21 / 47
21.悪魔辺境伯の過去 肆
しおりを挟む※無理矢理、激しい暴行等の不快な描写がありますので、苦手な方は飛ばして下さい。
それからセリュシオンは、本当に毎日会う度フィーアにキスをした。しかも長い時間を掛けて。
どうやら彼はキス魔だったようだ。そんなこと、フィーアは知る由もないが。
会って最初は二人並んで談笑をするのだが、ふと会話が途切れると、セリュシオンはフィーアの身体を引き寄せ、可否の確認もせずに唇を重ねてくる。
彼女が拒むことはないと確信しているのだ。
始めは何度も啄むだけの口付けだが、フィーアが息を吸う為に少し口を開けると、その機会を逃さないとばかりに彼の熱い舌がスルリと入ってくるのだ。
口内をなぞられた後、奥に引っ込むフィーアの小さな舌を絡め取り、優しく嬲っていく。
その慣れた舌遣いに、フィーアは気持ち良さで何度も吐息混じりの声を出してしまった。
そんな声を出す度、フッと息を吐き目を細めるセリュシオンは、飽きることなくフィーアの唇と口内をたっぷりと堪能する。
いつものように長い時間が過ぎ、漸く唇が離れ、フィーアは荒い息をつきながらセリュシオンにもたれ掛かった。
十四歳の少女には刺激が強過ぎる、“大人”の口付けだ。
「……ね……」
「ん?」
フィーアを抱きしめながら彼女の項にキスを落としていたセリュシオンは、その小さな声に耳を澄ます。
「……絶対、慣れてますよね……?」
赤い顔で頰を膨らませているフィーアに、セリュシオンは思わず「ふはっ」と吹き出した。
「ま、オレってば二十歳のオトナだし? お前より多く生きてる分、経験も多く積んでる、ってな」
「……何の経験ですか……」
「お? もしかして嫉妬してんのか?」
ニヤニヤ顔で意地悪く問い掛けたセリュシオンに、フィーアはムッとした表情を浮かべ、彼の胸に顔を押し付けた。
「しましたよっ、シオンさんのバカッ」
「……ははっ! 何だこのカワイイ生き物は。オレを悶え殺す気か?」
セリュシオンは嬉しそうに笑うと、フィーアの顎に指を掛け軽く持ち上げ、その形の良い魅惑的に濡れた唇を再び奪う。
彼女が蕩ける顔を見せる度、セリュシオンの情欲が湧き上がり、日に日にキスの時間が長くなっていくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、待ち合わせの場所にフィーアは姿を見せなかった。
今までそんなことはなかったので、不思議に思ったセリュシオンは、辺りを捜してみることにした。
暫く捜すと、山小屋のような家を見付けた。その近くで、クロエが洗濯物を干していた。
やはり彼女達の家は森の中にあったようだ。
セリュシオンに気付いたクロエは、ニコリと笑みを浮かべて話し掛けてきた。
「あら、シオン君じゃない。よくここが分かったわね? あの子ならウキウキして貴方に会いに行ったわよ? 会わなかったの?」
「っ!? フィーア、ここにはいないのか!?」
「え? えぇ、随分前に出掛けていったけど……」
「……!!」
嫌な予感が、セリュシオンの中で一気に湧き上がる。
「どうしたの、シオン君。……まさか……あの子の身に何か……!?」
「分からねぇ。行き違いにならねぇように、クロエさんはそこにいてくれ。オレが捜してくっから」
セリュシオンは奥歯を噛み締めると、勢い良く駆け出した。
走りながら、五感に全神経を集中させる。
(フィーア……どこだ……何処にいる……っ!?)
すると、微かな人の声が聞こえたような気がした。
「……っ!!」
セリュシオンは急いで足を止めると、目を閉じ耳を澄ます。
「……聞こえた……。あっちかっ!」
セリュシオンは全速力で声のした方に走っていった。
「――おい、ちゃんと手足抑えておけよ。ククッ、いい眺めだなぁ。胸がまだ発展途上なのが残念だ。襲う女がブスだったら殴るだけにしようと思ってたけど、かなりの上玉じゃん? 嬢ちゃんよぉ、恨むんだったら、この依頼を俺達に寄越したフェブラーン子爵令嬢と、アンタのその可愛さを恨むんだな」
「お……おい、依頼人の名前を言っていいのかよ。バレたらマズくねぇか?」
「構わねぇさ。これからこの嬢ちゃんを、頭がおかしくなるくらい犯しまくるんだからな。それがフェブラーン子爵令嬢の指示でもあるしさ。お前らもちゃんと聞いてただろ?」
「あぁ、嗤いながら言ってたな、フェブラーン子爵令嬢……。それに『汚れたブスはあの人に嫌われ拒絶されるに決まってるわ』とかも呟いてたな。男女のもつれか? 女って怖えぇー」
「あーぁ、あの女に目ぇ付けられて、ついてねぇなぁ嬢ちゃん。――ククッ、この怯えた表情……いいな、最高だぜ……。報酬も貰えてこんな可愛い子を抱けるなんて、まさに一石二鳥じゃねぇか」
「興奮するのはいいけどよ、いきなり乱暴にして壊すなよ? 後があるんだからな」
「ははっ、善処するよ」
「公平にクジで決めたからお前が先だけどよ、次は俺だからな? 十分に楽しませて貰おうぜ?」
「嬢ちゃん、勿論ハジメテだよな? ごめんねぇ、お兄さんが貰っちゃうね? クククッ」
吐き気がする下衆な会話と共にセリュシオンの目に飛び込んできたのは、樹の下で服を破られ殆ど全裸になったフィーアが、男二人に手足と口を抑えられ、もう一人の男に今まさに襲われそうになっている光景だった。
フィーアの顔は涙に濡れ、酷い恐怖で真っ青になり、身体がガタガタと震えていた。
その姿を見た瞬間、セリュシオンは頭が真っ白になり、そして盛大にブチ切れた。
「……何してやがんだこのクソゲス野郎どもがあぁッッ!!」
絶叫し、男達へ一瞬の内に距離を詰めると、襲おうとしていた男の顔を全力で思いっ切りブン殴った。
「グボッッ!!」
男の頬が見事にヘコんで身体が飛ぶように吹っ飛び、樹にドカッと叩き付けられる。
続いて間を置かず、何が起きたか分からない表情をしている男二人を拳で勢い良く殴りつけた。二人は呻き声を上げ、地面に叩きつけられる。
セリュシオンは男三人を同じ場所に放り投げると、馬乗りになって一心不乱に殴り続けた。
男達の顔が原型を留まらない状態になっても、自分の拳の皮膚が擦り切れ血が吹き出しても、既に失神している血塗れのそれらを無心に殴り続ける。
もうどちらの血なのか分からなくなっていた。
不意に、セリュシオンの服の裾がクイッと引っ張られ、ハッと我に返った彼は後ろを振り返った。
そこには、青褪め涙を流し続けるフィーアが、カタカタと震えながら首を何度も左右に振る姿があった。
「フィーア……ッ!!」
セリュシオンは、小刻みに震える彼女の身体を温めるように強く抱きしめる。
「ゴメンな……? 助けるの遅くなって、ゴメン……ゴメンな……っ」
きつく閉じた瞳から涙を流すセリュシオンに、フィーアは首を横に振ると、彼を抱きしめ返し、声もなく泣きじゃくった。
その後、二人を捜しに来たクロエがすぐに衛兵を呼び、男達三人は意識のないまま連行されて行った。
いくら自己防衛とは言えやり過ぎだと衛兵に注意されたが、女性への暴行を初期の段階で防いだとして、お咎めなしとなった。
男達三人はあの後無事に意識を取り戻したが、顔面打撲に裂傷や骨折等々で、全治数ヶ月の大怪我を負った。
男達は取り調べで、「フェブラーン子爵令嬢の指示でやった」と供述したが、当の本人が強く否定をした。
フェブラーン子爵邸を家宅捜索したけれど、それに関係した誓約書や契約書は見つからなかった。男の一人がその写しを持っていたが失くしてしまったと言っており、証拠集めは困難となった。
証拠がなく、被害者から被害の訴えもなかったので、男達は実行犯で牢に入れられたが、子爵令嬢は短期間の謹慎のみとなったのだった。
クロエとフィーアは、事件の翌日、忽然と姿を消した。
住んでいた山小屋のような家も、今まで誰も住んでいなかったかのように綺麗に整頓されていた。
セリュシオンに、一言も何もなく二人は去って行ってしまった――
(会いたい――どうしようもなく会いたい、フィーア……)
彼女はきっと、あの時の恐怖で今も泣いているだろう。初期の段階で止められたとはいえ、大の男三人に詰め寄られ抑え付けられ、大きなトラウマになったはずだ。
彼女の華奢な身体を抱きしめ、毎晩慰めてあげられたなら――
何も出来なかったセリュシオンは、深い失意のまま実家へと戻った。
髪と瞳の色は、気付けばいつの間にか元の灰青色に戻っていた。
セリュシオンは、自分の中にいる魔物を倒す策の一つとして、厳しい鍛錬を重ね火の魔法を習得した。
彼の灰青色の瞳が、燃えるような紅い瞳に変わった瞬間だった。
その間に母が病気で亡くなり、後を追うように父も亡くなり、セリュシオンが辺境伯を継いだ。
彼はいついかなる時も、フィーアを忘れたことなどなかった。
心の中で燻る自責と、彼女を泣かせ、恐怖を抱かせ苦しめた者達に対する激しい怒りと憎しみも。
――そして、彼女と別れてから六年後。
二人の運命の輪は、再び彼らを繋ぐことになる――
1,438
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。
藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。
ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。
目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。
気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。
それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。
……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。
絶対に同じ間違いはしない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全四話で完結になります。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる