3 / 16
◆本編◆
3.婚姻式にて
しおりを挟む――そして、迎えた当日。
その日は、身内だけの少人数で簡単な婚姻式が行われた。関係者を集めた正式な結婚式は後日行うらしい。
普段は滅多にしない化粧をしっかりされ、高そうなウェディングドレスを身に纏った私を、正装姿のオブラスタ公爵は相変わらずのドンピシャ好みの顔で鋭く睨みつけていた。
睨む顔もとても素敵で全然嫌ではなく、私はニヤける顔を抑えるのに必死だった。
そしてもう一人、私をずーっと憎々しく睨んでくる桃色のウェーブ髪をした可愛らしい女性がいて。彼女がきっとオブラスタ公爵の義妹さんだろう。
彼女にとって、私は“愛する人の間に割り込んできた極悪女”と言ったところか。
でも政略とは言え、この結婚を望んだのはオブラスタ公爵自身だし、その事情は分かって欲しいものだ……。
式は滞りなく順調に進み、結婚の誓約まできた。
お互い夫婦になることを誓い合い、指輪を交換し、最後に“誓いのキス”をするのだが――しまった、本当にするのか事前に打ち合わせをしていなかった!
「では、誓いの口付けを」
牧師様の厳かな声が式場に響く。
(まぁ、閣下の恋人の前だし、“振り”だけよね? 目を瞑っていれば、あとは閣下がどうにかして誤魔化してくれるでしょ。ベールを被ってるから顔も隠せるしね)
私は相変わらずこちらを睨んでいるオブラスタ公爵に向き直り、見上げる。そしてそっと瞳を閉じた。
すると目の前からコクリと唾を呑む音が聞こえ、ベールがめくられると同時に後ろに下げられる。
(……えぇっ!? ベール取っちゃうの!? ソレ取っちゃうと、“振り”をするのが難しくなるんじゃ――)
私が目を瞑りながら戸惑っていると、腰に手が回されグイッと引き寄せられる。そして左の頬に手を添えられ、唇に吐息が掛かったと思ったら、ふに……と柔らかく温かな感触を感じた。
(……ええぇっ!? 本当にしてるぅっ!?)
ビックリして目を開けると、すぐ目前に青藤色の神秘的な瞳があった。バッチリと目が合ってしまい、慌てて瞼を閉じる。
フッ、とまるで吹き出したかのように息を吐かれたが、唇は離れない。身体も腰を抱かれたまま、互いに密着した状態だ。
(……ん? ちょっと待って? 私の左頬に閣下の手があるってことは……。私達の立ち位置からして、思いっ切り皆にキスを見られてるっ!?)
内心アワアワ状態の私にオブラスタ公爵は気付くはずもなく口付けを続ける。時折角度を変えるけど、唇はやはり一ミリも離れない。
チラリと薄目を開くと、やはりオブラスタ公爵の両目はバッチリ開いて私をジッと見つめていた。
睨まれてはいないようだけど……。
はっ、恥ずかしいからせめて両目は閉じてぇーーっ!?
異様に長い口付けに、式場内に戸惑いの空気が流れ始めた。キスを始めてから数分は経っているからだ。
オブラスタ公爵の顔に鼻息が掛からないように必死に息を止めていた私は、もはや窒息寸前だ。
「……あ、あの……? もう……離れて頂いて大丈夫ですよ……?」
牧師様の遠慮がちな声が聞こえると、ようやく唇から感触が消えた。そして、腰に回されていた手も離れる。
(救世主の牧師様、ありがとう……!!)
私はすぐさま何度も深呼吸をし、オブラスタ公爵と少し離れおずおずと瞼を開くと、彼はいつも以上の鋭い目つきで私を睨んでいた。
……もしかして、懸命に止めていた筈の鼻息が公爵の顔に掛かっちゃってた……? だから不快な気分になって、こんなに怒ってるのかしら……?
……そ、そんなの不可抗力ですーー!! 公爵のキスがすごく長かったんだものーー!!
完全完璧に息を止めるなんて、「今すぐに神様の元へ行け」って言ってるようなものですーー!!
心の中で抗議を上げていると、暫く私を睨みつけていた彼は、不意に牧師様の方に正面を向けた。私も慌ててそれに倣う。
……しかしまぁ、本当にキスするなんて思ってもみなかったわ……。義妹さんの前だし、絶対にしないと思ってたのに……。
神様の前で誤魔化しは良くないと思ったのかしら? 誠実なお方ね……。
でも神様の前で死にそうになったけどね。私、これがファーストキスだったけどね。
……え? どうでもいい紙クズ同然の情報ですって? 悪かったわね!
けど、“誓いのキス”ってこんなに呼吸困難で天に召されそうになるほど長いものなの? 前世では未婚のまま死んじゃったから分からないわ……。
……あぁ、怖くて義妹さんの方を見られない……。
頭にニョッキリ角生やして般若面で背後から炎が吹き出てなければいいけど……。
1,205
あなたにおすすめの小説
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています
白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。
呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。
初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。
「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる