冷徹公爵様にお決まりの「君を好きになることはない」と言われたので「以下同文です」と返したら「考え直してくれ」と懇願された件について

望月 或

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◆本編◆

3.婚姻式にて

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 ――そして、迎えた当日。


 その日は、身内だけの少人数で簡単な婚姻式が行われた。関係者を集めた正式な結婚式は後日行うらしい。
 普段は滅多にしない化粧をしっかりされ、高そうなウェディングドレスを身に纏った私を、正装姿のオブラスタ公爵は相変わらずのドンピシャ好みの顔で鋭く睨みつけていた。
 睨む顔もとても素敵で全然嫌ではなく、私はニヤける顔を抑えるのに必死だった。

 そしてもう一人、私をずーっと憎々しく睨んでくる桃色のウェーブ髪をした可愛らしい女性がいて。彼女がきっとオブラスタ公爵の義妹さんだろう。
 彼女にとって、私は“愛する人の間に割り込んできた極悪女”と言ったところか。

 でも政略とは言え、この結婚を望んだのはオブラスタ公爵自身だし、その事情は分かって欲しいものだ……。



 式は滞りなく順調に進み、結婚の誓約まできた。
 お互い夫婦になることを誓い合い、指輪を交換し、最後に“誓いのキス”をするのだが――しまった、本当にするのか事前に打ち合わせをしていなかった!


「では、誓いの口付けを」


 牧師様の厳かな声が式場に響く。


(まぁ、閣下の恋人の前だし、“振り”だけよね? 目を瞑っていれば、あとは閣下がどうにかして誤魔化してくれるでしょ。ベールを被ってるから顔も隠せるしね)


 私は相変わらずこちらを睨んでいるオブラスタ公爵に向き直り、見上げる。そしてそっと瞳を閉じた。
 すると目の前からコクリと唾を呑む音が聞こえ、ベールがめくられると同時に後ろに下げられる。


(……えぇっ!? ベール取っちゃうの!? ソレ取っちゃうと、“振り”をするのが難しくなるんじゃ――)


 私が目を瞑りながら戸惑っていると、腰に手が回されグイッと引き寄せられる。そして左の頬に手を添えられ、唇に吐息が掛かったと思ったら、ふに……と柔らかく温かな感触を感じた。
 

(……ええぇっ!? 本当にしてるぅっ!?)


 ビックリして目を開けると、すぐ目前に青藤色の神秘的な瞳があった。バッチリと目が合ってしまい、慌てて瞼を閉じる。
 フッ、とまるで吹き出したかのように息を吐かれたが、唇は離れない。身体も腰を抱かれたまま、互いに密着した状態だ。


(……ん? ちょっと待って? 私の左頬に閣下の手があるってことは……。私達の立ち位置からして、思いっ切り皆にキスを見られてるっ!?)


 内心アワアワ状態の私にオブラスタ公爵は気付くはずもなく口付けを続ける。時折角度を変えるけど、唇はやはり一ミリも離れない。

 チラリと薄目を開くと、やはりオブラスタ公爵の両目はバッチリ開いて私をジッと見つめていた。
 睨まれてはいないようだけど……。

 はっ、恥ずかしいからせめて両目は閉じてぇーーっ!?


 異様に長い口付けに、式場内に戸惑いの空気が流れ始めた。キスを始めてから数分は経っているからだ。
 オブラスタ公爵の顔に鼻息が掛からないように必死に息を止めていた私は、もはや窒息寸前だ。


「……あ、あの……? もう……離れて頂いて大丈夫ですよ……?」


 牧師様の遠慮がちな声が聞こえると、ようやく唇から感触が消えた。そして、腰に回されていた手も離れる。


救世主メシアの牧師様、ありがとう……!!)


 私はすぐさま何度も深呼吸をし、オブラスタ公爵と少し離れおずおずと瞼を開くと、彼はいつも以上の鋭い目つきで私を睨んでいた。


 ……もしかして、懸命に止めていた筈の鼻息が公爵の顔に掛かっちゃってた……? だから不快な気分になって、こんなに怒ってるのかしら……?


 ……そ、そんなの不可抗力ですーー!! 公爵のキスがすごく長かったんだものーー!!
 完全完璧に息を止めるなんて、「今すぐに神様の元へ行け」って言ってるようなものですーー!!


 心の中で抗議を上げていると、暫く私を睨みつけていた彼は、不意に牧師様の方に正面を向けた。私も慌ててそれに倣う。


 ……しかしまぁ、本当にキスするなんて思ってもみなかったわ……。義妹さんの前だし、絶対にしないと思ってたのに……。
 神様の前で誤魔化しは良くないと思ったのかしら? 誠実なお方ね……。
 でも神様の前で死にそうになったけどね。私、これがファーストキスだったけどね。

 ……え? どうでもいい紙クズ同然の情報ですって? 悪かったわね!
 けど、“誓いのキス”ってこんなに呼吸困難で天に召されそうになるほど長いものなの? 前世では未婚のまま死んじゃったから分からないわ……。


 ……あぁ、怖くて義妹さんの方を見られない……。
 頭にニョッキリ角生やして般若ヅラで背後から炎が吹き出てなければいいけど……。



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