私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或

文字の大きさ
39 / 45

39.兄弟喧嘩、決着

しおりを挟む



 体調が回復した私は、サイノさんとデニオス様にお礼と挨拶を伝え、レクサールさんとディバイン王国へ戻ることにした。
 ルバロ子爵が未だに見つかっていないのが気になるけれど、何処にいるのか見当も付かない以上、どうすることも出来ない。


「兄のことは衛兵に伝えたよ。フィンリーは言わなくていいと言ってくれたけど、自分のしでかしたこととちゃんと向き合い、罪を償わなきゃ駄目だ。例えそれでルバロ子爵家が周りから見放され、地の底に落ちようとも……。兄の家族は僕だけだから、二人で責任を取っていくよ」
「デニオス様……。私にお手伝い出来ることがあればすぐに駆けつけますので、遠慮なく仰って下さいね? 離縁しても、私はデニオス様やサイノさん……子爵家で働く皆のこと、大切に想っていますから……」
「……ありがとう、フィンリー。その言葉だけで、僕は頑張れるよ。どうしても挫けそうになったらよろしくね?」


 そう言って小さく笑ったデニオス様は、悲嘆は交じっていたけれど、覚悟を決めた凛々しい顔つきをしていた。


「それにデニオス様は、子爵家の皆さんがついていますよ。ね? サイノさん」


 私の呼び掛けに、デニオス様の隣にいたサイノさんは、微笑みながら大きく頷いた。


「デニオス様、家族は二人だけだなんて、悲しいことを仰らないで下さい。私や使用人達も、デニオス様の家族の一員ですよ」


 デニオス様は、サイノさんの優しく胸に染みる言葉に両目を潤ませ、震える声で「ありがとう」と言った。


 ――あぁ……この人達がいれば、ルバロ子爵家はきっと大丈夫だ――



 そして、私とレクサールさんはディバイン王国へと向かった。
 行方不明のルバロ子爵を警戒するに越したことはないけれど、ディバイン王国なら人間は入って来られないし安全だ。


 ただ、その“中”にいる一人を除いては――


「チッ、ノコノコと帰ってきやがったか、クソがっ! ――おいテメェ、親父に何か言っただろ!! お蔭で親父から大目玉食らっちまったじゃねぇかっ!!」


 王城のバルコニーに降り立ち、レクサールさんが龍の変化を解くと、ガーロッドさんが見計らったかのようにやってきた。

 会って早々、切れ長の瞳が更に吊り上がり、カンカンにお怒りのようです……。


「何のことですか? 俺は父上に何もしていませんし、言ってもいませんが」
「はぁ!? ザケんじゃねぇよ! じゃあ何でいきなり親父が『真剣で兄弟喧嘩をするのは止めろ』って言ってきたんだよ!! 今までずっと傍観だったのに、だぜ!? テメェが何か言ったに決まってんだろうがっ!!」
「そんなこと俺に聞かれても分かりません」
「チッ、まだしらばっくれる気かよ……。――こうなりゃ、親父の見てねぇここで決着をつけてやらぁ!! 今度こそテメェをブッ殺して、お袋の無念を晴らしてやるぜッッ!!」


 そう叫ぶと、ガーロッドさんは腰に差してある剣を引き抜き襲い掛かってきた。


 ヒェッ!? 国王陛下っ!! 注意したはいいけど、思いっ切り逆効果でしたよっ!?


「フィンリーは下がってろ」


 レクサールさんは真剣な顔つきになり私を後ろに下がらせると、背負っていた鞘から素早く剣を抜き、振り下ろされたガーロッドさんの剣を受け止めた。
 ガキィンッと甲高い音が大空に鳴り響く。

 そのまま二人はものすごい速さで斬り合いを始めてしまった。
 お互い、肌が斬れて血飛沫が飛んでも、頬に斬り傷が出来ても動きを止めない。


 ――二人とも、歯を食いしばり本気でやり合っている。


 ど、どうしよう……! このままだとホントにどちらかが死んじゃう……っ!!
 今ガーロッドさんにアーシアさんの言伝を伝えても、レクサールさんに夢中で絶対に聞いて貰えない……! 何とかして二人を止めないと――

 …………あっ!?

 アーシアさんに教えて貰った、“魔法の言葉”っ! 今それを使う時だっ!!
 アーシアさん、どうか私に力を貸して下さい……っ!!


 心の奥で、「思いっ切り言っちゃってっ!!」とアーシアさんの激励が聞こえた気がして、私はそれに勇気を貰う。


 スゥッと思い切り息を吸い込み、精一杯の声で“魔法の言葉”を発動させた。



「こぉらああぁーーっ!! ロッドッッ!! いい加減にしないと、あなたの飼ってるとってもカッコイイだーい好きな『ドラゴくん』をピンクリボンいっぱい付けてフリッフリのミニドレス着させてとってもカワイイキュート♡な『ドラコちゃん』にしちゃいますからねぇっっ!!!」
「ッッッ!!!!」



 瞬間、ガーロッドさんが大きく両目を見開き、ビタリと動きが止まった。
 そして慌てて剣をスポーンッと放り投げると、何とその場でガバッと額を床に付けて土下座をしたのだ!!


「ごっ……ごめんなさい母さんっっ!! もう二度としないから、それだけは……それだけはどうか許して下さいっっ!! 『ドラコちゃん』だけはどうかあぁっっ!!」


 ……ええぇっっ!? ホントに土下座したぁっ!? 思った以上にすっごく効果テキメンだった……!



 ちなみに『ドラゴくん』とは、ガーロッドさんが幼い頃から大切に大切に飼っているオスのミニドラゴンだそうで。

 幼い頃のガーロッドさんは、いつもキリッとした顔で凛としている『ドラゴくん』のカッコ良さに強い憧れを抱いていて。
 『ドラゴくん』に男らしい首輪を付けたりマントを付けたりして、そのカッコ良さに日々酔い痴れていたらしい。

 ガーロッドさんが周囲を巻き込む酷いイタズラをした時に、ちょっとしたお仕置きでアーシアさんが『ドラゴくん』にリボンいっぱい付けてドレス着させて『ドラコちゃん』にしたところ、かなりショックを受けて泣き喚いて。
 「もう絶対しない!!」と大反省をして。

 それからまた何か悪いことやイタズラする度に、その“魔法の言葉”を言って反省させていたそう。


 ちなみのちなみに当の『ドラゴくん』は『ドラコちゃん』になった時、嬉しそうにピーピー鳴いてクルクル回って尻尾ブンブン振り回していたそうだから、ガーロッドさんの意とは反して可愛いものが好きなのかもしれない……。



 ガーロッドさんはここでおかしいと気付いて、ハッとし頭を上げた。
 私とレクサールさんがキョトンとしながら自分を見ていることに、眉尻を下げ、切れ長の目を大きく開いたその顔が、みるみると赤く熟した林檎のように真っ赤に染まっていく。

 あっ……その顔、少年みたいに幼くてちょっと可愛いかも。


「あ……あ、あ、アンタ……。ど、どうしてお袋がオレを怒る時の決め台詞を知ってんだ……?」
「お母様から直接お伺いしましたから。ガーロッドさんによく効く“魔法の言葉”だと」
「はああぁっっ!?」


 ガーロッドさんはガバッと起き上がると、ツカツカと大股で私の方に歩いてきた。
 そして、私の顔をジッと見つめる。


「……マジ、なのか……?」
「マジ、です。お母様の魂は『ブラックコア』に入っていて、『コア』と一緒に私の中に入ってきました。あることがキッカケで、私はお母様とお話することが出来たんです」
「……あぁ……マジ、だな。今ならハッキリと分かる。懐かしいお袋の気配がアンタからする……。そっか、お袋……。そこに……そこにいたんだな……」


 ガーロッドさんが、酷く優しい目つきで私を見下ろした。





しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】21距離をおきたいと言れたので、隣国に逃げたけど、、、

華蓮
恋愛
距離をおきたいと婚約者であるレイト王子から告げられ、その横には、妹がいた。 私のもの全てを奪っていった妹。もう、嫌になり、隣国に渡ったアオイ。

31【完結】王太子を支えるために頑張っていたけど、婚約破棄をされました。

華蓮
恋愛
フロンティアは王太子妃になるための教育を、幼い頃からしていた。 王太子の婚約者になったら、王太子、王妃の実務をら押し付けられたが、王太子のために頑張った。 彼は妹を王太子妃にし、わたしを側妃にすると、、、、

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

最強魔術師の歪んだ初恋

黒瀬るい
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。 けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?

【完結】 愛されない私と隠れ家の妖精

紬あおい
恋愛
初恋は心に秘めたまま叶わず、結婚した人まで妹を愛していた。 誰にも愛されないと悟った私の心の拠りどころは、公爵邸の敷地の片隅にある小さな隠れ家だった。 普段は次期公爵の妻として、隠れ家で過ごす時は一人の人間として。 心のバランスを保つ為に必要だった。 唯一の友達だった妖精が、全てを明かした時、未来が開ける。

【完結】 君を愛せないと言われたので「あーそーですか」とやり過ごしてみたら執着されたんですが!?

紬あおい
恋愛
誰が見ても家格の釣り合わない婚約者同士。 「君を愛せない」と宣言されたので、適当に「あーそーですか」とやり過ごしてみたら…? 眉目秀麗な筈のレリウスが、実は執着溺愛男子で、あまりのギャップに気持ちが追い付かない平凡なリリンス。 そんな2人が心を通わせ、無事に結婚出来るのか?

諦められない貴公子から送られた招待状

待鳥園子
恋愛
ある日送られて来た、夜会への招待状。それは、兄と喧嘩別れしたはずの元友人ユアンからのものだった。 いつの間にか邸へと遊びに来なくなってしまった素敵な彼のことを、ずっと好きだったエレイン。 是非会いたいと招待に応えたら、忘れてしまっていたとんでもない真実を知る。

冷遇された妻は愛を求める

チカフジ ユキ
恋愛
結婚三年、子供ができないという理由で夫ヘンリーがずっと身体の関係を持っていた女性マリアを連れてきた。 そして、今後は彼女をこの邸宅の女主として仕えよと使用人に命じる。 正妻のアリーシアは離れに追い出され、冷遇される日々。 離婚したくても、金づるであるアリーシアをそう簡単には手放してはくれなかった。 しかし、そんな日々もある日突然終わりが来る。 それは父親の死から始まった。

処理中です...