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永久に囚われた元娘と、永遠に逃さない元義父のお話〜if ending〜【メリバルート】
9.埋められていく外堀
ゼノはフッと光の無い目を細めて笑うと、私と彼の指を強く絡めて玄関に向かって歩き出す。それを振り解けず、私は彼に引っ張られるまま機械的に足を進めていった。
私の家を出て大通りを歩いていると、冒険者の恰好をした男の人に声を掛けられた。
「おっ。よぉ、ゼノじゃねぇか。……ん? あれ、紅? 髪の色が違うな……? お前明るいブラウン色だっただろ? 紅く染めたのか?」
「いや、本来の色がこれなんだよ。この色結構目立つだろ? 目立ちたくねぇから最初は染めてたんだけど、髪が傷むし元通りにした。これからはこの色でいくからよろしく。――それにもう、隠す必要もねぇしな」
「……ん? 最後何か言ったか? ――まぁいいや。お前、そっちの色の方が似合ってるし全然いいぜ。また近い内に一緒に魔物退治に行こうな。お前がいると戦闘がかなり楽になって助かるんだよな。さすが脅威の早さでBランクになったヤツの剣の腕は一味違うぜ」
「Bランクッ!?」
もしかして……デッシュさんが言ってた、半年前に『冒険者ギルド』に入った、すごく強い冒険者って――
私の叫びに、冒険者の彼は初めてこちらに気付いたようだ。
「おっ? ゼノ、その可愛いお嬢ちゃんは誰――って、向こうの食堂で働いてるユーティスちゃんじゃないか。お前達知り合いだったのか? ――てか、その手の繋ぎ方……お前達恋人同士かぁ!?」
「いや? コイツ、オレの奥さん」
「……っ!? ちっ、ちが――」
ゼノの返答にビックリし、私が慌てて否定しようとすると、彼がこちらに眼光を向けてくる。
黙っていろ、というものすごい威圧がその紅黒い瞳から発せられていて、私はグッと口を閉ざすことしか出来なかった。
「あ、奥さんか、なんだそっちの方だったか――って、奥さんっ!? お前結婚してたのか!? しかも笑顔が可愛くて“食堂の天使”と呼ばれている、男達の間で人気のユーティスちゃんとっ!?」
――えっ、待って!? 私、そんな風に呼ばれてたの!? 全然知らなかった……!
その呼び名恥ずかし過ぎるんだけどっ!?
私が顔を真っ赤にしている横で、ゼノが微かに眉を顰めたように見えたのは気の所為だろうか……。
「……あぁ。事情で半年間別々に暮らしてたけどさ、これから一緒に住むんだよ。さっき婚姻の届出も出してきた。だから正真正銘の“夫婦”だ。コイツにちょっとでも手ェ出したら即行殺すからな? 他のヤツらにもそう伝えておけよ」
「ヒェッ、お前が言うとシャレになんねぇんだよ! 分かった分かった、絶対に伝える! ……でもそっか、あまたの女冒険者の勧誘を全部断ってたのはそういうわけだったのか。意外に一途だったんだなぁお前」
「おいおい、意外は余計だろ。コイツ以外の女には全ッ然興味ねぇし、声掛けてくる女達、下心見え見えで気持ち悪かったし。やっぱオレはお前らみてぇなヤロウどもと組むのが安心出来るし気が楽だわ」
「ははっ! 俺は嬉しいけどさ、そんなこと言ったら他の男どもにブン殴られるぜ? ったく、美形なヤツは羨ましいよ。――おっと、もう行かなきゃ。じゃあまたな、ゼノ。ユーティスちゃんも、これから“夫婦”として一緒に暮らすなら、ゼノと仲良くな? コイツいいヤツだから安心していいぜ」
「…………」
私は返事が出来ず、ただ曖昧に笑って頭を下げる。彼はこちらに向かって手を振ると、ギルドの方へと向かって行った。
「…………」
そして私は、彼を見送るゼノの薄く笑みを浮かべた顔を愕然と見上げた。
どうして……どうして冒険者の彼の前で私のことを“奥さん”だって紹介しちゃったの!? そんなことをすれば、冒険者達の間で噂がすぐに広がって否定出来なくなるじゃない……!!
しかも今話題になってるBランク冒険者の私生活に関することなら、皆が興味持つに決まってるし……!
それに、「婚姻の届出を出してきた」ってどういうこと!? 一体誰と誰の!?
私の視線にようやく気付いたという風に、ゼノはこちらを淀んだ紅い瞳で見下ろすと、おもむろにフ、と笑って上半身を屈め、何と私の唇にキスをしてきた。
驚きで身体が固まり、声が出せないのを良いことに、ゼノは私の後頭部に手を添え、更に唇を長く押し付けてくる。
「……っ!?」
――ここは町の大通りだ。当然、夕方でも多くの人が行き交っている。今の私達のキスも見ている人が沢山いるわけで――
「――あぁ、わり。物欲しそうな顔をしていたもんで、ついしちまった。帰ったらもっと濃厚なヤツをたっぷりしてやっから、もう少しだけ待ってろよ、オレの可愛い愛しの“奥さん”?」
「――――」
低く、よく通る声が大通りに響く。傍から見たら、キスをし顔を寄せ戯れ合う仲睦まじい夫婦に見えただろう。
多くの様々な視線を感じる中、私はもう何も考えられずゼノに手を引っ張られながら歩き、やがて町の少し外れにある、大きな一軒家の前に着いた。
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