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しおりを挟む「生きてて……無事で良かった……。本当に……良かった……!! 尋問、大丈夫だったか!? ごめん、ごめんな……っ。俺、何も……何も全然分かってなかった……っ」
「心配掛けてごめんなさい、リュス……。本当に、あなたは何も悪くないから気にしないで下さいね? 尋問は、乱暴な言葉で責められただけで、暴力は無かったから大丈夫ですよ」
「そうか、良かった……いや乱暴な言葉は良くないけどさ……。けど、どうやって〈処刑〉を免れたんだ?」
セリュシスの質問に、セレンはニコニコとこちらを見ているアストールに顔を向けた。
「牢獄で〈処刑〉を待っている私のもとに、アストールさんがコッソリやって来て、私の幻影を作って身代わりにして逃がしてくれたんです。だから、実際に〈処刑〉は実行されたので、この国で私は死んだことになっていますよ」
「……! そうだったのか……。団長、ありがとな……」
「そこは“お父さん”って言って欲しかったですねぇ。サボりと遊び以外には使えないかと思っていたけれど、息子の大切な人の命を救う貢献が出来て、脅威の『闇魔法』も涙を流して喜んでいることでしょう」
「……いやいや、コイツを助けてくれたのは本当に感謝してるけどさ、ソレ、もっとすげー使い道出来るって……。脅威の『闇魔法』サン、嬉し涙じゃなくて悔し涙流してると思うぜ……」
そんな親子のやり取りに、セレンがクスクスと笑っている。
アストールがコホンと咳払いをし、真面目な顔で口を開いた。
「――さて、彼女のことですが、このままこの国にいるわけにはいきません。髪型を変えてパッと見ただけでは気付かれませんが、彼女の顔を知っている者はいますからね。この国を離れることになるのですが――」
アストールの言葉に、セリュシスは自分の言葉を被せた。
「俺もセレンと一緒に行く。セレンは俺が傍にいて一生護っていく」
「リュス……。私は嬉しいのですが……いいんですか? この国を……アストールさんと離れることになるんですよ……?」
「団長は俺がいなくても大丈夫だ。寧ろ、アンタと一緒に行かない選択肢を取るとネチネチネチネチ言ってくる、絶対に。ま、行かない選択肢なんて最初からねぇんだけどさ」
「はっはっは。流石我が息子、分かっているじゃないですか。私は君の初恋を応援しますよ」
「ぐ、初恋って……。恥ずかしい言葉使うんじゃねぇよ。それに、最後じゃなくてさ……。その、たまにこっちに帰って来るから……これからも至らない俺に忠告してくれよ。――な、父さん?」
「…………っ!!」
セリュシスの最後の言葉に、アストールは大きく黒曜石色の瞳を見開いた。
「――ははっ。アンタの驚いた顔、初めて見たな?」
「……い、いきなりは卑怯ですよ!? 涙まで出そうになったじゃないですか!」
「おぉ、泣いてくれ泣いてくれ。俺もアンタの前で盛大に泣いちまったからな、おあいこだ」
「……流石、我が息子は私に似てイジワルですねぇ」
「自分で言うか? それ」
二人の掛け合いに、セレンは再び可愛らしい笑い声を出す。
「ふふっ。本当に仲の良い親子で羨ましいです」
「いずれ団長もアンタの“義父さん”になるから心配すんなよ」
「えっ!?」
「はっはっは、確定事項ですか。私もこんなに可愛らしいお嬢さんが私の“娘”になるなんて大歓迎ですよ。いやぁ、その日が楽しみですねぇ」
「お、お二人共……? それはちょっと早過ぎるお話では……?」
『そんなことは』「ないぞ」「ありませんよ」
「わ、わぁ……。ホント息ピッタリな仲良い親子ですねぇ……」
――そして、二人は共に旅立つ。
手をしっかりと握り合って。
セリュシスは騎士団を辞め、セレンは“聖女の力”を失い、二人はただの『男』と『女』になってしまったけれど。
楽しそうに笑い合う二人の未来は、眩い光で満ち溢れている――
――その後、『本物の聖女』として周りから過剰にもてはやされていた金色の髪の女が、全く“聖女の力”を使えないことが発覚し、〈処刑〉された『ニセモノの聖女』が、『本当の聖女』であることが判明する。
『本当の聖女』を〈処刑〉したとして、王族は国民から大批判を受ける。結果反乱が起こり、王族は全員、金色の髪の女は国民を騙した上、国庫金を私利私欲の為に使用していたとして〈処刑〉された。
『本当の聖女』を暴行していた兵士や冒険者は、騎士団長アストール・フォーハウトによって身元を洗い出され、全員重罰を受けた。
新しい王に、国民達が声を揃えて推薦した、元騎士団長のアストール・フォーハウトが就任する。
その補佐の為に、息子のセリュシス・フォーハウトとその妻であるセレン・フォーハウトが国に戻り、三人の貢献により、その国は永きに渡り安泰の道を辿っていく――
――その国の正式な歴史書には、そうしっかりと綴られている――
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