私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或

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14.突撃

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「……もう、大丈夫か?」


 レクサールさんが頭を撫でながら優しく声を掛けてくれ、私は涙を拭きながら彼から離れた。


「はい、もう大丈夫です。胸、貸して頂いてありがとうございました」
「俺の胸で良かったら無限に貸そう」


 真面目な表情でそんなことを言うレクサールさんに、私はふふっと笑ってしまった。
 笑える余裕が出来たのは、彼のお蔭だ。
 本当にありがとう、レクサールさん……。


「さて、どうするフィンリー? あの二人の会話からすると、今、路地裏にある宿屋で情事をしているだろう。決定的な不倫の証拠を掴めるが……」
「行きます。もう……終わりにさせます。それに、レクサールさんの“大事なモノ”も取り返さないといけないですし」
「そうだな、ありがとう。では向かうとするか」


 レクサールさんは、カタカタと震える私の手を握ると、優しく微笑んだ。
 彼の笑みとその大きな手の温もりに、私は勇気を貰い、コクリと頷き返す。

 私達は路地裏にある宿屋に入ると、受付にいる店主に笑顔で挨拶をした。


「こんにちは、店主さん」
「おやおや、えらいべっぴんさんと美丈夫が来たねぇ。ここを利用かい?」
「いえ……すみません。お伺いしますが、こちらにプリヴィ・ウィンザルという女性は泊まっていませんか? 私は姉のフィンリー・ウィンザルと申しまして、妹の忘れ物を届けに来たんです」
「あぁ……うん、いるよ。さっき一緒に泊まっている男と戻ってきたから、今頃お楽しみかもしれないねぇ」
「……そうですか。大丈夫です、忘れ物を届けてすぐに帰りますので。お願いなのですが、部屋の鍵を貸して頂けますか?」
「えぇ? んー……。いくら家族とは言え、泊まってるお客さんに内緒で貸すのはねぇ……」
「そこを何とかお願い出来ませんか?」


 私は申し訳なさそうに言いながら、店主さんに安くないお金をそっと手渡す。途端、彼女の顔がニンマリと崩れた。


「おやおや、ヘヘッ。全くしょうがないねぇ。ほら、その娘のいる部屋の鍵だよ」
「ありがとうございます、店主さん。終わりましたらすぐにお返しします」


 鍵を受け取った私は店主さんに頭を下げると、レクサールさんと一緒に歩き出した。


「……レクサールさんの言う通りにしたら、驚くくらいすんなりと上手くいきましたね」
「君の夫は立場上偽名を使っているかもしれないが、妹の方は何も考えずに本名を書いた可能性が高かったからな。それに、こういう裏で稼業している者は、金を積んだら大抵言うことを聞く」
「よくご存知で……。流石ですね……」


 暫く歩くと、二人のいる部屋の前に着いた。
 私達は頷き合い、扉に近付き耳を澄ましてみると……。


「あはははっ! ホンット不様ねぇ♡ ほらほら、気持ちいい? ここかしらぁ?」
「あぁっ……! いいっ! とてもいい……っ! 君は本当に最高だ、プリヴィッ! もっと、もっと強く……っ!!」


 ビシバシッという何かを打つ音と共に、プリヴィの高笑いとエンディニオ様の歓喜の声が響いてくる。

 え……? 何これ? 一体どんな状況なの?

 私は怪訝な表情を浮かばせながらレクサールさんの方を見上げると、彼は真面目な顔で頷き返してきた。
 そして、持っていた鍵を鍵穴に差し込み、カチャリと開ける。

 え? 早速開けちゃうの? 心の準備は?

 私が戸惑っている間に、レクサールさんは、何の躊躇もなく勢い良く扉を開けた。


「ウフフフッ♡ 根っからのヘンタイね、お義兄様ぁ? 口元が涎まみれで、ホントみっともなくて汚らしいわぁ♡」
「だって、君が振るう鞭の痛みが気持ち良過ぎて……あぁっ、堪らないっ!! もっとだ、もっとボクを打ってくれぇっ!!」


 そこには、想像もしなかった光景が広がっていた。
 全裸のエンディニオ様が下、同じく裸のプリヴィが彼の腰に跨りしっかりと繋がっていて、妹が心底嬉しそうに彼を鞭で強く打ち続け、彼はそれを受けて満面の笑顔で叫び、善がっていたのだ。
 だらしなく涎を垂らしながら。


「…………えっ」


 とんでもない二人の姿に思わず声が出てしまい、それに気付き彼らは同時に振り向いてしまった。


「――えっ……。……え、ぇえ……フィ、フィ……フィンリィーッッ!?」
「え――やだっ!? れ……レクサール様ぁっ!? や……やだやだっ、何でっ!? えっ、やだっ、どうしてっ!?」


 プリヴィは慌ててエンディニオ様から離れ、散らばっていた衣服を急いで掻き集め身体を隠す。
 エンディニオ様は、まだ何が起こったのか分からないのか、横になったまま、今の今までプリヴィと繋がっていた彼のソレを隠そうともせず、呆然と私達の方を見ていた。
 次第にソレがヘニャヘニャと急激に萎み、クタリと頭が垂れる。

 私は呆気に取られたまま時が止まってしまっていたけれど、レクサールさんの、


「伺おうか。これは一体どういう状況だ?」


 という落ち着いた声音に、ハッと意識を取り戻した。
 

「ちっ……違うっ!! 違うのレクサール様ぁっ!! これはこの人が無理矢理あたしにやらせたことで……っ! あたしは被害者なの!! あたしは何度もイヤだって言ったのに……っ!!」
「はっ!? なぁ……っ!? きっ、君だって喜んで同意したじゃないか!! ――あっ……。ち、違うんだフィンリーッ! こ、これはその……う、浮気なんかじゃなくて――」
「――えぇ。浮気ではなくて、“不倫”、ですね」


 私の頭が、氷水で冷やされたように冷静になっていく。


「ふ、不倫っ!? ちっ、違うっ!! ボクはそんなことをしていない!! 誤解だっ!!」
「では何だと言うのですか? つい先程まで、貴方の大事な部分が、妹の大事な部分としっかり繋がっていましたよね? それはもう隙間なく、ピッタリと」
「そ、そ、そ……れは……っ」
「レクサール様ぁ、聞いて下さいっ! この人、鞭で打たれてとっても悦ぶ“性癖”を持ってるんですっ!!」
「プ……プリヴィッ!! それをフィンリーの前で……っ!!」


 突然の妹の暴露に、エンディニオ様が大いに慌てふためく。


 ……鞭で打たれて悦ぶ……?
 それがエンディニオ様の“秘密”……?


「お姉ちゃんに話せないって言うから、あたしがお姉ちゃんの代わりに仕方なく打ってあげたんです! 本当はすごくイヤだったのに!! ほら、あたしってばすっごく優しいから! だからあたしは被害者です! 全部お姉ちゃんが悪いんです!! お義兄様に寄り添えなかったお姉ちゃんが全部、ぜぇーんぶっ!!」


 妹の必死の弁解に、レクサールさんは冷めた目で見下ろし言った。


「……“仕方なく”? “イヤ”? ついさっき、お前は心から嬉しそうに鞭を盛大に奮っていたが? しっかりとこの目で見たぞ」
「…………っ!」


 腕を組むレクサールさんの冷たい眼差しと冷静な返しに、ぐぅっと妹が押し黙った。





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