私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或

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17.離縁させて頂きます

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 ……けど、一つだけ約束を破ってしまったことがあった。
 “行為”の時だ。
 本当に嫌で、何度か「止めて」と口から出てしまった時があったけれど、彼は全く聞いてくれなかった。

 取引先の件で相談したかった時も、面倒臭そうに「自分で何とかしてくれ」と一蹴されて。


 だから、例え勇気を出して「二人で出掛けたい」と伝えても、嫌な顔をされ、同じ対応をされていただろう。

 そしてまた……一人で傷付いていただろう――


「そ、その“約束”は今取り消す!! 今後はお前が言いたいことは何でもボクに言っていい。――そうだ! 家に戻ったら一日中デートしよう。お前の好きな物何でも買ってやるし、好きな料理を食べに行こう。あぁ、今から楽しみだな」


 ……笑顔で語る彼の中では、私とまた元通りに過ごせることになっているようだ。


 そんなこと……あるわけがないのに――


「……お伺いしたいのですが」
「ん? あぁ、何だ?」
「妹とは、いつから……?」


 その質問に、エンディニオ様の言葉が詰まる。


「そ、れは……。こ、この視察の初日に、この町の酒場で会ったんだ。向こうは旅行中だと言っていた。だから、会ってまだ日は浅いんだ。その“行為”も……そう、この一週間しかしていない。昔は確かに彼女に一目惚れしたが、今はお前だけしか見えない! 実際、彼女とする時、お前の顔を思い浮かべないと勃たなかったんだ……! 彼女とはもう二度と会わないと約束する。その……いつもいる場所から離れた土地に行くと何だか気分が上昇するだろ? あの時は酒が入っていたから余計に気持ちが昂って……。だから“性癖”の欲に勝てなかったんだ……。一時の気の迷いだったと赦して欲しい。そして、一緒にボクの“性癖”の解決方法を探そう。愛する妻のお前とならすぐに見つかると思うんだ」


 ……聞いてもいないことをベラベラと喋ってきて言い訳までしてきて何故か解決方法も一緒に探すことになっちゃった。

 妹を抱いている時、私を思い浮かべていたって……。そんなこと言われても、ただ気持ち悪いだけなのに。


 それに、『二度と妹に会わない』なんて嘘のくせに……。
 食堂での会話、この耳でちゃんと聞いているんだから。

 この人は自分を守る為なら、平気で嘘をつくんだな……。


 あぁ……それは、私も……だけど――


「……では、視察に行かれる前、ルバロ子爵邸に頻繁に夜遅くに帰ってきて、その度に妹の香水を服に付けてきたことや、首の後ろにくっきりと朱い痕を付けてきたことは、どのようにご説明されるのですか? ――あぁ! それらの前のある日の夕方、妹と腕を組んでキスをしながら路地裏にある宿屋に入って行かれたこともご説明お願い致します」
「……っ!! そ、それは……そ……の――」


 ――ほら。
 ちゃーんと上手に嘘をつかないと、更に深く墓穴を掘ることになりますよ?


「そんなことがある度、私の心が傷付いて擦り減っていったことなど、貴方は全くご存じなかったでしょうね……」
「あ……。ご……ごめ――」


 真っ青になって唇と身体が震えているけれど、私の心には何にも響かない。

 ……もう、いいか。言いたいことも言えたし。


「いえ、もう謝罪は不要です。――妹の身代わりだった、全く呼んでいなかった嫁ですので、貴方と離縁させて頂きます。貴方は私のような地味で陰気臭い年増ではなく、貴方の邪魔だけはせずワガママも口答えもしない従順で大人しい方と一緒になられて下さい。勿論、『君は本当に最高だ』のプリヴィとでも、私は構いませんよ」
「…………っ!!」


 私のキッパリと言い放った言葉に、エンディニオ様のダークブラウンの瞳が大きく見開いた。開けられた口がブルブルと戦慄く。


「……あぅ……ぁ……。……い……嫌だいやだイヤだ……。駄目だだめだダメだ……。そんなの……そんなの絶対に絶対に許さない……。お前はボクとルバロ子爵家に帰るんだ……。ボクの愛する妻として……ずっとずっとずーっとボクの傍にいるんだ――」


 小刻みに震えながら、エンディニオ様はブツブツと口の中で呟いたかと思うと、いきなり距離を詰めてきて私の手首を強く掴んだ。


「っ!?」
「お前は……お前はずっと永遠にボクだけのモノだっ!! どこにも行かせやしない……絶対に離婚なんてするもんかっ!! フザけたことを言ってないで、ボクと一緒に我が家に帰るぞ!!」
「――った」


 手首を握り締めるあまりにも強い力に、私は痛みで顔を顰める。
 すると、不意にエンディニオ様の手が離れた。


「彼女が痛がっている。その汚らしい手で彼女に触れるな」
「い……いてててっ!!」


 怒気を含んだレクサールさんの声と、情けない悲鳴を上げるエンディニオ様の声が部屋に響く。
 眉間に深く皺を寄せたレクサールさんが、エンディニオ様の腕を掴んで捻り上げていたのだ。


「な……何だ貴様はっ!? 子爵のボクに無礼な……!! プリヴィの恋人なら、さっさと彼女の尻でも追いかけろよ!! ボク達夫婦の邪魔をするなっ!!」
「あんたに腕を掴まれて酷く痛がっているのに、それを微塵にも気にしないなんて、どの口が“夫婦”と言うんだ。心底呆れるな……彼女が見放すのは当たり前だ」
「なっ、なんだとぉっ!? ボク達はもう一度“夫婦”をやり直すんだ!! 今度こそ上手くやるんだ!! 彼女だってボクのことを心の奥では愛しているんだ!! 邪魔をするんだったら、貴様を今この場で殺してやる……っ!!」


 狂気を孕んだエンディニオ様の過激な発言に、私はギョッと目を剥いた。


「別に俺はこの場でやり合っても構わないがな。周りを見てみろ。今の台詞といい、悪者になるのはあんたの方だが?」


 レクサールさんの言葉に、私は部屋の外を見てみると、この騒ぎで何人かのお客さんが部屋から出ていて、興味津々にこちらを眺めていた。

 ……あっ! プリヴィが出て行った後、扉が開けっ放しのままだったんだ……!


「くっ……!」
「ここから離れよう、フィンリー。もう話はついただろう? 君のいた町まで送ろう」
「あ、ありがとうございます」
「ま……待てっ! それならボクが妻を――」
「あんたはさっき飛び出して行った義妹と一緒にここに来たんだろう? 彼女を置いて行ってもいいのか?」
「……チッ、くそっ!」


 悔しそうに舌打ちするエンディニオ様の腕を乱暴に離すと、レクサールさんはくるりと踵を返し歩き出す。
 私は慌てて彼の後を追った。


「……フィンリーッ!! ボクは離婚なんて絶対に許さないっ!! ボクのもとに必ず帰ってこいっ!! 帰ってこなければ、この世の果てまでもお前を捜し出してうちに連れ帰るからなッ!! 絶対に――絶対にだッッ!!」


 ……どうして……。どうしてそこまで私を……?



 エンディニオ様の脅迫めいた叫びを冷や汗の流れる背に受けながら、私とレクサールさんは宿屋を後にしたのだった……。





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