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26.事件連発!? ◇
しおりを挟む「どうしました? ――そこに入っていたのに、無くなってるんですか?」
ゼベクも全ての引き出しの中を奥まで確認し、私を肩に乗せて他の場所も調べてみたけれど、例の書物は何処にも見当たらなかった。
「どういう事だ……? 誰かがこの部屋に忍び込み盗み出したのか……? しかし、一体誰が――」
ゼベクの呟きに、私も顎に手を当て考え込む。
(公爵の『協力者』はミュールだと思っていたけれど、実はもう一人いた……? その人物は書物の存在を知っていて、公爵が持っている事も知っていて、こっそり持ち出した……? けど何の為に……?)
「……『協力者』がもう一人、か……。今の所、見当もつきませんね……。取り敢えず戻りましょうか。こんな場所に長居は無用です」
私達は一旦諦めて、公爵の部屋を後にした。
帰りも強制的にゼベクの肩の上……。心を懸命に無にしつつ私の部屋に戻ると、彼は棚の上に私をそっと下ろした。
「書物を持ち出した人物を見つけ出して返して貰わないと、エウロペア様を元に戻す事が出来ません。宰相に別の『協力者』がいるのか訊いてきますので、エウロペア様は大人しく待っていて下さいね。また抜け出したなら……分かっていますよね?」
そう言うと、ゼベクはニィーッコリと笑う。
(ヒェッ! 圧が……笑顔の裏にあるドス黒い圧がとんでもない……っ!!)
私が内心冷や汗ダラダラでコクコクと頷くと、ゼベクはふぅと息をついて私の頭を撫でた。
「俺は貴女の事が心配なんです。それは分かって下さいね?」
(分かっているわ。私に何かあると、貴方の大切なリオが心配するものね。ゼベクはそれが嫌なんでしょう?)
「…………」
私が頷いてゼベクを見ると、彼は何故か複雑な表情をしていた。
その顔のまま無言で私から手を離し、クルリと背を向ける。
「……何かあったら大声で呼んで下さい」
(どうやってよっ!?)
私の突っ込みは、ゼベクの背中に跳ね返って下へと落ちていった……。
ゼベクが部屋から出て行くと、私は心の中で小さく溜め息を吐いた。
(『協力者』……。一体誰なんだろう……。確か公爵は、その『協力者』であろう人物の事を“あの方”と呼んでいたわ。ミュールに“あの方”呼びはしないものね。その呼び方をするって事は、公爵より身分が高い人……? それってかなり限られるじゃない――あっ)
私の中で『ある人物』が思い浮かんだ時、ノックの音がし、部屋に誰かが入ってきた。
薄茶色の肩まで伸びた髪と、黄金色の綺麗な瞳。
今しがた思い浮かべた、リオーシュと似ている顔つきの彼は――
(アディオ様っ!?)
「……義姉さん、御機嫌如何かな? 相変わらず美しいね……フフッ」
アディオ様は優美に微笑むと、本体の私に近付いた。
「兄さんはまだ義姉さんと離婚していないんだね……。義姉さんをそうやって縛り付けて、義姉さんが幸せだとでも? ――はっ、そんな訳無いだろ。僕なら義姉さんを幸せに出来るよ。だから僕と一緒に行こうか、義姉さん」
(え? 行く? 行くって何処に……?)
「本当は宰相が色々と手助けしてくれる予定だったんだけど、何でか捕まっちゃったしね。けど、僕一人で十分だ。今兄さんは公務中だし、兄さんの側近は宰相の所に行ったのを確認したから暫く戻ってこないだろうし、義姉さんの侍女も違う仕事の最中だし、今が絶好の機会だ。まずは僕の別荘に行こうか。そこで義姉さんを元に戻す方法を試してみよう。まだ中身は読んでないけど、時間はたっぷりとあるからね」
アディオ様の発言を聞いて、私は彼の手に例の書物が握られている事に気が付いた。
「義姉さんが元に戻ったら、誰も追い掛けて来ない遠い国で、二人で幸せに暮らそう。そうすれば兄さんも諦めて離婚届を出すだろ。義姉さんは兄さんの所為で傷付いているだろうし、僕が沢山慰めてあげるよ。僕と義姉さん、二人だけの世界になるんだ……。ふふっ、楽しみだね、義姉さん?」
(いやいやっ、勝手に決めないでっ!?)
アディオ様は嬉しそうに笑うと、私を軽々とお姫様抱っこした。
(いやいやいやっ、勝手に連れて行かないでっ!?)
私は慌てて立ち上がると、勢いをつけてアディオ様に向かって飛び掛かった。
突然飛び込んできたリーエちゃんに驚いたアディオ様だったけれど、
「何だこの人形? 風で飛ばされたのか? 邪魔だな」
と、簡単に引き剥がされペイッと投げ捨てられてしまった。
ベッドの上にコロコロと転がった私を置いて、アディオ様は本体の私を連れ部屋を出て行ってしまった。
(どっ、どどどうしよう……っ! お願いっ、誰でもいいから早く来てっ!!)
私が祈りながらベッドの上でワタワタしていると、そこへゼベクが戻って来た。
「お待たせしました、エウロペア様。アイツなかなか口を割らな――ってオイッ!? 本体は何処行ったんだっ!? 一体何があったっ!?」
本体の私が消えている事に酷く驚いたゼベクは、丁寧口調も忘れてベッドの上にいる私に強い声音で問い掛けてきた。
私は短い指を二本立て、もう片方の手で上を指差す。
「二本……上……上にいる……? ――!! 第二王子――アディオ殿下か! アイツが本体を連れて行ったんだなっ!?」
私はコクコクと頷く。
「くそっ! 宰相から聞き出すのが一足遅かった……! アイツが何処に行ったか分かるか!?」
(えっと……別荘ってどうやって伝えたらいいの!?)
私はキョロキョロと辺りを見回し、飾ってある絵画に目を移すと、そこには宮殿の絵が描かれていた。
(一か八か……っ)
私は自分自身を指差し、次に絵画を指差す。
「人形……? いや、自分……か? 自分に、宮殿の絵画……? 自分の宮殿――別荘か!? アイツの別荘に向かったのかっ!」
(ゼベクさん、貴方今から探偵にならない? きっと名声を轟かせる名探偵になれると思うわっ)
私はコクリと頷くと、棚に入っている本を指差す。
「棚……本、か……? ――あぁ、例の書物も持っていたのか! 持ち出した犯人は殿下だったか……! ヤツは別荘で試すつもりなのか? ――くそっ、兎に角リオーシュに伝えないと……!」
ゼベクが私を抱き上げ駆け出そうとした時、ノックも無くガチャリと乱暴に扉が開けられた。
「ゼベク、いるかっ!?」
リオーシュだった。何やら慌てた様子でゼベクに走り寄る。
「さっき早馬で手紙が届いたんだが――って、ロアは何処だっ!? 手洗いや湯浴みはまだ先な筈だぞ!? 何故いないんだっ!?」
リオーシュは、本体の私がいない事にすぐに気が付き、大きく目を見開くと悲鳴に似た叫び声を上げた。
「落ち着け、リオーシュ。彼女はお前の弟が連れ出したんだ。行き先は分かっているから、これから追い掛ける」
「アディオがっ!? ――やっぱり諦めていなかったんだな……」
「お前の方こそ、そんなに慌ててどうしたんだ? どこからその手紙が届いたんだ?」
唇を強く噛むリオーシュにゼベクが質問すると、彼はハッとし、慌てて手に持つ手紙を持ち上げた。
「ロアの実家のシルヴィス侯爵家からだ。カトレーダ嬢の意識が無事に戻ったそうだ」
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