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2.侍女達の会話
しおりを挟む「……リーサさん、すみません。陛下はどちらにいらっしゃるか御存知でしょうか?」
廊下を歩いていた王付きの侍女は、後ろから聞こえたその声に慌てて振り返り、一礼をした。
「イシェリア様、ご機嫌麗しゅう。コザック様でしたら、御自分のお部屋にいらっしゃると思いますよ」
「ありがとうございます、リーサさん。足を止めさせてしまってごめんなさいね」
「い……いえ、そんな!」
「いつも陛下のお部屋を綺麗にしてくれてありがとうございます、リーサさん」
首を両手をブンブンと大きく振るリーサに、イシェリアは黄金の瞳を細め、小さく微笑む。
そして両手に持っていた束の書類を抱え直すとリーサに頭を下げ、イシェリアは国王陛下の部屋に向かって歩き出した。
太腿まで届く、薄目の茶色の髪がサラサラと綺麗に靡く姿を、リーサはボーッとしながら見送っていると、同じ王付きの侍女であるメレッサが声を掛けてきた。
「こら、リーサ。こんな所で何サボってんのよ。仕事しなさい、仕事」
「もー、ちゃんとしてるよ! ついさっき、イシェリア様に声を掛けられて、コザック様の居場所を訊かれたから答えたところなの!」
「えぇっ!? アンタ、もしかして陛下の部屋って答えた!?」
「え、え? うん、答えたけど……」
「あぁもうっ、このおバカッ! 今、その部屋には陛下と“あの女”が一緒にいるのよ!」
「えっ、ウソッ!?」
慌ててリーサがイシェリアの歩いていった方向を振り返ると、彼女の後ろ姿はもう見えなくなっていた。
「ど、どどどうしよう!! 今から追い掛けて――」
「もう遅いわよ……。今頃とっくに陛下の部屋に着いてるわ……。陛下と“あの女”が部屋の中でイチャついてないように祈るしかないわね……」
メレッサが両腰に手を当て、盛大に溜め息を吐く。
「ホンット“あの女”、どうにかできないのかしら!? イシェリア様を王妃に迎え入れる前から陛下の妾だったからって、今も我が物顔で城を歩いて、使用人達にはぞんざいに偉そうな態度を取って! 着ているドレスだって毎日違うものでしょ? しかもお高いヤツ! 陛下が国費として購入してるって噂よ? 王妃のイシェリア様には買い与えず、ほぼ毎日同じドレスを着てるのに!」
「イシェリア様は、私達使用人の名前を全員覚えていて、必ず名前で声を掛けてくれるよね。“あの女”は『ちょっとそこの!』だもの。ただの妾なのに何様のつもりよね? それに、イシェリア様は御要件の後、必ず優しいお言葉を掛けて下さって……。使用人の私達を全然見下してないし、気遣ってくれるし。その真摯な対応に、本当に二十歳!? 本当に私より年下なの!? って疑いたくなるよ」
この二人は、一度“あの女”の愚痴が始まるとなかなか止まらないのだ。
「“あの女”、確か二十六歳だったわよね? もう完璧行き遅れじゃない。だから必死になって陛下に媚を売ってるのよ」
「妾だからって、仕事も何もしてないのが腹立つよ。イシェリア様、さっきも沢山の書類を抱えてたけど、陛下の国務を代わりにされているみたいだよ。外務はさすがに陛下がされているけれど……。王妃の責務もあるのに、イシェリア様大変だよ……。御自分のお部屋で、毎日夜遅くまでお仕事をされているみたいだし……。その間、陛下は“あの女”と一晩中イチャついているんだよ!? 本っ当信じられない!!」
「その所為で、貴族達から『お飾り王妃』や『身代わり王妃』なんて陰で言われてるのよね……。私達はイシェリア様の人柄を知ってるから絶対にそんなこと言わないけど、あの方のこと何も知らない貴族達が好き勝手言っててもう腹立つわ!」
「イシェリア様とコザック様って政略結婚なんでしょう? しかもイシェリア様が成人になったばかりの十八歳の時に……。あんな王のもとに嫁がされて、イシェリア様可愛そうだよ……。いくらコザック様の顔が良くても、それ以外があんまりだと思わない?」
リーサが眉尻を下げてメレッサに問うと、彼女は目を瞑り、小さく首を振った。
「そうでもないのよ。イシェリア様、あんな王でも心から愛しているみたいでさ」
「えぇっ!? そうなの!?」
「先日、ついイシェリア様に言っちゃったんだよね。『辛くないですか?』って。そしたらあの方、『大丈夫ですよ。だって陛下のことをとても愛していますから。御心配下さってありがとうございます』って、ニッコリ笑って言ったのよ」
「うわぁ……。美形が取り柄だけのあんなどうしようもない王なのに、そこまで想うだなんて一途なんだねぇ……。報われない愛に、益々イシェリア様が可哀想になってきたよ……」
「御本人がそれでいいって言うのなら、私達には何も出来ないわ……。せいぜいイシェリア様の美容と体調管理を怠らないことよね。王妃付きの侍女達にもちゃんと言っておかないとだわ」
「そうだね……。イシェリア様、傷付いてないといいな……」
「そうね……」
二人は国王陛下の部屋の方に目を向けると、同時に溜め息をついたのだった。
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