私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或

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15.予期せぬ事態

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 ……そうだ。まずは重要なことを確認しなきゃ。


 妹が黙ったのを良い機会に、私はおずおずと上半身を起こしたエンディニオ様に向かって静かに尋ねた。


「エンディニオ様。避妊はされていましたか?」
「え? あ――も、勿論だっ!! 視察の間、毎日お互い避妊薬を飲んでいた!! ボクはフィンリー以外との子供なんていらないからっ!!」


 ……エンディニオ様。今……自分で墓穴掘りましたね?
 “視察の間、毎日”。食堂の時も言っていたけど、自ら白状されましたね……。


「そうですか。この町に来られてから、されていたのですね、妹と」
「……あっ……」


 ハッとして慌てて口を押さえたけれど、もう遅いですよ?


 あぁ……目の前の彼が、穢らわしいさかった野獣みたいに思えてきた……。


「けれど、避妊薬も完全ではありません。毎日されていたのなら、妊娠率も上がります。もし妹に子供が出来たらどうなさるおつもりですか?」


 私の真剣な問い掛けに、エンディニオ様はぐっと言葉を詰まらせたけれど、すぐに力強く言い放った。


「最悪そうなった場合、フィンリーと一緒に育てる! ボクの子なんだから、妻であるお前もその子を育てるのは当たり前だろう?」
「…………は??」


 この人は……一体何を言ってるの……?
 じゃあ、産んだ本人である妹はどうするの!?

 私があり得ない発言に絶句しながら妹を見ると、彼女はフンと鼻で嗤った。


「あたしもお義兄様の子供なんていらないから、産んだらすぐにお姉ちゃんにあげるわ。あたしが欲しいのはレクサール様との子供だけだもん。それ以外の男との子供を育てるなんてまっぴらゴメンだわ。あたしとレクサール様の子供なら、とーっても可愛いに決まってるしぃ♡」
「――――」


 私は二人の発言に開いた口が塞がらなかった。
 心の奥がグチャグチャと無理矢理掻き回されるような感覚に陥り、人間じゃないナニかと話している気分だった。


「俺はお前と子供を作るなんてまっぴらゴメンだ。拷問されても死んでも勘弁願いたい」


 私の隣にいるレクサールさんが、腕を組みながら無表情でそう告げた。途端、プリヴィの顔がヒクリと歪む。


「なっ……何でそんなこと言うんですかっ!? あたし達、とってもラブラブな恋人でしょ!? キスもした仲じゃないですかっ!!」


 私はその言葉に、思わずレクサールさんの方を振り返って見上げてしまった。
 私をチラリと見返したレクサールさんは、苦々しい表情に変わると溜め息をつき、口を開いた。


「しなければ俺の“大事なモノ”を馬車の下敷きにして粉々にすると脅されて、女に手を出したくなかったから仕方なくしたんだが、口に触れただけで泥臭い生ゴミの味がして心底気持ち悪かったな。一秒で限界だった。吐き気を堪えるのにかなり苦労したぞ」
「…………っ!!」


 れ、レクサールさん、またもや直球にそんな……!
 その言葉、かなり妹にダメージ喰らわせたんじゃ!?
 ――ほら、口と目をあんぐりと開けて、ものすごくおマヌケな顔になってる……。


 ……でも、その感覚……。
 私がエンディニオ様と口付けをした時に感じることとほぼ同じ……?

 一体どういうこと……?


「……ひ……ヒドイ……っ! ヒドイですレクサール様ぁ!! あたしの口臭が生ゴミとでも言うんですかっ!? そんなワケないじゃないですかっ!! そんな笑えない冗談を言うんだったら、この“大事なモノ”を今すぐ壊して――」
「プリヴィ。それをレクサールさんにお返ししなさい」


 見るからに分かる嘘泣きをしながら、プリヴィが服のポケットから取り出した黒く神秘的に輝く石を見て、私は表情を引き締め、彼女にハッキリと告げた。


「は? 何よ、お姉ちゃんに命令される筋合いは――」
「貴女のやっていることは、【窃盗罪】という立派な犯罪よ。無理矢理レクサールさんから、その“大事なモノ”を奪ったのだから。彼に返さないと言うのなら、私は躊躇なく衛兵を呼んで貴女を捕まえます。私は本気よ。それが嫌なら、早くレクサールさんに返しなさい。勿論、ちゃんと心から謝って」


 いつもはこの辺りで妹が泣き出して両親を呼ぶのだけれど、生憎ここには二人共いない。
 私は妹が“大事なモノ”をレクサールさんに返すまで、徹底的に言い聞かすつもりだった。


「か……格好良い……。打たれたい……」


 呆けて私を見つめるエンディニオ様の口から意味不明な言葉が漏れたけど、私は視界から外し構うことはしなかった。


「……な……何よ何よ何よっ!! お姉ちゃんの代わりにお義兄様を打って悦ばせてあげたのに、お礼の一つも言わないであたしを責めるなんて! あたしがお姉ちゃんよりずっと可愛いからって、嫉妬して妹をイジめるなんてサイッテー!! このひとでなしっ!! 地味根暗女っ!! ――ふんだっ、こんな真っ黒で不気味な石、持ってるだけでイヤだったのっ! コレが無くったって、レクサール様はあたしのモノよ!! こんなのさっさと返してやるわ!!」


 プリヴィが顔を真っ赤にしながら喚くと、手に持つレクサールさんの“大事なモノ”を、至近距離で私に勢い良く投げつけた。


「っ!? ちょ、危な――」


 それは、私の左胸に思いっ切り当たり――



 パリイィィィンッッ!!



 澄んだ音を響かせ、それは粉々に砕け散った。



 黒の破片が砂のように細かく砕け、光を受け七色にキラキラと輝きながら私に降りかかり、吸い込まれるように消えていくのを、私は愕然として見ていることしか出来なかった……。




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