後ろ姿を見送りながら、そう小さく呟いた。




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