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45.妖艶に光るエメラルドの瞳
『ユヅちゃん、心底呆れてるでしょ? あんなんでも、この中で一番最年長の二十八歳なんだよ! ビックリだよね?』
「えっ、えぇえっ!?」
ブーちゃんが教えてくれた事実に、思わず口から叫び声が出てしまいましたよ……。
すぐ隣りにいたイシュリーズさんもビックリしています。
年齢ではなく、私の声で。
た、大変失礼いたしました……。
「ご、ごめんなさい。ブーちゃんが、ホムラさんの年齢を教えてくれて、それで驚いてしまって……」
「あぁ、アレを見たらそうなりますよね」
イシュリーズさんは、苦笑すると頷いてくれました。
「ともかく、だ。柚月と蕾殿にある腹部と背中の痣も、魔物に貫かれた傷痕だろう。あんな致命傷をどうやって治したのかは分からないが、シデン殿が柚月の父君である事は間違いないと思う。それを踏まえて、柚月はどうしたいのか考えて欲しいんだ」
「考える……?」
「あぁ。我々がシデン殿を討伐する、或いは再び封印する事実は変わらない。一度【闇堕ち】した者は、もう二度と元に戻らないと伝えられているんだ」
「もど……らない――」
リュウレイさんが、曇りなき眼で真っ直ぐに私を見ています。
その澄んだ青い瞳の奥に、覚悟と優しさを滲ませながら。
「だから……辛いだろうが、決めて欲しい。一緒に来て、シデン殿の結末をその目で見届けるか、ここに残って、我々の帰りを待っているか」
「…………」
「……今日はここで解散しよう。それぞれ部屋を設けてあるから、今夜はゆっくり休んでくれ」
「リュウちゃ~ん、一緒に寝よ♪」
「死ね」
「冷たい! でもそこがいいんだよねぇ♪」
「離れろ。そして死ね」
「死ぬのは確定なんだねぇ♪」
リュウレイさんとホムラさんが漫才(?)をしながら客間から出て行きます。
私も続いて立とうとしますが、何故か足元がおぼつかず、上手く立てません。
「……部屋まで送りますね」
イシュリーズさんが私を軽々とお姫様抱っこし、歩き出します。
申し訳ないけれど、お言葉に甘えることにしました。
何だかもう、頭の中がグチャグチャです……。
顔を見られないようにイシュリーズさんの胸に押し付けると、彼の視線を痛いほど感じましたが、気持ち的に顔を上げることは出来ませんでした……。
お部屋の扉に、名前入りのプレートが掛けてあったので助かりました。
文字もすんなりと読むことが出来たので、本当にイカ墨ドリンク様々です。
しつこく言いますが、もう絶対の絶対に飲みませんけどね!!
イシュリーズさんは、自分の名前のプレートが掛けてあるお部屋に入ります。
……ここで私の中に一つ、疑問が生まれました。
その前に、お部屋の感想ですが、中はきちんとお掃除されていて、お一人様用としては贅沢な広さがありました。
ベッドもダブル並な大きさがあります。
一度は泊まってみたかったスイートルームな感じで、私の気持ちが落ちていなければ、ベッドの上ではしゃいで無駄にゴロゴロと転げ回っていたでしょう……。
私が熱を出して寝込んでいたお部屋は、ここより簡易的で棚に様々なお薬が並んでいたので、きっと医務室的な役割のお部屋だったんだと思います。
イシュリーズさんは、ベッドの端に腰を下ろしました。私を横抱きにしたまま、膝の上に乗せて。
……ここで私の中で、二つ目の疑問が生まれます。
はい、では疑問点を整理しましょう。
まず一つ目。
イシュリーズさんは「部屋まで送る」と言ったのに、何故か彼の部屋に連れてこられた。
そして二つ目。
何故かイシュリーズさんの膝の上で横抱きにされている。降りようとしても離してくれない。
……何なんですかこの状況は。
頭グチャグチャなのに、更にグッチャグチャにしてどうするんですかぁっ!?
「……イシュリーズ、さん?」
「柚月。ゆっくりでいいから聞かせて下さい。今の貴女の胸の内を」
「え?」
顔を上げると、真剣な表情のイシュリーズさんが、私を真っ直ぐに見つめています。
「あ……」
「長くなっても大丈夫ですよ。正直な気持ちを、俺に教えて下さい」
“正直”な気持ち……。
「……私、は……」
「はい」
優しく相打ちするイシュリーズさんに勇気を貰え、心の奥につかえているものを吐き出すように、少しずつ言葉を紡いでいきます。
「私は、ずっと自分は日本人だと思ってて。だけど本当はこっちで産まれたって」
「はい」
「父さんは死んだとずっと思ってたのに、こっちの世界で生きていて、《雷の聖騎士》で。でも【闇堕ち】しちゃってて、でも私の記憶にないからもう訳分からなくて」
「はい」
私のめちゃくちゃな言葉でも、イシュリーズさんは優しく頷き、辛抱強く聞いてくれています。
「少しだけ父さんの記憶見たけど、カッコ良くて、子供の私と遊んでくれて、私と母さんが大好きだって……。そんな父さんが【闇堕ち】して世界を滅ぼそうとしてるなんて、全然信じられない。他人ごとみたいにしか聞こえない。私がどうしたいかなんて、考えても全然分からない」
「はい」
「だから、だから……。……私は、父さんとの記憶を思い出したい。――そう、そうだ。取り戻したいんだ。私の幼い頃の想い出を、全部。例えそれが辛くて悲しい記憶でも、父さんと過ごした想い出を全部……!」
今度は私の方が、イシュリーズさんの顔を真っ直ぐに見ました。
イシュリーズさんは、良く出来ましたという風にフッと微笑みます。
「貴女の気持ち、十分伝わりましたよ。ありがとうございます。――では、試してみますか?」
「え? 何を……?」
イシュリーズさんは、私の耳元に唇を寄せ、囁きました。
「ホムラが最後に言った方法です」
ホムラさんが最後に言った方法……?
それって、刺激的で衝撃的で、気持ち良くもあって……。
確か、セッ――
そこまで思い出して、私の顔が瞬時にボンッと真っ赤になります。
そろりとイシュリーズさんを見ると、エメラルド色の瞳が熱を帯びて妖艶に光り、私をじっと見つめていました……。
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