私、自立します! 聖女様とお幸せに ―薄倖の沈黙娘は悪魔辺境伯に溺愛される―

望月 或

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35.王の間にて

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 『王城に来て欲しい』との内容の手紙が、オーガステッド辺境伯からジャーニー男爵家のメルローズ宛に届き、彼女は手紙に記載のあったその日に浮足立って王城へと向かった。


 登城すると、入口近くでセリュシオンが瞳を閉じ、壁に寄り掛かり腕を組んで待っていた。
 相変わらずのスラリとした長身で、黒色に銀の装飾が入った彼独自の魔導士の服が、灰青色の髪と真紅の瞳によく似合っている。
 顔色が良くなり、目の下に隈がなくなった彼は、更に凛々しく美麗な顔立ちを際立たせていた。

 そんな彼がスッと瞼を開け、その綺麗な紅の瞳を自分の方へ向けると、メルローズの胸は大きく高鳴った。


(あぁ、もうすぐこの人と結婚出来るんだわ……。オーガステッド邸に住み始めたら、カイ様も私の虜にさせて、二人にたっぷりと愛されて過ごすのよ……フフフッ)


「ご機嫌よう、セリュシオン様。本日はついに国王陛下に結婚と妊娠の御報告に参りますのね?」
「……王の間に行く。来い」


 セリュシオンはメルローズの質問に答えず、無表情で短く要件を言うと、踵を返しサッサと歩き出した。


「フフッ、セッカチですのね? 一刻も早く陛下に結婚をお伝えしたいのですか? 勿論私もですわ」
「…………」


 セリュシオンの広い背中をウットリと眺めるメルローズの視線を無視し、彼は王の間に向かう。
 そして、ノックをすることなく扉を開け、中に入っていった。メルローズも小走りで後に続く。

 中には、玉座に座る国王の他に、宰相や大神殿の神官、そして重鎮の者達が集まっていた。


「おぉ、来たかオーガステッド辺境伯。聖女殿も一緒か。して、我らに話というのは……?」


 ジュライト王国国王は、ノックもせずに入ってきたセリュシオンを咎めることもせず、自分を真っ直ぐに見上げる彼に問うた。
 セリュシオンは辺境伯として、国境付近に現れる魔物達から命懸けで国を守ってくれているので、国王でも強くは出られないのだ。



「単刀直入に言う。この女、メルローズ・ジャーニーとの婚約の取り消しを願う。謂わば【王命】の取り消しだ。この女は『聖女』じゃない。『浄化魔法』を使えないニセモノ聖女だからな」



 セリュシオンが凛と響く言葉を放った瞬間、周りが一斉にざわめいた。
 メルローズは予想外の言葉に、唖然としてセリュシオンを見つめる。


「な、何でニセモノだと分かるんだっ!? 聖女様が子供達に“浄化”を行って毒を治したことは事実だろう!? 何を血迷ったことを……!!」


 大神殿の神官が喚いたが、セリュシオンはそれを冷めた目で一瞥する。


「なら、実際にこの場でやって貰う。――カイ!」


 セリュシオンが王の間の入口に視線を投げると、カイが一人の男の子と一緒に入ってきた。


「はい、失礼致しますね。この子はつい先日、魔物の瘴気に充てられ毒にやられてしまった子です。初期段階の毒なので、大人の皆様には移りません。そこはご安心を」


 カイがニコリと笑みを浮かばせながら、この場にいる皆に説明をする。


「『聖女』には、今ここでこの子の毒を“浄化”して貰う。――今日はまだ“浄化”していないし、魔力もたっぷりとあるだろ? この子の為にも早く“浄化”してやってくれ」
「お姉ちゃんがぼくの毒を治してくれるの? ありがとう! お願いね!」


 男の子は無邪気に、少しだけ紫色になって腫れた腕を差し出す。


「…………」


 メルローズは、真っ青な顔色のまま動かない。


「どうされたのです、聖女殿!? いつものように華麗に“浄化”して下さい!」


 神官がメルローズを急かす。


「……今日は……調子が悪くて……」


 メルローズが、青褪めた顔で消え入るような声で言った。


「ふぅん? じゃあ、いつが調子がいいんだ? 明日か? 明後日か? 『浄化魔法』を使うまで、毎日登城して貰うからな」
「…………」


 メルローズの反応に、国王達に戸惑いと不信の空気が流れる。


「……カイ。この子をフレイシルのもとへ」
「畏まりました」


 カイにしか聞こえないようにセリュシオンは言い、カイは頷くと男の子にそっと耳打ちをした。


「お兄さんと一緒に、君の毒を治してくれる優しいお姉さんの所に行こうね。大丈夫、痛みもなくすぐに治るよ」
「ホント!? 行く行くーっ!!」


 男の子は笑顔でカイと手を繋ぐと、一緒に王の間から出て行った。


「聖女様……?」


 神官が不安げな声を出すと、メルローズはハッとして慌てて声を張り上げた。


「さ、最近『浄化魔法』を酷使していたから、反動で暫く使えなくなっただけですわ! そ……それに私、セリュシオン様との子を妊娠していますの! ここにいらっしゃる皆様なら御存知かと思いますが、私達の婚約発表パーティーで、私とセリュシオン様は休憩室に暫くいましたの。その時に出来た子ですわ! 妊娠証明書もちゃんとありますのよ?」


 メルローズの突然の衝撃発言に、周りのざわめきが一層強くなった。


「……確かに、あの時主役二人は暫く姿を見せなかった……」
「その後、出てこられた聖女様の髪とドレスが少し乱れていたな……」
「聖女様のお腹の中に、オーガステッド辺境伯との子供が……?」


 周りの反応に、メルローズは心の中でニヤリと笑う。


「そうなのです。ですので、お腹が大きくなる前に結婚を早めようと思いますの。大々的に王国一華やかな結婚式を行わなければなりませんし。【王命】を取り消す必要は全くありませんわ。よろしいですわよね? 親愛なる国王陛下?」
「う、うむ……。本当は婚前に関係を持ってはいけないのだが……。若いし仕方ない部分もあるか……。そういうことなら――」


(ほらやっぱり! 運はいつも私に味方するのよ! 王様もホントチョロいわ。この王、押しに弱い部分があるのよね。セリュシオン様もいい加減諦めて、早く私の虜になりなさいよ)


 メルローズは心中で高笑いをしながら、感情のない顔で国王を見据えているセリュシオンを、横目で艶めかしく見つめたのだった。




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