婚約解消しましょう、私達〜余命幾許もない虐遇された令嬢は、婚約者に反旗を翻す〜

望月 或

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30.ウォードリッド王国の国王

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 “瞬間移動の術”を使って飛んだ場所は、王城の城門前だった。


「この城全体に、侵入者防止の為の高度な【結界】が張られていてな。城内には“瞬間移動の術”で入れないんだ」


 レヴィンハルトがアーシェルに説明をすると、彼女の肩を抱いたまま歩き出す。
 アーシェルは慌ててレヴィンハルトに声を掛けた。


「あっ、あの、レヴィンさん? えっと、もう……離して頂いても――」
「いつ発作がくるか分からないだろう? すぐに対処出来るよう君の傍にいさせて欲しい」
「う……」


 そう言われてしまったら、アーシェルは口を噤むしかない。


(け、けど、こんなに密着する必要はないんじゃないですかっ?)


 アーシェルが赤くなりながら心の中で突っ込みを入れている間に、レヴィンハルトは門番の前まで来た。


(あっ……そうです、セルへの謁見の申請をしていません……! 門番さんに問答無用で追い払われるんじゃ――)


 アーシェルの顔色が、今度はサーッと青くなる。
 アワアワしている彼女を尻目に、レヴィンハルトは門番の目の前に立った。

 その瞬間、門番は何と九十度の角度で彼に向かって頭を下げたのだ。
 続けて顔を上げた門番は、レヴィンハルトに元気良く言葉を投げた。


「他国での勤務、大変お疲れ様でございました、レヴィンハルト魔術士副団長殿!」


「…………えっ?」


 アーシェルは門番の言葉に思考が止まり、レヴィンハルトを見上げた。


「君もいつも門番ご苦労。この子は俺の大切な客だ。一緒に通させて貰うぞ」
「魔術士副団長殿のお客様なら大歓迎です! 手荷物検査も省略致します。只今門を開けますので少々お待ち下さい」


 レヴィンハルトは門番に頷くと、門番はすぐさま城門を開いた。


「あ……ありがとうございます。お邪魔致します」


 アーシェルは戸惑いながらも門番に礼を言ってペコリと頭を下げると、彼は軽く目を見開いた後クスリと微笑み、思わずと言った感じで呟いた。


「可愛い……」


 レヴィンハルトの眉根に微かに皺が寄り、彼はアーシェルを隠すように自分の方に引き寄せると、城の中へと足を進めていった。

 城内で擦れ違う人達が全員、レヴィンハルトに一礼をして通り過ぎて行く。


「れ……レヴィンさんって、ここの魔術士副団長だったんですね……。すごく驚きました……」
「あぁ、他国で自分の素性を明かすのは危険だったからな。隠していて悪かった」
「い……いえ、そんな……。でも納得です。だからあんなに魔術がすごいんですね」
「そんな大したものじゃないぞ」


 レヴィンハルトは目を輝かせて自分を見上げるアーシェルにフッと笑うと、ある部屋の前で動きを止めた。
 その部屋の扉は、他の扉と比べて大きく、装飾が凝っていて立派で。


「ここが王の間だ。国王陛下がこの中にいる。謁見中、君は俺の隣にいるだけでいい。陛下は気さくな方だから問題ない。……発作は大丈夫か?」
「えっ? あ……はい。暫くは大丈夫そうです……」
「苦しくなったらすぐに俺の腕を掴んでくれ。入るぞ」
「えっ、あっ……」


 アーシェルが心の準備も出来ないまま、レヴィンハルトは彼女から手を離すと扉をノックし、躊躇無く開いた。
 そのまま中へと入っていくレヴィンハルトの後を、アーシェルは慌てて付いていく。


「――おっ、レヴィンハルト。戻ったのか」
「ファウダー・イグス・ウォードリッド国王陛下に御挨拶申し上げます。長らく留守にしてしまい、大変申し訳御座いませんでした」


 すると、玉座の方から男の凛々しい声が聞こえ、レヴィンハルトは立ち止まるとその場で深々と頭を下げる。
 アーシェルも慌てて足を止めてそっと前を見ると、玉座に、黄金色の腰まで伸びたサラサラの髪と、青緑色の瞳をした四十代位の美丈夫が笑みを称えて座っていた。


(あ……っ!)


 その髪と瞳の色は、セルジュのそれと同じで。
 顔つきも二人よく似ていて、国王陛下とセルジュはれっきとした血の繋がった親子だという事が一目で分かったのだった。




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