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彼の為に決断する元娘と、彼女を決して逃さない元義父のお話【ハッピーエンドルート】
5.ゼノと王女様の“真実”
「ゼノは優しいんだよ。だから君を見捨てることは出来なかった。――君、知ってたかい? 彼も君と同じく、幼い頃親に捨てられた身なんだよ。孤児院に預けられたけど、当時の院長が最悪な人物で、相当酷い目に遭ったらしくてね。前団長が彼を引き取った時は、誰も信じることが出来ず、酷く冷たく蔑んだ瞳をしていたらしい。勿論その院長は解雇になり処罰を受けた」
「……っ」
だからゼノは、人を簡単に信じちゃダメだって言ったんだ……。
人の愚かさや醜さが、その身に痛いほど染みているから――
「君を森の中で見つけた時、きっと自分と重ねたんだろう。孤児院に預けなかったのは、自分と同じ辛い思いをさせたくないという、彼の優しさだったんじゃないかな」
……そうだ。ゼノはすごく優しいんだ……。
「君と“形だけの夫婦”になったのだって、君が自分のことを好きだって気付いて、振り解けなかったんじゃないか? それに気付いてしまったら、もう“親子”には戻れない。けれど君をこのまま独りにしたら可哀想だという“同情心”で。そうでなければ、相思相愛だった王女様との婚約の『王命』を断って君と一緒に逃げるはずがないんだ」
「……え……? “相思相愛”……?」
信じられない言葉が耳に入り、私は思わずその単語を繰り返していた。
「そうだ。君が元の国でゼノと“親子”でいた時、何度か彼の帰りが酷く遅かった時がなかったか? 毎回深夜になっていたと思うが。その時、彼は王女様の部屋で二人きりで過ごしていた。二人で、深夜まで一緒にいたということは……。もう子供じゃない君には意味が分かるはずだ」
「……あ……」
……確かに、事前の報告もなく帰りがすごく遅かった日が何度かあった。
その日の夜、私は待ちくたびれてダイニングテーブルに顔を突っ伏して寝てしまって……。気付けばゼノに肩を叩かれ起こされていた。
その時、彼からフワリと甘く良い香りがしたんだ。深夜に帰って来た日は、毎回その同じ香りがゼノに付いていた気がする。
仄かに香る程度だったから、当時はあまり気に留めなかったけど、今思えば……。
あれは、“女性物の香水”の匂いだ――
「……その様子からすると、覚えがあるみたいだな。――これで分かっただろう? ゼノにとって、国に戻って愛する王女様と結婚するのが幸せなのか、それとも惨めで過酷な逃亡生活を続けるのが幸せなことなのか」
「…………」
「けれど、一応考える時間をあげようか。“真実”を聞かされて混乱しているだろう? 冷静になる時間も必要だ。そうだな……明朝までだ。俺は部下二人と近くにある森の中で野宿しているから、明朝そこに訪ねて来るといい。――あぁ、言っておくが、行かないという選択肢はないよ。俺は必ず君達を見つけ出すからね。しかし賢い君なら、ゼノに俺達の存在を話すことも、行かないという愚かな選択もしないだろう? 彼に訪れる沢山の幸せを思えば……ね?」
彼はふ、と目を細めて笑うと、掴んでいた私の腕をおもむろに離した。そして踵を返し森に向かって歩き始める。
「――ではお嬢さん。良い夜を」
私は彼の背中が見えなくなるまで動けず、ただ呆然とその後ろ姿を見送っていた――
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