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30.ウィンザル男爵邸にて
しおりを挟むあっという間に休暇の一週間が終わってしまった。
その内の半分は、レクサールさんと……だったが。
だって彼、時間関係なく求めてくるんだもの……っ! しかもとってもしつこいっ!
……あぁ……思い出すのは止めよう……。顔が火照って熱くなる……。
けれど、それも含めてすごく充実して楽しい休暇だった。
生きていて良かった、と思えるほどに……。
「明日、ルバロ子爵邸に行こうと思います。その前に実家のウィンザル男爵邸に寄って、妹の処遇を決めてきます。このまま妹を放っておくと、レクサールさんに何をするか分かりませんから。妹は貴方に謝ってもいないし、謝罪もちゃんとさせないと」
レクサールさんの部屋のソファで、私は隣に座る彼に向き合って話を始めた。
「俺は大丈夫だ。謝罪もいらないし、君の妹には十分気を付ける」
「私が嫌なんです。妹がレクサールさんに少しでも近付くのが……」
「ははっ、ありがとう。嫉妬してくれてるんだな。これは……すごく嬉しいものだな」
本当に嬉しそうに笑うレクサールさんに、私は頬を熱くさせながら話を続ける。
「そっ、それで、お願いなのですが、一緒に付いてきて下さいますか? 貴方が一緒だと心強いし、その――」
「勿論、端からそのつもりだ。移動手段も必要だろ? ――フィンリー、全て用が済んだら君に伝えたいことがある。聞いてくれるか?」
「え? はい、勿論です」
何だろうと思いつつ返答した私に、レクサールさんは目を細めて微笑んだ。
「君の妹の処遇には、俺も考えがあるんだが……話しても?」
「はい、是非教えて下さい。被害者はレクサールさんなんですから」
私はレクサールさんの話を聴き、すぐに同意した。
そして翌日、黒龍になったレクサールさんの背に乗って、私達はウィンザル男爵邸に向かった。
人目の無い場所に降り立ち、龍の変化を解いたレクサールさんと並んで玄関の鈴を鳴らす。
そして、出てきた昔からここにいる執事に、「両親に用事がある」旨を伝え、中へと入った。
レクサールさんがとんでもない美形だからか、執事がチラチラと彼の顔を見てきたけど、本人は特に意に介していないようだった。
応接室に通された私達は、両親を待っている間、時々軋む天井に首を傾げ、目線を向ける。
「何でしょう? たまに天井が揺れて……。二階で使用人さんが駆け回っているんでしょうか? そんなに忙しい家じゃないんですが……」
「さぁ……一体何だろうな?」
確か、この上は妹の部屋だった気がする。気に食わないことがあって、いつものように癇癪を起こして物を投げつけているのかな……。
そう考えていると、父であるウィンザル男爵と、母のウィンザル男爵夫人が応接室に入ってきた。
そして、レクサールさんの姿を目に捉えると、何故か二人は驚愕の表情に変わる。
「は……? どうして――」
「え……? えぇ……?」
挨拶もせず、ブツブツと疑問の言葉ばかりを言っているので、業を煮やした私は席を立った。
「お久し振りです、お二人とも。本日は妹のことで伺いました。プリヴィは自分の部屋に?」
「あ……あぁ、その……あの子はちょっと体調が悪くて、部屋で休んでいるんだ……」
「? そうですか……」
じゃあ、この天井の軋みは何だろう? この屋敷結構古いし、天井裏で鼠でも走っているのかな……。
両親の様子から、体調が悪いのは大したことないのだろう。妹が軽い熱を出しただけでアタフタする二人だから。
レクサールさんに謝罪させたかったけど、仕方がない……。
けれど、あの子がいない方が話が円滑に進みそうだ。
「それより、フィンリー。ルバロ子爵家を放ってここに来ていいのか? 旦那のルバロ子爵は――」
「それにつきましてもお話致します。その前に、この方はレクサールさん。妹に“大事なモノ”を奪われ、『恋人にならなきゃソレを壊す』と脅されて無理矢理付き合わされ、挙げ句“大事なモノ”を妹に投げられ割れてしまった経緯を持つ方です」
「なっ……!!」
父と母はそれを聞いて絶句する。
割れたのは『ブラックコア』の意思だけど、言葉的には事実を言っているよね?
「妹の行動は、【窃盗罪】と【恐喝罪】に当たります。彼が衛兵に証言すれば、すぐに妹を捕まえ――」
「そっ、それだけは止めてくれっ!! 身内に犯罪者が出たとなれば、男爵の身分が剥奪されてしまう……! お、お前だって嫌だろう? 折角子爵夫人になれたというのに――」
父が血相を変え、慌てて私の言葉を遮る。私は表情を変えずに言葉を続けた。
「そのことなのですが、妹がルバロ子爵と不倫をしていました。二人が腕を組みデートをしている場面を多くの人達が目撃していますし、二人は頻繁に不貞を繰り返し、直接の現場を私と彼がハッキリと見ています。確実に言い逃れは出来ない事実です」
「……っ!! そ……そんな――」
父だけでなく、母も顔色が真っ青になっている。
「そういう訳ですので、ルバロ子爵と妹にそれぞれ慰謝料を請求致します。金額は――」
私が慰謝料の金額を提示すると、二人は目玉が飛び出るほどに大きく見開かせた。
「こっ、こんな大層な金額など払えん……っ!!」
「私の精神的苦痛と、証拠と証言がある確かな不倫に対して一般的に妥当な金額ですよ? それが払えないようなら、衛兵に伝えて妹を――」
「おっ……お前、それでもワシ達の“家族”かっ!? 一緒に暮らしてきた“家族”に対し、血も涙も無いのかっ!! 今まで育ててきてやったというのに恩知らずな!!」
レクサールさんからブワッと殺気が溢れたけれど、私は彼の手を握って、私の為に怒ってくれた彼に感謝の意を込めて微笑んだ。
「……育ててきた? 妹だけを、でしょう? 私は幼い頃からずっと放置されてきた。ご飯は皆の残飯をコッソリ食べて。服は全てお古で。何でも欲しい物や好きな物を買え与えてきた妹と違って、貴方方に何かを買って貰った記憶は、一度もありませんでした」
私の感情の無い顔と抑揚の無い声音に、父と母は仰け反り、ヒッと引き攣った声を上げた。
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