《用無し》と放り出された私と、過保護な元《聖騎士》様の旅路

望月 或

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84.Ishreeze Side 12




 魔物を次々と斬り伏せ、残り後二匹となった。

「一気に仕留める!!」

 そう叫び、二匹に向かって駆け出そうとしたイシュリーズのすぐ後ろで雷が落ちる轟音がし、

「グアァアァァッ!!?」

 と、劈くような魔物の悲鳴が辺りに響き渡った。

「…………っ!?」

 イシュリーズはビクリと動きを止め、後ろを振り返る。
 そこにはいつの間に現れたのか、真っ黒い毛を持つ巨大な魔物が、身体からプスプスと煙を上げのた打ち回っていた。

『何っ!? 風景に溶け込んで気配を消していたのかっ!? 上級の魔物か!!』

 イシュリーズの頭に低い男の声が響き、間を置かず《ウインドブレイド》が回転しながら足元に転がってきた。

「ウイン!? 柚月はどうしたんですかっ!?」
『この魔物の気配を察したんだろう。お前に声を掛けるのは集中力を途切れさせると判断したのか、咄嗟にこの私を魔物に投げてお前を助けたんだよ』
「っ!? じゃあ柚月は今――」
「グアオォォッ!!」

 突然の咆哮に、イシュリーズは声のした方に素早く振り返ると、残った二匹の魔物が柚月の方へ突進していくのが目に入ってきた。

「しまった……!!」

 柚月は、向かってくる二匹を見ると、真剣な表情で何かを叫び、踵を返すと森の奥へと走り出す。

「柚月っ!?」

 その表情は、二十年前の、あの広場の時に彼女が見せたものと同じで。

『……追ってくる二匹を逃げ回って引き付けるから、目の前にいるこの魔物を先に倒してくれ、だそうだ。全くアイツは……。自分が丸腰だと分かっているのか?』
「…………っ!!」


 ……また、あの時と同じ――
 貴女は今回も、誰かの為に命を張って。
 そうしてまたいなくなるのか?

 あの時と同じように。
 俺に何も言わないまま。
 手の届かない、

 遠くへ――


「……そんな事、絶対にさせない……」

 《ウインドブレイド》を腰に差したイシュリーズは、起き上がって唸っている黒い毛の魔物を見上げ、剣を構える。


「もう繰り返さない……絶対にッ!!」


 叫ぶと同時に地を蹴り、魔物の首目掛けて剣を振り下ろす。

 ガキイィィンッ!!

「なっ!?」

 しかし彼の剣は魔物の首に当たった瞬間、折れて砕けてしまった。予想以上に魔物の皮膚が硬かったのだ。
 自身の焦りと、魔物が全身黒い毛に覆われていた所為もありそれが分からず、イシュリーズは判断を誤ってしまったのだった。

 魔物が、勝利を確信したかのように口の端を大きく持ち上げ、ニタリと笑う。

『ふむ、まずいな。どうする、イシュリーズ?』
「……まだだ……」

 イシュリーズは折れた剣の柄を放り投げると、魔物をキッと睨みつける。


「俺は繰り返さない、絶対に。今度こそ柚月を守る。俺の命に賭けて、柚月は絶対に俺が守るッ!!」


 イシュリーズがそう言い放った刹那、彼の身体がパァッとエメラルド色の光に包まれた。
 その眩い光が消え去った時、イシュリーズの髪は元の灰青色に、瞳はエメラルド色へと戻っていた。
 そして、右手には《勇者》が奪った筈の【聖剣】が握られていたのだ。

『……戻ったか、《風の聖騎士》に』
「はい。すぐに柚月を助けに行きます」

 イシュリーズは真剣な表情のまま【聖剣】を構え、それをその場でヒュン、と振り下ろす。
 すると剣から凄まじい音と共に衝撃波が飛び出し、黒毛の魔物の身体を真っ二つに切断した。
 それらが地面にドサッと倒れ、ピクリとも動かなくなったのを確認すると、イシュリーズは呟く。

「翼よ、我の背に宿れ」

 その瞬間、イシュリーズの背中に純白の双翼が現れ、彼はそれをチラリと目視すると地を蹴り宙に飛んだ。

 そのまま高く飛び、空から柚月の居場所を探す。
 すると、大きな湖の前で崩れるように座り込む彼女と、今まさに襲い掛かろうとしている二匹の魔物が目に飛び込んできた。

「柚月っ!!」

(今から向かっても間に合わない……なら!)

 イシュリーズは【聖剣】を投げ槍のように持ち、

「はぁッ!!」

 掛け声と共に一気に放つ。
 それはもの凄い早さで地面へと飛んでいき、二匹の魔物の目の前で見事に突き刺さった。
 驚いて動きを止めた魔物達を、呼び寄せ主の手に戻ってきた【聖剣】の技を使い、カマイタチのように斬り刻む。

 魔物達は、儚く命を散らせていった――



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